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聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア

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(原題:The Killing of a Sacred Deer 2017年/イギリス・アイルランド合作 121分)
監督/ヨルゴス・ランティモス 製作/エド・ギニー、ヨルゴス・ランティモス 脚本/ヨルゴス・ランティモス、エフティミス・フィリップ 撮影/ティミオス・バカタキス 美術/ジェイド・ヒーリー 衣装/ナンシー・スタイナー 編集/ヨルゴス・モブロプサリディス
出演/コリン・ファレル、ニコール・キッドマン、バリー・コーガン、ラフィー・キャシディ、サニー・スリッチ、アリシア・シルバーストーン、ビル・キャンプ

概要とあらすじ
「ロブスター」「籠の中の乙女」のギリシャの鬼才ヨルゴス・ランティモス監督が、幸せな家庭が1人の少年を迎え入れたことで崩壊していく様子を描き、第70回カンヌ国際映画祭で脚本賞を受賞したサスペンススリラー。郊外の豪邸で暮らす心臓外科医スティーブンは、美しい妻や可愛い子どもたちに囲まれ順風満帆な人生を歩んでいるように見えた。しかし謎の少年マーティンを自宅に招き入れたことをきっかけに、子どもたちが突然歩けなくなったり目から血を流したりと、奇妙な出来事が続発する。やがてスティーブンは、容赦ない選択を迫られ……。ある理由から少年に追い詰められていく主人公スティーブンを「ロブスター」でもランティモス監督と組んだコリン・ファレル、スティーブンの妻を「めぐりあう時間たち」のニコール・キッドマン、謎の少年マーティンを「ダンケルク」のバリー・コーガンがそれぞれ演じる。(映画.comより



ご飯3杯いけます。

ビミョーでヘンテコな世界観が魅力の
ヨルゴス・ランティモス監督による
『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』
副題が長いです。原題そのままです。
じゃあ、副題いらなくね? というのはともかく、
『籠の中の乙女』『ロブスター』と続いて
奇怪な舞台装置で登場人物たちを翻弄する箱庭的作品でしたが、
本作はどうも趣が違うようす。
……いや、そうでもないか。
まあとにかく、状況的には
現実にあってもおかしくない世界。

いきなり鼓動する心臓のクローズアップではじまり、
度肝を抜かれます。
動く心臓、これこそ命。
そもそも、なぜ心臓は動くのでしょうか。
命の不思議を思わずにいられないオープニングです。

名実ともに有能な心臓外科医スティーブン(コリン・ファレル)
美しい眼科医の妻アナ(ニコール・キッドマン)
少女から脱皮しつつある娘キム(ラフィー・キャシディ)
9歳前後の息子ボブ(サニー・スリッチ)の4人家族で
裕福な家庭を築いています。
ふたりの子供がいても
夜は「全身麻酔プレー」を楽しむほど
妻アナとの関係も良好です。
しかし、スティーブンは家族にも明かさずに
正体不明の小汚い少年マーティン(バリー・コーガン)
たびたび逢っていたのでした。

とくに祝い事があるわけでもないのに
スティーブンがマーティンに高級時計をプレゼントしたり、
どういう関係なのかわからないまましばらく話が進みます。
『ダンケルク』の小僧ぶりが記憶に新しい、
マーティン役のバリー・コーガンは
絶妙な無垢さを感じさせる顔立ち。
何も考えていないような、はたまたすべてを達観しているような、
感情を読み取りづらい小動物のような表情が素晴らしい。
彼の丁寧な言葉遣いも異物感を引き立てます。
やがてマーティンはとても恐ろしい存在であることが
明らかになってくるのですが、
なぜか最後まで彼に嫌悪感を抱くことはありませんでした。
(共感もしなかったけど)

スティーブン宅に招待されたマーティンは
家族に紹介され、好意的に迎え入れられました。
しかし、じつはマーティンが
スティーブンの医療ミスによって死亡した患者の
息子
であることが知らされ、
それまでふわふわと宙に浮いていたいろんな事柄が繋がり始めます。
多忙なはずのスティーブンがマーティンと食事をし、
高級時計をプレゼントするのは
彼にとってのせめてもの償いでした。
しかもスティーブンはマーティンの父親の手術中に
酒を飲んでいた
ことがわかり、
マーティンの父親の死以来、禁酒していることからも
後ろめたい気持ちを抱えていたのです。

朴訥な少年のようだったマーティンは
スティーブンとの拘わりかたが徐々に粘着質に。
スティーブン宅を訪れた翌日には自宅に誘い、
(断れないスティーブン)
マーティンの母親がスティーブンを誘惑するあたりから
マーティンの「復讐」が明らかになってきます。
思えば、待ち合わせに遅刻したり、
突然病院に現れたりと、
微妙な嫌がらせを積み重ねていたのですな。
プレゼントされた腕時計のベルトを革に換えるのも
スティーブンに対する嫌がらせの一環のはずですが、
スティーブンが金属製のベルトがいいと同僚に語ったのを
マーティンは知っていたのか……。
神経を逆なでするような音楽が不穏な空気を醸成します。

突然、ボブの足が動かなくなって物語は急転。
スティーブンを呼び出したマーティンは、
父親を殺したあなたは
自らの手で家族をひとり殺さなければならない。
そうしないと、まずは「手足の麻痺」。そして「食事の拒否」。
次に「目から出血」
という段階を経た後、
全員死ぬことになると、予言めいたことを告げるのでした。

やがてボブが食事を拒否し、キムの足が動かなくなると、
いよいよマーティンの仕業だと判断したスティーブンは
彼を自宅に拉致監禁し拷問しますが、
実質、マーティンはなにもしていません。
蝋燭をたきながら藁人形に釘を打ったり、
太鼓を叩きながら踊り狂ったりしません。
スティーブン宅に招待されたとき、
スティーブン以外の家族に花やプレゼントを渡すのが
呪いをかける行為のようにミスリードされてはいるものの、
それはあくまで憶測にすぎず、
ただ、マーティンは不思議な確信を持って
「正義に近づいている」といい、
スティーブンに「目には目を」の制裁が下るというのみです。

マーティンのスティーブンに対する態度が
復讐なのかどうかはとても微妙です。
マーティンが作為的に罠のようなものを仕掛けたのは
自宅に招待したスティーブンを母親が誘惑したことくらいで
それ以外の出来事は
ほぼスティーブン一家の自滅といっていいでしょう。
しかし、子供たちが患った突発的な奇病(?)は
高名な医師をもってしても治療法を見いだせないことから、
一連の災難は近代医学の否定であり、
心臓外科医のスティーブンに対する全否定ではないでしょうか。
酒をひっかけながら命を司る心臓にメスを入れていたスティーブンは
傲慢にも自分を神のように感じていたのかもしれません。
それに対してマーティンが「おまえは神じゃない」
いっているような気がします。

ボブの目から出血が始まり、
このまま家族全員(スティーブン以外)死んでしまうのか、
それとも誰かひとりを殺して忌まわしき呪いを止めるのか。
かつてのサンデル教授的意地の悪い取捨選択に
スティーブン一家は懊悩するのかと思いきや
(いやもちろん懊悩はしているんだけれども)
それぞれが保身に懸命になるのです。
ボブは散髪しろといわれても伸ばしていた髪の毛を自らハサミで切って、
「約束を守らなくてごめんね」とスティーブンに媚び、
キムはマーティンとの逃避行を企てつつ、
ボブのために私を殺してと逆アピール。
妻アナにいたっては、まるで王に忠誠を誓うかのように
椅子に縛られたマーティンの足にキスしたかと思えば、
「ひとり選ぶなら当然子供よね。
 私たちならまた子供を作れるわ」

全裸になってスティーブンに「全身麻酔プレー」をねだるのでした。
(娘のキムがマーティンを誘惑するときも
 下着姿でベッドに横たわる「全身麻酔プレー」のようでした。
 マーティンの父親譲りのスパゲッティの食べ方のように
 これも血筋か?)

アナに同意したかのようにスティーブンも
ボブとキムが通う学校へ赴いて教師からふたりの成績を聞き、
どちらを選ぶべきかと尋ねる始末。
愛情ではなく、子供の「価値」を測っているのです。
そもそも最初の食事シーンから
スティーブンはキムを、
アナはボブを可愛がっているのが示されていました。
日常の悪気のない選り好みが
究極の選択を前にして非常に残酷な形で露呈してしまっています。

なんという意地の悪さ。

ラストシーンは『ロブスター』と同じくダイナー。

『ロブスター』では、駆け落ちする女性と同じように
主人公が自ら失明するのか……という
やっぱり嫌な選択を迫られる場面で終わりましたが、
本作ではすでに事態が収束しています。
スティーブンがライフルでボブを殺した結果、
キムは再び歩行できるようになり、
家族は安らぎを取り戻したかのようですが、
戒めるようにマーティンが店にふらっと入ってきます。
そそくさと店を出るスティーブン。
口角に微妙な笑みをみせるアナとキム。
あいかわらず意に関せずな表情のマーティン。

ギリシャ神話の「アウリスのイピゲネイア」について
キムが書いた作文が褒められたりしていて、
タイトルにもある「鹿殺し」の由来ともいわれていますが、
監督はやんわりと否定しているし、
(まあ、監督のコメントほどあてにならないものもないが)
元ネタの深掘りよりも、
マーティンの希有な存在感と人間の業の深さを堪能すれば
ご飯3杯いけます。





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