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もう終わりにしよう。

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(原題:I'm Thinking of Ending Things 2020年/アメリカ 134分)
監督・脚本/チャーリー・カウフマン 製作/ステファニー・アズピアズー、アンソニー・ブレグマン、ロバート・サレルノ 製作総指揮/グレゴリー・ゾック 原作/イアン・リード 撮影/ウカシュ・ジャル 美術/モリー・ヒューズ 衣装/メリッサ・トス 編集/ロバート・フレイゼン 音楽/ジェイ・ウェドレイ
出演/ジェシー・プレモンス、ジェシー・バックリー、トニ・コレット、デヴィッド・シューリス、ガイ・ボイド

概要とあらすじ
恋人との将来に悩みつつ、雪の日に辺ぴな農場に住む彼の両親を訪れた女性。だが、不思議な感覚に見舞われて、何が現実なのかわからなくなっていく。(Netflixより



非モテのオタクは背筋が凍る

ほぼ毎日、日が暮れるもしくは日が暮れそうになると酒を飲むのですが、酔った頭で観てもなんのこっちゃわからなかったNETFLIXオリジナル『もう終わりにしよう。』。そもそもチャーリー・カウフマン監督は酒を飲みながら気軽に観られる作風ではないではないか。というわけで、シラフでリトライすると、一見難解にみえて、多数のヒントが各所に散りばめられておりました。さらにカウフマン監督によるネタバレ多めの解説記事を発見(英語)。理解を深めることができました。

Charlie Kaufman’s Guide to ‘I’m Thinking of Ending Things’: The Director Explains Its Mysteries

雪がちらつく寒い日、ルーシー(ジェシー・バックリー)は恋人ジェイク(ジェシー・プレモンス)に誘われ、彼の実家に行くことに。しかし、ルーシーは心の中でジェイクとの関係を「もう終わりにしよう」と考えています。しかしなぜか同時に「強い絆」を感じてもいたのでした。ルーシーがジェイクの迎えを待つ間、窓際に立った男が「ついに答えを出すときが来た」とつぶやきます。

ジェイクの車に乗ったルーシーは平静を装いながら頭の中ではやっぱり「終わりにしよう」と考えています。すると「なにか言った?」と効いてくるジェイク。ルーシーが頭でなにか考えているとき、ジェイクは必ずなにかを察しています。

かたやチラチラと登場するのは、高校に勤める老いた用務員(ガイ・ボイド)。当然、このおっさん誰? となるわけですが、その正体は徐々に明らかに。

ジェイクの両親と会うことにしたものの、恋人の親と会うということは結婚を意味するのではないかとルーシーは危惧しています。そしてレポートを書かなければならないからどうしても今晩中に帰りたいといいます。そのレポートのテーマは「後根神経節ニューロンの狂犬病への感染」。なんのこっちゃわかりませんが、ドライブ中、ふたりは「知的な」会話を続けます。ジェイクは詩人ワーズワースが手紙を送った女性の名前が「ルーシー」だと話します。そしてその女性は短命だったとも。

このあたりから微妙な違和感が漂いはじめます。ルーシーのスマホに「ルーシー」から電話がかかってきたり、廃屋の庭に目新しいブランコがあったりします。ラジオからはミュージカル『オクラホマ』のテーマが。ジェイクはめちゃくちゃミュージカル好きなのでした。やがてジェイクはルーシーに自作の詩を朗読してくれと言うと、ルーシーは「いまできた」という詩を長々と語りはじめます。『骨の犬』という題名のその詩を聞いたジェイクは「ボクのことみたいだ」と。

実家に到着すると2階の窓からジェイクの母親(トニ・コレット)が手を振っています。しかし、すぐには家の中に入りたがらないジェイクはルーシーに家畜小屋を案内します。そこには数頭の羊のほかに子羊の死体が。さらには生きたままウジが湧いて死んだ豚の痕。

ようやく家の中に入ると、今度はジェイクの両親がなかなか現れません。そのかわりジミーという犬が現れるのですが、顔がわからないほど激しく体を振っています。突然両親が登場すると、大量の料理が用意されていました。どことなく嚙み合わない会話。トニ・コレットが『ヘレディタリー 継承』に続いて多彩な顔芸を披露しています。

かたや老いた用務員は食事をしながら映画を観ています。イヴォンヌというウェイトレスがダイナーで客の注文を取って、「オススメはサンタフェ・バーガー」だと。しかし、なぜか後ろに付いてきていた恋人が「本当は彼女はベジタリアンなんだ!」と叫びはじめたかと思うとプロポーズ。感動に包まれた店内には拍手が起こりますが、イヴォンヌはクビになってしまいます。店の前で座り込んだふたりが愛を確かめ合ってジ・エンド。画面には「監督:ロバート・ゼメキス」の文字が。もちろんこの映画はオリジナルでゼメキスの作品ではありません(ゼメキスをディスってんのかな?)。

いよいよ帰りたいルーシーが料理を片付けると、母親がデザートを食べていけと引き留めます。それを待つ間、ルーシーが何気なく目にやった写真は幼い頃の彼女が映っているかのようでした。デザートを食べているとルーシーのスマホが鳴り、「イヴォンヌ」から着信が。急かされたルーシーが留守電を聞くと「知りたいことはひとつ。ついに答えを出すときが来た」というしわがれた声が。

すると突然、ルーシー以外の全員が姿を消します。ジェイクの声がする2階に上がると「ジェイクの子供の頃の部屋」と書かれた紙がドアに貼られた部屋が。部屋の中に入ったルーシーが辺りを見回すと、なんと、犬のジミーの骨壺が。さらに本棚に目をやると、ジェイクが語っていたワーズワースの詩集と映画『ビューティフル・マインド』のDVDが。さらにテーブルのうえにはeva. h. dの本が置かれ、そこには『bonedog(骨の犬)』と題した詩が載っていたのです。

その後、すっかり年老いて認知症を患っている父親と車椅子に座っている母親が。この世界の時間が壊れようとしています。階段を降りるルーシーはループしながら「彼が認められるために私の人生があるかのよう」とつぶやきます。父親に寄り添って1階で待ち受けていたジェイクはルーシーを「ルイーザ」と呼び、「彼女はボクが行きつけの店のウエイトレスなんだ。そこでメニューを聞いたんだ。『サンタフェ・バーガー』!」というのでした。

ルーシーが父親から渡されたガウンにはこぼれた離乳食が付いていました。すると急激に若返ってジェイクが散らかしたおもちゃを片付けている母親が現れ、ガウンを「地下室にある洗濯機で洗ってきて」というのです。ジェイクが「彼が隠れてる」といって嫌っていた地下室で。地下室に降りたルーシーがガウンを洗濯しようと洗濯機の蓋を開けると、中には用務員の作業着が何着も!

やっとここまで来た!! これで本作で描かれているのがどういう世界なのかはっきりしました。この物語は老いた用務員ジェイクが妄想した世界だったのです。用務員ジェイクは、自分を若く想定し、その理想の恋人としてルーシーを妄想で作り上げたのでした。要するに用務員ジェイクの脳内恋愛シミュレーション。ルーシー像は用務員ジェイクがいままでに接してきた(もしくは単に見かけた)女性をミックスして、自分の理想を投影させた存在なので、名前がルイーザやエームズ(エイミー)やルシアになったり、彼女の仕事が物理学者だったり絵描きだったり老年学者(?)だったり様々なのは、用務員ジェイクがそのときに語りたい話題に合わせて変化しているからでしょう。ジェイクの両親が年を取ったり若返ったりするのは、彼が妄想の舞台としている記憶が非連続的だからだと思います(離乳食をこぼした頃の記憶がジェイクにあるかどうかわからないが)。廃屋の庭にある目新しいブランコはその予兆だったのです。

地下室には洗濯機のほかに、壁には画家ラルフ・アルバート・ブレイクロックのポスターが貼ってあり、その絵はルーシーがスマホで両親に見せた彼女の作品と瓜二つ。ブレイクロックを模写したような稚拙な数枚の絵にはジェイクのサインが。するとルーシーのスマホから彼女の作品のはずだった写真が消えています。真実が明らかになった以上、ルーシーに課せられた設定が無効になったからでしょうか。

ベッドで死んでいる母親を看取ったあと、ジェイクとルーシーはようやく帰路につきます。外は激しく吹雪いています。文字通り自分が消えつつあるルーシーは戸惑いを隠せませんが、ジョン・カサヴェテス『こわれゆく女』の話題になると激しい口調に替わり、ジーナ・ローランズ演じるメイベルを徹底的に酷評します。彼女の主張は、辛口で有名だった映画評論家ポーリン・ケイルの批評そのままなんだとか。ポーリン・ケイルの分厚い著作も「ジェイクの子供の頃の部屋」にありました。つまり、ジェイクは自分が好きな『こわれゆく女』を尊敬する評論家がボロカスに酷評した批評をルーシーに言わせているのです。なんちう自虐的な。

このあたりになると、ジェイクと用務員ジェイクの境界も曖昧になってきて「毎日学校で子どもたちをみている」などと口走ります。そして急に「甘いものが食べたい」と言い始め、タルサタウン乳業のアイスクリーム屋へ。吹雪の真夜中にぽつんと営業しているその店から遅れて出てきたふたりの店員は、高校の廊下で用務員ジェイクを馬鹿にしていた女子高生たち。クスクス笑うばかりで何もしない彼女たちの代わりに奥から出てきたのは、どうやら学校でいじめられているであろう腕に湿疹のある女の子。彼女は親切に応対しますが、なにかに怯えているようすで、ルーシーに「行かないほうがいい」といいます。

自分で食べたいといって買ったアイスクリームを、今度は捨てたいと言い始めたジェイクは、ルーシーの制止を無視して高校へ。それまでの道中、一瞬だけルーシーの顔がゼメキス映画のイヴォンヌになります。アイスクリームを捨てて車に戻ったジェイクとルーシーは一旦落ち着き、キスをしていると突然用務員ジェイクの顔が。「男が見てた!」と激高したジェイクは車の鍵を抜いて消えてしまいます。

今日の一日を後悔し、寒さに震えるルーシーは高校の校舎の中へ。そしてついにルーシーと用務員ジェイクの対面です。ジェイクを探しているルーシーは彼の特徴を聞かれ「昔のことで憶えていない」「なんか、バーで声をかけてきたけど、よくあるすれ違いのひとつ」と答えます。おそらく、かつて用務員ジェイクは勇気を振り絞ってルーシー的な女性に声をかけたことがあったのはないでしょうか。そっけなくあしらわれたそのルーシー的女性の記憶をベースに自分好みにキャラ付けしてできあがったのがルーシーなのでしょう。

再びルーシーの前に現れたジェイク。するとふたりと同じ服装の男女が登場し、ダンスを踊り始め、結婚式を挙げようとした瞬間、突然襲いかかってきた男が男性を刃物で刺して殺します。この一連のシーンは『オクラホマ』の引用?

ここで気になるのが襲いかかってきた男が用務員の制服を着ていたこと。この男は若き日の用務員ジェイク? だとしたら、彼はかつて高校の女子生徒に対してなんらかの性暴力とはいわないまでも、ストーカー的な行為をやらかした過去があったのではないでしょうか。序盤のシーンで、掃除する用務員ジェイクと目が合ったミュージカルを演じている舞台上の女性は表情を曇らせていたし、アイスクリーム屋の店員として登場した湿疹の多い女性も用務員ジェイクを警戒しているようでした。用務員ジェイクが「もう終わりにしよう」と考えているのは、そのような惨めな人生なのではないでしょうか。

帰り支度をして車に乗り込んだ用務員ジェイクは、両親の喧嘩などをフラッシュバックさせ激しくうろたえます。そしてなぜか裸になるとタルサタウンのCMがフロントガラスに映り、「生きたままウジが湧いて死んだ豚」がアニメで登場して彼を導きます。「服を着せよう」。

すると突然、なにかの授賞式に。年老いたジェイクが登場し、スピーチ。このスピーチは『ビューティフル・マインド』でラッセル・クロウがやったのと同じ。客席には安っぽい老けメイクをしたルーシーたちが。ステージの端にはロッキンチェアに座った母親も。すると舞台袖から「ジェイクの子供の頃の部屋」を模したセットが現れ、ジェイクはしみったれた歌詞の歌『オクラホマ』の「Lonely Room」を歌いあげます。会場は拍手喝采。

用務員ジェイクは「事態は好転する」と信じて随分勉強したんでしょう。しかし、物理学に映画に詩作に絵画にといろんなものに興味を持って挑んだものの、いずれの才能もなく、報われない承認欲求だけが蓄積されていったのではないでしょうか。「年齢は単なる数字だ」と強がってみても、現実はそう考えてくれません。

用務員ジェイクは自分の興味または知識に対して相応する反応ができる相手をルーシーとして創造したのです。ま、その程度の妄想なら誰しも経験があると思われますが、現実の彼は女性とまともなコミュニケーションを取ることができず、妄想の中だけで暮らしてきたのでしょう。それならなぜ用務員ジェイクはわざわざ妄想上の恋人に「もう終わりにしよう」などと考えさせたのでしょうか。妄想なんだから、なにがなんでも自分にべた惚れで一生添い遂げる女性にすればいいのに。

それは彼自身が自分の限界(肉体的にも精神的にも)を悟ったからではないでしょうか。基本的に自己評価が低い(そのくせ評価されたい)用務員ジェイクは、この空しい妄想を終わらせるために、妄想上の恋人に別れを告げさせようとしたのではないかと思います。

いずれにしろ、用務員ジェイクの人生は哀しく切ない。非モテのオタクは背筋が凍るのでした。



















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