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パラサイト 半地下の家族

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(原題:Parasite 2019年/韓国 132分)
監督/ポン・ジュノ 製作/クァク・シネ、ムン・ヤングォン、チャン・ヨンファン 脚本/ポン・ジュノ、ハン・ジヌォン 撮影/ホン・ギョンピョ 美術/イ・ハジュン 衣装/チェ・セヨン 編集/ヤン・ジンモ 音楽/チョン・ジェイル
出演/ソン・ガンホ
、イ・ソンギュン
、チョ・ヨジョン
、チェ・ウシク
、パク・ソダム
、イ・ジョンウン
、チャン・ヘジン
、チョン・ジソ
、チョン・ヒョンジュン
、パク・ソジュン


概要とあらすじ
「殺人の追憶」「グエムル 漢江の怪物」「スノーピアサー」の監督ポン・ジュノと主演ソン・ガンホが4度目のタッグを組み、2019年・第72回カンヌ国際映画祭で韓国映画初となるパルムドールを受賞した作品。キム一家は家族全員が失業中で、その日暮らしの貧しい生活を送っていた。そんなある日、長男ギウがIT企業のCEOであるパク氏の豪邸へ家庭教師の面接を受けに行くことに。そして妹ギジョンも、兄に続いて豪邸に足を踏み入れる。正反対の2つの家族の出会いは、想像を超える悲喜劇へと猛スピードで加速していく……。共演に「最後まで行く」のイ・ソンギュン、「後宮の秘密」のチョ・ヨジョン、「新感染 ファイナル・エクスプレス」のチェ・ウシク。(映画.comより



便所コオロギ vs ゴキブリ

2018年の第71回カンヌ国際映画祭で是枝裕和監督『万引き家族』がパルムドールを受賞したその翌年、ポン・ジュノ監督『パラサイト 半地下の家族』がその栄冠に輝いたのは偶然ではないでしょう。もはや「格差社会」がもたらす問題は世界の関心事であり、作家たちがそれを題材に作品を作るのは自然なこと。ケン・ローチは引退を撤回してまで『わたしは、ダニエル・ブレイク(2016)』を撮ったし、ポン・ジュノ監督もその類似性に驚いたというジョーダン・ピール監督『アス(2019)』は、裕福な家族と瓜二つの貧しい家族が襲ってくるという作品でした。

事業に失敗して今はほぼほぼやる気のない父ギテク(ソン・ガンホ)、元ハンマー投げ選手の母チュンスク(チャン・ヘジン
)、大学進学を目指しているものの何度も失敗している長男ギウ(チェ・ウシク
)、美大志望だけど予備校に通うこともできない長女ギジョン(パク・ソダム
)のキム一家は、貧しさ故「半地下」で暮らしています。目線の少し上にある窓は地上の地面と同じ高さです。かつてソウルでは、北朝鮮からの核ミサイル対策としてビルの地下に防空壕を作ることが義務づけられていたそうで、そのスペースを改装し、住居として安価で貸し出したのがこのような「半地下」なんだとか。

意外にも「半地下」の内部はわりと広く、一家の暮らしぶりが呑気かつ陽気なので、これはこれで快適なのかもと思いそうになるけれど、下水の関係でトイレの便器が天井近くに設置されている奇怪な作りになっているし、なにしろ酔っ払いの立ちションを窓越しに見上げるのはなかなかしんどい。やたらと出るという便所コオロギが彼ら一家の存在と重なります。家族は宅配ピザのケースを作る(というか折りたたむだけ)内職で生活費をしのいでいるのですが、そんな極貧生活にもかかわらず、みなスマホはもっているという歪さよ。

留学するという友人から自分の代わりにと、IT企業社長パク(イ・ソンギュン)の長女ダヘ(チョン・ジソ)に
英語を教える家庭教師の職を紹介されたギウは、妹ギジョンが偽造した履歴書を持って山の手の豪邸へ。本作は一貫して上下の移動が象徴的かつ映画的に使用されていますが、ギウがパク家へ向かうまでの坂道と室内の階段を上る序盤のシーンから徹底されています。ポン・ジュノ監督は『スノーピアサー』でも格差社会を表現していましたが、列車内の水平移動よりも本作の上下運動のほうがより具体的です。

ギウを迎え入れたパクの妻ヨンギョ(チョ・ヨジョン)は「ヤング・アンド・シンプル(=単純なバカ)」というだけあって、あっさりとギウを採用し、続いて幼いダソン(チョン・ヒョンジュン)のために美術教師としてギウの妹ギジョンを採用します。ギウとギジョンのふたりがあまりにも話術と人心掌握術に長けてやしないか? とは思いましたけど、とにかくやがて追い出したパクの運転手の後釜に父ギテクが、桃アレルギーを結核に見せかけて追放した家政婦ムングァン(イ・ジョンウン)の後釜に母チュンスクが収まり、「パラサイト(寄生)」の完成です。前半はコメディ色が強いですが、ひとを欺く潜入ものの痛快さがあります。

かつて誕生日に「幽霊」をみたトラウマを持つダソンの誕生日を祝うために家族全員でキャンプに出かけるパク一家。数日空き家となった山の手の豪邸に集結したキム一家は広いリビングで宴会を始めるのですが、彼らが食べる酒のつまみが乾き物ばかりで貧相なこと(ギジョンにいたっては犬用のジャーキーをかじっていました)。たとえ豪邸を占拠しても彼らはそういうジャンクな食べ物しか発想できないのです。それでも彼らは満足げ。これは地味に哀しい。このシーンで重要なのは「パク一家は金持ちなのになんでいい人たちなんだろう?」というギテクに対して、母チュンスクの「金持ちだからいい人なのよ」という台詞。金持ち喧嘩せずとはいいますが、経済的な余裕があってこそひとは寛容になれるというわけ。ではなぜ社会格差が生まれるのでしょう。

雷を伴った雨が降り始めた夜更け、彼らなりの宴会を楽しんでいるところへ、クビにされた元家政婦ムングァンがインターホンを鳴らします。なにやら地下室に忘れ物をしたというムングァンが向かった先は地下室のさらに地下。先代の居住者である建築家が作った核シェルターにはムングァンの夫がなんと4年間もひっそりと暮らしていたのでした。

ムングァン自身はどんな生活をしていたのかわからないけれどそれはともかく、キム一家が「パラサイト」したと思っていたパク家には、すでに先客がいたというわけ。しかもムングァンの夫が隠れていた地下シェルターはキム一家の「半地下」と比較して「完地下」もしくは「全地下」

さらに、ふたつの「パラサイト家族」が攻防を繰り広げる中、大雨でキャンプを中止したパク一家が急遽帰ってくることに。しかも到着する8分後に「ジャージャー・ラーメン」が食べたいと。別に帰宅してすぐにジャージャー・ラーメン食べなくてもいいだろうとは思いますが、とにかくここからが「間に合うの? 間に合わないの?」&「見つかるの? 見つからないの?」サスペンス。巧妙にエンターテイメントを忍び込ませるのがポン・ジュノ流。そういえば、パク邸の庭でハンマー投げを披露するチュンスクが投げたハンマーがどこかに飛んでいったあと、遠くから車のアラーム音が聞こえてくるというギャグもありましたが、ソファでパクに乳首を愛撫される妻ヨンギョが「時計回りに」というのは笑えました。

しかし、終盤に差し掛かって物語はシリアスに。なんとかパク邸を抜け出した母チュンスクを除くキム一家が、半地下の自宅へと帰るまでの長い長い道のりは、これでもかといわんばかりに延々と下降していきます。大雨によって流れ落ちる雨水と競うようにたどり着いた彼らの「半地下」は溢れ出た下水によって浸水。序盤の立ちションがささやかな予兆となっています。かろうじてギテクは妻チュンスクがかつて獲得したメダルを、ギウは友人から譲り受けた山水景石を持ち出しますが、ギジョンは下水が溢れ出る便器に蓋をするように腰掛けて、隠してあったタバコをふかします。彼女にとっては、もろもろの状況がどうでもいいことなのかもしれません。

避難所で、計画があるといっていたはずのギテクは「計画なんてたてると失敗するだけ」と言います。彼もまた失望に囚われて破れかぶれになっているのですが、ギウは山水景石を抱きしめています。「石がオレにくっついてくる」と。御利益があるとされる石=希望をギウはまだ手放したくないのでしょう。

翌日、改めて開催されることになったダソンの誕生日パーティに駆り出されるキム一家。ここで惨劇が起こります。「完(全)地下」に閉じ込めていたムングァンの夫に、ギウは希望の徴である山水景石で反撃され、包丁を手にしたムングァンの夫はパーティ会場である庭へと姿を現すと、ギジョンを刺し、チュンスクを襲います。チュンスクは持ち前の運動能力(というか戦闘能力)によってムングァンの夫に反撃するのですが、ここで重要なのは「半地下」と「完(全)地下」が戦っているということ。ムングァンの夫にいたってはパク社長に対して「リスペクトー!」とまで言います。富裕層のパクは決して憎むべき敵としては描かれず、醜くも争うのは下層の人間同士だということ。ギテクがクビにされた運転手のその後を気遣うそぶりをみせたように、本来敵対しているわけではない貧しい者たちはわずかな取り分を奪い合っているのです。まさに便所コオロギ vs ゴキブリ。ポン・ジュノ監督がインタビューで語っているように「半地下」とは「半地上」でもあり、キム一家は「完(全)地下」の住人たちの出現によって、まやかしの中流意識を身につけたのかもしれません。

しかし、ついにギテクはパクを攻撃してしまいます。そのトリガーとなったのは「匂い」。かねてからギテクの「地下鉄のような」匂いを口にしていたパクでしたが、瀕死のムングァンの夫に対して臭さのあまり鼻をつまんでしまったのです。これでギテクはキレました。確かに体臭がくさいのは我慢しがたいかもしれませんが、この場合の「匂い」に対するパクの反応は、生理的なものであるがゆえになおさら、人格まで否定されたような気になったのでしょう。

パクを殺したギテクは逃げたのかと思いきや、ムングァンの夫にかわって地下の核シェルターに隠れます。彼は「半地下」から「完(全)地下」へと墜ちてしまったのです。それは彼なりの贖罪かもしれません。命を取り留めたギウは、後遺症で笑いが止まらなくなっています。もはや笑うしかないからでしょう。やがて「半地下」で母チュンスクとのふたり暮らしを再開したギウは、照明を使ったモールス信号でギテクからのメッセージを受け取り、返信します。しかし、彼の決意は、進学も結婚もあきらめて金儲けに邁進するというものでした。それはいつしかギテクが地下に身を潜める豪邸を買い取って、父親を助け出すのが目的ですが、決してポジティブな結末とは思えません。

映画秘宝2020年2月号の町山智浩氏の解説によると、韓国では貧しさゆえに恋愛・結婚・出産をあきらめた若者たちを「三放世代」というそうで、さらには正規雇用や家を持つことをあきらめた「五放世代」そして夢と友人関係をあきらめた「七放世代」と、将来に希望を見いだせない状況が深刻化しているようです。ギウの決意はこのような若者の絶望を象徴しているのではないでしょうか。

なぜ地下シェルターに照明のスイッチが!? みたいな映画のウソはあるけれど、ポン・ジュノ監督独特のおふざけはわりと抑えめで堅実な作りだと思いました。「SNSの送信ボタンはミサイル発射ボタンと同じ」というのは言い得て妙だし、朝鮮半島ならではのリアリティも。それはともかく、パク邸の外観以外はセットとCGというのはすごい。社会的な主張を差し置いたとしても映画的悦びに満ちた作品でした。







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