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ポエトリー アグネスの詩

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(原題:Poetry 2010年/韓国 139分)
監督・脚本/イ・チャンドン 製作/イ・ジュンドン 撮影/キム・ヒョンソク 編集/キム・ヒョン
出演/ユン・ジョンヒ、イ・デビット、アン・ネサン、キム・ヒラ、パク・ミョンシン

概要とあらすじ
「オアシス」「シークレット・サンシャイン」のイ・チャンドン監督が、アルツハイマー症に冒され徐々に言葉を失っていく初老の女性が、一編の詩を編み出すまでを描いた人間ドラマ。釜山で働く娘に代わり中学生の孫息子ジョンウクを育てる66歳のミジャは、ふとしたきっかけで詩作教室に通い始めるが、その矢先に自分がアルツハイマー型認知症であることが発覚する。さらに、少し前に起こった女子中学生アグネスの自殺事件にジョンウクがかかわっていたことを知り、ショックを受けたミジャは、アグネスの足跡をたどっていくが……。2010年・第63回カンヌ国際映画祭で脚本賞を受賞。(映画.comより



川で始まり、川で終わる

社会問題を独特の語り口で描くイ・チャンドン監督『ポエトリー アグネスの詩』

少女の死体が川を流れてくるシーンから始まる本作は、韓国で実際に起きた女子中学生集団レイプ事件に着想を得て作られたとか。実際の事件の被害者少女は自殺こそしていないけれど、本作で描かれる事件よりもさらに悲惨な仕打ちを受けています。本作は、集団レイプ事件をモデルにして、被害者の心情と事件の真相、または加害者側の心理などを描こうとするのではなく、あくまで着想にとどめて主人公を老女に設定。より複雑な趣のある作品となっております。イ・チャンドン監督は京都のホテルに滞在しているときにこのアイデアを思いついたのだとか。

ミジャ(ユン・ジョンヒ)は、生活保護を受けながら介護ヘルパーの仕事をしている66歳の女性。最近、物忘れが顕著になってきたミジャは、アルツハイマー病と診断されますが、それとほぼ同時に「詩」への興味を持ち始め、詩作教室に通い始めます。言葉を忘れていくことと、言葉を紡ぎ出すことという相反するものが同時に起こるのが面白い。それとも、ミジャは言葉を忘れていくことに抵抗して詩作を始めたのかも……。

ミジャを演じるユン・ジョンヒは、60〜70年代に300本以上の映画に出演した女優だそうですが、本作は久しぶりの映画出演(ミジャという役名はユン・ジョンヒの本名)。可愛らしさを感じさせるおばあちゃんで、アルツハイマーによる物忘れすらどこかチャーミングです。「おしゃれだねって言われるのが嬉しい」というミジャは、貧しいながらもファッションを楽しんでいるようす。

出稼ぎに出ている母親に代わって、ミジャはジョンウク(イ・ダウィット)という中学3年生の孫を養っています。母親が不在という設定に興味津々ですがそれはともかく、このジョンウクはミジャおばあちゃんに甘えきったクソガキで、いつもダラダラゴロゴロ。同級生の少女が自殺したと聞いても「よく知らない」と素っ気ない態度です。それでもミジャはご飯を食べてくれるのが嬉しいといい、ジョンウクを可愛がっています(甘やかしているわけではない)。

ところが、ジョンウクの友人の父親から連絡が入り、自殺した少女アグネスの死因はジョンウクを含む6人の少年たちによって数ヶ月にわたり繰り返された集団レイプが原因だったとわかるのです。集まった父親たちは「子供たちの将来を考えて(!)」、事件を表沙汰にせず、少女の母親に示談金を払って幕引きしようと画策していたのでした。しかも示談金はたったの3000万ウォン(約276万円)。この薄汚い対応に誰も異を唱えないのが恐ろしい。また、ジョンウクはほんの少しだけアグネスのことを気にかけているような鬱屈した素振りを見せるものの、加害者であるその他5人の少年たちは何事もなかったように遊び、ミジャに対してはいつもどおりにお辞儀をしたりします。この「普通」さが逆におぞましい。とにかく、ミジャは示談金の1/6の500万ウォンを用意するように言われるのでした。貧しいミジャにとっては大金です。

詩作教室の講師(著名な詩人らしい)の「詩は、見て書くものです。人生で一番大事なのは見ること。世界を見ることが大事です」という教えに従って、ミジャはさまざまなものを注意深く見つめ、詩の創作に緩やかにのめり込んでいきます。それと同時にミジャはアグネスを慰霊する教会のミサで彼女の写真を持ち帰り、アグネスの母親を訪ね、アグネスがジョンウクたちになぶり者にされた現場である教室を訪れて、アグネスの心へと近づいていきます。もちろん、ミジャがアグネスの母親を訪ねたのは、ほかの父親たちが「孫だけが頼りの哀れな祖母が示談交渉に行ったほうが得策かも」というクソな発想からでしたが、母親と対面したミジャは本来の目的を忘れてしまったため、父親たちにとっては期待外れ、ミジャにとってはアグネスと詩への思いを深める小旅行になりました。

さらには、ミジャが介護する「会長」と呼ばれる男がバイアグラを飲んで「死ぬ前にもう一度男になりたい」と彼女に迫ります。激しく拒否したミジャは仕事を辞めてしまいますが、再び戻ってきて自ら「会長」に抱かれます。そして500万ウォンを要求するのでした。もしかしたらこの2人は恋人になれたのかもしれませんが、そこには老いと性の問題が横たわっています。

詩の発表会で卑猥なジョークを繰り返す刑事を、性犯罪の取り調べで被害者をセカンドレイプする警察の象徴のような存在かと思っていましたが、結局、彼だけがミジャに寄り添っていたのかも知れません。おそらくミジャは彼を頼りにして事件を通報し、ジョンウクが連行されたのではないでしょうか。

詩作教室の最後の授業で、詩を提出した生徒はミジャひとりだけでした。彼女だけが「詩」に到達したのです。しかし彼女の姿はありません。彼女が作った「アグネスの詩」がミジャの声で朗読されると、やがてそれはアグネス本人の声へと変化していきます。詩を通じてミジャはアグネスと同化したのでしょうか。川で始まり、川で終わる物語。







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