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宮本から君へ

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(2019年/日本 129分)
監督/真利子哲也 原作/新井英樹 脚本/真利子哲也、港岳彦 エグゼクティブプロデューサー/河村光庸、岡本東郎 プロデューサー/佐藤順子 撮影/四宮秀俊 照明/金子康博 録音/西條博介 装飾/山田智也 スタイリスト/伊賀大介 音楽/池永正二
出演/池松壮亮
、蒼井優
、井浦新、一ノ瀬ワタル、柄本時生
、星田英利
、古舘寛治
、ピエール瀧、佐藤二朗
、松山ケンイチ


概要とあらすじ
テレビドラマ化もされた新井英樹の人気漫画を池松壮亮主演、 ヒロイン役を蒼井優のキャストで実写映画化。「ディストラクションベイビーズ」の真利子哲也監督がメガホンをとった。超不器用人間ながら誰よりも正義感の強い宮本浩は、文具メーカーで営業マンとして働いていた。会社の先輩である神保の仕事仲間、中野靖子と恋に落ちた宮本は、靖子の自宅に招かれるが、そこに靖子の元彼である裕二がやってくる。靖子は裕二を拒むために宮本と寝たことを伝えるが、激怒した裕二は靖子に手を挙げてしまう。そんな裕二に、宮本は「この女は俺が守る」と言い放ったことをきっかけに、宮本と靖子は心から結ばれるが……。宮本役を池松、靖子役を蒼井、神保役を松山ケンイチらドラマ版のキャストが顔をそろえるほか、裕二役を井浦新が演じる。(映画.comより



金玉潰すぞこのやろう

新井英樹のデビュー作であり、問題作の『宮本から君へ』。およそ30年前に『モーニング』で連載されていた当時から賛否両論があった本作、あまりの暑苦しさに辟易し、途中で離脱してしまったボクは原作を完読しておらず、2018年にドラマ化されていたことも知らなかったので、なんというか、じつにいい加減な観客なのですが、監督が真利子哲也だと知って俄然観たくなったのでした。

ただ、『NINIFUNI(11)』や大傑作『ディストラクション・ベイビーズ(16)』から受け取れる真利子哲也監督の作風は、リアルな暴力を描いていたとしてもどこかクールで低体温な印象だったので、この上なく暑苦しい『宮本から君へ』を演出する監督として果たして適しているのだろうかという浅はかな疑念がありました。が、もちろんそれは杞憂でした。

ずんずん歩く宮本(池松壮亮
)の後ろ姿をフォローするオープニング。これぞ真利子哲也監督のトレードマーク。なぜに歩く後ろ姿がこれほどまでに不穏なのか。これで唐突に振り返られたら、それこそ『ディストラクション・ベイビーズ』ではないか……。このオープニングだけですっかりうっとりしてしまい、ああ、自分は今から真利子哲也作品を観るんだなという気にさせられました。

絶妙に時間軸を交錯させた本作は、順を追って物語を語るわけではありません。だからこそ、最終的に宮本と靖子(蒼井優
)が辿る(一応の)結末に対する理解度(感慨といってもいい)をより深める効果を発揮しているといます。前歯がなく、左腕にギプスをはめた営業マンの宮本は、上司(古舘寛治
)からどやされるものの会社をクビにされるわけではなく、先輩の星田英利
からは密かに肯定的に受け止められます。宮本のやっていることは非常識で決して褒められたものではない、しかし、わかるよ〜お前の気持ち……という本作の主旨が軽やかに宣言されていると思うのです。

ときは遡って、まだ初々しい付き合いの宮本と靖子のデート。なんと靖子は買い物しすぎたという口実で宮本を自分の部屋に誘い、手料理を振る舞います。互いが住む安アパートを行き来する若い恋人同士の関係がなんとも微笑ましく、うらやましい。

ところが、微妙に距離を縮めようとしている宮本と靖子のあいだに、裕二(井浦新
)というトリックスターが邪魔に入るのです。靖子の元彼である裕二は、なにを生業にしているかもわからない自由奔放な男。靖子に執着(もしくは寄生)しているのかと思えば、そうでもない。なんとも不思議な存在です。とにかく、裕二が宮本と靖子の関係をかき乱すだけかき乱して姿を消すと、宮本と靖子のふたりは恋愛の距離感を探るようなまねはやめて、率直すぎるほど率直に対峙します。

劣情に駆られて「お前はオレが守る!」と宣言した宮本に対して、靖子は嘲笑しつつ「信じてもいい?」と返します。これこそが本作におけるファンタジー。男性が愛する女性と家族を守り、女性はその庇護のうちに献身を尽くす……という前時代的な夫婦(恋人)関係。宮本に比べると靖子は随分現実的な人間ですが、この時点で彼女も宮本のファンタジーに賭けたのです。だからこそ、その後の宮本に対する靖子の失望は根深いのですが。

ここまで気持ちが高ぶったふたりにもかかわらず、このあとのセックス・シーンのリアルな冷静さ。下着を自分で脱いだ靖子が宮本の股間に顔を埋め、69へ。なんとなくエッチしましたよ的な演出とは雲泥の差。対比されるつがい(?)の金魚も象徴的です。

その後、真淵敬三(ピエール瀧)をリーダーとする顧客を獲得したことで窮地に陥る宮本と靖子。
真淵とその取り巻きたちはラガーマンで、ラグビー・ワールドカップ2019の日本代表の躍進で湧く美談とは打って変わり、気色の悪い体育会系マチズモとホモソーシャルを煮詰めたような連中です。そして、宮本と靖子は真淵の息子、拓馬(一ノ瀬ワタル
)と出会ってしまいます。

2か月で30kg増量したという一ノ瀬ワタルが演じる拓馬は、強靱な肉体と裏腹な柔和な表情で宮本と靖子の懐に入りますが、泥酔して眠る宮本のすぐそばで靖子をレイプします。その間、いびきをかいて寝ていた宮本は「お前(靖子)はオレが守る!」と宣言したにもかかわらず、なにもできなかったのです。その欺瞞を靖子が痛烈に問いただします。

泥酔して覚えてないから仕方がないのかもしれません。しかし、実際にレイプされた靖子にとって、それは言い訳に過ぎません。だって「お前はオレが守る!」って言ったんだから。それを靖子は信じたんだから。にもかかわらず、肝心なときに守ってくれなかったんだから。

終盤は、拓馬に対する宮本の復讐劇と化し、その格闘がクライマックスとなるですが、靖子が宮本に問いただす根本的な疑念を果たすには至りません。宮本が発揮する熱情はただの自己愛ではないのか。靖子を守ると言いながら、宮本が必死に守ろうとしているのは自分の(=男としての)プライドなのではないか。他者に対する愛情とは、他者に対する愛情を傾けている自分に対しての自己愛に過ぎないのではないか……という非常に深いテーマが込められています。真淵の息子・拓馬に対する感情も同様です。

ひとつ間違えば、靖子に対する宮本の積極的すぎる行動はストーカーになりかねません。それでも怒鳴り返す靖子は、それだけでも宮本を受け入れていたと言えるのではないでしょうか。靖子の宮本に対する激しい叱責は、期待と失望の表れだと思います。

宮本は非力で無様なわけですが、理不尽な社会システムの中でなんとか「誠実さ」を保つために抗っています。彼にとっては、欺瞞に満ちたシステムに順応し、「スマート」に振る舞うことこそが無様なのです。しかし、宮本の「誠実さ」に含まれる自己愛や欺瞞を鋭く指摘するのが靖子です。さりとて、靖子も人生を達観しているわけではなく、もがき苦しむ人間です。

塚本晋也監督『斬、(18)』に続いて共演した池松壮亮
と蒼井優
ですが、作品の方向性はまったく違えども、なんだか似たような役柄の関係性でした。『斬、』では、人を斬ったことのないくせに侍としてのプライドだけは高い浪人池松壮亮
に対して、「死ぬんですか?」と詰め寄るのが蒼井優でした。子役時代から親交のあるふたりのセッションは今後も注目です。とにかく、泣き叫び、涙と鼻水とよだれと白米が飛び散る怒号の応酬は、さながら「演技の格闘技」のようでした。

というわけで、素晴らしい映画でしたが、公開後にじつにくだらないケチがつきました。文部科学省所管の独立行政法人「日本芸術文化振興会」は本作に内定していた助成金を不交付にすると決定したのです。その理由とは、本作に出演しているピエール瀧がコカイン所持で逮捕されたことによって「国が薬物使用を容認するようなメッセージを発信することになりかねず、公益性の観点から交付内定を不適当と判断した」とのこと。バカなんでしょうか? バカなんでしょうね。

本作のピエール瀧を観て、どこの誰が「あ、国が薬物認めてるんだ」と受け止めるんでしょうか。ここでいう「公益性」ってなんでしょうか。ピエール瀧と同時期に経産省と文科省の役人も薬物使用で逮捕されたりしてるので、1万歩譲って本作の助成金を取り下げるなら、経産省と文科省の予算も取り下げになるのが道理でしょう。このように論理性のかけらもなく、恣意的に拡大縮小できる「公益性」などという曖昧なものが、規制の根拠となり得るはずもありません。ちなみに、本作が取り上げられた助成金は1000万円。安倍首相が催す「桜を見る会」の予算は5700万円です(もちろん税金)。首相がやる花見の「公益性」ってなんでしょうね。先日は「あいちトリエンナーレ(19)」に対する補助金不交付が取り沙汰されたばかり。日本は本当にどうしようもない国になろうとしています。

拓馬曰く、「世の中には絶対に敵わない相手がいるんだよ」
だからあきらめて従えって? うるせえ、バカ。金玉潰すぞこのやろう。







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