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よこがお

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(2019年/日本・フランス合作 111分)
監督・脚本・編集/深田晃司 原案/Kaz 製作/堀内大示、三宅容介 撮影/根岸憲一 照明/尾下栄治 録音/木原広滋 美術/原田恭明 装飾/寺尾淳 音楽/小野川浩幸
出演/筒井真理子、市川実日子、池松壮亮、須藤蓮鈴、小川未祐、吹越満、大方斐紗子、川隅奈保子

概要とあらすじ
カンヌ国際映画祭ある視点部門で審査員賞を受賞した「淵に立つ」の深田晃司監督が、同作でもタッグを組んだ筒井真理子を再び主演に迎え、不条理な現実に巻き込まれたひとりの善良な女性の絶望と希望を描いたサスペンス。周囲からの信頼も厚い訪問看護師の市子は、1年ほど前から看護に通っている大石家の長女・基子に、介護福祉士になるための勉強を見てやっていた。ニートだった基子は気の許せる唯一無二の存在として市子を密かに慕っていたが、基子から市子への思いは憧れ以上の感情へと変化していった。ある日、基子の妹・サキが失踪する。1週間後にサキは無事に保護されるが、誘拐犯として逮捕されたのは意外な人物だった。この誘拐事件への関与を疑われたことを契機に市子の日常は一変。これまで築きあげてきた生活が崩壊した市子は、理不尽な状況へと追い込まれていく。主人公・市子役を筒井が演じるほか、市川実日子、池松壮亮、吹越満らが脇を固める。(映画.comより



慟哭のクラクション

脚本を書く前から筒井真理子に出演をオファーしたという深田晃司監督『よこがお』。ほぼ出ずっぱりの筒井真理子が期待に違わぬ独特な存在感を放っておられます。

赤いコートに身を包んで美容室にやってきた内田サヤと名乗る女性(筒井真理子)。初めての来店にもかかわらず彼女が指名した美容師の米田(池松壮亮)は、「どこかでお会いした気がするんですけど」といいます。「よくいわれるんですよ。ありがちな顔なんで」とはぐらかすサヤに、米田がなんで自分を指名したのか訪ねると、サヤは死んだ夫と同じ名前だったからと答えます。たわいもない会話なんですが、すべてを観終わったあとでは違った意味を持って聞こえてきます。美容室のドアを開ける前、意を決したようなサヤの表情……。

かたや(というべきかどうか)、訪問看護師の市子(筒井真理子)は元は画家だった老女・大石塔子(大方斐紗子)の介護に従事しています。塔子との意思疎通はバッチリ、ヘルパーの同僚たちからの信望も厚く、塔子の孫の基子(市川実日子)にも慕われて、介護福祉士になるための勉強を手伝ってやったりしています。上品な色気が漂う明朗快活な女性です。

しかし、ゴミ捨て場で米田と「偶然」再会した市子(サヤ)が連絡先を交わして、自分の住まいだというマンションに入りかけたところできびすを返し、別のアパートに帰っていくシーンで、おや? と、なります。市子はわずかな家具しかなく、ぺらぺらの布団が敷きっぱなしの部屋でひとりで暮らしているのです。誰からも慕われ、仕事を懸命にこなし、つねに明るく振る舞っている市子がなぜこんなところに住んでいるのか。彼女には周囲が知らない「よこがお」=二面性があるのか……と、観客に猜疑心を持たせるのですが、これが絶妙に時系列をシャッフルした構成の妙。

ある決定的な出来事に向かっていく市子の時系列と、その出来事以降の市子(サヤ)の時系列が編集によって巧みに攪拌されることで、市子にただならぬ二面性があるかのように錯覚させているのです。これは見事としかいいようがありません。やがて、ふたつの時系列は少しずつ距離を縮めていき、物語にひとつの線がみえてくるのですが、この構成によって観客が抱いた市子に対する猜疑心や疑念は、単なる映画的トリックに留まらず、その後の市子が被る悲劇のきっかけとなる錯誤がもたらす影響を、観客にも問いかけているのではないでしょうか。

そして事件が起こります。いつものように喫茶店で基子に勉強を教えていた市子。その日は基子の妹サキ(小川未祐)が加わっていましたが、塾の時間だということで、サキは先に喫茶店を出ます。遅れてやってきたのは市子の甥っ子である辰男(須藤蓮)。ひとり旅で北海道に行くという辰男は、市子に頼まれたテキストを渡して店を出ますが、翌日になっても帰宅しないサキ。行方不明となったサキのことはニュースでも報道され、大騒ぎになりますが、サキは数日後に戻ってきて、彼女を連れ去った犯人は逮捕されます。ところが、その犯人は辰男だったのです。

動揺した市子は辰男との関係性といきさつを打ち明けようとしますが、それを制止したのが基子。市子さんは悪くない。市子さんが辰男との関係を打ち明けると、もう二度とうちにはこれなくなる。それは私は嫌だ、と。そう訴える基子の顔は逆光で影となり、表情が読み取れません。このシーンのなんと邪悪なこと。

基子に従って、辰男との関係をひた隠しにしていた市子でしたが、ある日週刊誌に市子が辰男に誘拐の手引きをしたのではないかという記事が出てしまいます。まったく事実無根な憶測記事ですが、これを機に市子の人生は転落していくことに。バカなマスコミが市子の自宅や職場に大挙して押しかけ、市子を追い詰めます。悪人だと断定した途端、つるし上げにかかるのは現実でも目にする光景です。

どうやら基子は、市子に対して慕っているという気持ちを越えた感情を抱いていたようで、市子の存在を週刊誌にリークしたのも基子ではないかと思います。嫉妬心を募らせた基子は近々結婚を控え、結婚式場の準備をしていた市子に対して「加害者のくせに!」と罵り、市子が語った幼い頃の辰男とのエピソードを性的虐待だと意図的に曲解してテレビで語ります。これによって、市子は職場を追われ、婚約者(吹越満)とも破断となり、徹底的に社会から排除されていくのです。いや、恐ろしい。

どう考えてもまったく甥っ子が犯した犯罪に関与していない市子は不当に追い詰められ、藁をもつかむ気持ちで被害者団体に助けを求めますが、ここでも「私たちは『被害者』を救済する団体なので」と追い返されます。つまり市子は「被害者」ではないというわけです。あまりのことに嘔吐する市子を心配して声をかけたのが米田。おそらくこれがふたりの初対面でしょう。

すべてを失った市子は、基子の恋人である米田を寝取って復讐とすることに。そのために周到な準備を重ねて米田に近づき、ついに市子は米田と一夜を共にします。翌朝、米田の携帯電話から基子に自分の写真(股間含む)を送信する市子。復讐成功と思いきや、米田は基子とすでに別れていたのです。まったく意味のない、それどころか自分の恥を晒しただけのような復讐劇の結末。むなしい。

市子は基子に対する復讐心を募らせ、基子の幻に翻弄されるようになりますが、本来、基子自身には歪んだ嫉妬心があっただけで、悪気がなく(これがいちばんタチが悪いのだが)、むしろ市子に対する攻撃を肥大化させたのは「世間」とマスコミなので、市子の復讐も敵が定まらないぼんやりしたものに終始しています。市子自身にも、世の中の理不尽に立ち向かう強さよりも、災厄を回避しようとする弱さを感じます。その上で市子が考え至ったのが、基子の恋人米田を寝取るという的外れかつ遠回しな復讐に繋がったのではないかと思います。

妹(=辰男の母親)が死んで、身寄りがいなくなった辰男が刑期を終えて出所すると、市子は辰男を引き取り、共同生活を始めます。立ち食いそば屋の仕事自体は卑下されるものではありませんが、市子が本来持っている能力や資格からすると不当な職に従事していると言わざるを得ません。被害者のサキに謝りたいという辰男に同意して、ふたりは大石家を訪ねますが、すでに転居したあとでした。仕方なく市子が運転する車で帰るのですが、かつて市子と基子が動物園の帰りに渡った信号を渡る介護士たちが。なんと、その中に介護士となった基子がいたのです。市子がハンドルを握る車の直前で介護者が落としたなにか(よくわからなかった)をしゃがんで拾う基子。おもわずギアをドライブにいれてアクセルを踏み込もうとする市子。しかし、市子には基子をひき殺すことはできませんでした。そのかわりに、慟哭ともとれるクラクションを慣らすのです。

市子が犬のように四つ足で走り回る妄想シーンもあり、とにかく観客の知覚を刺激します。湖に入っていく市子の髪が緑色なのはなぜ? とか、不明なままの部分もありますが、語り口の巧妙さと、現代に漂う嫌〜な空気感を見事に表現した傑作だと思いました。











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