" />
fc2ブログ

7月22日

22july.jpg



(原題:22 July 2018年/ノルウェー・アイスランド・アメリカ合作 144分)
監督・脚本/ポール・グリーングラス 製作/スコット・ルーディン、ポール・グリーングラス、グレゴリー・グッドマン、イーライ・ブッシュ 原作/アスネ・セイエルスタッド 編集/ウィリアム・ゴールデンバーグ 音楽/スーネ・マーチン
出演/アンデルシュ・ダニエルセン・リー、ヨン・オイガーデン、ヨナス・ストラン・グラブリ、ソービョルン・ハール

概要とあらすじ
「ジェイソン・ボーン」シリーズや「ユナイテッド93」で知られるポール・グリーングラス監督が、2011年7月22日に起こったノルウェー連続テロ事件を題材に描いたサスペンスドラマ。18年・第75回ベネチア国際映画祭コンペティション部門出品。(映画.comより



「わからせる」

2011年7月22日、ノルウェーで起きた連続テロ事件とその後を描いたNETFLIXオリジナル映画、『7月22日』。当然、重いです。監督・脚本は「ボーン・シリーズ」や『キャプテン・フィリップス(13)』のポール・グリーングラス

材料となる肥料を6トンも購入し、ひとりで爆弾を作った犯人ブレイビク(アンデルシュ・ダニエルセン・リー)が着々と準備を進める場面から始まります。警官の制服を着込んだブレイビクは爆弾を積んだ白いバンを政府庁舎の前に停め、導火線に火を付けるのですが、そのすぐ側を何も知らない通行人が行き来してるだけでものすごい緊張感です。

爆弾が爆発し、オスローの街が地獄絵図と化している最中、ブレイビクはノルウェー労働党青年部のサマーキャンプが行なわれていたウトヤ島へと渡り、69人を殺害(爆破事件と合わせると死亡者は77人)。逃げ惑う学生たちを容赦なく撃ち殺していくさまに背筋が凍ります。しかし、遅まきながら到着した警官隊に発見されたブレイビクは、拍子抜けするほど素直に逮捕されるのです。なぜなら、ブレイビクの本当の目的はその後の裁判にあったから。

「テンプル騎士団の指導者」と自称するブレイビクは、端的に言って、極右の基地外です。自ら指名した弁護士ゲイル(ヨン・オイガーデン)に子どもたちを狙った理由を聞かれると「一番痛いところを突きたかった」と答えるブレイビク。夜郎自大な主張を掲げているものの、攻撃の対象が無防備な弱者であるという点においてブレイビクは相模原障害者施設殺傷事件の犯人などと同様に卑劣な小心者です。

これがリベンジ・ムービーなら復讐劇が始まるところですが、現実はそうはいきません。(だからこそ、ファンタジーとしてのリベンジ・ムービーが作り続けられるんだと思うが)たとえ凶悪犯だとしても、人権を尊重し、正当な手続きを踏んだ裁判を受けなければなりません(日本には人権が存在しないようだけれど……)。他人の命と人権を蹂躙した者の人権はどこまで守られるべきなのか……。本作はこのジレンマをこれでもかとばかりに突きつけてきます。何十人もの命を奪っておきながら、すりむいた指を治療してくれというし、指名した弁護士ゲイルや精神鑑定を担当する医師に「名誉だろ?」とうそぶきます。基地外の微笑みほど、神経を逆なでするものはありません。

かたや、かろうじて生き残ったビリヤル(ヨナス・ストラン・グラブリ)が、肉体的にはもちろんのこと精神的な苦悩を抱えながら生きていく姿が丹念に描かれます。テロが及ぼす恐怖は死傷者の数だけでなく、生き残ったものとその家族を含めた多くの人々の人生を狂わせ、深い傷を残すことになるのです。

精神鑑定による減刑(もしくは無罪)を主張しようとする弁護団に対する主張を覆し、自分は正気だと訴え始めたブレイビクでしたが、彼が一員だと思っていた極右組織のボスから三行半を突きつけられます。極右組織にとっても、ブレイビクは厄介者でしかないのです。これには相当ショックを受けたようで、それ以降ブレイビクの表情からはふてぶてしさが後退し、明らかな動揺をみせるように。

両親の離婚とそれによる愛情の欠落、友人もおらずに孤独を極め、ネット上の言説を鵜呑みにしてしまった挙げ句に卑屈な精神を増幅させ、正当化してしまう……というように、ブレイビクがテロに至るまでの原因を辿って溜飲を下げることはできるかもしれませんが、ことはそう簡単ではないような気もします。警備や規制を強化すれば、テロを未然に防げるわけでもなく、苦しいリハビリを乗り越え、証人として出廷したビリヤルが「わからせる」というように、忍耐強く理解を共有するよう努力するほかないのかもしれません。











にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ
↑お気に召したらクリックしていただけますと、もんどりうって喜びます。
関連記事
スポンサーサイト



コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

«  | ホーム |  »

プロフィール

のほうず

のほうず
映画が好きで観るのはいいが、
かたっぱしから忘れていくので
オツムのリハビリ的ブログ。
******************
当ブログの文章・画像およびイラストの無断転載を禁じます。引用される場合は、出典の表記と当ブログへのリンクを設定してください。

FC2ブログランキング

FC2Blog Ranking

お気に召したら
クリックお願いします。
にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ

スポンサードリンク

↓過去の記事はこちらから!↓

検索フォーム

アーカイブ

QRコード

QR

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

カウンター