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ふがいない僕は空を見た

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(2012年/日本 142分)
監督/タナダユキ 原作/窪美澄 脚本/向井康介 撮影/大塚亮 音楽/かみむら周平
出演/永山絢斗、田畑智子、原田美枝子、窪田正孝、三浦貴大、小篠恵奈、田中美晴、銀粉蝶、山中崇、梶原阿貴

概要とあらすじ
「赤い文化住宅の初子」「百万円と苦虫女」のタナダユキ監督が、「俺たちに明日はないッス」以来4年ぶりに長編作品のメガホンを取り、第24回山本周五郎賞に輝いた窪美澄の同名小説を映画化したドラマ。助産院を営む母に女手ひとつで育てられた高校生の卓巳は、友人に連れられて行ったイベントで、アニメ好きの主婦・里美と出会う。それ以来、卓巳と里美はアニメのコスプレをして情事を重ねるように。そんなある日、同級生の七菜から告白された卓巳は、里美と別れることを決心するが……。主演に永山絢斗、田畑智子。脚本を「リンダリンダリンダ」「俺たちに明日はないッス」の向井康介が担当。(映画.comより)



タイトル以外、すべてよし!

ライムスター宇多丸氏がラジオで言っていたように
『ふがいない僕は空を見た』というタイトルが
この作品の鑑賞を躊躇させるのは確かです。
おそらくは『世界の中心で愛を叫ぶ』あたりから始まったであろう
なんとなく意味ありげな言葉の選択と気持ちの悪いリズムが
空疎な内容を想像させ、「空を見た」という
曖昧な雰囲気に同調を強要する言葉がダメを押すのです。

原作小説のタイトルも同じですから
映画化に際して変更されたのではないわけで
ま、しょうがないっちゃあしょうがないのですが
作品の価値を貶める危険性は十分にあると思います。
タイトルだけを耳にした時点では
僕にとって、間違いなくスルーの対象になる作品ですが
どうやらいい作品らしいという噂を聞きつけ
前情報なしで観てみることにしたのです。
いつものことながら、原作は読んでおりませんのよ。おほほ。

高校生の卓巳(永山絢斗)と情事を重ねる
コスプレ好きの主婦・里美(田畑智子)は子どもが出来ないことで
夫(山中崇)母親(銀粉蝶)から
嫌みのレベルを通り越した非道い扱いを受け、
あきらかなマザコンの夫も頼りにならず
鬱屈した生活を送っています。
里美はコスプレによって文字通り「変身」し、
卓巳にもコスプレさせて「むらまさ様」と呼ぶことで
現実から二次元へと逃避しています。

DVDのジャケットは田畑智子だし、
田畑智子の大胆な演技が話題になっていたのは知っていましたが
内容について詳しい情報は仕入れずに観始めたので
この主婦と高校生の愛憎を中心に物語が進んでいくものだと
思っていました。

ところが、卓巳と里美の関係が
里美の夫の盗撮によってネット上にアップされ、
プリントアウトされた画像が卓巳の学校でばらまかれて
中傷の的となった卓巳が登校拒否をするようになってから
卓巳の友人である福田(窪田正孝)
主人公が入れ替わるように物語の中心となっていくのです。

さびれた団地で痴呆症の祖母と暮らす福田は
親からも見捨てられ、日々の食事にも困窮するほど貧しい暮らしの中で
なんとか自立しようとあがいていますが
好奇の目にさらされる卓巳の親友であると思われていた福田は
プリントアウトされた画像を見て、にやっと笑うのです。
一瞬、頭の中で「え?」と声が出ましたが
すぐにこの作品は一筋縄ではいかないぞと気づかされました。
卓巳に想いを寄せる七菜(田中美晴)も同じく
最初は動揺を見せるものの、ネットにアップされた動画を見つけると
やはりにやっと笑うのです。

不妊に悩む里子と子作りを強要する義母、
助産院を営む卓巳の母(原田美枝子)
そこへやってくる妊婦たちなどから
あきらかにこの作品は「生」をテーマとし、
「生」と切り離せない「性」をも表現しようとしています。
引きこもりから立ち直り、久しぶりに学校へ行った卓巳が
助産院で担任の教師の出産を手伝い、
生まれてきた男の子のホオズキのような陰部を見て
「やっかいなもんつけて生まれてきたな」というラストシーンが
すべてを物語っているように思います。

ときおり、ある種の映画においては
苦しい胸の内を表現するために登場人物が「あああああ〜!」と
叫んでみせるお手軽な演出を目にしますが
この作品では、ここはキレるだろうと思うようなシーンでも
登場人物が安易に叫ぶことはないのです。
福田がバイトしているコンビニの店長の口ぶり
助産院から運び込まれた妊婦を受け入れる病院の態度など
そんな言い方はあんまりだろうと感じるものの
(実際に助産院での自然分娩のリスクは相当に高いらしいけど)
登場人物の誰もがちょっとずつ正しく、
ちょっとずつ間違っている
設定が
この作品を尋常ならざるものにしています。
聖母のような優しさとタフさを兼ね備えたようにみえる卓巳の母でさえ
別れた夫に金をせびられる陰の部分を持ち合わせています。

内面に複雑なものを抱えた登場人物たちが登場するなか、
梶原阿貴が演じる助産院の助手は気っぷがよく、
観客の気持ちを代弁してくれているようで
観ていてスカッとするキャラクターでした。

『ふがいない僕は空を見た』というタイトルを意識してか
シーンを繫ぐブリッジの役目として空の映像が何度も挟まれます。
その律儀さは認めるものの、またかと思わせる編集が
ちょっと食傷気味ではありましたが
そのほかのシーンの展開の仕方は見事としか言いようがなく
唐突な状況の変化で観客を裏切りつつ、
直後のシーンですぐに納得できる
ように作られています。
とくに前半は時間軸をずらしながら、または
同じ時間を別の視点からくり返す展開も自然に受け入れることができ、
たとえば、里美のマンションを訪れた卓巳のチャイムの鳴らし方が
同じ時間を描いた里美視点の別のシーンでも使われることで
卓巳がやってきたことを観客だけに知らせる効果があるのです。

そのような細やかな技巧が散りばめられ
観客の予想をくつがえす登場人物の複雑な心象と行動を
見事に描いた傑作といっていいでしょう。

だからこそ。
『ふがいない僕は空を見た』というタイトル……
やっぱ、ないわ〜。





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