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嘆きのピエタ

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(原題:Pieta 2012年/韓国 104分)
監督・脚本・編集/キム・ギドク 撮影/チョ・ヨンジク 音楽/パク・イニョン
出演/チョ・ミンス、イ・ジョンジン、ウ・ギホン、カン・ウンジン、クォン・セイン

概要とあらすじ
韓国の鬼才キム・ギドクが、第69回ベネチア国際映画祭で金獅子賞を受賞したサスペンスドラマ。債務者に重傷を負わせ、その保険金で借金を返済させる非情な取立て屋のイ・ガンドは、親の顔も知らずに30年間、天涯孤独に生きてきた。そんなある日、ガンドを捨てた母だと名乗る謎の女、チャン・ミソンが突然現れる。当初は邪険に扱い、残酷な仕打ちもしたガンドだったが、ひたすら謝罪を繰り返し、無償の愛情を注ぐミソンを次第に母親として受け入れていく。やがてガンドが取立て屋から足を洗おうとした矢先、ミソンは姿を消してしまう。(映画.comより)



愛されることと愛することは同義。

僕の頼りにならない記憶が正しければ
Bunkamura ル・シネマで映画を観るのはこれが初めてで、
さぞかしおしゃれで洗練された映画館だろうと思っていたのですが
1Fのブランドショップさえやり過ごせば、いたって普通のミニシアター。
というより、飲食禁止にしたりして気取っているつもりかも知れないが
客席の傾斜が緩く、決して鑑賞しやすい映画館ではありませんでした。
しかもよりによって、僕の前の席に座っていたのは
頭部の長さが通常の人間の1.5倍はあるコーンヘッドのような男
画面の1/4はその男の後頭部によって漆黒の闇と化し、
字幕は半分しか見えないので、セリフの主語がわからない始末。
これは満足のいく鑑賞はできないぞと暗い気持ちになりながら
『嘆きの冷えピタ』じゃなかった、
『嘆きのピエタ』上映開始となったのです。

物語の重要な鍵を握るオープニングシーンが終わると
ガンド(イ・ジョンジン)が抱き枕(?)を股間に挟んで
腰を振りながら息を荒げています。
最初、ガンドがオナニーをしているのだと思った僕は
そんなやり方じゃ後始末が大変だぞ! と心配になったのですが
ガンドは夢精していたのでした。たはは。

キム・ギドク監督のインタビュー(映画.com)によると
この作品のタイトルは当初『夢精』にしようと考えていたらしく、
(監督がオダギリ・ジョーに相談したら賛成したそうで)
ガンドが最初に登場するシーンで夢精をしていることが
ガンドの孤独と幼児性を表しています。
結局は、聖母マリアがイエスの亡骸を抱く彫刻や絵を意味する
「ピエタ」
にすることで、女性からの視点にも重点を置き
母なる慈愛というテーマを表現したようです。

アイラインをしたガンダム芸人、ガンド
冷酷無比な借金の取立屋。
利子が元金の10倍という、
闇金ウシジマくん的高金利の返済に困窮する債権者の元を廻っては
ケガをさせて、適用される障害者保険で返済させています。
旋盤などの加工機械を使ってケガをさせるのは
おそらく作業中の不慮の事故を装うためでしょうが
(ていいながら、高所から突き落とす場合もあったけど)
少しばかり鉄工所で働いた経験がある僕としては
加工機械の怖さやしくじったときの痛さが十分に理解できるのです。
とくに「回転もの」は機械の力でどんどん巻き込まれていくので
扱いには常に危険が伴うのです。

ガンドが取立に廻る債権者の商いは
小売り店や飲食店でも構わないはずですが
登場する債権者が町工場ばかりであることに
監督の意図があるように思えます。
この作品では「お金」が重要なテーマですが
それを個人の経済的な問題に留めず、
乱開発を繰り返すことで
貧富の格差を広げていく社会そのものに対する不信感と
日本と同様に、もともとは産業の勃興を陰で支えていた町工場が
隅に追いやられていく欺瞞に対する思いが
込められているように感じます。

そんなガンドの元に突然現れるのが
小泉今日子の未来予想図、ミソン(チョ・ミンス)
自分には身寄りがないと思っていたガンドは
母と名乗るミソンに戸惑いますが
観客からみればミソンの振る舞いに不可解な点があったとしても
ガンドにとっては、もし本当に母親なら
これほど嬉しいことはないという思いが油断になったのでしょう。
ダーツの的に女性の絵を貼ってナイフで突き刺すほど
(キム・ギドク監督はこういう表現がいつも直接的で
 よく言えばわかりやすいが、悪く言えば安直)
女性=母親を憎んでいたガンドは
ミソンの存在によって徐々に変わっていくのです。

ミソンが置いていった、「チャン・ミソン」という名前と
携帯電話番号が記されたカードが括り付けられたウナギ
どう考えても陰茎のメタファーでしょう。
ガンドはウナギを水槽に入れて可愛がっていましたが
ミソンはさばいたウナギを網焼きにしてご飯のおかずにします。
ガンドはこのときウナギを食べませんでした。

ガンドとミソンの関係は、あからさまに近親相姦的ですが
結末を知ったうえで言うと、
ガンドがあいかわらず夢の中でもよおして腰を振り始めたとき、
手を使ってガンドの夢精を手伝ってやるミソンの心中に
「母親」としての一筋縄ではいかない複雑な気持ちが
芽生えたのではないでしょうか。
それでもその後、ミソンは穢れを落とすように必死で手を洗うのですが。

徐々に明らかになるミソンの計画は意外にも用意周到なものでした。
このようなサスペンス仕立ての作品は
キム・ギドク監督としては珍しいのではないでしょうか。
ガンドのマザー・コンプレックスが物語の主軸ですが
同じく韓国映画の『母なる証明』のような母と息子の物語ではなく、
もっと普遍的な女性=母親の物語だと思います。
女性からしてみれば、甘ったれてんじゃねえと
言いたくなるかもしれませんが
人間は皆、女性から生まれてくるわけで
男性から見た女性観(=母親観)にとどまらず、
もっと普遍的な母親観(=ピエタ観)なのではないでしょうか。

ミソンによって母親への愛情を呼び起こされたガンドは
母親からの愛情を知ることで、愛すること・愛されることの意味を知り
いままで痛めつけてきた債権者たちの、家族に対する愛情に対しても
やっと想像力が働くようになります。
誰かに愛されたという経験がないものは
他人を愛することなどできないのです。
誰かに愛されることを渇望していた人間が愛の存在を知ると
やがて自分が愛されるよりも
誰かを愛することに喜びを感じるようになる
ものです。
(なんか、愛を語っちゃいました。てへ。
 ごめんね、イエスちゃま)

最後の大芝居を打つミソンの心は
かなり揺れていたように思います。
結果的にミソンの計画通りに全てが進むのですが
願わくば、あのシーンでは後ろにいたおばあちゃんに
ミソンを突き飛ばして欲しかった
と思うのです。
もしそうであれば、本当にやるせない気分になったと思うのですが
キム・ギドク監督はそういう意地の悪い演出はしませんよね。
監督は意外にも、というと失礼かも知れないが
これまでの作品でも人間の本性を弄ぶようなことはしていないのです。
あくまで、自身が掲げた理想に向かっているのです。
正直、監督の掲げる理想をこそばゆく感じるときもありますが
人間とは理想がなければ前に進めないのも事実です。

この作品、結果的には、
ハッピーエンドと言えるんじゃないでしょうか?
根本的なことはなにも解決していないけど。





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コメント

まずは「マドモアゼル」のコメントに送ってしまいました。大変申し訳ないです。

ルシネマはご指摘の通りのイラつく映画館なので、同じ東急でも川崎のシネコンでみました。

キム・ギドクの作品は5~6年前に、「悪い男」にハマッて一時集中して5本程見ました。今回はそれ以来。単純にカンヌで賞を獲ったから見る気が起きたようです(笑)。

久々に見た彼の作品は今までの作品と違い、ちゃんと話にメリハリがありましたね。中年の自分には明日はわが身かなと思わずにいられない貧困社会を背景に、いつもと同じ淡々とした感じが変わらないのは良い。痛い演出がうまいねぇ。

ただ個人的には「悪い男」「うつせみ」のように男女の恋愛ものが好きだな。

のほうずさんのタイトルにあるように、“愛する事と愛される事は同義”って事で、見方を変えれば今回も、愛する事を知らなかった男と愛される事を知らなかった女の恋愛ものかも知れないけど…?いかんせん親子って事でスクリーンに目を追っている身にはついていけないシーンがあったな、ウサギの足、食べちゃうんだぜ。

ラスト、自分でセーター着ちゃったのには余りに自己愛強すぎっ!思わず笑ってしまいました。

でも、何だかんだ次作も見たい監督です。まだ未見だった「春夏秋冬 …」は、敷居が高そうだなと未見でしたが、のほうずさんのブログ読んで俄然見たくなりました。感謝です。

2013/07/20 (土) 13:37:15 | URL | OKU #- [ 編集 ]

Re: タイトルなし

どうやったら「マドモアゼル」と間違うのか不思議ですが
とにかく、コメントありがとうございます。
いつまでも乙女心を忘れないOKUさんには恋愛物のほうがいいですよね!

2013/07/20 (土) 23:10:47 | URL | のほうず #- [ 編集 ]

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