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散歩する侵略者

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(2017年/日本)
監督/黒沢清 原作/前川知大 脚本/田中幸子、黒沢清 製作/中山良夫、永山雅也、大村英治、大角正、薮下維也、三宅容介、大柳英樹、松田美由紀、桜井良樹 撮影/芦澤明子 照明/永田英則 録音/渡辺真司 VE&DIT/鏡原圭吾 美術/安宅紀史 装飾/山田智也 編集/高橋幸一 音楽/林祐介
出演/長澤まさみ、松田龍平、高杉真宙、恒松祐里、長谷川博己、前田敦子、満島真之介、児嶋一哉、光石研、東出昌大、小泉今日子、笹野高史

概要とあらすじ
カンヌ国際映画祭ある視点部門で監督賞を受賞した「岸辺の旅」の黒沢清監督が長澤まさみ、松田龍平、長谷川博己ら豪華キャストを迎え、劇作家・前川知大率いる劇団イキウメの人気舞台を映画化。数日にわたって行方がわからなくなっていた夫・真治が、まるで別人のように優しくなって帰ってきたことに戸惑う妻・鳴海。それ以来、真治は毎日どこかへ散歩に出かけるようになる。同じ頃、町で一家惨殺事件が発生し、不可解な現象が続発。取材を進めるジャーナリストの桜井は、ある事実に気づく。不穏な空気が町中を覆う中、鳴海は真治から「地球を侵略しに来た」という衝撃的な告白を受ける。長澤と松田が主人公の夫婦役で初共演し、長谷川がジャーナリスト役を演じる。(映画.comより



宇宙人よりも不可解な「愛」

『クリーピー 偽りの隣人』『ダゲレオタイプの女』(2016)と
このところ早いペースで新作を繰り出す黒沢清監督
『散歩する侵略者』
劇団イキウメの戯曲が原作の本作ですが、
まー、いかにも黒沢清ちっくなお話です。
地球を侵略する宇宙人というSFは
黒沢監督にとっても初めての題材とのことですが、
人間の意識を操るものという意味において
『CURE』や『クリーピー 偽りの隣人』とも似ているし、
行方不明だった夫がふいに戻ってきて再生する夫婦の物語としては
『岸辺の旅(2014)』と重なります。

金魚すくいの手元を映したクローズアップから始まる本作。
金魚をぶらさげて帰宅したセーラー服の少女が
どうやら家族を惨殺し、手についた血をぺろっと舐めた後、
行き交う車をものともせずにふらふらと道路を歩き始めたと思ったら、
少女の背後で横転するトラック。荷台から躍り出るドラム缶。
満面の笑みを浮かべる少女……。

か、かっこいい!!
たった2台の車が衝突するだけなのに
すべてがひっくり返されるような
不可抗力な暴力に遭遇した衝撃が走ります。

この恒松祐里が演じる立花あきらという少女=宇宙人が
本作を彩る大きな魅力のひとつです。
非常に攻撃的なあきら(というか中の宇宙人)は
格闘のスキルに長け、そのうえ残忍(というか無神経)。
児嶋一哉をボコボコにするわ、
パトカーのフロントガラスを拳で突き破るわ、
とってもキュートでヴァイオレントな女子高生

M男の心をくすぐる最高なキャラクターです。

さて、しらっと「宇宙人」という表現を使いましたが
黒沢監督がインタビューで語っているように、
火星人とか金星人とかでなく「宇宙人」という表現は
非常に漠然としていて実態がよくわからず、
耳にした途端に嘘っぽさが充満してくる言葉です。
それを承知の上で、本作で使われる「宇宙人」とは
なんとなく怖い存在として
意図的に漠然と描かれています。
そしてそれは、知らないうちに忍び寄る戦争の影をも
暗喩しています。

フリーランスでイラストやデザインを手がける
鳴海(長澤まさみ)のもとに
数日間行方不明だった夫・真治(松田龍平)が戻ってきます。
真治は茫然自失な状態で
そもそも不仲が長く続いていたうえ、
不可解な夫の行動に苛立ちを募らせ、終始怒っている鳴海は
ありていにいって、
ストレスを抱える現代人を象徴する存在といえるでしょう。
そもそも心ここにあらずでぬぼーっとした印象が強い松田龍平が
真治=宇宙人を演じるのに難はありませんでした。
「宇宙人なら宇宙人らしく、目から光線とか出しなさいよ!」
と怒る鳴海に対して真治=宇宙人が
「真治は光線なんか出さないよ〜」というやりとりで爆笑。

かたや立花あきらが関係する殺人事件の取材を命じられた
ジャーナリストの桜井(長谷川博己)
3人目の宇宙人・天野(高杉真宙)から
ガイドになってほしいと頼まれます。
宇宙人だといわれてもにわかには信じられない桜井でしたが、
天野のガイドを引き受けることに。
この天野のナメきった態度もナイス。

この3人の宇宙人が何をしているかといえば、
人間の頭脳から「概念」を収集して生態を把握したうえで
地球を侵略しようとしているのでした。
地球を侵略するためになぜ人類の「概念」を知る必要があるのか……
まあそれはさておき、
宇宙人たちによる「概念」を奪うという行為は
人類が前提としている思考を揺さぶるために機能します。
「家族」「自由」「所有」「仕事」という概念を奪われた人間は
突然人格が変わったように振る舞いますが、
彼らはみな晴れ晴れとして開放感いっぱいです。
人間はさまざまな「概念」によって
束縛されているというのが本作の主張です。
ま、確かにそうでしょう。

やがて真治=宇宙人がたどり着くのは「愛」という概念
そっかー。やっぱ愛にいっちゃうかーと思いつつ、
正直、甘ったるさを否定できません。
東出昌大扮する牧師に「愛ってなんですか?」と尋ねた真治は
その返答のとりとめのなさに混乱します。
「愛は地球を救う」だとか、「最後に愛は勝つ」だとか、
救ったり勝ったりした試しが一度もないにもかかわらず、
すべてを問答無用に解決してしまう(はずの)オールマイティ・カードとして
「愛」は人類から絶大なる信頼を得ています。

しかし、そのほかの「概念」に対する批判的な態度と比べると
「愛」に対する妄信が過ぎるんじゃないかと
思わざるを得ません。
それこそ「愛」という「概念」に
束縛されているのではないかとさえ思うのですが、
そんなこといいながら、
ラブホにたどり着いた真治と鳴海が交わす
「私の愛を奪って!」というやりとりには
グッときてしまいました。

序盤のシーンから
「どこでなにやってたの?」と問いただす鳴海に対して
「質問が漠然とし過ぎていて答えようがありませんね」と
真治=宇宙人が返したり、
桜井から「君は?」と聞かれた天野=宇宙人が
君は? の続きをちゃんと言えと迫るように
宇宙人たちはとても論理的に思考し、
曖昧さを許さず、判断に情緒を介在させません。

そんな宇宙人たちが
人類がもつ「概念」のなかでも
とりわけ曖昧で非論理的な「愛」の存在を知って
地球侵略を断念したのだとしたら、
それは「愛」に畏敬の念を感じたからなのか、
はたまた、呆れたからか……。

照明の変化による演出や、違和感をあえて残した合成、
空から爆撃される長谷川博己(しかも2回!)の絵空事感や
黒沢作品でおなじみの異界への旅を意味する車での移動シーン
宇宙人の攻撃を車の陰に隠れて耐える真治と鳴海などなど、
バチッと決まったかっこいいカットが盛りだくさんで
とにかく画が最高! と思わせてくれる作品でした。
要するに傑作です。





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