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うつせみ

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(原題:3-Iron 2004年/韓国 89分)
製作・監督・脚本・編集/キム・ギドク 撮影/チャン・ソンペク
出演/イ・スンヨン、ジェヒ、クォン・ヒョゴ、クォン・ヒョコ

概要とあらすじ
「魚と寝る女」「サマリア」のキム・ギドク監督が描く、寡黙な青年と人妻の奇妙な物語。チラシ配りをしながら空家を見つけては忍び込み、そこでしばらく過ごすという生活をしている青年が、ある家で夫に暴力を振るわれている人妻に出会う。2人はいっしょに逃避行に出るが、その先でも空家に忍び込み、やがてある空家で死体を見つけてしまう。04年のベネチア国際映画祭で監督賞、国際映画批評家同盟賞など4部門を受賞。(映画.comより)



忍法・葉隠れの術!

どういうわけか、いままで
キム・ギドク監督作品を見たことがないと思い込んでいたのですが、
キム・ギドク監督のフィルモグラフィーを辿ると
随分前に『ブレス』『悲夢』
観たことがあるのが判明いたしました。
そうか、そうか、あの監督か、と。なるほどな、と。
ひとりで勝手にいろんなことを納得したりしている宵の口……
どうも、僕です。

デリバリーのチラシを玄関の扉に貼り付け、
それが剥がされていない家は、しばらく留守だろうということで
鍵を開けて上がり込んでは、
無断で家を間借りするという生活を続けているテソク(ジェヒ)
元・サッカー日本代表の李忠成に
オリーブオイルをかけたらモコミチになった

というような顔をしたテソク(ジェヒ)は
金品目当ての空き巣ではなく、間借りをした後は
壊れた電化製品を修理したり、洗濯をすることで
一宿一飯の恩義としているのです。

ある日、いつものように、
テソクがその日の宿と見定めて侵入した家には
夫のDVによって軟禁状態にあるソナ(イ・スンヨン)がいて
図らずも出逢ったふたりは
やがて、心を通わすようになるのです。

原題の3-Iron(=3番アイアン)は色気のないタイトルですが
ゴルフのことはさっぱりわからないので、ググってみたら
3番アイアンを使いこなすのは難しいことがわかったものの
3番アイアンに託された作品の意図までは計りかねました。
ただ、床を転がるゴルフボールを捉えたショットからは
なんとなーく『ファニーゲーム』を連想したのです。

ソナに目撃されて一度は退散したテソクですが、
ソナの写真でオナニーするほどすでに心奪われているテソクは
再びソナのいる家に舞い戻り、DV亭主を
3番アイアンによる連打でボールを打ちつけて
ソナを連れ去ります。そのとき、ガレージの前を猫が横切ったのは
奇跡の仕業か、はたまた演出か。

DV亭主の家に飾られてあるソナのポートレイトに始まり、
カメラマンの作品やボクサーの家の写真など、
写真が作品のテーマのひとつになっていると思われます。
邦題の「うつせみ」には、
この世に現に生きている人という意味があり、
また、「うつせみ」=「写し身(うつしみ)」でもあることから
表象と実体の危うい関係性を表現しているのではないでしょうか。
作品の意図を鑑みた、いい邦題ですよね。
もちろん、3-Iron(=3番アイアン)という原題の
意図を外したぶっきらぼうさにこそ意図がある、と
言えなくもないのですが。

やがて、ふたりは忍び込んだ部屋で老人の死体を発見。
老人の体を洗い清め、埋葬したことで
(死に装束と棺桶をどこから調達したのかは
 気にしないことにしよう)
不法侵入と死体遺棄の罪に問われて、テソクは逮捕され、
ソナはDV亭主の元に引き戻されます。
独房のテソクは、看守とのコミカルなやり取りを交わしながら
自分の存在を消す訓練を始めます。
これぞ、まさに忍法・葉隠れの術!

釈放されるころには、テソクはもはや葉隠れの術の達人。
これまでに忍び込んだ家々を巡回した後、
ソナのもとを現れます。
すでに愛情で結ばれているふたりには実体など関係がなく、
通じ合う想いこそが重要なのです。
ソナは「愛しています」と、この作品中唯一のセリフを言った後
DV亭主と抱き合いながら、DV亭主の背後にいるテソクとキスをするのですが
ネット上でたまに見かける、抱き合うカップルの後ろで
女性が別の男性と手をつないでいる画像を思い起こさせ、
DV亭主の視点から見れば、随分残酷なシーンです。

肉体を離れ、心で強く結ばれたふたりが
抱き合って乗った体重計の針はゼロを指しているのです。

キム・ギドク監督は
「韓国の北野武」なんて言われ方をすることもあるようで
その表現には、賛同と拒否反応とさまざまですが
セリフのない主人公などの引き算による演出や、唐突な暴力など
北野武作品を引き合いに出したくなる気持ちは十分に理解できますし
その表現を知らずとも、自然に「たけしっぽいな」と思いました。

ふたりの監督の大きな違いは
北野武が、おそらくは「照れ」によって
ほとんど女性(恋愛)をまともに描けないのに対し、
キム・ギドクは恋愛こそをテーマにして作品を作り続けています。
『あの夏、いちばん静かな海。』『HANA-BI』などの
北野武作品で描かれる男女はたしかに愛情で結ばれてはいるものの
女性は男性に連れ添っている存在に過ぎません。
それに引き替え、キム・ギドク作品の多くは
愛し合うものたちは分かちがたく結ばれているという前提があって
その愛情の強さを証明するために
監獄(ブレス)や、夢(悲夢)や、葉隠れの術(うつせみ)
恋人たちが乗り越えるべきシチュエーションとして用意するのです。

当然、どちらがいいとか悪いとかの話ではありません。
北野武は女性を添え物としてしか扱わないという批判もできそうですが
自分が女性に愛されているなど、おこがましいと考えているから
表現のしようがないとも取れますし
(だから愛情を描いても、最後に「ごめんな」って言っちゃう)
キム・ギドクは愛情の深さをよく理解していると言えるかも知れないが
絶対に裏切らずに愛し続けてくれる女性ばかりを描くのは
これまた男性にとって都合のいいものにも見え、
それぞれの映画監督の女性観と恋愛観の違いが
作品に現れているということでしょう。

三大映画祭を制覇したということで
世界でめっぽう評判がいいキム・ギドク監督ですが、
もちろん素晴らしい作品だと思うものの
そこまで絶賛を浴びるほどかというと、そうは思えません。
ケチをつけるつもりは毛頭ないのですが……う〜ん
製作規模の問題とかではなく、
僕には小振りな作品だと感じられるのですがね、どうでしょう。





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