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はじまりへの旅

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(原題:Captain Fantastic 2016年/アメリカ 119分)
監督・脚本/マット・ロス 製作/リネット・ハウエル・テイラー、ジェイミー・パトリコフ、シバニ・ラワット、モニカ・レビンソン 撮影/ステファーヌ・フォンテーヌ 美術/ラッセル・バーンズ 衣装/コートニー・ホフマン 編集/ジョセフ・クリングス 音楽/アレックス・ソマーズ 音楽監修/クリス・ドーリダス
出演/ビゴ・モーテンセン、フランク・ランジェラ、ジョージ・マッケイ、サマンサ・アイラー、アナリース・バッソ、ニコラス・ハミルトン、シュリー・クルックス、チャーリー・ショットウェル、スティーブ・ザーン、ミッシー・パイル、キャスリン・ハーン、エリン・モリアーティ

概要とあらすじ
ビゴ・モーテンセンが大家族の父親役を演じ、森で暮らす風変わりな一家が旅に出たことから巻き起こる騒動を描いたロードムービー。現代社会から切り離されたアメリカ北西部の森で、独自の教育方針に基づいて6人の子どもを育てる父親ベン・キャッシュ。厳格な父の指導のおかげで子どもたちは皆アスリート並みの体力を持ち、6カ国語を操ることができた。さらに18歳の長男は、受験した名門大学すべてに合格する。ところがある日、入院中の母レスリーが亡くなってしまう。一家は葬儀に出席するため、そして母のある願いをかなえるため、2400キロ離れたニューメキシコを目指して旅に出る。世間知らずな子どもたちは、生まれて初めて経験する現代社会とのギャップに戸惑いながらも、自分らしさを失わずに生きようとするが……。監督は「アメリカン・サイコ」などの俳優で、「あるふたりの情事、28の部屋」で監督としても高く評価されたマット・ロス。第69回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門の監督賞をはじめ、世界各地で数々の映画賞を受賞した。(映画.comより



厳しくも暖かい希望

ゴリゴリの左翼一家が
現代社会とどう折り合いをつけるのかという
『はじまりへの旅』

アメリカの哲学者であり言語学者の
ノーム・チョムスキーを敬愛するベン(ビゴ・モーテンセン)
6人の子供と一緒に森の中で自給自足の生活を送っています。
本格的なロッククライミングに至るまで
激しい体力トレーニングを毎日欠かさず行ない、
夜はたき火を囲んでの読書会。
いかにも難しそうな本を読んでいる子供たちは
学校に通っていないにも関わらず、
数カ国語を操るだけの高い語学力と理解力を持っています。
対話を重んじるベンは高圧的な態度をとらないし、
子供たちも父親を愛し、尊敬しているようす。
ただ同時に、ベンの厳格さに萎縮している面も垣間見せます。

本作は実話ではありませんが、
世界中をマイクロバスで移動している家族を
テレビでちらっと観たような気がします。
たとえそれが荒唐無稽な生活だったとしても
大人がやることはあくまで個人の自由ですが、
子供たちは自分の意志でその生活を選び取ったわけではないので
どうしても釈然としないところが残ります。
いくらベンが論理的に正しかったとしても、
ベンの教えしか知らない子供たちがベンを慕う姿は
カルト教団のそれと変わりありません。

長らく入院していたベンの妻レスリーが自殺したと知り、
悲しみに暮れる家族。
レスリーの父親はベンが葬儀に出席することすら認めませんでしたが
逡巡したベンと子供たちは「くそくらえ!」とばかりに
2400km離れたレスリーの葬儀が行われる教会目指して旅立つのでした。

旅の道中では、現代社会を揶揄するエピソードが続き、
ベンの遠巻きな理解者でありながらも
「子供たちを学校に通わせるべき」だと主張する妹(キャスリン・ハーン)に対して
6歳の娘に権利章典を解説させるくだりは痛快です。
お宅の馬鹿ガキより学力は相当上だというわけですが、
ベンが学校というものを知識を学ぶところとしてしか
捉えていない
ことがわかります。
子供にワインを飲ませるのも、
なんてことを!とご立腹する御仁がいるかもしれませんが、
こういうことに関して、
ベンは科学的知識に基づいて行動しているように思われます。
しかーし、スーパーで心臓発作を装って商品を奪う
「食べ物を救え」というミッションは、ただの泥棒。
弁護のしようがありません。

一方、同時進行で語られる
長男ボウ(ジョージ・マッケイ)の成長物語、というか童貞物語
この旅が自立へ向けた物語であることをより強固にします。
かねてよりベンに対して懐疑的な態度を見せていた
次男レリアン(ニコラス・ハミルトン)によって
ベンの教育方針にほころび始めます。

自分の信念に従って現代社会との関係を断っていたベンは
自分の考えを思い通りに実践できる森の中へ逃避し、
引きこもっていたのではあるまいか。

双極性障害の末自殺した妻レスリーは
理想と現実の狭間で精神を引き裂かれたのではないか……。
ベンがレスリーの葬儀に出席することは
レスリーの遺志を遂げることのみならず、
自分の思想を保持しつつ、現代社会と関わりを持つための
ベンのための再生の通過儀礼ではないでしょうか。

それは文字通り、ラストで家族を離れて旅に出る長男ボウの行動とも
重なります。

ベンの理想は現実にくじかれたのでしょうか。
そんなことはありません。
本作はベンの理想主義をお花畑だとして嘲笑うものではなく、
むしろベンの思想に肩入れしつつ、
客観的で自己批評性も高い作品
となっています。
その証拠に、仏教徒である娘の遺書を無視して
キリスト教風の葬儀を行なう父親
は徹底的に憎らしく描かれています。
(この父親を演じるフランク・ランジェラは
 『ロリータ(1999)』に出演しているそうなので
 バスのなかでの『ロリータ』を巡るやりとりは
 もしかしたら、それに引っかけたお遊びかもしれません)

一度は引き裂かれるかに思われたベンと子供たちでしたが
彼らの絆は分かちがたく、一連の事件によってむしろ硬く結び直されます。
レスリーの遺体を墓から掘り起こして火葬する彼らが
ガンズ・アンド・ローゼズの「Sweet Child O’Mine」を歌うシーン

多幸感が素晴らしく、心地いい。
そして、遺言どおりにレスリーの遺灰をトイレに流す家族。
いいなあ、こんな風に弔われたいなあ。

かくして家族は再びともに暮らし始めますが、そこは森の中ではなく、
子供たちは父の教えを守りつつ、学校にも通っています。
たとえ現実がクソだったとしても、森の中へ引きこもるのではなく、
ましてや理想を捨てるのでもなく、
理想を理想で終わらせないためにも
現実を「サバイバル」するほかない
とでもいうような
厳しくも暖かい希望に満ちた解決策を示す作品でした。

ビゴ・モーテンセンはもちろんのこと、
子供たちの演技が最高ですよ。







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