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バンコクナイツ

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(2016年/日本・フランス・タイ・ラオス合作 182分)
監督/富田克也 製作/空族 脚本/相澤虎之助、富田克也 撮影/向山正洋、古屋卓麿 照明/向山正洋、古屋卓麿 録音/山崎巌、YOUNG-G 音楽/スラチャイ・ジャンティマトン、アンカナーン・クンチャイ
出演/スベンジャ・ポンコン、スナン・プーウィセット、チュティパー・ポンピアン、タンヤラット・コンプー、サリンヤー・ヨンサワット富田克也、伊藤仁、長瀬伸輔、アピチャ・サランチョル、川瀬陽太、菅野太郎、村田進二

概要とあらすじ
「サウダーヂ」で話題を集めた映像制作集団「空族」の富田克也が監督・脚本を手がけ、バンコクの歓楽街で働くタイ人娼婦と日本人の男たちが織り成す、失われた楽園を取り戻すための旅を描いたロードムービー。バンコクにある日本人専門の歓楽街タニヤ通り。タイの東北地方イサーンから出稼ぎに来て5年になるラックは、現在は人気店「人魚」のトップにのぼりつめ、ヒモの日本人男性ピンを連れ回し贅沢な生活を送る一方で、故郷の家族に仕送りをしていた。ある晩、ラックはかつての恋人である元自衛隊員オザワと5年ぶりに再会する。ラックとオザワはそれぞれの思いを胸に秘めながらバンコクを離れ、ラオスとの国境にあるラックの故郷へ向かうが……。第69回ロカルノ国際映画祭で、10代の若者が選ぶ「若手審査員・最優秀作品賞」を受賞した。(映画.comより



死者が眠る桃源郷

あまりにも重厚かつ軽快かつ神秘的な
『バンコクナイツ』の感想をどのように書けばいいのか、
考えあぐねていましたが、
開き直ってとにかく書き始めることにしました。
『国道20号線』『サウダーヂ』も観ていない僕にとって
これが初めて観る「空族」作品です。
映画の興業システムとは無関係に活動する「空族」には
自主製作映画を作る映像集団という
いくぶん微笑ましさが漂う表現は似つかわしくなく、
彼らが映画作りに情熱を傾けるプロの集団だということを
本作を観て痛感し、
まずはその熱意と行動力にひれ伏すほかありません。

綿密な取材を重ね、現地の人々の信頼を勝ち取り、
主人公オザワを演じる富田克也監督自身が
撮影開始前に1年間バンコクで暮らしたという本作は
タイを舞台にした日本映画というよりも
日本人が登場するタイ映画のようです。
一見、牧歌的すぎるダラダラした時間が流れているにもかかわらず、
どことなく不穏な空気が持続する不思議な映像に
どんどん引き込まれていきます。
タイの「戦闘的詩人」と呼ばれたチット・プーミサックの幽霊や
森の中を駆け巡るかつてのゲリラ兵士たちの影が
ためらいもなく登場するあたりに、
『ブンミおじさんの森』などのアピチャッポン・ウィーラセタクン監督
思い起こしてしまいましたが、それもそのはず、
アピチャッポン監督は、
本作のヒロイン、ラック(スベンジャ・ポンコン)の故郷である
イサーン出身であり、アピチャッポンの作品群は
イサーンで撮影されているとのこと。
タイでは幽霊をとても身近な存在としているようで
この世とあの世が入り交じったようなアピチャッポン監督作品の世界観が
タイの文化に根ざしたものであることがわかります。

「娼婦・楽園・植民地」がテーマだという本作は、
美女たちが商品として「陳列」されるいかがわしさと
その娼婦たち自身の陽性な逞しさから
生命力のようなものを感じ取り、
バンコクの華やかさとは対照的な
イサーンの田舎に流れる緩やかな時間に楽園を夢想したかと思えば、
それらすべてが欧米諸国の植民地政策やベトナム戦争に起因することが
徐々に明らかにされていき、
歴史の理不尽さに暗澹たる気持ちになります。
もちろん、日本も例外ではありません。
日本が東南アジア諸国に対して植民地支配を目論んでいたのは
歴然たる事実だし、
観光地化したバンコクやラオスは、沖縄を想起させます。

元自衛隊員のオザワが
PKOでカンボジアを訪れたことがあるというのも
東南アジアに対する日本の中途半端な関わり方を
揶揄しているように思われますが、
買春ツアーでタイを訪れる日本の小金持ちの
傲慢さと卑猥さを一身に請け負っているのが
金城(川瀬陽太)でしょう。
いつも人当たり良くニヤニヤヘラヘラしている金城は
決して自分の手は汚さずに搾取することばかり考えている人間です。

そんな状況になんとなく居心地の悪さを感じているオザワは、
明らかに心通じ合っているはずのラックに金を払い続けることで
娼婦と客という契約関係を保とうとします。
おそらくそれはオザワの誠実さの裏返しで、
日本人の自分がタイ人娼婦であるラックの無償の愛情を
受け入れる資格があるのか自信が持てないのではないでしょうか。
「日本人向けの現地妻付き介護老人ホーム」という
おぞましい計画の視察のためにラオスに渡ったオザワは
反体制ゲリラ風の人々と交流を深めるうちに
なにかが吹っ切れたようすで、銃を購入し、
ラックにこれからは金を払わないと宣言します。

アメリカ軍の空爆によってできたラオスのクレーター
SF的な違和感をもたらす中、
突然の爆発音が鳴り響く演出には度肝を抜かれました。
また、本作は音楽も魅力のひとつです。
もともと自分がエキゾチックなポップスを好きなのもありますが、
タイの人間国宝だというアンカナーン・クンチャイが演じる占い師が
語り(=モラーム)始めるといつしかそれは詩となり、
独特なビブラートを用いた歌へと変化していく過程をとらえたシーンは
トランス感に満ちあふれています。

快楽と安らぎをもたらす桃源郷の土の下では
理不尽に殺された多くの死者の霊が今もなお息づいています。
それでも今を生きる人々は
心と体を切り売りしながら懸命に生き延びようとし、
彼らを利用し、彼らの降伏を搾取しようとする人間は
次から次へと現れます。

本作が持つ魅力は語り尽くせませんが
とにかく、豊潤すぎて困るほどの傑作です。
「空族」はDVDなどを販売しない方針だそうで、
もし機会があればお見逃しなく。







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