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ワイルド わたしの中の獣

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(原題:Wild 2016年/ドイツ 97分)
監督・脚本/ニコレッテ・クレビッツ
出演/リリト・シュタンゲンベルク、ゲオルク・フリードリヒ、サスキア・ローゼンタール

概要とあらすじ
オオカミに恋愛感情を抱き、野性化していく女性の倒錯した愛を描いたドイツ映画。職場と自宅を往復する単調な日々を送るアニアの視界に飛び込んできた一匹のオオカミ。自宅マンションの前に広がる森に暮らす「彼」の持つ野性に心を奪われたアニアは、次第にオオカミに執着し、あらゆる手段を尽くし、自宅マンションに連れ込むことに成功する。部屋の中で暴れるオオカミには命の危険を感じながら、オオカミと心を通わせるアニアは、まるで恋人同士のように「彼」と接し、いつしか野性に取り込まれるようになる。人間離れした常軌を逸した行動を取るようになる彼女に、周囲は戸惑いを覚えるようになる。監督・脚本は女優としても活動するニコレッテ・クレビッツ。主人公アニア役を「アイヒマンを追え! ナチスがもっとも畏れた男」のリリト・シュタンゲンベルクが演じる。(映画.comより



飼い慣らせないからこその野生

むか〜しむかし、
女性がチンパンジーと恋愛する
大島渚監督の『マックス、モン・アムール(1986)』なんて
映画がありましたが、
本作は女性がオオカミに恋をするという
『ワイルド わたしの中の獣』
女優としても活躍するニコレッテ・クレビッツ監督による
かなり女性寄りの「野生論」とでもいうべきか。

アパレル会社で働くアニア(リリト・シュタンゲンベルク)
よく見りゃ美人だけど、地味で冴えないOL。
アニアは日々の暮らしを楽しんでいるようには見えないけれど
だからといって、殊更鬱屈をためこんでいるようにもみえません。
どちらかといえば、現実にシラけている感じ。
人を呼ぶときにはものを投げるという、
高慢で横柄な上司ポリス(ゲオルク・フリードリヒ)
女性蔑視するすべての男を一手に引き受けたような存在ですが、
ボリスのだだっ子なみの高慢な態度にも
アニアは不満を漏らすわけでもなく、
世話を焼いてやっているようにみえます。
もしかしたらアニアは、ボリスの「ワイルド」な振る舞いに
少なからず好感を持っていたのかも知れません。

ところがある朝、アニアは自宅マンション近くの森で
一匹のオオカミと出会い、
その凜とした姿にアニアは一目惚れしてしまうのでした。
ちなみにドイツではオオカミが絶滅してから
すでに100年以上経っているんだとか。
そして、本作の登場するオオカミは
CGでも着ぐるみでもなく、すべて本物。

最初はオオカミに餌を与えて手名付けようとしたアニアでしたが
思うようにいかず、
オオカミの捕獲を決意します。
おじいちゃんが救急手術の一報を受けて病院に駆けつけるも
頭の中はオオカミで一杯のアニアは
病院で麻酔薬(?)をくすねるのでした。
ところで、妹がいるアニアですが
おじいちゃんはいるものの両親が不在なのは
気になるポイントではあります。

麻酔薬を仕込んだ吹き矢(!)でオオカミを仕留めたアニアは
自宅の一室にオオカミを閉じ込めて、
壁に開けた穴から餌を与えていましたが
鬱憤をためたオオカミが暴れ始め、
なんと壁が大きくくり抜かれて破壊されます。
この、ありえないかたちで壁が崩れたあたりから
現実と妄想との境界が曖昧になっていきます。
アニアの股間からしたたり落ちる生理の血を辿るオオカミが
やがてバター犬よろしくアニアをクンニ。
首筋をなめられて興奮したアニアは
階段の手すりに股間を押しつけて恍惚とします。
(あれは女性のオーガズムを表現しているんだろうか)

オオカミと一緒に食事をするようになったアニアが
「これはトースター。これは洗濯機」と説明していくシーンで
当然関心を示さないオオカミに対して
アニアが「どうでもいいのね」というのは
本作の重要な主題を語っているように思えます。
我々が日々気に病んだり、頭を悩まされたりすることの多くは
じつは「どうでもいい」ことなのではないでしょうか。

ある一定の相互理解を得られるようになったかに見えた
アニアとオオカミでしたが、
マンションの住人は臭いだのうるさいだのと苦情を言い始めるし、
そもそもアニアは、オオカミの野生に惹かれたにもかかわらず、
マンションの一室に閉じ込め、飼い慣らすことで
オオカミから野生を奪ってしまっていたのです。
これはアニアの本意ではありませんでした。
ではどうするか。アニアが野生を身につけるほかありません。

金がないなら奪うし、盗む。
腹が減ったら、他人の食べ残しだろうが喰う。
男に誘われたらヤル。
うんこをしたくなったらその場でする。
アニアはどんどん自らの野生に忠実に振る舞うようになるのです。

逆に、現実の人間社会のあらゆることが
「反野生」として描かれます。
そもそもアニアが勤める会社がアパレル会社なのも
いかにも人間的で反野性的です。
胸を締め付けるブラジャーは反野性的束縛の象徴で、
アニアにブラジャーを外された女性もまんざらではないようす。
昏睡状態のおじいちゃんの扱いに対して
同意書がどうのこうのと手続きが必要になるのも
自然な死に対して非常に歪で欺瞞的です。
アニアとセックスしたボリスが
妊娠を恐れて腹出ししてしまう
のなんか、
野生に目覚めたアニアからすれば、
反野生にもほどがある恐ろしくダサい行為のはず。

基本的に高慢ちきなんだけれど、
アニアにカーペットが臭いといわれると
清掃員を雇って掃除させるような可愛いところもあるボリスですが、
「俺が悪かった。一緒に暮らそう。犬小屋も作る。」と
あいかわらず、アニアにとって的外れなことをいうので、
オオカミがガブリ。

アニアとオオカミは
なにやら荒涼とした異次元の世界へ。
オオカミと一緒に水たまりの泥水を飲み、
小動物をむさぼるアニア。
彼女は現実の人間社会から追放されたのか、
それとも野生に忠実に生きる自由を勝ち取ったのか。
ラストシーンで「えへ♡」と微笑むアニアをみれば
おのずから答えはわかるはず。

人間社会の息苦しさを描く作品は数あれど
そんな人間社会を嫌悪し、破壊しようとするのではなく、
「どうでもいい」と野生に身をゆだねる快感を描いた本作は
かなりの変化球だけれども
得も言われぬ開放感と痛快さを伴う希有な作品だと思います。





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