サウルの息子

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(原題:Saul fia 2015年/ハンガリー 107分)
監督/ネメシュ・ラースロー 脚本/ネメシュ・ラースロー、クララ・ロワイエ 撮影/エルデーイ・マーチャーシュ 音響/ザーニ・タマーシュ 美術/ライク・ラースロー 編集/マチェー・タポニエ 音楽/メリシュ・ラースロー
出演/ルーリグ・ゲーザ、モルナール・レべンテ、ユルス・レチン、トッド・シャルモン、ジョーテール・シャーンドル

概要とあらすじ
2015年・第68回カンヌ国際映画祭でグランプリ、第88回アカデミー賞で外国語映画賞を受賞したハンガリー映画。アウシュビッツ解放70周年を記念して製作され、強制収容所で死体処理に従事するユダヤ人のサウルが、息子の遺体を見つけ、ユダヤ教の教義に基づき葬ろうとする姿や、大量殺戮が行われていた収容所の実態を描いた。1944年10月、アウシュビッツ=ビルケナウ収容所。ナチスにより、同胞であるユダヤ人の死体処理を行う特殊部隊ゾンダーコマンドに選抜されたハンガリー系ユダヤ人のサウル。ある日、ガス室で生き残った息子と思しき少年を発見したものの、少年はすぐにナチスによって処刑されてしまう。サウルは少年の遺体をなんとかして手厚く葬ろうとするが……。ハンガリーの名匠タル・ベーラに師事したネメシュ・ラースロー監督の長編デビュー作。(映画.comより



偏った価値観がもたらす視野狭窄

「アウシュビッツもの」「ホロコーストもの」
みたいな表現が軽薄なのは重々承知の上ですが、
『サウルの息子』が描く、
善悪を超えた人間の業のようなものは
当然、ナチスの常軌を逸した暴力を告発するに留まらず、
極私的であるからこそ普遍的な問題を
観客に突きつけてきます。

いわずもがな、スタンダード・サイズの狭い画面に
極端に被写界深度の浅い映像

見たくないものは見ないようにする心理と
主人公サウル(ルーリグ・ゲーザ)
視野の狭さをも表現しています。
多くがサウルの顔のクローズアップで埋められる画面は
端的に息苦しさを感じます。

アウシュビッツのビルケナウ収容所では、
次々と捕らえられたユダヤ人たちが送られてきますが、
そのユダヤ人たちをガス室に送り込み、
死体を運び出したあとは丁寧に掃除し、
骨まで焼かれて残った灰を川に捨てるのも
「ゾンダーコマンド」と呼ばれる同じユダヤ人だということの
卑劣かつ狡猾さは計り知れません。
もちろん、「ゾンダーコマンド」に任命されたユダヤ人たちも
時がくれば殺される立場にあるのですが、
同胞を殺させて、加害者意識を植え付ける点において
卑しくもよく出来たシステムだと思います。
ユダヤ人にユダヤ人を処刑させる別の理由として、
ナチスが自分たちの手を汚したくなかったことも
もちろんあるでしょうが、
それなら逆に、ナチスの隊員たちにも
無差別殺人を気持ち悪いと思うくらいの
良心が残っていたのかと思うと、
さらに気持ちが悪くなります。

サウルは、ガス室でかろうじて生き残っていたものの、
すぐに殺されたあと解剖に回される少年を見つけ、
彼をきちんと埋葬することに固執するようになります。
あとから、サウルはこの少年のことを
息子だと言い始めますが、
おそらく本当の息子ではないはずです。

ところが、少年に祈りを捧げてもらうために
ラビを探すうち、仲間を危険な目に遭わせ、
死者まで出してしまいます。

サウルは、自分の命を引き替えにしてでも
「正しいこと」をやり遂げようとしているのですが、
彼の執着が周囲を死の危険に晒してしまうというジレンマ。

サウルが「息子」を埋葬することに執着しているのは
すでに生きる望みを失ったユダヤ人たちが
せめて、この惨状を後世に伝えたいという気持ちの象徴でしょう。

本作は
スタンダード・サイズで浅い被写界深度という
映像的手法がテーマを物語る
まさに映画的な作品です。
それはナチスの非道に留まらず、
囚われの身となったユダヤ人たちを含めた、
追い詰められた価値観がもたらす視野の狭窄さ
観客に追体験させるのではないでしょうか。

悲しいことですが、
おそらく、悲劇は繰り返されるでしょう。
自分の意に沿わないものがピンぼけにならないように
務めたいものです。



↓ネメシュ・ラースロー監督の短編『With A Little Patience』




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2016.11.30 | | コメント(3) | トラックバック(0) | 映画

コメント

突然のコメントすみません。
絵がとても素敵です!
急に大変失礼なお願いかとは思いますがmommyのイラストでiPhoneケースを作らせていただくことは可能でしょうか。
アプリで作成し、あくまで個人のものとして使いたいと考えております。

2016/11/30 (水) 22:50:48 | URL | #- [ 編集 ]

Re: タイトルなし

> あくまで個人で楽しまれるぶんには使っていただいて構いません。再配布したり、サインを消してネットにアップしたりしないでくださいね。

2016/11/30 (水) 23:23:11 | URL | のほうず #- [ 編集 ]

お返事いただけて嬉しいです!
もちろんそのような事は絶対にしません。
素敵なイラスト、大切にお借りします。
本当にありがとうございます!!

2016/12/01 (木) 01:55:16 | URL | #- [ 編集 ]

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