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手紙は憶えている

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(原題:Remember 2015年/カナダ・ドイツ合作 95分)
監督/アトム・エゴヤン 製作/ロバート・ラントス、アリ・ラントス 脚本/ベンジャミン・オーガスト 撮影/ポール・サロシー 美術/マシュー・デイビス 衣装/デブラ・ハンソン 編集/クリストファー・ドナルドソン 音楽/マイケル・ダナ
出演/クリストファー・プラマー、マーティン・ランドー、ヘンリー・ツェニー、ディーン・ノリス、ブルーノ・ガンツ、ユルゲン・プロホノフ、ハインツ・リーフェン、ディーン・ノリス

概要とあらすじ
ある1通の手紙をきっかけに、家族を殺したナチスへの復讐の旅に出る男の姿を、アトム・エゴヤン監督が描いたサスペンス作品。最愛の妻の死も覚えていられないほど、もの忘れがひどくなった90歳のゼブ。ある日、ゼブは友人のマックスから1通の手紙を託される。2人はナチスの兵士に大切な家族を殺された、アウシュビッツ収容所の生存者だった。手紙にはナチスの兵士に関する情報が記されていた。兵士の名前はルディ・コランダー。身分を偽り、今も生きているという。容疑者は4人にまで絞り込まれていた。体が不自由なマックスの思いも背負い、ゼブは復讐を決意し、1通の手紙とおぼろげな記憶だけを頼りに単身旅に出る。「人生はビギナーズ」で史上最高齢のアカデミー助演男優賞に輝いたクリストファー・プラマーが主人公ゼブを演じ、マーティン・ランドー、ブルーノ・ガンツらベテラン俳優陣が顔を揃える。(映画.comより



忘れるなら、思い出させてやろう

一応、最初に断っておきますが、
傑作との声が多い『手紙は憶えている』
ラストで大どんでん返しがある
『シックス・センス』案件です。
結末を知ってしまうと、
まったく見え方が違ってくる類いの作品ですので、
映画を観る前に他人の感想を読んで
面白いかどうかを確かめておきたいと考えるひとが
(そういう人の心理は僕にはさっぱり理解できないが)
基本ネタバレを旨とする当ブログを読まれる際には
どうぞ自己責任で。
(ま、Wikipediaでがっつりネタバレしてるけどね)

養護施設で暮らす
90歳のゼブ(クリストファー・プラマー)
一週間前に妻が死んだことも忘れてしまうほどの
認知症を患っています。
施設の受付のすぐ目の前に彼の部屋が用意されていることから
症状の深刻さが伝わってきます。
養護施設で出会ったマックス(マーティン・ランドー)とゼブは
ともにユダヤ人でホロコーストの生存者。
アウシュビッツで彼らの家族を殺したナチの残党、
オットー・ヴァリッシュ
「ルディ・コランダー」という偽名を使って
北米で生存していることを調べだしたマックスは
頭はしっかりしているけど体が不自由な自分の代わりに
ゼブを復讐の旅へと送り出すのでした。

何十年経とうとも復讐の炎を消すことがない
ナチ・ハンターの物語ですから
よく考えれば最初から重苦しい設定なのですが、
眠るたんびにだいたいのことを忘れてしまうゼブが
マックスに渡されたメモを頼りに
よたよたしながら歩を進め、
道中で出会った子供との微笑ましいふれあいなどが描かれると、
まるで、ほっこりとした笑いを誘う
ハートフルおじいちゃんムービーのよう。

ゼブに関わる人々もみな(過剰なほど)親切で機嫌が良く、
彼が助けてあげたくなる善人だという、
ラストに向けてのミスリードを積み重ねます。
でもじつはすでに前半から
弛緩したシーンの背景には
不穏な音楽が低く鳴り響いています。

それはそうと、
前科がなく、身分証さえ持っていれば、
銃を扱ったことがない認知症の老人が
ふらっと立ち寄った銃砲店で拳銃を買えてしまう
アメリカって
……やっぱ、ねぇ。

「ルディ・コランダー」と名乗る人物は4人。
そのなかの一人がナチの残党なのです。
一人目の「ルディ・コランダー」が
『ヒトラー・最後の12日間(2005)』でヒトラーを演じた
ブルーノ・ガンツ
だったのにはニンマリ。
元ナチには違いなかったものの、これは人違い。

二人目の「ルディ・コランダー」は
元ナチどころか、アウシュビッツに収容されていた同性愛者。
ナチスが迫害の対象としたのはユダヤ人だけでなく、
同性愛者などの「異分子」も含まれていたのです。

三人目の「ルディ・コランダー」は
すでに亡くなっていましたが、
ゼブを迎え入れた警官の息子(ディーン・ノリス)
なんと、親譲りのナチス信仰者で
ゼブが父親の友人ではなく、ユダヤ人だとわかると激昂。
おしっこ漏らして震え上がるゼブでしたが、
不可抗力的に飼い犬と息子を射殺し、
穏やかだった映画の雰囲気が一変します。
死体となった警官を呼び出す無線が入るなか、
シャワーを浴びてガウンを着たゼブは
なんと、うたた寝しちゃいます。
目が覚めるとやっぱりいろいろ忘れているゼブ。
さっさとその場から逃げてくれよ。頼むから。
主人公がボケてるからこその新鮮なサスペンスです。
また、行方不明になったゼブを捜索するゼブの長男が
ゼブの計画を阻止しようとする追っ手の役割になっているのが
見事です。

そして、ついに四人目の「ルディ・コランダー」。
彼こそはゼブが探し求めるナチの残党でした。
ぷるぷる震える手に持った銃を突きつけ、
その男が家族にも秘密にしていた、
ユダヤ人虐殺に加担した事実を打ち明けさせるセブ。
「本名を言え! おまえの本名は
 オットー・ヴァリッシュだろ!!」

するとその男は
「ちがう、おれの名はクニベルト・シュトルムだ。
 オットー・ヴァリッシュはおまえだ」

ゼブに言うのでした。

なんとなんと、
ゼブはユダヤ人ではなく、ナチだったのです。
しかも、終戦後に逃亡するため、
ユダヤ人を偽るために囚人番号を互いの腕に彫るという
卑劣な方法で生き延びていたのでした。
突如、記憶が蘇り、愕然とするゼブ。

すべてはマックスの計画通り。
ゼブとの出会いを「神の贈り物(うろ覚え)」と話していた
マックスの真意が最後でわかります。
おそらくは、四人の「ルディ・コランダー」を探す順番も
マックスの思惑通りでしょう。
死んだゼブの妻との約束だというのも
真偽は定かではありません。
ナチの残党の手でナチの残党を殺させるという
なんとも用意周到で残忍な復讐劇です。

しかし、ゼブが自分の正体を忘れていたのは
認知症のせいだけではないでしょう。
彼はユダヤ人になりすまして生活するうち、
自発的に過去を忘却の彼方へと追いやることで
心の平安を維持していたのではないでしょうか。
そんなことをホロコーストの生存者が許すはずもなく、
忘れるなら、思い出させてやろうというわけです。
あたかもマックスがゼブに手渡したメモのように。
ゼブの妻のユダヤ式の葬儀(?)や
元捕虜の同性愛者に抱きついて頭をなでられる
ゼブの姿を思い出すと
おぞましささえ感じます。

あっちこっちに心揺さぶられる傑作です。





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