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エル・クラン

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(原題:El Clan 2015年/アルゼンチン 110分)
監督/パブロ・トラペロ 製作/ウーゴ・シグマン、マティアス・モステイリン、アグスティン・アルモドバル、ペドロ・アルモドバル、エステル・ガルシア、パブロ・トラペロ 脚本/パブロ・トラペロ、ジュリアン・ロヨラ 撮影/フリアン・アペステギア 編集/アレハンドロ・カリーリョ、パブロ・トラペロ 音楽/セバスティアン・エスコフェット
出演/ギレルモ・フランチェラ、ピーター・ランサーニ、ジゼル・モッタ、フランコ・マシニ、リリー・ポポビッチ、ガストン・コッチャラーレ、アントニア・ベンゴエチェア、ステファニア・コエッセル

概要とあらすじ
「オール・アバウト・マイ・マザー」「トーク・トゥ・ハー」などを手がけたスペインの巨匠ペドロ・アルモドバルが製作を務め、アルゼンチンで実際に起こった身代金誘拐事件を「セブン・デイズ・イン・ハバナ」のパブロ・トラペロ監督により映画化。第72回ベネチア国際映画祭で銀獅子賞(監督賞)を受賞した。1983年アルゼンチン。裕福なプッチオ家は父と母、5人の子どもたちと幸せに暮らしていた。ある日、二男が通う学校の友達が誘拐され、姿を消す。以降、金持ちだけを狙った身代金事件が多発し、近所の住民たちが不安な毎日を送っていた。そんな中、プッチオ家の主のアルキメデスは、妻の作った夕食をなぜか2階にある鍵のかけられた部屋に運ぶという不審な動きをしていた。(映画.comより



家族(≒国家≒思想)を裏切るな!

もしも実話じゃなかったら、
荒唐無稽すぎて一笑に付されたかもしれない
『エル・クラン』
怖いですねぇ、現実って。
「クラン」とは家族とか部族という意味。

わりと最近で、実話ベースの「裏の顔もの」といえば、
為替ディーラーだと思ったら殺し屋だった
『THE ICEMAN 氷の処刑人(2012)』とかありましたが、
これは家族もまったくその事実を知りませんでした。
家族ぐるみの犯罪者というと
『アニマル・キングダム(2010)』なんかも実話ベースですが、
こちらは悪人家族といった感じだし、
本作のように、
誘拐&監禁からの身代金で生活を営む家族というのは
聞いたことがありませんし、
ぼくの知り合いにもそんな人はいません。(いたりして)

本作は、1980年代アルゼンチンの政治的混乱
大きく関わっているようで、
プッチオ家の父アルキメデス(ギレルモ・フランチェラ)
会計士であり、軍事政権下で諜報員のような仕事をしていた男
反体制的な人物を探し出しては拉致・拷問していたようです。
ところが1982年の
フォークランド戦争(マルビーナス戦争)の敗戦によって
アルゼンチンは大きく民主化へと傾き、政権崩壊。
職を失ったアルキメデスは、慣れた仕事である誘拐を
今度は生計を立てるために始めた
というわけ。
トラック運転手を辞めた人が
個人タクシーの運転手になるようなものですね!(違う)

アルキメデスに扮するギレルモ・フランチェラは
コメディアンだそうですが、
時折意図的に青白いライティングに照らされ、
爬虫類的ヌメリ感をもつ冷徹な表情がすでに恐ろしい。
ほとんどまばたきしない目は、瞳の色の薄さも相まって
感情を読み取ることができません。

プッチオ家の母エピファニア(リリー・ポポビッチ)
2男2女たちもアルキメデスの「仕事」を知っています。
(妹のほうは微妙だけど)
にもかかわらず、何事もないように暮らしているのですが
長男のアレハンドロ(ピーター・ランサーニ)だけは
登場したときから良心の呵責に耐えかねているのが窺えます。
アレハンドロはラグビーのスター選手でもありながら、
実行犯としてアルキメデスの誘拐に関わってもいるのです。

アルキメデスの犯行が金銭目的だったことは間違いないようですが
そのターゲット選びの根拠は
いまひとつ明らかになっていない
ようです。
映画の最初の誘拐シーンでは、
アレハンドロのチームメイトをターゲットにしますが
彼が金持ちのボンボンだったとはいえ、
アレハンドロに囮をさせるのはリスクが高すぎ。
えっと、これは……身代金と引き替えに人質を解放したあとが
面倒なんじゃないの? どうすんの? と思っていたら
あっさり殺しちゃいました……。
アルキメデスは、逆に脅されたからとか説明していましたが
最初から人質を解放するつもりなどなかったはず。
アレハンドロの心の揺れをかぎ取ったアルキメデスが
わざわざアレハンドロと近しい人物に狙いをつけ、
チームメイトの誘拐にアレハンドロを荷担させることで
彼が逃げられないようにした
としか思えません。

こちらの監督インタビューによると
映画でも登場するアルキメデスの犯行手帳の中には
実際に、アレハンドロの支援者たちの名前が
誘拐リストとして書かれていた
そうで
アルキメデスのターゲット選びは
息子に対する自分の支配欲を満たすことも
基準のひとつとしてあったのではないでしょうか。

かたや、アレハンドロ。
彼はずーっと、おれんち……おかしいよな。と思っています。
アレハンドロの動揺を計るギミックとして
「口呼吸する」というのが面白い。
練習中にコーチから「口で呼吸するな」と言われたのを皮切りに
自ら誘拐に関わったチームメイトが殺されたことを
ロッカールームで知らされたときも口呼吸が荒くなっていました。
そして、身代金集金役を担ったあと、
アルキメデスからご褒美として大金を受け取り、
思わず喜びをみせはしたものの、
酸素ボンベを使わなければならないほど呼吸が困難になって、
彼の葛藤が極限に達していることがわかります。

家族の中で、
アレハンドロがひときわ大きな葛藤に苦しんでいたのには
ベタですが、やっぱり長男というのが大きいような気がします。
いち早く限界を感じた三男ギジェルモ(フランコ・マシニ)
遠征試合から家に戻らないことを決意。
「亡命」していて不在だった
次男のマギラ(ガストン・コッチャラーレ)が呼び戻されると
彼は積極的に父の誘拐を手伝います。
パンフレットの解説にもありましたが、
もともとは次男マギラが父の片腕だったのではないでしょうか。
マギラがいなくなったあと、
家族を守るために父に貢献するのは自分しかいないという責任感と
そもそも父の「仕事」に対する猜疑心との(&良心の呵責)
板挟みになっていたのではないでしょうか。
(でも金をもらえると嬉しいという甘さも)

でも、母親と娘たちの
「悪いことをやってるのは知ってるけど、気にしないようにする感」
じつは一番恐ろしいような気がします。
アルキメデスは妻をねぎらって肩をもんでやったり、
娘の勉強をみてやったりと、家庭内では良き父親です。
なにしろアルキメデス自身が強調するように
彼が「仕事」をするのは「家族のため」なのです。
だからこそ母や娘たちは倫理に対して無感覚にならざるを得ません。
これぞ、恐怖政治のやり口。

アルキメデスには
かつての独裁政権を象徴させているのでしょう。
アルキメデスが口にする「家族愛」はあきらかに自己愛です。
家族という体制に対する執着です。
アルキメデスは逮捕された瞬間から言い逃れの準備を始めますが、
留置所で、看守に暴行されて無理矢理嘘の証言をさせられたと偽るために
アレハンドロに殴ってくれと頼んだところ、
アレハンドロはこれを固辞。
すると、アレハンドロのもっとも痛いところに罵声を浴びせて逆上させ、
結局、意のままに殴らせてしまうという狡猾さをみせます。
そして、この父親に一杯食らわせるとしたらこれしかない!
と、ニヤリとしたアレハンドロは、
空中に身を投げ出すのでした。

ところが、その後のテロップで唖然。
アルキメデスは獄中で自ら弁護士免許を取り、
最期まで無実を訴えた
というのです。
結局、アルキメデスにとって家族などどうでもよかったのですが、
やっぱりこれは、単なる保身とはちょっと違うような気がします。
彼が考える家族≒国家≒思想を守るためには
多少の犠牲は致し方なく、
大義を貫くためには、まず自分が生き延びなければならない
とでもいうような右寄りに倒錯した自己中心的な発想
感じずにはいられません。
犯行の計画性とはアンバランスな、
人が行き交う場所の公衆電話から
地声で身代金要求の電話をするあたりのずさんさ

そもそも軍事政権の一端を担い「正しいこと」を遂行していただけだという、
持ち前の高慢さによるものではないでしょうか。
(地下の監禁部屋の前に、藁の塊があるのはなんだろうと思ってたら
 監禁した相手にそこが田舎だと思わせようと
 藁のにおいを扇風機で送ってたのね。
 こういうところは周到なんだよなぁ)

音楽の使い方も独特で
曲の軽快さとシーンの残酷さとのギャップによって
作戦(誘拐)遂行中のわくわく感をもたらし、
倫理的感覚の麻痺を促します。
拷問とセックスを対比させるのも
うめき声とあえぎ声が表裏一体だと知らしめ、
すべてがプッチオ家、ひいては人間の二面性を
表現するために周到に用意された演出だと思いました。



↓普段はこんなにご機嫌なひと。




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