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イレブン・ミニッツ

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(原題:11 minut 2015年/ポーランド・アイルランド合作 81分)
監督・脚本/イエジー・スコリモフスキ 製作/エバ・ピャスコフスカ、イエジー・スコリモフスキ 撮影/ミコワイ・ウェプコスキ 編集/アグニェシュカ・グリンスカ 音楽/パベウ・ミキェティン
出演/リチャード・ドーマー、ボイチェフ・メツファルドフスキ、パウリナ・ハプコ、アンジェイ・ヒラ、ダビド・オグロドニク、アガタ・ブゼク、ピョートル・グロバツキ、アンナ・マリア・ブチェク、ヤン・ノビツキ、ウカシュ・シコラ、イフィ・ウデ、マテウシュ・コシチュキェビチ、グラジナ・ブウェンツカ=コルスカ、ヤヌシュ・ハビョル

概要とあらすじ
「アンナと過ごした4日間」「エッセンシャル・キリング」「ザ・シャウト さまよえる幻響」などで知られ、カンヌ、ベルリン、ベネチアの世界3大映画祭で受賞歴のあるポーランドの鬼才イエジー・スコリモフスキ監督が、大都会に暮らす人々の午後5時から午後5時11分までの11分間に起こる様々なドラマをモザイク状に構成した群像劇。女好きの映画監督、嫉妬深い夫、刑務所を出たばかりのホットドッグ屋、強盗をしくじった少年といったいわくありげな人物と、一匹の犬を中心に描かれるサスペンスで、多種多様な視点を駆使した映像や都市空間にあふれる音などによって、人々の悲哀に満ちた人生の陰影を表現。人々のありふれた日常が、わずか11分で変貌していく様を描き出した。(映画.comより



マクロとミクロが入れ替わる黒い点

御年78歳のイエジー・スコリモフスキの新作、
『イレブン・ミニッツ』
いまだ衰えることを知らない挑戦的な姿勢、というか、
へそ曲がりっぷりを満喫できる作品です。

さまざまな登場人物たちがそれぞれの理由で交錯し合う、
午後5時から午後5時11分までの11分間を描いた本作。
同時刻に違うシチュエーションで起きるドラマを描いた映画は
いままでにもたくさんあって、
ま、うまい例えが思いつかないけれど、
たとえば『パルプ・フィクション』のようなものがありますが、
本作の登場人物たちには、
他者の人生に無自覚に影響を与える
バタフライ・エフェクト的な要素はありません。
それぞれは、たまたまそこに居合わせただけの人々。
人混みですれ違うだけの人々、電車の同じ車両に乗り合わせた人々。
我々が日々繰り返している日常です。

スマホでの自撮り映像から始まるのは
いかにも現代的な自己承認欲求を象徴しているし、
監視カメラの視点などは
監視社会を揶揄しているようにも思えます。
いずれにしろ、映像を記録するということは
どんどん流れは消えていく「時間」に
抗う行為のような気もします。

ヘルマン(ボイチェフ・メツファルドフスキ)と
妻で女優のアニャ(パウリナ・ハプコ)。

どうやらヘルマンは嫉妬深く、
昨晩も一悶着あったようで、警察のお世話になったもよう。
午後5時に、ホテルの一室で
映画監督と面接の約束があるというアニャでしたが、
喧嘩したりじゃれたりしたあと、
ヘルマンが睡眠薬を入れたシャンパンを飲んで眠っているうちに
アニャは映画監督のもとへ出かけてしまいます。
アニャを待ち受ける映画監督は
離婚調停中にもかかわらず、
アニャとヤることしか頭にない徹底的にチャラい下衆。

ふいに目を覚ましてアニャがいないことに気づいたヘルマンは
慌ててアニャがいるはずのホテルへと向かいます。
携帯電話で妻に連絡しながら急ぎ足のヘルマンが
ホットドッグ屋の前あたりで一瞬足を滑らせます
ことさら強調されるわけではないこの一瞬が
クライマックスへの伏線、というより予兆になっているはず。

ホットドッグ屋の主人は、おそらく元教師で
かつて教え子に手を出して(場合によってはレイプして)
服役し、出所したばかり。
彼を発見した少女は顔につばを吐きかけますが、
そんなホットドッグ屋に集まった修道女たち
彼のうんちくに魅了されてキャーキャー言っている皮肉。

なぜか焼けただれた家で事情聴取を受けている
パンキッシュな女性。

元彼とは険悪な状態で、
ふたりで飼っていたブフォンという犬を引き取ることに。
(この犬は監督の愛犬なんだとか)

なにやら思い詰めたようすの少年。
意を決して質屋に強盗に入るも、
店主は奥の部屋で首を吊っていました。
少年がうなだれていると、突然店内のモニタに老人が映し出され、
「もはやあなたは何一つ行ないを改めることはできない。」
「あなたの最期を秒読みしている」

と告げます。老人は明らかに神なる存在です。

ホテルで密会するカップル。
このふたりが登山家同士だったということは
あとで知りました。
女性がとにかく観てほしいという映画はどう考えてもポルノ。
うーん、よくわかりません。
飛行機が轟音をとどろかせながらビルをかすめるように飛んでいくと
突然窓から飛び込んできた白い鳩が鏡に激突。
不吉極まりないのです。

現場に急ぐ救急隊員。
救急車がゴミ収集車に邪魔され、ひとり救急車を降りた女性隊員が
現場アパートに走るとき、
壁に書かれた骸骨が一瞬写り、はっとします。
あのアパートはユダヤのゲットーを記念する建物だそうで
もともとメメント・モリとして書かれたものだそうな。

バイク便の男。
この男はジャンキーで、じつはホットドッグ屋の息子です。
配達先の婦人とヤってる最中に旦那が帰ってきて、
そそくさと退散しようとする彼の
バイクのエンジンがすぐにかからないのは伏線。
父親との待ち合わせの前に
アニャたちがいるホテルの11階へと配達に向かおうとすると、
11階を通り越してどんどん上昇するエレベータ。
やがて暗闇に覆われた部屋にたどり着くと
質屋のモニタに写っていた老人の声で
「あなたの最期を秒読みしている」と聞こえてきます。
彼はなぜ老人=神のいるところまで招き入れられたのか。
ドラッグの幻覚によるものなのか……。
下降するエレベーターの中で彼がもがき苦しむのは
バッドトリップなのか……。

川辺でスケッチする老画家。
男が橋から飛び降りて、すわ自殺かと思いきや
映画の撮影でした。
老画家は動揺したのか、スケッチの中に墨を落としてしまい、
空中に黒い点ができてしまいます。

そのスケッチの構図とまったく同じの
警察署の監視カメラのモニタでは
警官がモニタの黒いシミのようなものを消そうとしています。

そして驚愕のクライマックスへ。
ずっとホテルの11階の廊下でうろうろしていたヘルマンが
意を決して消化器を手に、アニャと映画監督がいる部屋に突入。
具合が悪くなったアニャを抱きかかえている映画監督に
そらみたことかと突進するヘルマンでしたが、
消化器の泡で足を滑らせてしまいます。
もう、このヘルマンの間抜けっぷりが
その後の惨劇の原因だと言ってもいいのかもしれませんが
あくまできっかけに過ぎません。
たまたまそこに居合わせたホットドッグ屋とその息子、
たまたま通りかかったバスと救急車が
偶然≒必然の連鎖によって炎に包まれます。

最期にベランダから落下するアニャの
スクリーンにすっぽり収まった構図が
悲しくも美しい。

ところが、映画はこの悲劇をもってして終わるのではなく、
黒煙にまみれたスクリーンがどんどん引いていくと
監視カメラのモニタのひとつとして分割され、
さらにメタに上昇すると、
やがて本作の物語がひとつの黒い点へと収斂
され、
宇宙と細胞の構造的近似性を示すように
マクロとミクロが入れ替わるのです。

登場人物たちそれぞれのミクロな人生は
社会というマクロのうちに存在するけれど
その社会をさらにマクロに俯瞰するとミクロな黒い点となり、
空に浮かんだその黒い点をミクロな登場人物が
見上げているという円環構造……。

宗教的とも哲学的ともとれるこのエンディングは
人生の矮小さを表現していると思うし、
類似する作品は多々あると思うのですが、
それを表現するためのデジタル感が独特なのではないでしょうか。
自撮りや監視カメラで撮影された映像が
被写体となった人物の死後も
アーカイブ化されて残り続ける不思議というか……。
そのアーカイブは誰が見るのかという奇妙さというか……。

本作が
落下、上昇、エレベーター、階段……というように
縦構造によって構築されているのは明らか。
神なる存在を仮定して、人間の生き様を俯瞰で描く本作が
このような縦のモチーフに溢れているのは必然でしょう。
「11」という数字が執拗に繰り返されますが、
パンフレットで監督本人が語るように、
その数字そのものに意味はないように思います。
監督は「11」という数字の
フォルム的な対称性に惹かれたと言っていますが、
動機はともあれ、繰り返すことによって生まれる象徴性のほうを
面白がっているような気がします。
なぜなら、観客が気づくかどうかわからないようなさりげないサインや
犬目線のカメラワーク、
壁を伝う水の逆回しの難解さ
と比べて
「11」という数字に対する執着はあまりにも作為的で、
これほど開けっぴろげで意味ありげに「11」を強調するのは
むしろ意味がないからではないか
と思えてくるのです。
いや、「意味がある」ということそのものよりも
「意味ありげである」ということによってもたらされる何かのほうにこそ
意味がある
とでも言うべきか。

また、最終的に黒い点となった本作のラストは
老画家がたまたま落としてしまった墨の点と構図を同じくします。
これには、意図(もしくは制御)したものにこそ意味があるという
価値観に対する監督の反撥
があるようにも思います。

本作には
画家としても活躍している監督自身による絵画も登場します。
そのいくつかはこちらで観られますのよ。
ご参考まで。





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