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葛城事件

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(2016年/日本 120分)
監督・原案・脚本/赤堀雅秋 エグゼクティブプロデューサー/小西啓介 プロデューサー/藤村恵子 撮影/月永雄太 照明/藤井勇 録音/菊池信之 美術/林千奈 装飾/湊博之 衣装/高橋さやか ヘアメイク/浅野有紀 編集/堀善介 音楽/窪田ミナ
出演/三浦友和、南果歩、新井浩文、若葉竜也、田中麗奈

概要とあらすじ
「その夜の侍」の赤堀雅秋監督が同名舞台を映画化し、無差別殺人事件を起こした加害者青年とその家族、加害者と獄中結婚した女性が繰り広げる壮絶な人間模様を描いたドラマ。親が始めた金物屋を継いだ葛城清は、美しい妻・伸子と共に2人の息子を育て、念願のマイホームも建てて理想の家庭を築き上げたはずだった。しかし、清の強い思いは知らず知らずのうちに家族を抑圧し、支配するようになっていた。長男の保は従順だが対人関係に悩み、会社をリストラされたことも言い出せない。そして、アルバイトが長続きしないことを清に責められ、理不尽な思いを募らせてきた次男の稔は、ある日突然、8人を殺傷する無差別殺人事件を起こす。死刑判決を受けた稔は、死刑制度反対を訴える女・星野が稔と獄中結婚することになるが……。三浦友和が抑圧的な父・清役で主演を務めるほか、母・伸子役に南果歩、兄・保役に舞台版で稔役を演じた新井浩文、稔役に大衆演劇出身の若葉竜也ら実力派キャストが集結。(映画.comより



記号化された家族という幻想

選択的夫婦別姓に反対する人たちは
「夫婦別姓では家族の一体感が失われる」というのを
その根拠のひとつとしていますが、
本作の「葛城」という同一姓を名乗る家族には
一体感のかけらもありません。
これは希有な例外でしょうか。

赤堀雅秋監督が同名舞台を映画化した『葛城事件』
さまざまな事件の要素をミックスしたフィクションです。
夫婦別姓反対派の人たちは、
なんだ、フィクションかよと胸をなで下ろすかもしれませんが
本作は、一歩間違えば誰もが陥ってしまう現実と地続きの、
脂汗のようにじっとりした不快感を纏っています。

時間軸を往来しながら進む物語は
葛城家の次男・稔(若葉竜也)が無差別殺人を引き起こし、
正義の処刑人と化した野次馬たちによって書かれた壁の落書きを
父・清(三浦友和)が鼻歌を歌いながら
ペンキで消しているシーンから始まります。
すでに清ひとりになっている葛城家を訪れたのは、
死刑制度反対を唱え、死刑囚の稔と獄中結婚するという
星野順子(田中麗奈)。

「人間に絶望したくないんです。
 私は彼を全力で愛したいんです。
 そうすればきっと彼は心を改めます」

そう訴える順子に対して清は
「水色か。透けてるよ、ブラジャー」とゲスな一言。
そして、日本はダメだ、社会が悪いと持論をまくし立てますが
室内でサングラスをかけているあたりに、
清の警戒心の強さも現れています。

清は家族に対しても隣人に対しても
高圧的に振る舞うしか
コミュニケーションの取り方を知らない男です。
中華料理店で店員にいちゃもんをつけるときの執拗さには
ほとほとうんざりしますが、
客という立場になったとたんに態度がでかくなる人物は
男女問わず実在します。
妊婦の前で平然とたばこに火をつける清に
空気を読むなどという発想はありません。
スナックのカラオケで『3年目の浮気』を歌うとき、
デュエットの女性パートを歌わないという、
よくわからない生真面目さも。

母の伸子(南果歩)は精神に異常を来してから
ずいぶん経つようで、
家族がかろうじて円満そうな状態のときでも
手料理を作らず、家族は宅配ピザやコンビニ弁当を食べています。
伸子はもともと周囲に流されやすい性格のようですが
流されたぶんだけ不満は募り、
募った不満を抑え込むうちに精神が崩壊してしまいます。
ついには清に対して
「あなたのこと、ずっと嫌いだった」と言い放ちます。

長男の保(新井浩文)は気が優しく優等生的ですが、
父・清にとっての「いい子」を演じているようにもみえます。
当然ながら、やがてそれは鬱屈へと変わり、
父とは真逆のコミュ障に陥ってリストラされ、
妻に相談することもできずに自殺してしまいます。
自分が捨てた吸い殻を思い直して拾いに戻る生真面目さ
死ぬ直前までみせて。

そして、次男の稔。
完全なるひきこもりでニートの稔
心底腹が立つ甘ったれたクソガキですが
屁理屈の達者さをみれば、頭は悪くないんでしょう。
ま、突然、声優になるとか言い出すのは
やっぱり殴りたくなりますが、
意外にもパソコンや携帯電話に依存していなかったのが
類型的なニート描写になるのを回避していると思います。

「そのうち一発逆転するから」という稔は
リュックにサバイバルナイフを忍ばせて家を出ます。
ジャケット姿が秋葉原の事件を思い起こさせますが、
地下道での無差別殺人シーンが圧巻&戦慄で、
ナイフを振り回す稔になかなか近づけず、
かといって一目散に逃げるわけでもない周囲の反応が
非常にリアルで背筋が凍りました。

通常なら、崩壊していく家族と対比させる
「正しさ」を表現する役回りになるはずの星野順子ですが
彼女の正しさには、やはり狂信的な身勝手さ
無自覚に隠されていて、
社会の不理解に対する怒りをため込んでいます。
面会した稔のナメきった態度に唖然とする表情を浮かべるものの、
「稔さんと家族になりたいんです」という彼女は
理想の実現に向けて強い忍耐力で対処するのですが
彼女自身が家族との関係を断っていて、
にもかかわらず、
家族のつながりを過信しているという矛盾を
(もしくは家族に対する渇望を)抱えているのです。

おそらく、父・清は彼なりに家族を愛していたのでしょう。
それは自己愛の裏返しかもしれないし、
家族を自分の所有物として愛でていただけなのかもしれませんが
家族愛というやつはおおむね似たようなものではないでしょうか。
もちろん、葛城家の面々は
それぞれ全員が一線を越えてしまっているのですが。

思うに、清は、
じつは金物屋を継ぎたくなかったのではないでしょうか。
不本意ながら家業を継がなければならなかった清は
その想いから長男・保を大学に通わせ、
一般企業に勤めることを奨励したように思います。
唐突に保のネクタイを褒めたりする清
自分ができなかったことを託した保の成長ぶりに
目を細めていたのではないでしょうか。
会社をリストラされ、再就職もうまくいかない保が
「この店(清の金物屋)、継ごうかな」というのを拒否するのも
清の偏った愛情のはずですが、
それがかえって保を追い詰めてしまうことに。

店番する清がじっと見つめる家族写真では
まだ幼い保が清に抱かれ、稔が伸子に抱かれていることからも
清は保を溺愛していたことがわかりますが
社会や家族への責任転嫁や饒舌な屁理屈の語彙をみれば
清の性格を引き継いだのは稔のほうだったのではないか
と思います。

星野順子との最後の面会で
あいかわらず「罪の意識すらない」と言い放ち、
死刑の執行を早めるよう願い出たという稔でしたが、
やがて激昂し、自分の問題点や弱さをまくし立てます。
最後にはそういうふうに納得すりゃいいじゃねえかと
あいかわらず悪態をつきますが
おそらく彼は自分の愚かさと罪の重さを理解していて
そのうえで、ふてくされて自暴自棄になっているのでしょう。
ま、とにかく、この緊張感あふれる会話劇のなかに
星野順子が語る汗だくでセックスした想い出とか、
女の人もオナニーすんの? とかいう台詞が混ざる歪さが妙。

稔の死刑が執行された報告に清のもとを訪れた星野順子の
稔の死を悲しむのではなく、
死刑を阻止できなかったことに対する無念さをにじませる表情。
すると、唐突に星野順子を押し倒す清。
激しく抵抗された清は
「俺が3人殺したら、家族になってくれるか?」と言うのです。
「あなた、それでも人間ですか!」と返す星野順子が
掲げる理念のために覆い隠していた本性をむき出しにし、
救いがたく絶望的な人間は確かに存在するということを
悟った瞬間です。

そのあとが、また……。
自暴自棄になって家の中を荒らした清は
家を建てたときに植えたみかんの木の枝に
掃除機のコードを巻き付けて首つり自殺しようとする
ものの、
枝が折れて失敗。
のそのそと立ち上がった清は再び家の中に戻ると、
食べかけだったそばをすすり始めるのです。
本作において、食事は象徴的な意味を持つと思われますが、
自殺に失敗した後の清がそばをすするのは、
現実逃避か、はたまたそれでも生きていくという希望か。

人はなにかしらの役割を担い、演じながら生きていますが、
夫婦同姓やマイホームに象徴される
記号化された家族という幻想に囚われると
個人に異常を来すのはむべなるかな、かもしれません。

家族の絆ってやつは、うまくいってるうちは美しいんだけど、
ひとたび歪みが生じるとエラいことになるという、
一瞬たりとも救いのない傑作でした。
(若干、露悪的だけど)

あと、三浦友和をはじめとする俳優陣、
全員すごい演技でした。
マイホーム新築パーティのシーンでの
無精ひげを剃って髪を整えた三浦友和が
やっぱりちゃんと二枚目なのが、あらためてすごいなと。





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