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少年は残酷な弓を射る

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(原題:We Need to Talk About Kevin 2011年/イギリス 112分)
監督/リン・ラムジー 製作/リュック・ローグ、ジェニファー・フォックス、ロバート・サレルノ 原作/ライオネル・シュライバー 脚本/リン・ラムジー、ローリー・スチュワート・キニア 撮影/シーマス・マッガーベイ 美術/ジュディ・ベッカー 編集/ジョー・ベニ 衣装/キャサリン・ジョージ 音楽/ジョニー・グリーンウッド
出演/ティルダ・スウィントン、ジョン・C・ライリー、エズラ・ミラー

概要とあらすじ
「ボクと空と麦畑」「モーヴァン」のリン・ラムジー監督が、強い悪意と執着心を抱く息子とその母親の関係を緊張感たっぷりに描いた人間ドラマ。自由奔放に生きてきた作家のエバは子どもを授かったことでキャリアを捨て、母親として生きる道を選ぶ。生まれた息子はケビンと名づけられるが、幼い頃からエバに懐くことはなく、反抗を繰り返していく。やがて美しい少年へと成長したケビンは反抗心をますます強めていき、それがある事件の引き金となる。「フィクサー」のティルダ・スウィントンが主演(映画.comより



もっとも忌むべき、正義キチガイ

ミニシアター系の映画でどうやら人気があるらしい
『少年は残酷な弓を射る』
なんか、あんまり手を出す気にならなかったのですが
ようやく観てみましたさ。

おそらくスペインの「ラ・トマティーナ」であろう
トマト祭のシーン
から始まる本作は
キーカラーとしてが何度も登場します。
目新しい手法というわけではありませんが
落書きからろうそく、コート、赤ワインに至るまで
執拗に繰り返される赤が
血塗られた物語をスタイリッシュに彩っています。

時間軸を往復する構成も小気味よく、
家を赤いペンキで汚されているエヴァ(ティルダ・スウィントン)
過去にあったなにかしらの出来事によって
周囲から迫害を受けているのはわかるものの、
一体何があったのかは
最後まで巧みに明かされないようになっています。

ま、タイトルとあらすじを読めば
息子のケビン(エズラ・ミラー)
なんかをやらかしたおかげで
エヴァがエラい目に遭ってると察しはついてるんですけど、
だからこそ引き立つのは社会の不寛容ですね。
夜中にエヴァの家の壁にペンキをぶちまけたり、
ただ遠巻きに白い目でエヴァを見つめる連中の浅ましさたるや。
ケビンが起こした事件の被害者の母親は
スーパーでエヴァが買った卵を全部つぶして、したり顔。
あのさぁ……そんなしょーもないいやがらせしてなんになんの?
卵をつぶしたら、死んだ子供が生き返るとでも?

でもまあ、たとえこれらが浅ましくも愚かな行為だとしても
犯人の家族や親に対して
事件の関係者がわだかまりを持ってしまうのは
100歩譲って理解できないわけではありませんが、
もっとも忌むべき存在は、直接関係のない正義キチガイです。

旅行代理店の事務仕事に採用されたエヴァ。
かつて本を上梓したこともあるほど有能なエヴァからすれば
簡単な事務仕事など不本意に違いないはずなのに
事件後の経済的に困窮した生活ゆえ、採用を喜んでいると
「あら、ずいぶん楽しそうね」と通りすがりに殴りかかってくるばばあ。
自分にはなんの関係もなく、おそらくは正確な事情も知らず、
伝聞のイメージだけで「鉄槌」を下す正義キチガイ。
これがもっともタチが悪い。
これらの正義キチガイは、明からに非があるターゲットを見つけると
(エヴァには明らかな非すらないけれど)
あたかもそのターゲットの人権を迫害する権利を得たかのように
嬉々として暴力を行使します。

反して、事件の被害者である車椅子の少年は
エヴァに声をかけ、気遣うそぶりまでみせます。
事実を理解している当事者は
正義感や思想に惑わされません。

本作は、不寛容と不理解の物語だと感じましたが、
当然ながら、働く女性の育児問題も反映されているでしょう。
とにかくケビンは
赤ん坊の頃からエヴァを困らせるようなことしかしないので、
エヴァに問題があったとすれば、
さほど出産を望んでおらず(デキちゃった)
妊娠中も憂鬱そうにしていたことくらいで
まあ、胎教的には褒められるものではないのかもしれないけれど
出産後は彼女なりに育児を懸命にこなしていたと思うし、
エヴァが仕事ばかりで育児をおざなりにしていたということもなく、
ケビンは母親の愛情を求めているのに
エヴァがケビンの気持ちに応えなかったという描写もないので
生まれたときからケビンがエヴァに
敵対心をむき出しにしていた原因といえば
妊娠中のエヴァの態度が気にくわないというくらいのもん
でしょう。
でも、そんなこと言われてもな。

おそらく、働く女性の子育ての苦悩を
かなりデフォルメして描いているのではないでしょうか。
泣くわ、わめくわうるさいし、ちっとも言うことを聞いてくれないし、
もしかして、わざと嫌がらせでやってる? と
子供に対して思ってしまうのかもしれません。
(子供いないからわかんないや。おほほ)
そのような育児にまつわるいらだった母親の感情を
ケビンという悪魔に投影させているように思います。
そして、母親の苦悩をさらに引き立てるのが
父親(ジョン・C・ライリー)の無能さね。

いつもニヤついて嫌がらせばっかりしているケビン。
一回、シバきまわしたほうがいいのにと思うのですが
駄目なんすかね。
とにかく、こいつ、こんなことばっかりやってて
楽しいんでしょうか。
極度のかまってちゃんなんでしょうか。
笑ったのは、
オナニーしてるところをエヴァに見つかった中坊のケビンが
エヴァを半笑いで睨み付けながら激しくシコるシーン。

いやいや、今、お前のほうが恥ずかしいから!!

妹のペットを殺し、
さらには妹の左目を失明させる(ように仕向けた)ケビン。
そして、学校の体育館に立てこもり、
銃乱射事件を思わせる弓乱射事件を起こします。
ケビンがこの凶行に至ったのには
両親の離婚話を耳にしたのがきっかけになっているような
気もしますが、ちょっと微妙。
とにかく、ケビンは計画的に犯行に及び、
父親と妹を殺したうえで、学校の体育館にいたほかの生徒たちを
次々と弓で撃っていった……ということなんですが、
この体育館のシーンがわかりづらい。
ケビンが体育館に入っていったとき、
多くの生徒たちがいたようにも見えないし、
体育館の外に向けて矢を放ったのかな? とも思いましたが
ちょっとそれも考えづらい。
グロを控えるためか、生徒たちが撃たれるカットもないので
いまいち事件の凄惨さを感じられませんでした。

2年が経ち、18歳になったケビンは
少年刑務所から大人の(?)刑務所へ移されることに。
すでに刑務所内でのいざこざに巻き込まれているのを想像させる
傷だらけの顔のケビンは
さらに暴力まみれの大人の刑務所に移ることに怯えています。
面会に訪れたエヴァに
「ひとつだけ教えて。なぜ?(あんなことをしたの?)」
と聞かれたケビンは、おそらくはじめて素直になり、こう言うのです。
「わかってるつもりだった。でも今は違う」

ケビンがあまりにも弱々しく、しおらしいことを言うので
何を今更と、白けてしまいました。
母親エヴァがケビンを抱きしめのは、
そりゃまあ、そうだろうねとは思うものの、
ラストでぼんやりしちゃったなぁという印象でした。





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コメント

本当におかしい子供

多分ケヴィンは生まれつきああいう子供だったんだろうね。それを一人で育てたに等しいエヴァが可哀想だった。
夫の能天気さもイラつきましたね。
かなり前に見たけれど、少年がきれいだったことが印象的です。エヴァもなんであそこに住み続けるのかな。それが贖罪なのだろうか。
見終わって気分が良くなる映画ではなかったですね。

2016/07/09 (土) 21:01:00 | URL | ミス・マープル #- [ 編集 ]

Re: 本当におかしい子供

ミス・マーブルさん
> 多分ケヴィンは生まれつきああいう子供だったんだろうね。
そう考えるしかないですよねぇ。もしくは子育ては胎教がすべて、みたいな。
それならそれで「呪われた悪魔みたいな子供」ってことでホラーにして、
それでも我が子を愛せますか?みたいなことなら納得いくんですけど
最後にケヴィンがちょっと改心するもんだから、モヤっと。
育児の苦悩と周囲の不理解をデフォルメしすぎて
いびつな箱庭的世界になっちゃった感があります。

2016/07/09 (土) 22:30:25 | URL | のほうず #- [ 編集 ]

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