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光りの墓

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(原題:Rak ti Khon Kaen 2015年/タイ・イギリス・フランス・ドイツ・マレーシア合作 122分)
監督・脚本/アピチャッポン・ウィーラセタクン 製作/キース・グリフィス、サイモン・フィールド、シャルル・ド・モー、ミヒャエル・ベバー、ハンス・ガイゼンドルファー 撮影/ディエゴ・ガルシア 美術/エーカラット・ホームラオー 編集/リー・チャータメーティクン
出演/ジェンジラー・ポンパット・ワイドナー、ジャリンパッタラー・ルアンラム、バンロップ・ロームノーイ


概要とあらすじ
「ブンミおじさんの森」でカンヌ国際映画祭パルムドールを受賞したタイのアピチャッポン・ウィーラセタクン監督が、原因不明の「眠り病」に陥った兵士たちと古代の王の墓をめぐる謎を、ユーモアと優しさあふれるタッチで描いた異色ドラマ。タイ東北部イサーンに建てられた仮設病院。かつて学校だったこの病院には、謎の眠り病にかかった兵士たちが収容され、色と光による療法が施されていた。病院にやって来た女性ジェンは、身寄りのない兵士イットの世話をはじめる。病院には眠る兵士たちの魂と交信できる特殊能力を持った若い女性ケンがおり、ジェンは彼女と親しくなる。やがてジェンは、病院のある場所がはるか昔に王様たちの墓だったことが、兵士たちの眠り病に関係していることに気づく。アピチャッポン監督作品の常連女優ジェンジラー・ポンパット・ワイドナーが主人公ジェンを演じた。(映画.comより



目を覚まさなければならない

ずいぶん前の話ですが、
女子サッカーの日本代表対タイ代表の試合をテレビで観ていたら
ファウルを犯したタイの選手が
倒れた日本選手に両手をあわせて謝っていたのが、
なんだかかわいらしくて印象的でした。

そんなことはどうでもいいのです。
アピチャッポン・ウィーラセタクン監督の新作、
『光りの墓』を渋谷のイメージ・フォーラムに観に行ったら
本編上映前に日本の観客へ向けた監督のメッセージ映像が
流れました。
(公開初日にはスカイプによる質疑応答も行なわれたとか)
そのメッセージのなかで監督は、
本作が彼の故郷であるタイ東北部イサーン地方で撮影されたこと、
両親が医者だったこと、
幼少期の監督の記憶にあるのは
学校と病院と映画館だということなどを語り、
本作が監督の私的な経験を元に
想像力を膨らませてできた作品だということがわかります。
それとは別に
「タイはいま軍事政権下にあり、わたしはずっと眠っていました」
という意味のことを語り、
それは文字通り、本作の主題のひとつにほかなりません。
眠りは現実逃避の方法のひとつですが
眠るように息をひそめて身を隠し、じっと耐えていることの
メタファでもあるように思います。
本作は、検閲を避けるためにタイ本国では公開しないそうだし、
アピチャッポン監督が今後タイ国内で映画を作らないとまで
言っているのを考えると、
タイの政情が相当に切羽詰まった状態であることがうかがえます。

とはいえ、そんな緊張感のある情勢とは思えないほど
映画の中では穏やかでゆったりとした時間が流れます。
廃校になった学校の教室を再利用した病院の
並べられたベッドで眠っているのは
眠り病にかかった兵士たち。
ボランティアで兵士たちの看病にきている、
左右の足の長さが違うジェン(ジェンジラー・ポンパット・ワイドナー)
おもに身寄りのないイット(バンロップ・ロームノーイ)という
兵士の世話をしています。
また、死者や行方不明者と交信する能力を持った
ケン(ジャリンパッタラー・ルアンラム)という女性も登場します。

やがて、医療器具を販売している業者が病院にやってきて
患者の眠りを安らかにするという
ネオン管のような形をした謎の機械を患者のベッド脇に設置します。
ぶっきらぼうな形状で蒼く光るネオンが
奇妙なSF感を漂わせます。
後半になるとネオンは赤、緑、青と色が変わるのですが
それがどのような状態を表しているのかはわかりません。

ジェンがイットの体を拭いてやっていると
イットが突然眼を覚まし、ふたりは親交を深めるように。
眠り病にかかっている兵士たちは
時折、目を覚ますようですが
不意に眠りの中に戻ったりします。

イットのことを「新しい息子」と呼ぶほど親しくなったジェンは
アメリカ人の夫と一緒に、王女が祀られた祭殿を訪ね、
チータやテナガザルの人形を願いを込めてお供えします。
その後、ジェンが図書館の館主(?)からもらった
ロンコンという果物を食べていると、美しく若い女性が現れ、
自分たちは祀られている王女で、
この前のお供え物がとっても可愛かった
といいます。
病院が建っている場所はかつて戦場で、王の墓だったと告げ、
兵士たちが眠り続けているのは
いまも地下で生き続ける王族たちの魂が
エネルギーを吸い取っているからで
兵士たちの眠り病が治癒することはないというのです。
王の墓の上に建つ病院や、病院のそばで土を掘り起こすシャベルカーは
過去や先祖に対する冒涜を意味しているのではないでしょうか。

イットとジェンが屋台で食事をしたあとで
よくわからないタイ製のアクション・ホラー映画を観に行くと
タイトルが出た瞬間になぜか立ち上がって呆然とする観客たち。
その後、どうやらまたしても眠ってしまったイットは
男性に抱えられながらエスカレーターを降りていきますが、
縦横に折り重なったエスカレーターの構図自体が面白いのに加え、
下降すること(眠り=地下へ)をも
表現しているような気がします。

どう受け取ればいいのかわからないコミカルなシーンも
ところどころに登場します。
ジェンが王女と出会った体験を病院で話していると
ひとりの兵士が眠ったまま勃起。
恥ずかしそうにソレをいじってみるケン(おそらく処女)。

親鶏のあとをついてくる十数羽の雛や
ベンチに座ったカップルなどが
演劇的にぐるぐると入れ替わるシーンも不思議でしたが、
突然、野グソする男のシーンにはすっかりキョトン。
なんなの? 面白いけど。

またしてもイットが眠り込んでいるあいだに
ジェンが化粧クリームの販売会場に出向くと
そこにはスタッフとして働くケンが。
(ジェンはそのクリームが精液の臭いがするという)
ケンは、イットが眠っているあいだに見ている世界を見せてあげると
ジェンに林の中を案内します。
イットが憑依したケンに見えているのは、豪奢な宮殿内部。
ジェンに見えているのはいつもどおりの公園で
格言めいた看板やかつて防空壕だったような場所が登場します。
ベンチに腰掛け、おそらく切断したあとつなぎ合わせたために
10cmも短くなった右脚の傷跡を見せるジェン。
すると、イットが憑依したケンは、
サプリ入りの飲みものをジェンの足にかけ、なめはじめるのです。
とまどいながらも恍惚の表情を浮かべ、涙を流すジェン。

これは夢。もうそろそろ眼を覚ましたいわとジェンがいうと
「目を大きく見開いて」とケン。
すると、イットが眠るそばでジェンが眼を覚ますのですが
まるでイットとジェンが夢を通じて交信していたかのようです。
「外でやっている工事は政府の秘密事業なの」
「そのわりにはおおっぴらだね」

『世紀の光』にも登場したような集団エクササイズシーン
空でうごめく微生物……
すべてのカットに具体的な意味づけがなされている
……のかもしれないけれど、
たぶんそんなことはないでしょう。アピチャッポン監督作品は。

ラスト。
シャベルカーが土を掘り起こして凸凹になった場所で
サッカーに興じる子供達を眺めるジェンは
目を大きく見開いていました。

このラストシーンには、目を覚まさなければならない、すなわち
軍事政権に立ち向かわなければならないという
ストレートで強いメッセージが込められているように感じました。





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