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マジカル・ガール

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(原題:Magical Girl 2014年/スペイン 127分)
監督・脚本/カルロス・ベルムト 撮影/サンティアゴ・ラカハ 編集/エンマ・トゥセル
出演/バルバラ・レニー、ルシア・ポシャン、ホセ・サクリスタン、ルイス・ベルメホ、イスラエル・エレハルデ、エリサベト・ヘラベルト

概要とあらすじ
日本の魔法少女アニメにあこがれる少女とその家族がたどる、思いがけない運命を描いたスペイン映画。独創的なストーリーや全編を貫くブラックユーモアが話題を集め、スペインのサン・セバスチャン国際映画祭でグランプリと観客賞を受賞するなど、高い評価を獲得した。監督はこれが長編映画デビュー作となる新鋭カルロス・ベルムト。白血病で余命わずかな少女アリシアは、日本のアニメ「魔法少女ユキコ」の大ファン。ユキコのコスチュームを着て踊りたいというアリシアの夢をかなえるため、失業中の父ルイスは高額なコスチュームを手に入れようと決意する。しかし、そんなルイスの行動が、心に闇を抱えた女性バルバラやワケありな元教師ダミアンらを巻き込み、事態は思わぬ方向へと転じていく。(映画.comより



少女のマジカル、恋のマジカル、映画のマジカル

日本好きなスペイン人監督による
魔女っこアニメのヒロインに憧れる少女の物語で
長山洋子のデビュー曲『春はSA-RA SA-RA』が流れたりする、
と聞いていたので
『リザとキツネと恋する死者たち(2014)』みたいな
ポップな映画だろうと思っていたら、
なんとまあ、ダークでクールなノアールだった
『マジカル・ガール』

本作が長編映画デビュー作というカルロス・ベルムト監督
かなりディープな日本文化マニアのようで、
自らの日本趣味をひけらかしてはしゃぐこともなく、
それがかえって彼が日本文化から受けた影響の大きさを
感じさせます。
もともとカルロス・ベルムト監督は漫画家で、
自主制作の短編を撮ったことはあるそうですが
本作の大胆で巧みな構成と編集
とてもデビュー作とは思えません。
時間軸をずらしたそれぞれのエピソードは
唐突に始まって唐突に終わるので、
シーンが始まった直後は誰のどんな状況なのか理解できず、
もやもやとした疑問を抱えながら観ていると
いつのまにか少しずつすべてが繫がっていくのです。
それは観客に、謎が解けた喜びを感じさせてくれます。
観客を意図的に混乱させながら、
セリフで説明することなどなく、
最終的には理解できるようになっているのですから見事です。

日本のアニメ『魔法少女ユキコ』に憧れている
12歳のアリシア(ルシア・ポシャン)
白血病で余命わずかな少女。
(『春はSA-RA SA-RA』は『魔法少女ユキコ』の主題歌という設定)
友達同士で日本名をあだ名にして呼び合う彼女のあだ名が
ヒロインの「ユキコ」なのは
もしかしたら、彼女の病状を案じた友達が
譲ってくれたのかもしれません。
元国語の教師で、現在失業中の
ルイス(ルイス・ベルメホ)
余命わずかな娘の願いを叶えてやりたいと考え、
アリシアの夢ノートに書かれていた
『魔法少女ユキコ』の衣裳をプレゼントしようと思い立ちます。
さっそく検索サイト「RAMPO(=乱歩)」で検索すると
なんと7000ユーロ(約90万円)と高額。
金策に走るも到底まかなえそうにありません。
思い詰めたルイスは強盗を企み、
宝石店のショーウインドウ目がけて
ブロックを投げようと腕を振りかざした瞬間、
頭上から降ってきたゲロがルイスを直撃します。

かたや、夫の靴紐を結んでいるバルバラ(バルバラ・レニー)
夫からネックレスをプレゼントされます。
あきらかにアリシアへのプレゼントと対比されていますが、
アリシアがラジオ番組に投稿した父宛の手紙
ふたつのシーンを繫ぎます。

バルバラは美しい女性ですが、精神的に病んでいるようす。
友人夫婦が生まれたばかりの赤ちゃんを連れて訪れ、
抱っこしてみてと促されたバルバラはクスクスと笑い始め、
なにが面白いの? と聞かれると、笑いを堪えながらひと言。
「この子を窓から放り投げたら、みんな驚くだろうなと思って♡」

バルバラの言動に辟易した夫は
彼女に睡眠薬を飲ませて眠っているあいだに
荷物をまとめて出て行ってしまいます。
眼を覚ましたバルバラはショックを受けて
額を鏡に押し付けて割ってしまいます。
額を切って血を流すバルバラ。
この血の筋がすでに「黒蜥蜴」の形になっていて
今後の展開を予言しています。
自暴自棄になったバルバラが薬と酒を大量に飲み、
直後に気分が悪くなってベランダに走る……
ルイスが直撃したゲロですね。

夫がいない部屋にルイスを招き入れたバルバラ。
図らずもふたりは一夜を共にすることになるのですが
とっさに偽名を名乗ったルイス
すでに恐喝を思いついていたことはあとでわかります。
それにしても、
難病に見舞われたかわいい娘をなんとか喜ばせようとするものの、
長引く不況による貧困がそれを赦さない
ルイスの追い込まれた状況に
同情の念を禁じ得なかったのですが、
一夜の肉体関係を理由にゆすりを企てるとなると
突然ルイスがクソ野郎に見えてきます。
ただルイスは、バルバラがどうやって金を工面しているのかは
知らないのですが……

夫に内緒で金を工面しなければならないバルバラが向かったのは
アダ(エリサベト・ヘラベルト)という女性が仕切る
高級娼婦斡旋所みたいなところ。
どうやらかつてバルバラはここで働いていたようです。
「挿入なし。1回限り」という条件で
仕事をもらったバルバラはいやらしい金持ちのもとへ向かい、
裸をチェックされますが、
彼女の体には無数のミミズ腫れが。
かなりハードなSMをこなしてきたようですが
バルバラの夫は、身体を見れば一目瞭然な彼女の過去を
知ったうえで結婚したんでしょうかね……

大金を手にしたルイスは
計画通りに『魔法少女ユキコ』の衣裳を
アリシアにプレゼントします。喜ぶアリシア。
ところが、ん? あれは? と、なにかを探しているようす。
なんと! 魔法のスティックがなかったのでした!
それがなければ『魔法少女ユキコ』にはなれません。
そんなことはまったくわかっていなかったオヤジが
改めて「RAMPO」で検索すると、
魔法のスティック、20000ユーロ!!

再びルイスにゆすられたバルバラは
禁断の「黒蜥蜴ルーム」で行なわれているプレイを決断します。
そこでなにが行なわれるのかはわかりませんが
満身創痍で帰還したバルバラの姿から
相当過酷なSMだと想像できます。
で、彼女が頼ったのがダミアン(ホセ・サクリスタン)
オープニングで登場した数学教師です。
刑務所で長い服役を終えたダミアンは静かに暮らしていましたが
見るも無惨な姿のバルバラから
ことの真相(の断片)を聞くと
復讐の炎が燃えさかり、ルイスをつけ狙うようになります。
いざ実行に移すときには、身だしなみを整えたりするあたり、
ダミアンのプロ意識を感じます。

ダミアンが犯した罪はかなり重いものだと想像できますが、
具体的になにをしたのかはわかりません。
バルバラはダミアンのことを「わたしの守護天使」と呼んでいるので
本作の結末と同様に、
かつてもバルバラを守るために罪を犯したのでしょう。
ふたりの間に一体なにがあったのか、ということも
まったく語られることはなく、
監督のインタビューによれば、
あえてサブストーリーも用意していないとのこと。

というわけで、勝手に想像を膨らませてみるほかないのですが
オープニングの「手紙を見せなさい」のくだりで
バルバラは「マジック」を使って
手紙を手のひらから消してしまいます。

その瞬間、ダミアンは
「恋のマジック」にかかったのではないでしょうか。
バルバラを神聖で不可侵なものとして扱うダミアンは
彼女との肉体関係はないはず。
だからこそ、軽い気持ちで肉体関係を持ち、
バルバラが夫を裏切ったと語るルイスが許せなかったのでしょう。

オープニングで都合の悪い手紙を消して見せたバルバラへの
アンサーとでもいうように
ダミアンは、バルバラの浮気を録音したというルイスの携帯を
マジックで消してしまいます。

嫌なことは忘れるのが一番、といっているような気もするし、
逆に、この世に魔法なんか存在しないといっているような
気もします。

オープニングには、
本作を読み解くいろんな鍵が隠されていますけども、
数学教師ダミアンが説く
「2+2=4は揺るがない」というのも意味深です。
同じことを言いたいなら1+1=2でいいじゃないかと思うのですが
あえて2なのは、ダミアン+バルバラであり、
ルイス+アリシアなのは明らかでしょう。
では、「=4」とは? まさか日本語の「死」?

ダミアンが好きなジグソーパズルの
最後のワンピースが紛失してしまっているのも示唆的ですが
古本屋から出てきたルイスが宝石店のウインドウをのぞく直前、
道端に落ちていたジグソーパズルのピースを拾い、
ぽいと投げ捨てるカット
がありました。
4人の登場人物を巡る物語は
この時点ですでに破綻を余儀なくされていたのです。

エンディングでは、
美輪明宏が作詞作曲した『黒蜥蜴の唄』が流れます。
(ピンク・マルティーニのカバー)
とはいえ、監督が日本好きだとか、
そんなことはどうでもよくなるマジカルな作品です。









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