" />

TATSUMI マンガに革命を起こした男

ill538.jpg



(原題:Tatsumi 2010年/シンガポール 96分)
監督/エリック・クー 製作/エリック・クー、フレディ・ヨー 原作/辰巳ヨシヒロ 音楽/クリストファー・クー、クリスティーン・シャム
声の出演/別所哲也、辰巳ヨシヒロ

概要とあらすじ
昭和30年代、当時はまだ子ども向けでしかなかった漫画を、大人向けの読み物として昇華させ、「劇画」を生み出した伝説的漫画家・辰巳ヨシヒロの半生を映画化した長編アニメーション。辰巳の半自伝的作品「劇画漂流」をもとに、シンガポールのエリック・クー監督が、映像面においても辰巳の作風である劇画調を再現した。終戦直後の日本。漫画を描くことが大好きな少年・辰巳ヨシヒロは、憧れの漫画家・手塚治虫と会い、言葉を交わす機会に恵まれる。それをきっかけに漫画家になることを志し、その情熱がすぐに出版社にも認められた辰巳は、漫画家として順調なスタートを切る。しかし、当時の漫画は子ども向けの笑いや可愛らしいものが中心で、そんな漫画の在り方に疑問を抱いていた辰巳は、1957年(昭和32年)、22歳の時に大人向けの内容と表現を用いた漫画を描き、「劇画」と名付ける。(映画.comより



日本は「大人」になれないのか

「世界が認め、日本が知らない、この誇るべき才能を、今知るべき時がきた!」
という惹句の『TATSUMI マンガに革命を起こした男』
すみません、あたしゃ、辰巳ヨシヒロさんのことを知りませんでしたよ。
マンガファンの間では知っててあたりまえの存在なんでしょうか。

でも、最初に引用した惹句の物言いからすると
僕だけが無知なバカだというわけでもなさそうですが、
さらに続けて
「手塚治虫が嫉妬した」「バンドデシネに影響を与えた」「『劇画』を発明した」
なんて言われると、辰巳ヨシヒロの名前が
日本国内でこれほどまで知られていないことのほうが不思議です。
本作も海外での高評価を受けての日本公開となったそうですから、
日本人には確固たる評価基準がないことを浮き彫りにされたようで
暗澹たる気分になります。
ま、僕もそのうちのひとりですが。

監督はシンガポール人のエリック・クー
エリックさんは辰巳ヨシヒロの大ファンで
カンヌの常連監督だそうですが……この人も知らんわ。
知らんことばっかりやないか!

本作は辰巳ヨシヒロの自伝的作品『劇画漂流』をベースに
5つの短編を挟みながら展開します。
すべてが辰巳ヨシヒロの絵をアニメ化しているにもかかわらず、
混乱することがなかったのは
エリック・クー監督の手腕なのかもしれません。
最新技術を使用したとのことですが
アニメーション自体は、フラッシュアニメのようなぎこちない動きで
一見して稚拙なようにも思えますが
マンガを読んでいる読者が
頭の中で登場人物を動かしているような気分
が味わえ、
むしろ効果的だと思いました。

子供向けではない、大人のマンガを志向し、
それを「劇画」と名付けて差別化した5つの短編は
終戦から高度成長期における日本の暗部をあぶりだすような
辛辣な内容でありながら、聲高に主張を謳うものでもありません。
5つの短編から共通して感じられるのは、
一度有頂天になった人間が足下をすくわれるさまです。
そもそもそういうシニカルな視点をもっているのか、
それとも、常に現状に危機感を感じていたのかもしれません。

『地獄/HELL』
原爆投下直後の広島に派遣された従軍カメラマンのコヤナギは
悲惨な現場を撮影しているうちに
壁に焼き付けられた母の肩をもむ息子の影を発見し、涙します。
その写真は長らく封印していたものの、
生活苦のため新聞社に売ると話題となり、
コヤナギは一躍時の人に。
もてはやされて気をよくしていたコヤナギのもとに
あの息子はオレだという男が現れ、
しかもあれは母親の肩をもんでいるのではなく、
自分の友人が母親の首を絞めて殺そうとしているのだというのです。
その息子に強請られたコヤナギは息子を殺害したものの、
すでに息子は新聞社に真実を明かしたあとだったのです。
原爆による被害の悲惨さを訴えるのかと思いきや、
人間の深い業を描き、
最終的に無駄な殺人を犯してしまうコヤナギの姿に
独特な批評的視線が感じられます

『いとしのモンキー/BELOVED MONKEY』
アパートで猿を飼っている工員の男。
毎日満員電車に揺られるのを苦痛に感じ、
人間関係に嫌気がさしています。
ぎゅうぎゅう詰めの満員電車から押し出された男が
仕方なく上野動物園に行くと話しかけてくる女性が。
自分の連絡先まで渡してくる好意的なその女性にうっとりした男は
一念発起、生活を一新しようと考えて
退職願をしたため、上の空で仕事をしていると
機械に巻き込まれて左腕を切断するはめに。
労災がおりたものの退職願が受理されて無職に。
動物園で出会った女性に連絡すると、
なんとホステスで、ただの客引きだったことが判明。
職がない男は、飼っていた猿を上野動物園の猿山に捨てると
その猿は動物園の猿たちに襲われて死んでしまう……
という、一切の救いがないお話。

『男一発/JUST A MAN』
定年退職を間近に控えた、窓際族のハナヤマ課長。
家に帰れば、鬼嫁とバカ娘が退職金の計算をしています。
しかも、バカ娘の夫と鬼嫁は肉体関係があるという地獄絵図。
こうなったら、退職するまでの間に
浮気してやろうと考えたハナヤマ課長は
風俗店での失敗を経て、
恋人と別れたばかりの美人部下とホテルにしけ込むことに成功するも
いざとなったらアレが勃たないという切ないお話。
たびたび靖国神社の大砲が登場するのが
マチズモへの揶揄になっていて、
やはり独特な反戦の表現だと思います。

『はいってます/OCCUPIED』
体調が悪いうえに連載を打ちきりにされた漫画家の男。
思わず駆け込んだ便所の壁にあったエロい落書きをみても嘔吐していたのですが
いつしか下品な落書きに執着するようになり、
エロい落書きを書いた人物に思いをはせるようになります。
仕事がなく、鬱屈していたところに
別の出版社から大人向けのマンガを書いてくれという依頼があり、
舞い上がった男が便所に駆け込んで壁に落書きしていたのは
なんと、女子便所。

勘違いとはいえ、痴漢と疑われた男に言い逃れはできず……

『グッドバイ/GOOD-BYE』
米兵相手のパンパンをしているマリコ。
それを知ったうえで金をせびりにくる父親と
侮蔑のまなざしを向ける周囲の人々。
結婚しようと言っていた米兵には妻も子供もいて
とっとと帰国してしまい、自暴自棄になったマリコは
父親と無理矢理肉体関係を持つのでした。
終戦直後の痛ましい状況を通じて
今も変わらずアメリカのケツをなめ続ける日本の状況
的確に投影させた作品です。

とまあ、一筋縄ではいかない批評性と
ストーリーテリングの巧妙さに舌を巻くばかりです。
あらためて日本国内において
辰巳ヨシヒロが黙殺されてきたのか疑問に感じます。
いまでは大人がマンガを読むのも不思議なことではありませんが
それは大人向けのマンガが認知されたのではなく、
むしろ大人が子供化したようにみえるのは
勘違いでしょうか。

辰巳ヨシヒロさんは、2015年3月7日に永眠されました。
ご冥福をお祈りします。





にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ 
↑お気に召したらクリックしていただけますと、もんどりうって喜びます。
関連記事
スポンサーサイト

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

«  | ホーム |  »

プロフィール

のほうず
映画が好きで観るのはいいが、
かたっぱしから忘れていくので
オツムのリハビリ的ブログ。
******************
当ブログの文章・画像およびイラストの無断転載を禁じます。引用される場合は、出典の表記と当ブログへのリンクを設定してください。

FC2ブログランキング

FC2Blog Ranking

お気に召したら
クリックお願いします。
にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ

スポンサードリンク

↓過去の記事はこちらから!↓

検索フォーム

QRコード

QR

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

カウンタ