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フレンチアルプスで起きたこと

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(原題:FORCE MAJEURE 2014年/スウェーデン・デンマーク・フランス・ノルウェー合作 118分)
監督・脚本/リューベン・オストルンド 製作/エリック・ヘメンドルフ、マリー・シェルソン、フィリップ・ボバー 撮影/フレデリック・ウェンツェル 美術/ヨセフィン・オースバリ 衣装/ピア・アレボルグ 音楽/オラ・フロットゥム
出演/ヨハネス・バー・クンケ、リサ・ロブン・コングスリ、クリストファー・ヒビュー、クララ・ベッテルグレン、ビンセント・ベッテルグレン、ファンニ・メテーリウス

概要とあらすじ
フランスのスキーリゾートにやってきたスウェーデン人家族の状況が、ある事件をきっかけに一変する様をブラックユーモアを交えて描いたドラマ。2014年・第67回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門で審査員賞を受賞するなど、各国の映画祭や映画賞で高い評価を獲得。日本では第27回東京国際映画祭ワールド・フォーカス部門で「ツーリスト」のタイトルで上映されている。スマートなビジネスマンのトマス、美しい妻のエバ、そして娘のヴェラと息子のハリーは、一家そろってフレンチアルプスにスキー旅行にやってくる。しかし、昼食をとっていた最中、目の前で雪崩が発生。幸い大事には至らなかったが、その時に取ったトマスの行動が彼のまとっていた「理想的な家族の父親像」を崩壊させ、妻や子どもたちから反発や不信を買って家族はバラバラになってしまう。(映画.comより



夫婦で観てギスギスしよう!

『ブルー・バレンタイン』、『レボリューショナリー・ロード』、
『ゴーン・ガール』などなど、
「夫婦で観たらギスギスするぞ映画」の仲間入りを果たした
『フレンチアルプスで起きたこと』です。
なかでも本作は、
リアリティという意味では最もキツイかもしれません。

ふたりの子供を連れてフランスのスキーリゾートにやってきた
トマス(ヨハネス・バー・クンケ)
エバ(リサ・ロブン・コングスリ)の夫婦。
冒頭の記念撮影で、カメラマンから
「ご主人と奥さんはもっと顔を寄せて〜」といわれ、
頭をごつんとぶつけてみたり、
ホテルの受付で世間話をしながら
「うちの夫は仕事中毒だから」なんてエバが言ってみたりと、
この夫婦が倦怠期にあることの徴を
さりげなくあちこちに散りばめてある
のをみれば
この映画は面白いに違いないと思わせてくれます。

部屋に備え付けなのか、
家族四人が同じスウェットを着て眠るシーンや
みんなで並んで電動歯ブラシで歯を磨くシーンからは
この家族が一心同体だということを演じているように見えます。
鏡に向かって歯を磨くシーンは何度も登場し、
家族崩壊の度合いを示すバロメーターの役割も
担っています。

ホテルに来て二日目に事件が起こります。
(本作はバカンス中の五日間の物語)
レストランのテラスで食事をする家族。
「いい景色だね〜」
「あらこれ美味しいわ、ちょっと食べてみて」なんていう、
円満な家族関係を臭わせる小さな仕掛けがニクい。
すると、ドーンという爆音とともに
雪崩のガス抜きを目的とした人工的な雪崩が起きて
テラスに向かってきます。
「おお〜、すごいねぇ!」
「大丈夫かしら?」
「大丈夫だよ〜プロがやってるんだから〜」
「パパ!」
「大丈夫だってば」
「パパ! パパ!」
「(大丈夫かな……)」
「パパ! パパ! パパー!」
ザッパーン!!!!!!
……っていう、一連の流れが本当に恐ろしい。
もちろん、撮影はグリーンバックで
本物の雪崩の映像を合成しているのですが
それならなおさら、
息子ハリー(ビンセント・ベッテルグレン)の演技が素晴らしすぎ。

雪崩はテラスの直前で止まり、
何事もなかったのですが
母親エバは子どもたちを守ろうとしていたにもかかわらず、
父親トマスは一人で逃げていたのでした。

リューベン・オストルンド監督
本作のアイデアを思いついてから
リサーチをたくさん重ねたそうですが、
どうやら統計的に、人間が命の危険にさらされたときには
女性に比べ、男性の方が自分を守るために逃げ出す
という
傾向があるんだとか。

ここから、おそらく誰もが(とくに結婚経験者は)経験したであろう、
息が詰まるような気まず〜いやりとりが続きます。
最初は、夫婦関係を取り繕うような態度だったエバでしたが
「トマスはここぞというときには家族を見捨てる男」という考えから
離れられなくなります。

だらしない男のなかのひとりとして、
あの場面で自分が逃げないという確信が僕にはありません。
たとえ倫理的にも立場的にも
家族を守らなければならないのは自分だとわかっていても
自分が反射的にどんな行動をとるのか、まったく自信がありませんよ。

幸か不幸か、僕は男なので
トマスの(男性の)心理しか想像できませんが
とかく女性は、一点が許せないと全部ダメ!
となる傾向が強いように思います。経験上。
(女性からすげー怒られそうな予感にガクブル)
しかも、しつこい! 忘れないんだよ、オンナは!
「5年前のあのとき、あんたこう言った」みたいなことを
何度いわれたか! なんでそんなこと憶えてんだよ!
…てことはホント、よくあるっす。

それに対抗しようとする男性は
理屈を持ち出すわけです。
トマスも「それは受け取り方の相違であってさ……」てな具合に。
ま、本作の場合、トマスがひとりで逃げたのは明らかな事実であって
申し開きのしようもないのですが
トマスだって本能的かつ反射的に逃げたことを
後悔しているのですから
そんなに人格攻撃されてもどうしようもないのです。
もしもトマスがエバの非難をすべて受け入れた挙げ句に
思い詰めて自殺でもしていたら、
それこそエバは、どういう責任を取るつもりでしょうか。

いつまでもツンケンしているエバの態度に
耐えきれなくなったトマスは精神が崩壊し、泣き崩れます。
しかも嘘泣き。これぞ退行。
町山智浩さんが言ってましたが、
まさに空出張がばれて号泣していた地方議員がこれ。
泣き喚くトマスに子供も泣きながら集まってきて
「ママもおいでよ〜」ってなるシーン……なんだこれ(爆笑)
君たち、バカンス中だったよね。

気の毒だったのは、
ヒゲ男マッツ(クリストファー・ヒビュー)と
20歳のビッチとの不倫カップル。

エバとトマスに招かれて、部屋で食事をしていたのはいいけれど
酒に酔ったエバが「トマス逃亡事件」の話題を持ち出し、
ささやかなパーティは沈鬱なムードに。
「あなたもなんとかいいなさいよ!」とエバに詰め寄られたトマスが
緊張感が高まったなか、ついに口を開こうとした瞬間、
息子のドローンが飛んできて、わぁー!!
ニクい。くやしい。うまい。

理性的に、裁判官かつ陪審員みたいな役割を担っていた
ヒゲ男マッツでしたが
おそらくこの映画を観た後のカップルを代弁するかのように
「トマス逃亡事件」を引きずって
20歳ビッチと口論になります。
ビッチが「仮定だけど、あなたはトマスのように逃げると思う」と
いうまでは、まだギリ許せるとして
「あなたと比べたら○○のほうがマシ」みたいに
他の男と比べられたら、そりゃムカつきますよ。
しかも「だってあんた、妻や子供をほったらかして
ハタチの女と旅行に行くような男だもん」って、
その相手はお前だろが!
ムカついて眠れなかったマッツが、やっと眠ろうとしたら
「ホントにへんなひと。そりゃ、奥さんも別れたがるわ」
って、また余計なひと言をつけ加える20歳ビッチ。
さもありなん。
トマスのおかげで、えらいとばっちりです。

徹底的に男性のだらしなさを糾弾しているようでいながら、
バランスをとろうとしたのかどうか、
エバには常々溜め込んできた鬱屈があることも表現します。
なにやら性に自由奔放な女性に対して、
興奮気味に家族の大切さを力説するあたり、
エバが母親もしくは妻という役割に
束縛されていると感じているのがわかるし、
他人の考え方を容易には受け入れない性格の持ち主であることも
窺えます。

グズグズの和解のあと、
異様な緊張感に包まれた猛吹雪のゲレンデ
窪みに落ちた(?)エバをトマスが助けに行き、
抱きかかえて帰ってきたシーンで
トマスがかろうじて名誉挽回を達成したかに思えましたが
映画はそれだけでは終わらず、
ホテルから空港へと山の斜面を縫うように走る送迎バスの運転手が
どうにもポンコツで
急カーブの旅にギッタンバッコンやるのです。
このシーン、ほんとに怖い。
劇場でもひえ〜という観客の悲鳴が聞こえました。
「もういい加減にして! ここで降ろして!」というエバが
真っ先にバスから降りた
のは、何をかいわんや。

たったひとり降りなかった女性を乗せて先を行くバス。
バスから降りた乗客たちは
とぼとぼと長い道のりを歩いています。
当然、あんな運転手だったら安心してバスに乗っていられませんが
「トマス逃亡事件」と同様に、
結果的にはなにも問題は起こっていないのです。
なんなんでしょう、このかんじ……
恐怖に怯え、猜疑心を増幅させた挙げ句に
山の斜面を歩く彼らの心中やいかに。

多用されるフィックスしたカメラ
人間の生態を観察しているようだったし、
ホテルの廊下の幾何学的な切り取り方も美しかったです。
清掃員の男の存在が面白かったし、
素晴らしい雪山の景観が
ちまちました人間のいざこざを嘲うかのように雄大でした。

ぜひ、ご夫婦か恋人同士で観て
ギスギスしてください。



↓『兵庫県で起きたこと』




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