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ルック・オブ・サイレンス

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(原題:The Look of Silence 2014年/デンマーク・フィンランド・インドネシア・ノルウェー・イギリス合作 103分)
監督/ジョシュア・オッペンハイマー 製作/ジョシュア・オッペンハイマー、シーネ・ビュレ・ソーレンセン 撮影/ラース・スクリー 編集/ニルス・ペー・アンデルセン
出演/アディ・ルクン、アミール・シアハーン、アミール・ハサン、イノン・シア、M・Y・バスラン

概要とあらすじ
1960年代インドネシアで100万人もの命を奪った大虐殺の実行者たちにカメラを向け、各国の映画祭や映画賞で話題となった「アクト・オブ・キリング」のジョシュア・オッペンハイマー監督が、同事件を被害者側の視点から見つめなおしたドキュメンタリー。虐殺された男性の弟として生まれた眼鏡技師の青年アディが、オッペンハイマー監督が撮影した加害者のインタビュー映像に強い衝撃を受け、監督と共に加害者のもとを訪問。現在も権力者として暮らしている加害者に無料の視力検査を行なうことで彼らの警戒をそらしつつ、核心をついた質問の数々を投げかける。やがて明らかになる衝撃の事実を通し、「責任なき悪」のメカニズムが浮かび上がってくる。(映画.comより



虫の声は死者のざわめき

『アクト・オブ・キリング(2012)』
続編というか、姉妹編の
『ルック・オブ・サイレンス』

1965年、インドネシアで起きた軍事クーデター事件ののち、
大統領となったスハルト将軍は
反共勢力を巧みに扇動して
わずか1〜2年の間に100万人とも200万人ともいわれる
「共産主義者」の大虐殺
が行なわれました。
背後にはアメリカの思惑があったとされますが、
クーデターの真相は現在も不明。
実際に虐殺を行なったのは軍隊ではなく、
町のヤクザやチンピラで
被害者となった人たちも「共産主義者」ではない人も
含まれているという、
なにからなにまでいい加減な理由で実行された大虐殺です。
(もちろん共産主義者だからって殺していいはずないんだけど。
 ……って『アクト・オブ・キリング』でも同じこと書いてた)

『アクト・オブ・キリング』では、
その大虐殺の加害者たちが
当時の殺戮のようすを嬉々として演じてみせる
という
おぞましくもショッキングな内容でしたが
もともと、ジョシュア・オッペンハイマー監督
被害者側からの視点で映画を作るつもりだったところ、
彼らがあまりにも当時のことを語りたがらないため、
加害者側の視点で描くことに変更したのだとか。

ところが、多くを語らない被害者たちのなかに
一人だけ大虐殺の真相に興味を示したのが
本作に登場するアディさんだったのです。
そこで監督はアディさんの力を借りて
被害者目線の本作を制作するにいたったのでした。
ちなみに、オープニングとその後何度か登場する
勝手に動くアレは「ジャンピング・ビーン」という
植物の種子の一種だそうで
なかに産みつけられた蛾の幼虫が動いているんだとか。

アディさんの兄は大虐殺によって殺されたひとり。
彼の兄を殺した人間はいまでも近所に暮らしています。
アディさんの実家の暮らしぶりと比べると
英雄と湛えられたりもする加害者たちは
すいぶん立派な家に住んでいます。

『アクト・オブ・キリング』と同様に
加害者たちはやはり自慢げに当時の殺戮のようすを語りますが
検眼サービスで加害者たちのもとを訪れたアディさんは
驚くべき冷静さで当時の話を聞き出します。
感情を抑え込むような微妙な表情の変化を窺わせはするものの、
決して感情を露わにしない彼の望みは
加害者に復讐したり、責任を追及することではなく、
真相を明らかにし、罪を認めさせることなのです。

対する加害者たちは
虐殺の事実は認めるものの、
そもそも誰からも責められないので
決して後悔したり謝罪したりせず、
嫌な思い出に触れられて苛立ったり、逆上したりします。
加害者たちは、自分たちが行なった虐殺が
非人道的だと言うことは理解しているのでしょう。
だからこそ過去を封印したり、歪曲したり、
むしろ笑い話として語ったりするのではないでしょうか。
加害者たちは自分の過去と向き合うことから
かたくなに逃避している
ように見えます。

『アクト・オブ・キリング』の制作時に撮影されたビデオや
アディさんが検眼しながら引き出した話から
被害者たちがどのように殺されたかが徐々にわかってきます。
大なたで首を切り落とす。ナイフで喉をかき切る。
腸が飛び出すほど腹を切り裂き、
陰部を切り取り、次々と川へ蹴り落とす。
女性の乳房を切り落としたという老人は
「小さい穴がいっぱいあるんだ」と語り、
「正気を保つために殺した人間の血を飲んだ」
とも。

なぜ、ここまで残酷なことが出来るのか
不思議でなりませんが、
人間とはそういうものなのでしょう。
加害者たちは特別な極悪人ではないのです。

おそらくはずっと働きづめの手には深い皺が刻まれ、
小指が変形したアディさんの母親が
心に秘める深い悲しみと強い怒りは
ひしひしと伝わってきましたが
103歳になるという、アディさんの父親
長く病気を患い、痴呆が進行しているようすで
自分のことを16か17歳といい、
なんだかよくわからないエッチな歌を口ずさんでいます。

彼も相当な苦しみのなかを生き抜いてきたはずですが
いまとなってはその想いにも手が届きません。

かたや加害者のほうも軒並み高齢で
すでに死んでしまっている人も。
真実を知る当事者たちが
口をつぐんだままいなくなってしまう可能性が高くなっています。
恐ろしいのは、小学校の授業
クーデターで大臣を殺したのは共産主義者で
その末裔であるお前らは決して公職に就けないと
教えていること。
これでは永遠に真実が闇に葬られてしまいます。
意図的に施されたコオロギの鳴き声が
まるで死者の霊のざわめきのようです。

西田敏行そっくりな、
殺人部隊(コマンド・アクシ)の元リーダーがアディさんに対して、
「家はどこだ? なんていう村だ?」と聞き返すシーンは
報復を企んでいるのかと、ゾッとしましたが
事実、加害者たちよる報復は充分に可能性があるようで
アディさんが加害者と対峙するときには
身元がわからないような準備が入念にされ、
万が一のときにはすぐに国外脱出できるように
家族は空港で待機していたとか。

『アクト・オブ・キリング』と同じく、
エンドロールには「ANONYMOUS=(匿名)』の文字が
並びます。
本作はインドネシア国内でも上映されたそうですが
作品公開後、アディさんは家族とともに
別の地域に移住したんだとか。







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