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おとなのけんか

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(原題:Carnage 2011年/フランス・ドイツ・ポーランド合作 79分)
監督/ロマン・ポランスキー 脚本/ヤスミナ・レザ、ロマン・ポランスキー
出演/ジョディ・フォスター、ケイト・ウィンスレット、クリストフ・ヴァルツ、ジョン・C・ライリー

概要とあらすじ
トニー賞演劇部門の作品賞やローレンス・オリビエ賞の新作コメディ賞を受賞したヤスミナ・レザの舞台劇「大人はかく戦えり」を、「戦場のピアニスト」「ゴーストライター」のロマン・ポランスキー監督が映画化。子ども同士のケンカを解決するため2組の夫婦が顔をあわせ、話し合いを始める。最初は理性的に進められていた話し合いも、時間がたつにつれ各々の本性がむきだしになり、やがてそれぞれの夫婦間にも不協和音が生じていく。登場人物は4人のみで、室内でリアルタイムに進行する会話劇。ジョディ・フォスターとジョン・C・ライリー、ケイト・ウィンスレットとクリストフ・ワルツが2組の夫婦を演じる。(映画.comより)



最優秀ゲロ大賞受賞!

——「子どものケンカに親が出て」 というのは、
   つまり、 複雑化するということです。
   複雑化したら、向こうの親も出てくるでしょう。
   そうすると、 今度は親同士のわだかまりになっていきます。
   解決なんて、到底、 できなくなっていくんです。

   吉本隆明


さすが、知の巨人。答えが出ちゃいました。
まさか脚本のヤスミナ・レザが吉本隆明のこの言葉を知って
この作品のヒントを得たわけではないでしょうから
「子どものケンカに親が出て」ロクなことにならないのは
古今東西万国共通のようです。

少し離れた位置に固定されたカメラが、
遊び戯れる子どもたちをぼんやり眺めるような視線で
昼間の公園を映しています。
キャストとスタッフのクレジットが次々と浮かび上がり、
差し込む日差しに蒼く光る芝生にみとれていると、
子どもたち7〜8人の群れは徐々にカメラのほうに近づいてきて
やがて一人の少年が手に持った木の枝で別の少年を攻撃します。
殴られた少年は顔を押さえて倒れ込み、
殴った少年は反対向きに歩き去りながら、
止めてある自転車を腹いせに蹴飛ばすのです。
とくになんということはないオープニングのイメージシーンだと
高をくくっていたら、物語の導入が始まっていたのですから
この一杯喰わされた感じに悪い気はしないのです。

もともと舞台劇として書かれた脚本だけに
映画は4人の登場人物のセリフと演技で見せていく
いわゆる密室劇です。
オープニングとエンディングのシーン以外は
すべてマイケル(ジョン・C・ライリー)
ペネロペ(ジョディ・フォスター)の夫婦宅でストーリーが進行します。
しかも、シーンとシーンをつなぐブリッジになるような
短いシーンを除いて、どの場面にも4人が揃っているのです。
こんな作品にオファーを受けた俳優は
飛び上がって喜ぶのか、武者震いに身悶えるのか
どちらにせよ腕に覚えがない限り、出演に怖じ気づくのでは?

ポランスキーに腕を見込まれて選ばれた4人の俳優たちは
その実力をいかんなく発揮していると言っていいでしょう。
ほとんどのシーンで4人が揃っているのですから
自分以外の登場人物がセリフをしゃべっているときでも
それぞれがキャラクターを体現しなければならず
その佇まい、視線の動き、微妙な表情の変化などなどは
見応え十分です。

クランクインの前に、2週間ものリハーサルが行なわれ
演出だけでなく、俳優同士が親交を深めることにも配慮し、
ポランスキーからすべてのセリフを
頭に入れてくるように言われた俳優たち。
リハーサル中、ナンシー役のケイト・ウィンスレット
夫であるアラン役のクリストフ・ヴァルツ
「あの夫婦(マイケル&ペネロペ)はセックスレスだけど
 私たちは…ね(ハート)」
と言ったというから恐れ入ります。ベッドシーンなんかないのに!
79分の映画で、79分の出来事をリアルタイムに演じるのには
それほど役に入り込む必要があるのでしょう。

50歳にして芸歴47年(!)のジョディ・フォスター扮するペネロペは
知的で文化的、自分だけが正義だと思っている自意識過剰な活動家
ちょっと飯を残すと、世界を憂えているのは自分だけだという顔をして
「アフリカでは飢えた子どもたちが…」などと
自分の正義感を慰めるだけでまったく実行力はなく、
たとえ僕がいま無理して飯を腹に詰め込んだとしても
あいかわらずアフリカの子どもたちは飢えたまんまじゃねえか! と
全力で激しく突っ込みたいようなことを
のたまうお方がごく稀にいらっしゃいますけれども
ペネロペはまさにその典型で、
ご多分に漏れずアフリカに興味がおありなのです。
顔を紅潮させ、血管をはちきれんばかりに浮き上がらせ、
こぼれない程度の涙で目を潤ませながらキーってなる姿は
さすがとしか言いようがありません。流石。

マイケル(ジョン・C・ライリー)は金物屋
さほど教養はなさそうだけど、人の良さそうな男です。
かといって愚鈍でも貧しいわけでもなく、それなりに事業を成功させ
スコッチや葉巻にこだわりを見せる一面もあります。

アラン(クリストフ・ヴァルツ)は大きな案件を抱える弁護士
なによりもまず仕事優先な男です。
クリストフ・ヴァルツは『イングロリアス・バスターズ』と同様に
頭の切れる嫌みな男を演じさせたら、ピッタリです。

そして、アランの妻ナンシー(ケイト・ウィンスレット)。
『タイタニック』が沈没しても生き残ったほどの強者が見せつける
この作品の名場面は「ゲロ」です!
登場人物が嘔吐するシーンはよく見かけますが
いかに名優といえどそんなに都合よくゲロをもよおせるはずもなく、
(そういえば金魚を飲み込んでは吐き出す芸って
 めっきり見なくなりましたね。ま、名残惜しくもないけど)
どうしても口にほおばった液体を吐き出した感じが出てしまうのは
いかんともしがたいのですが、この作品のゲロシーンは
ゲロの量、タイミング、そして第二波のどれをとっても
映画史上に残るんじゃないかしらんと思わせる見事なゲロでした。
映画賞に「ゲロ部門」がないのを抗議したいくらいです。

この作品の舞台となっているのは
ニューヨークのブルックリンですが
撮影が行なわれたのは、パリ郊外に建てられたセットの中です。
すべてのシーンがこのセットの中で行なわれるため、
インテリアから本棚の本、冷蔵庫の中の食材に到るまで
リアリティーを追求してデザインされているそうですが
最も驚くべきは、この部屋の外は
グリーンスクリーン
だったということ!
つまり、窓の外に見える景色は合成なのです。
電車まで走っている外の景色は違和感などまったく感じることなく
それどころか窓から差し込んでいる自然光としか思えない光が
照明で作られたものであることに気づく余地もありません。
俳優だけでなく、その他のスタッフも
優れたプロたちだと言えるでしょう。
そこまでしてブルックリンを再現するなら
ハナからブルックリンで撮影すればいいじゃないか……
そう考えるのが自然ですが
ポランスキー監督はいろいろありすぎて
アメリカに入国できないのです。

最初は、できるだけスマートで穏やかな話し合いをしようと
作り笑いをしていた4人が次第に本音を露わにしていくさまは
見事なサスペンス的展開です。
「こんな非道い目に合った」「こっちだってこんな非道い目に合った」
という、被害者比べは現実にもよくある醜い光景ですし、
「木の枝を持っている」を「木の枝を装備している」とするような
自分の主張に合わせて「盛った」表現もよく見かけます。
たとえば、単に「母親が作った味噌汁」と言えば済むものを
「お母さんが丹精込めて作った具だくさんのホカホカな味噌汁」などと
言ってしまうのも、自分の論調に自身がないが故の、もしくは
欲張って大量にトッピングしてしまった故の「盛った」表現です。
このような「盛った」表現は
メディアに登場する文章にも散見されますので、
各々がリテラシーってやつで乗り切らねばなりませんな。

この作品は、一応コメディーに分類されるようですが
ジャンル分けはビデオレンタルショップの陳列のほかには
さほど役に立ちません。
もちろん笑いどころは盛りだくさんですが、相当にシニカルで
子供のけんかが問題だったはずなのに、
どんどん4人の論理が破綻していく展開は
「おまえが笑えるか?」と言われるようでもあります。
結局、おすましを辞めて本音を「まき散らした」二組の夫婦は、
最終的に修復など不可能な関係になっていくのです。

エンドロールでは、オープニングと同じ公園が映し出され、
そこには、すでに仲直りして一緒に遊ぶ子どもたちの姿が。
とほほ。大人って馬鹿ね。





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