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シュガーマン 奇跡に愛された男

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(原題:Searching for Sugar Man 2012年/スウェーデン・イギリス合作 85分)
監督・製作・撮影・編集/マリク・ベンジェルール 撮影監督/カミラ・スカーゲルストン
出演/ロドリゲス

概要とあらすじ
アメリカでデビューした後、南アフリカで局地的に支持された伝説のシンガーソングライター、ロドリゲスの数奇な運命をひも解くドキュメンタリー。1970年、著名な音楽プロデューサーに見出され、アメリカでメジャーデビューしたメキシコ系シンガーソングライターのロドリゲス。2枚のアルバムをリリースし、一部で高い評価を得るもののアルバムはまったく売れず、そのまま音楽シーンから姿を消す。しかし70年代後半、ロドリゲスのアルバムはアパルトヘイト時代の南アフリカへ渡り、「シュガーマン」をはじめとする楽曲が、抵抗運動を続けていたリベラル派の若者たちから熱狂的に支持されていた。12年度・第85回アカデミー賞で長編ドキュメンタリー賞を受賞。(映画.comより)



メリジェ〜ン、オママ〜

南アフリカ共和国と言えば、2010年にサッカーW杯が行われ、
本田と遠藤の鮮やかなフリーキックと
駒野の鮮やかなPK失敗が記憶に新しいのですが
長きにわたる人種隔離政策「アパルトヘイト」が
この国の印象をすこぶる悪くしているのは誰もが知るところ。
もともとは、「プア・ホワイト」と呼ばれる
アフリカーンス(オランダ系入植者の子孫)を
経済的に保護するために始まった「アパルトヘイト」は
主義も思想も関係なく、単に損得の問題で
法律によって有色人種を不等に差別するという、
まあデタラメな政策なのですが
自分が得をするなら、どんなにデタラメなものでも
目をつぶってしまえるのが人間の愚かさです。
われわれ日本人も、愚かな人間の例外ではなく、
南アフリカ共和国の貿易のお得意さんとして
有色人種でありながら「名誉白人」と呼ばれ、
例外的な待遇を受けていたこと、
「アパルトヘイト」に反対した国際社会が
南アフリカ共和国に対して経済制裁を行なっているさなかも
日本は南アフリカ共和国の最大貿易相手国であったことからも
われわれ日本人には、「アパルトヘイト」を
対岸の火事だと笑う資格はないのです。

そんな「アパルトヘイト」真っ盛りの1970年代後半
有色人種のみならず、白人からも
アパルトヘイトに反対する声が上がり始めるものの
反体制的な表現は検閲にかけられ、刑罰の対象にもなっていました。
そんな中、だれかがどこかから持ち込んだ曲「シュガーマン」
当時の南アフリカの人々の心をつかんだのです。

 シュガーマン 急いでくれないか
 こんな景色にはもううんざりなんだ
 青いコインをやるから
 俺にまた極彩色の夢を見せてくれ

こんな歌い出しの「シュガーマン」(=麻薬の売人)は
南アフリカで100万枚に及ぶ大ヒット。
その歌を歌うロドリゲス
ストーンズやプレスリーより有名になったのです。
とはいえ、ロドリゲスが一体何者なのかはわからず、
レコードにクレジットされた名前もまちまち。
そこで、「シュガーマン」おたくのふたりが
ロドリゲス探しを始めるのです。
ていうか、そんなに国民的なスーパースターなのに
それまでロドリゲスを探そうとするやつはいなかったのかよ!
曲の出所も曖昧で、歌手も正体不明。
そのくせ、「ステージ上で銃で自殺した」だの
「刑務所でヤク中で死んだ」だの勝手な噂が一人歩きして
かえって描写が具体的なところがまさに都市伝説です。

この作品を観ようと映画館に足を運んだ観客たちは
この作品が「自分の知らないうちに
南アフリカで大ヒットした歌手」の物語であることは
当然知っているわけで、
インタビューに答える登場人物たちが
死んだと思い込んでいるロドリゲスは
実は生きていることもわかっているのです。
ですから観客の興味は
「一体ロドリゲスはどんなふうに登場するのか」に注がれます。
ついに、登場したロドリゲスは……
さすがに40年の時を経ているので皺が増えてはいるものの
わりと若いときの風貌そのまんま!
メキシコからの移民というロドリゲスですが
もともと人種を特定しづらい顔立ちで、
どことなく東洋的な印象もあり、歳をとったロドリゲスは
無骨な尾木ママのようでもありました。

南アフリカでスーパースターになっているなど露知らず
2枚のアルバムを発表した後、ロドリゲスは
現在に至るまで肉体労働を続けていたのでした。
そして、ミュージシャンとして報われなかった過去を悔いたり、
肉体労働をしながら暮らす貧しい生活を呪うこともないのです。
夢に破れた男、もしくはチャンスを掴み損ねた不運な男だという声が
聞こえてきそうですが、本人は意に関せず
たんに日々の労働に向かい合っているだけなのです。
ロドリゲスにとっては、歌を歌うことも建築現場の清掃作業も
同じ労働であり、自己表現なのかも知れません。
歌詞に現れているように社会問題への関心が高く
一度は市長選に立候補するなど色気(?)を見せたようですが
ロドリゲスに漂うゆったりとした独特な時間の感覚と
微妙な笑みをたたえた表情は、社会運動家のそれとは違い、
恐れずに言うなら御神木のような佇まいを感じてしまいます。

ついに実現したロドリゲスの南アフリカでのコンサート。
5000人収容の会場を埋め尽くした観客たち
あふれんばかりの熱狂に胸が熱くなります。
しかし、ロドリゲス本人はいたって平常心。
曲のイントロに乗ってステージに登場したロドリゲスは第一声、
「生きてたよ。」
くぅ〜〜、しびれるぜ、アニキ!
ほんとに自分が置かれた状況をわかってんのかな、と
疑いたくなるほど余裕なのです。
計6か所で行なわれたコンサートは
すべてソールドアウトだったそうです。

そもそも、正体不明の歌手が歌う歌に心酔できる南アフリカの人々は
随分といいかげんなようにも見えますが
誰が作った歌か知らないが、いいものはいいと受け入れられる感受性は
大いに見習うべきところでしょう。
そのためにはまず、自分がいいと感じるものは何かを
知っておく必要があります。
自分がいいと感じるものの基準さえ持っていれば
ヒットチャートや売上枚数や知名度に目配せする必要はないのです。
この作品がアカデミー賞を受賞したこともあり、
話題にも上がっていることから、
「日本でライブをやってほしい」などと
全く必然性のないことを言い出すバカがちらほらといるようですが
そんなやつは白人専用トイレでカマ掘られればいいのです。

第一に、南アフリカの人々の心に響いたのは
ロドリゲスの歌詞であることから
ボブ・ディランが引き合いに出されますが
ディランの歌はどちらかというと「語り」に近く
そのメッセージの訴求力が強いのは世界中が認めるところです。
それに比べ、ロドリゲスが歌う曲はよりメロディアスで叙情的であり
その分、訴求力より浸透力が強いと言えるのかもしれません。
注目すべきは、ロドリゲスの歌が
つねに自分の身のまわりの出来事を綴ったものであり、
特定の場所などの具体的なモチーフが用いられているのもかかわらず
遠く離れた南アフリカのアパルトヘイトに反対する人々の心に
届いたという事実です。
なぜ、そのような置換が可能だったのか。
拙い解釈を述べさせていただけば
それは、ロドリゲスの言葉が切実だったからではないでしょうか。
自ら普遍的な表現を念頭に置き、
社会が抱える問題を言葉にしようとすると
得てして社会通念に迎合したり、
毒にも薬にもならない最大公約数的な表現を生み出し
結果的に普遍とはほど遠いものができあがってしまうのですが
ロドリゲスは望遠鏡で世界を見渡すのではなく
顕微鏡を覗くように自分が日頃から感じている切実なことを見つめ
描写された細胞の構造が受け取る側には宇宙の構造に見えた
ということなのではないでしょうか。
社会を構成するのは個人なのですから
個人が抱える想いを躊躇なく、真摯に描き出すことができれば
結果的に社会を描くことになるのでしょう。

この作品は、数奇な運命をたどった
ロドリゲスというミュージシャンを題材にしていますが
発見されたあとの彼のキャラクターが観客に訴えるのは
強欲や虚栄心に対する強烈な批判です。
インタビューに答える娘たちや肉体労働の仕事仲間の
言葉から伝わってくるのは
ロドリゲスがいかに愛され、尊敬されているかということです。
仕事仲間のなかには、それまではバカにしていたのに
ロドリゲスの評価を知った途端に
「おれはロドリゲスに酒をおごったことがある!」などと
言い始めるお調子者もいるはずですが
三人の娘たちがそれぞれに発する父への敬意と愛情を見るにつけ
ロドリゲスを不運な男と片付けてしまうのは
早計なように思います。

毎日仕事をし、家族から愛されている……ほかに何がいる!?





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