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ヤンヤン 夏の想い出

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(原題:Yi yi (A One and a Two) 2000年/台湾・日本合作 173分)
監督/エドワード・ヤン 製作/河井真也、附田斉子 撮影/ヤン・ウェイハン 音楽/カイリー・ペン 照明/リー・ロンユー 編集/チェン・ポーウェン 録音/ドゥー・ドゥーツ
出演/ウー・ニェンツェン、エレン・ジン、イッセー尾形、ケリー・リー、ジョナサン・チャン

概要とあらすじ
エドワード・ヤン監督が「カップルズ」以来4年ぶりに取り組んだ家族劇。ヤンヤンは祖母と両親、姉と台北のマンションに暮らすごく普通の家庭の少年。ところが、叔父の結婚式を境に、様々な事件が起こり始める……。現代の家族を取り巻く多彩なエピソードを同時進行させ、時には対比させた緻密な構成で描いていく。穏やかさの中に異様な緊迫感が同居した映像世界は、ヤン監督作品ならではの濃密さ。イッセー尾形の出演も話題に。(映画.comより



繰り返される人生の悲哀

『恐怖分子』
エドワード・ヤン監督にノックアウトされて
他の作品も観てみたいと思いたち、
かろうじてレンタルできたのが『ヤンヤン 夏の想い出』
そのほかの作品はVHSがわずかにあったりするけれど
どちらにしろ、エドワード・ヤン監督作品が
気軽にみられる状況にないのは残念で仕方がありません。
本作はエドワード・ヤン監督の遺作となった作品です。

なんだか、邦題から予想すると、
ヤンヤンという少年のひと夏の体験を
描いている作品のように思いますが
ヤンヤンが物語の中心というわけではありません。
むしろヤンヤン(ジョナサン・チャン)
この映画で描かれるさまざまな出来事の無垢な傍観者
本筋は、ヤンヤン以外の大人、
もしくは大人になろうとしている少年少女たちを捉えた
群像劇です。

ある家族を題材に
少しずつ歪み、思い通りにならない人生を描こうとする本作は
『恐怖分子」のようなクライム・サスペンスではありませんが
それでも日常に潜む「不満分子」
そこかしこに顔を出します。
冒頭の結婚式のシーンで
新郎の昔の女が一騒動起こし、おばあさんが体調不良を訴えたりと、
お祝いムードの中に不穏な先行きを予感させますが
N.J.(ウー・ニェンツェン)が運んできた新郎新婦の肖像画を
上下逆さまに置いてしまうジョークによって
なにかしらの波乱が巻き起ころうとしているのは確実です。

経営の危機にあるコンピュータ会社に勤めるN.J.は
日本人のゲーム・クリエーター大田(イッセー尾形)
提携しようとする会社から交渉役を任されます。
立て直しを図ろうとする会社は、
業界で有名な大田を巻き込もうと企んでいますが
なんなら大田のパクリを得意とする小田でも構わないと思っているほど
いい加減で場当たり的。
それをよしとする同僚に辟易していたN.J.でしたが
知的で冒険心に溢れた大田に魅了されて意気投合し、
なおさら自分が置かれた状況を息苦しく感じ始めます。
カタコトの英語に日本語を交えながら話すイッセー尾形の演技が絶妙で
肩に鳩を乗せたイッセー尾形が
手を広げてゆっくりと回る
さまをみたN.J.は
浮世離れした神聖さすら感じとっていたはずです。

脳卒中で倒れた母親に話して聞かせることがなにもないと
嘆くN.J.の妻は新興宗教の占いを頼り、
早々に物語から退散してしまいます。
残されたN.J.とともに、多くの時間を割いて語られるのが
ヤンヤンの姉ティン・ティン(ケリー・リー)のエピソード。
隣に引っ越してきた、恐ろしく足の長い少女と友達になって
その少女の奔放すぎる恋愛事情に巻き込まれるうち、
ティン・ティンは苦い初恋を経験することに。
ティン・ティンの純真さを表現するかのような
純白のワンピースが放つ美しさの破壊力たるや。

大田と本格的な交渉をするために東京を訪れたN.J.は
かつて愛した女性シェリーと落ち合わせて
ひとときの甘い時間を過ごします。
二度目の結婚生活をおくっているシェリーは
N.J.の予定に合わせてシカゴから東京へ飛んできたのです。
すごい行動力だな! と思いますが
それほどふたりは愛し合っていたのに結ばれなかったのでした。
30年ぶりに再会しても、お互い愛し合っているにもかかわらず、
30年前と同じように、やっぱり言い争ってしまうふたり。
一度逃した恋愛のタイミングは取り返せないのですな。
(しみじみ……)

東京のN.J.が、報われない恋愛を改めて再確認しているころ、
台北ではティン・ティンが身勝手で弱い青年に翻弄され、
涙を流しています。
ヤンヤンは何をしているかといえば、
毛嫌いしていた女の子のスカートがめくれて
まばゆいばかりに白いパンツを目撃したことで
恋に目覚めようとしています。


人生に疑問を感じ始めているN.J.、
少女から大人の女性へと変わりつつあるティン・ティン、
誰かを好きになるという感情を初めて味わうヤンヤンという
それぞれ違う世代が抱える悩みが平行に描かれ、
誰もが皆、同じ興奮と同じ挫折を繰り返し、
いつしか同じように成長していく
ということが表現されています。
(まったく成長しないN.J.の義弟みたいなやつもいるけど)

あらゆることに未熟なヤンヤンは
自分の人生を把握している状態ではありませんが
「真実の半分だけって、あるの?」
「お互い何が見えるかわからないとしたら、
 どうやってそれを教え合うの?」
などと
子供らしい無垢さで真をついたセリフを吐きます。
カメラに凝り始めたヤンヤンが撮る写真は
「自分では見られない後ろ姿」ばかり。
ヤンヤンは、自分で把握できる世界と
そうではない世界が存在することを知っているようです。
冒頭から登場する監視カメラの映像が
このことを裏付けています。

かたや理不尽な失恋を体験し、現実に失望真っ最中のティン・ティンは
「私は目を閉じていたい。夢の世界は美しいから」
と、思春期特有の厭世観を漂わせます。
新婦が妊娠中の結婚式で始まり、葬式で終わる物語は
ミニマルでありながら、日常のなかに潜む無常観を
壮大に紡ぎ出しています。

173分となかなか長尺だし、
どこにでもあるような物語に退屈するひとがいるかもしれませんが
映像的にも見どころ満載です。
ガラスの映り込みを効果的に使ったショット、
中心人物の後方で騒ぐ連中たち、
ティン・ティンの初キッスシーンの赤い信号、
熱海の旅館の一室で青のなかに浮かび上がるN.J.のシルエット、
ドアの隙間から覗き込むような複雑なアングル……

はたまた、編集の妙でいえば
胎児のエコー映像からの植物のくだり、
地球を作ったという雷からの大雨のシーン
などなど
思わず唸ってしまうような演出が散りばめられています。

いやあ、エドワード・ヤン。
もっと観たい。





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