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皆殺しのバラッド メキシコ麻薬戦争の光と闇

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(原題:Narco Cultura 2013年/アメリカ・メキシコ合作 103分)
監督/シャウル・シュワルツ 製作/ジェイ・バン・ホーイ、ラース・クヌードセン、トッド・ハゴピアン 撮影/シャウル・シュワルツ 編集/ブライアン・チャン、ジェイ・アーサー・スターレンバーグ 音楽/ジェレミー・ターナー

概要とあらすじ
ロバート・キャパ賞を受賞したイスラエル出身の報道カメラマン、シャウル・シュワルツ監督が、メキシコ麻薬戦争に迫ったドキュメンタリー。石油の輸出総額が300億円に上るメキシコは、世界10大産油国の1つに数えられるが、麻薬産業でも石油と同規模の輸出額があると推測されている。政府は2006年から麻薬組織撲滅の「麻薬戦争」を遂行するも現状を変えるには至らず、6年間で12万人もの死者を出す。その一方で、麻薬密輸ギャングをアウトローのヒーローとして受け止める人々も現れ、「ナルコ・コリード」という音楽ジャンルでは、麻薬カルテルを英雄として称えている。麻薬ギャングの讃歌を歌い人気を集めるナルコ・コリード歌手や、麻薬から街を守ろうと奮闘する警察官らの姿を通し、メキシコ麻薬戦争の光と影を浮き彫りにする。(映画.comより



現実を浸食するファンタジー

『皆殺しのバラッド メキシコ麻薬戦争の光と闇』は、
あいかわらず副題が長えなというのはともかく、
みなさんご存じないかも知れませんが、
メキシコはこんな非道いことになってますよー、という
告発ドキュメンタリーにとどまらず、
普遍的な居心地の悪さをもたらします。

それは、メキシコのシウダー・フアレスという最凶な街で
警察官を務めるリチ・ソトに密着して
想像を絶する暴力が幅をきかす日常を映し出すだけではなく、
アメリカはロス・アンジェルス在住のエドガー・キンテロという
「ナルコ・コリード」の売れっ子ミュージシャンを
対照的に描いているからにほかなりません。

正直に言って、
気にくわないやつを力でねじ伏せたい願望はあるし、
相手を出し抜いたり、懲らしめたりするのを
横暴な権力に対抗する反体制的かつ英雄的な行為として
羨望のまなざしと喝采を送ることはあります。
そんな快感を描いた映画もいっぱいあるでしょう。
そのような根源的(潜在的)な欲望があるのは認めるものの、
社会生活においてそんな暴力的欲求が受け入れられるはずもなく、
だからこそ映画や小説という虚構の世界で
押さえ込んだ本能的(?)欲望を発散していると思うのですが
本作においては、現実と虚構が
もう、わやくちゃになっています。

(その、わやくちゃな状態こそが現実なんだけど)

ワルって、かっこいいぜ! というファンタジーを売り物にしている
LA在住のエドガー・キンテロは
「手にはAK-47 肩にはバズーカ
 邪魔する奴は頭を吹っ飛ばす
 俺たちは血に飢えているんだ 殺しには目がないぜ」

てな歌詞の歌を歌って大人気。
この曲が、これまた陽気に聞こえるポルカ
(単純にポルカではなく、いろんな要素が混ざっているらしいけど)
現実味を麻痺させます。
しかも、エドガーは、LA生まれのLA育ちで
メキシコには行ったこともなく、
もっぱら「ナルコ・コリード」の歌詞を作るための情報源はネットで、
もう、ぺらっぺらなのです。

それでも大人気のエドガーのライブでは、
観客たちが「防弾チョッキも着ないで〜♪」なんて
合唱していて、やっぱりぺらっぺらなのです。
「暴力反対!」なんつって銃を構えるファンの姿や
「ギャングの彼氏がほしいわ」という女の子たちをみれば
彼らにとってメキシコの麻薬カルテルが
ファンタジーでしかない
ことがわかります。
麻薬カルテルの活躍(?)は歌だけでなく、
Vシネみたいな映画にされてスーパーマーケットで売られていて、
これまた大人気。

かたや、人口100万人のメキシコのシウダー・フアレスでは
年間3000件以上の殺人事件が起こり、
まるで現実がファンタジーに浸食されたかのようです。
「銃弾コレクター」と揶揄される地元警察は
ほとんどの事件を捜査することもできず、
現場に残された薬莢を拾い、
死体をかたづけるのが仕事のようになっています。
顔がばれると自分の命が狙われる警官たちは
覆面をして現場へ向かう始末。
まるで警官たちはこれから強盗にいこうとしているようで、
もう、どっちが悪者だかわからないのです。

すっかり警察を怖がらなくなった麻薬カルテルのギャングたちは
逮捕されたらどうしようと心配するはずもありません。
政府と麻薬カルテルの立場は完全に逆転しているように見えます。

気に入らない相手は簡単に殺してしまう麻薬カルテルですが
彼らは殺すだけでは飽きたらず、
バラバラにして人目のつく場所に放置し、
拷問を撮影して、むしろ誇らしげにネットにアップ
しています。
いくつかの麻薬カルテルがシマ争いをしているのは
当然、利益の拡大が目的ですが
死体をバラバラに切り刻んで
「人間ジグソーパズル」と書き置きするギャングたちもまた
暴力的なファンタジーの世界に浸っているように感じます。
このあたりのことは、
『悪の法則(2013)』で描かれていましたが
あの映画はフィクションだからとか考え始めると
もうほんとに、なにが現実なんだかわからなくなってきました。

刑務所に収容されている元ギャングがひとり登場しましたが、
街中が恐怖に怯えているギャングたちは登場しません。
本物の麻薬カルテルに接触して撮影することが
命を危険にさらすことになるのは容易に想像でき、
取材不可能だったと推測しますが
麻薬カルテルの一員がまったく姿を見せないことで
不気味さが増し、より一層恐怖を煽ります。

警察官のリチは希望を捨ててはいないみたいだけど
こんな状況を元に戻す事なんて
本当にできるんでしょうか……
「ワルって、かっこいい!」とはしゃぐ連中は
まるっきり能無しにしか見えないけれど
これまた、他人事とは思えず……
どこから手をつけていいものやらわからないので
とりあえず今日のところは、酒を飲んで寝ることにしました。





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