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セッション

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(原題:Whiplash 2014年/アメリカ 107分)
監督/デイミアン・チャゼル 製作/ジェイソン・ブラム、ヘレン・エスタブルック、ミシェル・リトバク、デビッド・ランカスター 脚本/デイミアン・チャゼル 撮影/シャロン・メール 美術/メラニー・ペイジス=ジョーンズ 衣装/リサ・ノーシア 編集/トム・クロス 音楽/ジャスティン・ハーウィッツ
出演/マイルズ・テラー、J・K・シモンズ、メリッサ・ブノワ、ポール・ライザー、オースティン・ストウェル、ネイト・ラング

概要とあらすじ
2014年・第30回サンダンス映画祭のグランプリ&観客賞受賞を皮切りに世界各国の映画祭で注目を集め、第87回アカデミー賞では助演男優賞ほか計3部門を受賞したオリジナル作品。世界的ジャズドラマーを目指して名門音楽学校に入学したニーマンは、伝説の教師と言われるフレッチャーの指導を受けることに。しかし、常に完璧を求めるフレッチャーは容赦ない罵声を浴びせ、レッスンは次第に狂気に満ちていく。「スパイダーマン」シリーズなどで知られるベテラン俳優のJ・K・シモンズがフレッチャーを怪演し、アカデミー賞ほか数々の映画賞で助演男優賞を受賞。監督は、これまでに「グランドピアノ 狙われた黒鍵」「ラスト・エクソシズム2 悪魔の寵愛」などの脚本を担当し、弱冠28歳で長編監督2作目となる本作を手がけたデイミアン・チャゼル。(映画.comより



そういうことじゃないけど、グっとくるぜ!

オープンしたばかりのTOHOシネマズ新宿で
『セッション』を。

コマ劇場跡地に屹立するTOHOシネマズ新宿
ゴジラがひょっこり顔を出していることで話題になりましたが
これまでの歌舞伎町の下世話な雰囲気を一掃する
破壊力を十分に備えています。
いや、違和感というべきか。
とはいえ、その向かいには「無料案内所」のケバケバしいネオンが
あいかわらず燦然と輝いているし、
ビルの1階に並ぶ飲食店は
「餃子の王将」「リンガーハット」「銀だこ」
庶民ウェルカムなメンツが揃っているので、
店構えがちょとシャレオツだからといって
臆することはありません。
開演10分前にならないとスクリーンの前まで入らせてもらえないので
違う映画を目的とする客がひとつの列に並び、
その列がロビー全体の動線をぶったぎって無意味に混雑します。
今後の改善が望まれますが
スクリーンそのものは大画面で、座席も快適でした。

さて、ネット上で
ちょっとした論争(てほどでもないけれど)になった本作。
菊池成孔氏が自信のブログで本作を酷評したことに対して、
町山智浩氏が反論した
のが発端で、
おふたりの言い分を
もう読みたくて読みたくて仕方がなかったのですが
映画を観る前に読んでしまって少しでも影響されたらまずいと思い、
我慢していたのです。
(映画鑑賞後にそれぞれ読みました)

音楽大学に通うドラマー、アンドリュー(マイルズ・テラー)
鬼教官フレッチャー(J・K・シモンズ)の対決、というのは
本作の紹介を読めば誰にでもわかることですが、
ファーストシーンからこのふたりがふたりっきりで邂逅し、
わずかな火花を散らす単刀直入な導入は好印象でした。
以降、『フルメタル・ジャケット(1987)』
鬼教官になぞらえたようなフレッチャーのシゴキが展開します。

本作に登場する
「無能なやつはロックをやれ」という言葉そのままに無能な僕は、
無能なりにも長年バンド活動をしていたのですが
ライブの前に円陣を組んで「よっしゃ、いくぞー!」なんて
ステージへ出て行くような体育会系なノリが大嫌いでした。
ましてや、体力ならびに精神の限界に挑むような
音楽の練習方法には白けるばかりです。
音楽なんですから、いい演奏をするためには
疲れたら、ちゃんと休むべきなのです。

でも、本作で描かれることは僕の考えていることとは真逆です。
疲れたら休めなんて、甘っちょろいことをいってるから
お前はプロのミュージシャンになれなかったんだといわれれば
そうかもしれません。
高校時代に野球部に所属していた僕は
すっかり陽が落ちた真っ暗闇のグラウンドで外野ノックを受けさせられ、
ボールが見えないのでフライをキャッチできないでいると
姿が見えない監督に「気合いをみせろ!」と遠くから怒鳴られたので、
バカバカしくなって野球をやめたような弱い人間です。

そんな僕のことはどうでもいいのですが
とにかく、後半でフレッチャーが
チャーリー・パーカーの「シンバル投げられ事件」になぞらえて
語ることが真実だとすれば
フレッチャーはライオンが子供を崖から突き落とすように
あえて生徒をどんぞこへとつき落とし、
そこから這い上がってくるものだけが本物だという信念に基づいて
アンドリューを叱咤しているのでしょう。
ところが、フレッチャーの教えには
這い上がるべき崖がなんなのかすらわかりません。
フレッチャーの教えには正解がないのです。
メトロノームで正確なテンポを示すことすらせず
テンポが速い、いや遅い、を繰り返すのは
ただのイジメでしかありません。

露悪的なフレッチャーがアンドリューに求めるのは、
ドラミングの手数の多さやスピードの速さに終始しています。
言わずもがな、巧みな演奏=速い演奏ではありませんが、
映画で楽器演奏の巧みさを伝えるときには、
往々にして早弾きが用いられます。
『クロス・ロード(1986)』でも、
ボトルネックを使うブルース・ギタリストのラルフ・マッチオが
スティーヴ・ヴァイと早弾き対決します。
(しかもラルフ・マッチオは、
 最終的にギターでクラシックを弾いて勝利してしまうため、
 結果的にロックやブルースを否定してしまう……)
早弾きによる「巧さ」に表面的な説得力があるのは事実ですが、
この演奏はスゲエんだぜ! と
観客に納得させる方法がほかにないのでしょう。

要するに、フレッチャーの教えは
どう考えても音楽的に的外れだし、
人格否定のハラスメントでしかない彼の指導方法によって
ドラムが上達するはずもないので
ボトルネックを使うブルース・ギタリストが早弾きするような
荒唐無稽な絵空事として観たほうがいいような気がします。
流血しながら必死にドラムを叩くのは
いかにも過酷な試練に立ち向かっているようにみえますが
ドラムが上達するということが「そういうことじゃない」のは
誰しもわかることでしょう。

ツンデレを見事に使い分けるフレッチャーの思惑通りに、
理不尽な教えに怯えていたアンドリューは
いつしかフレッチャーに感化されて
この苦行を耐え抜いたものだけが本物になれるんだとばかりに
ドラムの練習に打ち込みます。(ドラムだけに、ね…)
練習に励むだけならよかったのですが
自分がやろうとしていることは崇高だと思い始めて、
他人を見下すようになってしまい、
せっかくできた可愛い彼女ニコル(メリッサ・ブノワ)には
足手まといになると別れを切り出します。
ほんと、バカです。
(初デートのピザ屋のシーンから
 ニコルは人生の目標がない人間として描かれていて
 アンドリューのオレ様とは違う感の根拠になっています)

さて、事態はどんどんエスカレートして
クライマックスへ。
ステージ上でフレッチャーに殴りかかって退学になったアンドリュー
フレッチャーのハラスメント授業によって
鬱になった生徒の自殺の責任を訴える訴訟の証言者となり、
フレッチャーも大学講師をやめることに。
再会したふたりは慰め合うかのように心を通わせ、
フレッチャーはアンドリューをバンドに誘うのでした。
またしてもアンドリューは、フレッチャーのツンデレに騙されるのですが
ここまでくるとフレッチャーはツンデレどころか、
多重人格者のようです。

いざ本番。
うきうきしているアンドリューの前に立ったフレッチャーは
「オレを甘く見るなよ。密告したのはお前だな」と鬼に豹変。
フレッチャーはアンドリューがまったく知らない曲を始めます。
譜面もないからオロオロするばかりのアンドリュー。
ま、アンドリューがうろたえる姿をみれば
客だって、あいつへたくそだな〜と思うより
あいつ、ハメられたなって気づくと思うのですがそれはともかく、
フレッチャーは、アンドリューにもう一度客前で恥をかかせて
二度と音楽などできないほど打ちのめしてやろうとする
のです。
これ、フレッチャーに対する評価も下げてしまう可能性が高く、
どう考えてもフレッチャーにとってメリットはなく、
あるのは、ただただアンドリューを陥れることだけ。

チャーリー・パーカーの「シンバル投げられ事件」を持ち出して
生徒を厳しく指導しようとしていたなんて嘘っぱちで、
フレッチャーは病的なサディストだったのです。
しかも過去にミュージシャンになる夢を挫折した経験があるようで
自分の苦い経験の腹いせに生徒を追い込んでいた(と思われる)
のですから、相当にたちが悪いのです。

またしてもフレッチャーに愚弄されたかにみえたアンドリューは
今度は飛びかかるのではなく、ドラムで反撃開始。
これにはグイグイ引き込まれます。
『キャラバン』から、やがては長いドラムソロへ。
ドラムを「叩く」という身体性
なにかを訴えているように見えやすいから効果的ですね。
あなた、もしこれがフルートだったら
いくら手に汗握りたくても、なんか力が入らないでしょう。

てめえ、なにやってんだ状態だったフレッチャーも
いつしかアンドリューのドラムに魅了され、
ふたりはやっと音楽で通じ合い、心を共鳴させるのです。
逆さにしたバケツでリズムを刻むストリート・ミュージシャンのように
原初的な音楽の魅力を図らずも蘇らせるのでした。
演奏が終わった瞬間、観客の拍手など入れずに
エンドロールへと至る終わり方
が気持ちいいカタルシス。
ここまでくれば、演奏に対する評価など関係ないのです。

フレッチャーの罵倒ボキャブラリーの豊富さに
思わず笑ってしまう場面もありました。
菊池成孔氏のようにジャズに精通していないほうが
むしろ単純に楽しめるでしょう。
(といっても、僕が読んだ限り、
 菊池成孔氏は「ジャズの素人」を少しもバカにしてはいませんよ)

↓ご参考まで。
naruyoshi kikuchi INTERNET TROISIEME
「セッション!(正規完成稿)~<パンチドランク・ラヴ(レス)>に打ちのめされる、「危険ドラッグ」を貪る人々~」


映画評論家町山智浩アメリカ日記

naruyoshi kikuchi INTERNET TROISIEME
「町山さんにアンサーさせて頂きます(長文注意)」


↓4/22 菊池さんのアンサーに対する町山さんのアンサー。
『セッション』菊地成孔さんのアンサーへの返信





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