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恐怖分子

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(原題:恐怖分子 The Terrorizers 1986年/香港・台湾合作 109分)
監督/エドワード・ヤン 製作/リン・トンフェイ 脚本/エドワード・ヤン、シャオ・イエ 撮影/チャン・ツァン 美術/ライ・ミンタン 編集/リャオ・チンソン 音楽/ウォン・シャオリャン
出演/コラ・ミャオ、リー・リーチュン、チン・スーチェ、クー・パオミン、ワン・アン、マー・シャオチュン、ホアン・チアチン、リウ・ミン

概要とあらすじ
遺作ともなった「ヤンヤン 夏の想い出」などで知られ、1980~90年代には台湾ニューシネマを牽引した鬼才エドワード・ヤン監督が86年に手がけた長編第3作。80年代の台北を舞台に、都会に暮らす人々の不条理や孤独を浮き彫りにした群像劇。少女シューアンがかけた1本のいたずら電話によって、カメラマンとその恋人、女性作家と医師の夫、その元恋人、不良少女、刑事など、何のつながりもなかった人々の間に奇妙な連鎖反応が生じ、やがて悲劇が巻き起こる。日本での劇場初公開は1996年。2015年、デジタルリマスター版が公開。(映画.comより



風が知らせる恐怖の徴

デジタルリマスター版が19年ぶりに劇場公開されるとのことで
鬼才と呼ばれるエドワード・ヤン監督
『恐怖分子』を初めて観ました。

ライトな映画ファンの僕は
エドワード・ヤン監督のことを知りませんでしたが
数々の絶賛記事を目にするより前に
予告編を見てそのかっこよさに圧倒されたのでした。

とくに冒頭の数分間は鮮烈で
活気や熱気の感じられない町並みのなかを走る
パトカーの赤いランプとサイレン
日常に潜む危険な存在を知らしめるかのように
神経を逆なでして、不安を煽ります。
突然現れる道路に横たわる死体、うるさく吠える犬、
窓からぬっと現れる拳銃を持った腕。

不穏な空気だけが充満し、なにも正体を露わにしません。
意味を拒絶するかのようなモンタージュの連続に
混乱するというより、不安になります。
かろうじて、
カメラ好きの青年シャオチェン(マー・シャオチュン)
ハーフの少女シューアン(ワン・アン)
物語をつかむきっかけを与えてくれそうになりますが
この二人は本作を構成する重要な要素ではあっても
主人公というわけではありません。

その後、リーチュン(リー・リーチュン)が勤める病院の
一角を捉えたショットの幾何学的な構図の美しさ
改めて目を見張るのですが
単に美しいというだけでなく、
管理され、抑圧されたリーチュンの平均的な生活までも
表現しているような気がします。

中盤では、
リーチュンの妻で小説家のイーフェン(コラ・ミャオ)
新作が書けなくて苦しんでいるさまが中心となり、
冒頭シーンの脱出劇で足を骨折したシューアンが
暇つぶしにイタズラ電話をかけるまでのようすが描かれます。
よくよく考えれば、本作の登場人物たちは
それぞれが囚われた状態だともいえそうです。
リーチュンは社内の昇格を巡るパワーバランスに、
イーフェンは家に閉じこもって小説を書くという擬似監禁状態に、
シューアンは骨折と母親の束縛に。
単に観察者として存在するかのようなシャオチェンは
じつは大富豪の御曹司で
もっとも自由気ままに生きているように見えますが
彼には徴兵という閉ざされた未来が待ち受けています。

それまでバラバラだったエピソードは
シューアンがたまたまかけたイタズラ電話の相手が
リーチュンの妻イーフェンだった
ことで急速に絡まり始めます。
イーフェンはこのイタズラ電話のエピソードに着想を得て
新作を書き上げ、賞を授かって
リーチュンとの別居生活が始まるのですが
イーフェンが夫リーチュンにぶつける不満というのが
ああ、女ってこうだよなぁ〜と思いながらも
本当に意味不明で腹立たしくて仕方ありません。

イーフェンの過去の流産は、創作の産みの苦しみともリンクしますが
彼女の苦しみはどう考えても夫リーチュンの責任ではなく、
リーチュンは最大限妻に自由を与えようと譲歩した挙げ句に
勝手に家を飛び出したイーフェンを探している間に
課長への昇進までフイになってしまいます。
にもかかわらず、イーフェンは
「あなたはなにもわかっていない」
リーチュンの不理解を責めるのですが
じゃあ、おまえはどうなんだといえば
自分を特別扱いしてくれる男と浮気しているだけのメス犬なのです。
しかも、彼女がイタズラ電話を契機に書き上げた小説は
最後には夫が自殺してしまうというもの。
これはいうまでもなく、イーフェンの願望が投影されているはずで
妻が夫を殺すならともかく、夫の自殺に設定するところが浅ましく、
リーチュンが不憫でなりません。

本作で特徴的なのは、外界との境界となる窓やドアです。
それは少しだけ開いていたり、拳銃が飛び出てきたり、
暗室として使われるために
昼夜がわからないほど完全に閉ざされていたりします。
そして、もうひとつ誰もが気づく特徴が
「風」でしょう。
冒頭から、部屋に差し込む光とともにカーテンを揺らす風
美しくも印象的でしたが、
展開が変化するシーンで扇風機の風が象徴的に使われています。
骨折が完治したシューアンが部屋を出て行くとき、
うたた寝している母親のスカートの裾を
扇風機の風が揺らしているし、
妻に逃げられ、社内で疎外されて課長の座も奪われ
堪忍袋の緒が切れたリーチュンが
昔なじみの刑事のもとを訪れたときは
扇風機すら映さずに、壁に貼ってある紙がわさわさと揺れていました。
要するに、本作における風は
不吉なことが起ころうとしている徴
なのです。

終盤で、内面で育まれた「恐怖分子」は唐突に顕在化します。
とことんまで貶められたリーチュンは
妻イーフェンが書いた、「夫が自殺する」という小説の結末とは逆に
復讐を遂げる……かと思いきや、
銃で自殺してしまいます。
壁に飛び散った血の飛沫の、画的な中途半端さ
より一層むなしくリアルです。
浮気相手と一緒にぬくぬくと眠っていたイーフェンは
不吉な夢を見て目覚めます。
「小説と現実はちがうのよ。そんなこともわからないの?」
リーチュンを愚弄していたイーフェンは
自分が望んだ虚構が現実となったことに
嘔吐するのです。

ドライな演出とトリッキーな編集によって
映画表現の面白さを存分に味わえるとともに、
あっといわせるクライム・サスペンスとしても十分に楽しめる
傑作といわれるにふさわしい作品でした。

エドワード・ヤン監督作品をもっと観たいけれど
権利問題がややこしそうで
ほとんどDVD化されていなかったりするのが残念です。





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