" />

裸のキッス

ill424.jpg



(原題:The Naked Kiss 1964年/アメリカ 92分)
監督・脚本・製作/サミュエル・フラー 撮影/スタンリー・コルテス 音楽/ユージン・ローリー 編集/ジェローム・トムス
出演/コンスタンス・タワーズ、アンソニー・ビスリー、マイケル・ダンテ、バージニア・グレイ、パッツィ・ケリー、マリー・デュヴルー

概要とあらすじ
元娼婦の女が新しい生活を始めようと身分を隠してやってきた町で巻き込まれる恐ろしい事件を描くサスペンス・ドラマ。「ストリート・オブ・ノー・リターン」のサミュエル・フラーが製作・監督・脚本を兼ね、撮影はスタンリー・コルテス、音楽はポール・ダンラップが担当。出演はコンスタンス・タワーズ、アンソニー・ビスリーほか。娼婦ケリー(コンスタンス・タワーズ)は逃げられないよう彼女を丸坊主にした売春宿の主人を殴り倒し、自らの稼いだ金を取り戻してそこを立ち去る。それから2年後、彼女はグラントビルという小さな町のシャンペンのセールス嬢の姿で現われた……(映画.comより抜粋



想像力の欠如と不寛容が産み出す差別

よく知られていることですが、
セオリーに即した多くの映画のオープニングというのは
遠景で(もしくは空撮で)町並みを映し、
やがてひとつの建物からひとつの部屋へとカットが映っていきます。
それは、どんな街でどんな生活をする人物が登場する物語なのかを
端的に説明してみせる優れた手法ですが
サミュエル・フラー監督
それとはまったく逆の手法で映画を始めます。

『裸のキッス』は、
女が男に殴りかかるシーンから始まります。
映画の世界観に徐々に親しんでいこうとしていた観客は
当然なにが起こっているのかわかりません。
サミュエル・フラー監督は、
観客が座席で身をよじりながら
座り心地のいい態勢を見つける隙など与えず、
まるで映画の中に意識が瞬間的に転送されて、
注意力を研ぎ澄まさざるを得ないような状況に
放り込むのです。

それだけではありません。
この作品では、男を殴っていた
ケリー(コンスタンス・タワーズ)のかつらが突然はずれ、
ケリーがスキンヘッドになるのです。

なぜ彼女がスキンヘッドなのかなど、
この時点ではわかるはずもありません。
男を打ちのめしたあと、
かつらをかぶり直したケリーが
鏡に向かってメイクを直す姿に
オープニング・クレジットが重なります。

あああ! なんて、カッコイイんでしょう!!
さらにはこのシーンは、これからこの作品が物語る
実像と虚像との乖離を象徴しています。
素晴らしいとしか、言いようがありません。
(じつはかつらを外す裏方がちらっと映っていたりするけれど)

その2年後、
グラントヴィルと呼ばれる街にやってきたケリーは
悪徳警官グリフ(アンソニー・ビスリー)と一夜を共にします。
ケリーはシャンパンのセールスマンを装った
売春婦
なのですが、
グリフはグリフで、警官という立場を利用して
売春宿と通じていたりするのです。

ケリーは、グリフとの一夜を最後に売春婦を辞める決意をし、
身障児施設の看護婦として働き始めます。
ケリーが子供に対してみせる愛情は
自分が子供を産めなかったことの代償でもあるし、
ましてや障害を持った子どもたちがいる施設で働くのは
自分も拭いがたい障害を持っていると感じているからで
ケリーの行ないのすべては自分の忌まわしい過去への償いなのです。

そこへ、旅行から帰ってきた
街の有力者グラント(マイケル・ダンテ)
美貌と教養を兼ね備えたケリーに一目惚れ。
自らの過去を打ち明けたケリーのすべてを
受け入れるというグラントに心許したケリーも愛を感じ始め、
ふたりは結婚を決意。
そのまえに、ケリーと施設の子どもたちが
「ママ、世界は回っているの?」という歌を歌うシーンが
感動的です。
施設の子どもたちは障害を負っているだけでなく、
さまざまな人種が混ざりあっているところが
つねに、あらゆる差別に対向する
サミュエル・フラー監督らしい演出です。

相思相愛のふたりが結婚することになって
めでたし、めでたし……のはずが
ウェディング・ドレス片手にグラントの屋敷を訪れたケリーは
グラントの少女性愛の事実を知るのです。
「同じ倒錯者の君なら、わかってくれるだろ?」
という、グラント。
売春婦は倒錯者じゃありませんから。
あまりの驚きに、ケリーはグラントを殴り殺してしまいます。
「裸のキッス」とは、娼婦仲間が変質者のキスを指す隠語。
ケリーはグラントの「裸のキッス」に気がつかなかったのです。

一度は忌まわしい過去からの脱却を夢見ていたケリーでしたが
またしても彼女を悲運が襲います。
留置所に捕らえられたケリーの前に証人として現れるのは
保身のために嘘をつく人間ばかり。
証人のひとりには、冒頭でケリーに殴られていたポン引きも登場し、
不等なピンハネをしていたポン引きが
戒めのためにケリーの髪の毛を剃ったことも明かされます。

グラントに「いたずら」されていた少女が
やっとのことで真実を証言すると
グリフも街の人間も、手のひらを返したように
ケリーの釈放を祝福します。

この浅ましさ。身近で感じませんか?

ヒロインのケリーとて、まったくの善人ではありませんが
たとえ過ちを犯した過去があろうとも
志は持ち続けています。
朝鮮戦争の影が大きく感じられるこの作品には
戦死した主人の遺品に語りかける宿屋の未亡人も登場しますが
誰も彼も完全無欠の人間などひとりも登場しません。
想像力を欠いた不寛容が世界を席巻しつつある現代に
この小さな街で起きた物語が身に染みます。

人間は、なにひとつ進歩していないことを
思い知らされる傑作です。





にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ 
↑お気に召したらクリックしていただけますと、もんどりうって喜びます。
関連記事
スポンサーサイト

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

«  | ホーム |  »

プロフィール

のほうず

のほうず
映画が好きで観るのはいいが、
かたっぱしから忘れていくので
オツムのリハビリ的ブログ。
******************
当ブログの文章・画像およびイラストの無断転載を禁じます。引用される場合は、出典の表記と当ブログへのリンクを設定してください。

FC2ブログランキング

FC2Blog Ranking

お気に召したら
クリックお願いします。
にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ

スポンサードリンク

↓過去の記事はこちらから!↓

検索フォーム

QRコード

QR

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

カウンタ