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エスケイプ・フロム・トゥモロー

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(原題:Escape from Tomorrow 2013年/アメリカ 90分)
監督・脚本/ランディ・ムーア 製作/スジン・チャン 撮影/ルーカス・リー・グラハム 編集/スジン・チャン 音楽/アベル・コジェニオウスキ
出演/ロイ・アブラムソン、エレナ・シューバー、ケイトリン・ロドリゲス、ダニエル・サファディ、アネット・マヘンドリュ、スタッス・クラッセン、エイミー・ルーカス

概要とあらすじ
日本でも「夢の国」と呼ばれ絶大な人気を誇る、某有名テーマパークを舞台に描いたダークファンタジー。米カリフォルニアにある同パーク内で無許可でゲリラ撮影した映像を使い、作られた。何をやってもダメな中年アメリカ人のジムは、口うるさい妻と言うことを聞かない子どもたちを連れ、魔法の城や妖精やプリンセスたちの待つ、ある有名なテーマパークに遊びにくる。夢と魔法の国で現実逃避をしようと思ったジムだったが、そこに現れた黒いプリンセスによって幻想の世界に入り込んでしまい、楽しいはずの家族旅行は、妄想と奇妙な出来事にあふれたシュールな悪夢へと変貌していく。(映画.comより



現実と幻想、生きるならどっち?

ディズニー・ワールド・リゾートでの
無許可のゲリラ撮影
が話題になった
『エスケイプ・フロム・トゥモロー』
もっとストレートなホラーかと思っていたら
なかなか難解かつファンタジックな作品でした。
全編モノクロの映像がSF感を引き立てています。

無許可のゲリラ撮影ばかりが取り沙汰されるのは
仕方ないのかも知れませんが
「訴えられるぞ!」とか「ギリギリだ!」とか
余計な心配ばかりする人が多いのには失笑してしまいます。
ちなみに、日本版のメインビジュアルは
ミッキー・マウスの指が本来の4本から5本に
なっています。
これはディズニーへの配慮&おとぼけかもしれないし、
4本指は身体障害者への差別だとするクレームへの対策かもしれません。
(役所のパンフレットなんかだと、カットイラストでさえ
 指の本数や耳の穴もきっちり描写するようにいわれたりします)
真相は知りませんが、5本指のほうが
この作品の世界観を表現するには適しているように思います。

夏のバカンスに、家族旅行で
ディズニー・ワールド・リゾートへやってきた
ジム(ロイ・アブラムソン)一家
ジムは、確たる理由もなく電話で突然の解雇を言い渡されます。
バカンスどころではなくなったジムでしたが
休暇最終日の今日だけは家族と楽しく過ごそうと
解雇の知らせを封印し、
明日(=トゥモロー)以降はじまる不安から
ひとまず逃避(=エスケープ)
します。
ところがやっぱり心中穏やかではなく、
「夢の国」にいても夢に浸りきれず、
現実生活の不安からくる恐怖や即物的な性欲へと
妄想を駆り立てるようになるのです。
言うことを聞かない子供やガミガミ口うるさい妻に
付き合わされているところに
ピッチピチの若いフランス人女性二人組
キャーキャーいいながら通り過ぎたりすれば
そりゃあ、そっちが気になるのは当たり前。
ジムの妄想が加速するのも致し方ありません。
せめて、ジムがキスしようとするのを
妻があんなに頑なに拒んでいなかったら

ジムのガス抜きは成功し、結末が変わっていたかも知れません。

ジムの妄想がエロ方面へと大幅に傾いているのは
性欲がディズニー・ランドと
もっとも対極にあるもの
だからではないでしょうか。
ディズニー・ランドにまつわる裏伝説みたいな話は
いっぱいあるようですが
一度入場すると外部の建物が一切目に入らないように設計され、
何体もいるミッキーやミニーは
決して複数存在することを悟られないように配置され、
常にゴミがないように清掃員が目を光らせている「夢の国」は
限定された空間を恐ろしく管理した幻想社会です。
そこでは暴力や性欲は徹底的に排除されています。
過酷な現実を忘れ、ディズニー・ランドを訪れる観客たちは
自ら望んで「夢の国」の住人を演じ、
トゥモローからエスケープしているのです。
そして言わずもがな、そんな世界は嘘っぱち。
嘘っぱちの幻想を打ち破るのは……エロなのだ!!

ピッチピチの若いフランス人女性二人組は
ディズニー・ランドをエロで乗っ取るために送り込まれた
性欲工作員
でしょう。
(誰が送り込んだか、知らんけど)
性欲ざかりの青年2人を捕まえた二人組は
ジムの素養を見抜き、仲間入りするように誘います。
一旦は妄想を爆発させてその気になったジムでしたが
(鳥居越し(厳島神社?)の原爆のイメージも)
結局、その誘いを断ってしまいます。
「残念ね」といった女はジムの顔目がけて唾を吐きかけ、
「任務完了」と呟いて立ち去ってしまいます。
彼女たち(プッシー・キャット=子猫ちゃん)の任務とは、
「ネズミの国」を混乱に陥れるために
有望な人間をエロ幻想の世界へと勧誘し、
拒否した人間は「猫インフルエンザ」に感染させて
始末することだったのだっー! ていうのが僕の解釈。
なにしろ、「ネズミ」が恐れるのは「猫」なのだから。

ところが、
嘘っぱちの幻想によって人々を洗脳しているディズニーを
さらに操らんとしているのが
「スペース・シップ・アース」というパビリオンの地下で
なにやら監視している「SIEMENS(シーメンス)」の研究者。
「スペース・シップ・アース」は
「EPCOT(エプコット)」というディズニーパークにある
象徴的な建造物だそうですが
「EPCOT」は「Experimental Prototype Community of Tomorrow」、
すなわち「実験未来都市」
しゃれが効いております。おいしゅうございます。
「SIEMENS」は「スペース・シップ・アース」のスポンサーで
ドイツに本社がある実在する企業。
性欲工作員の二人組女性がフランス人だったことを考えると
アメリカ vs ヨーロッパの構図も含まれているのではと
邪推してみたくなります。

「SIEMENS」の研究者は
ウォルト・ディズニーと比較して
ジムを「天才的な妄想力だ」と賞賛
します。
その後ロボットだとわかる研究者は
支配することが目的ではないといっているので
ロボットでは持ち得ない人間の想像力や妄想力の正体を知るための
研究をしていたのではないでしょうか。
ジムは塗り薬を射精するというバカバカしい方法で
なんとか逃亡に成功します。

はぐれてしまった娘を捜してたどり着いたのは
妄想か現実か、一度セックスした中年女性がいるスイート・ルーム。
元はディズニー・ランドのプリンセスだったという彼女は
「いつも笑顔でなんていられない」
「夢の国」の嘘に気づいたものの、
「夢の国」への未練を捨てきることもできない
もっとも哀れな存在かもしれません。
(ジムと最初に会ったとき、彼女はジムが食べる七面鳥をみて
 「それ、エミューよ」と言いますが
 エミューはオーストラリア全域に生息する絶滅を危惧されている鳥。
 どれほどの意味が込められているのかわかりませんが
 『そのハンバーガーの肉、アマゾンのミミズの肉だぞ」みたいに
 隠された真実をほのめかすためかもね)
案の定、その部屋のベッドで眠っていたジムの娘は
『眠りの森の美女』よろしく、ジムのキスで眼を覚まします。
てことは、中年女性はマレフィセント?

やっとホテルの部屋に戻ったジムでしたが、体調急変。
喉から「毛玉」を吐いて、トイレでのたうち回ります。
様子を見に来た息子に助けを求めますが
息子は静かにドアを閉めてジムを放置してしまいます。
冒頭のジムをベランダに閉め出してしまうイタズラを考えれば
もともとジムのことが好きではなかったのかも知れませんが
現実生活に苦しむ父親の姿に失望したようにも感じました。

ジムの死体を片付けにやってきた清掃員風の男は
ジムが存在した記憶を消すように
息子に「バズライトイヤー」に行った記憶を植え付けます。
掃除のみならず、洗面所のアメニティーを正確に整える清掃員の手つきは
少しだけ歪んだ仮想空間を修復しているようでした。

ジムの死体を運ぶ車と入れ違いで現れたのは
横チチ全開ドレスを着た見知らぬ若い女性とジム。
抱いている娘も別人です。
これは「SIEMENS」の研究者が言っていた
「妄想の中で生き続ける自分(ジム)」
ジムは、現実よりも少しリッチそうです。
そして、あの性欲工作員の二人組女性が
ティンカー・ベルとなって登場
し、ジ・エンド。
ここで、混乱します。

現実では死んでしまい、妄想の中で生きるジムは
むしろ幸せそうだし、
ディズニー・ランドを乗っ取ろうとしていたはずの二人組女性が
ディズニーを祝福するかのようなエンディングは
支配・被支配や、体制・反体制のような
単純な二項対立を拒絶します。

「夢の国」は嘘っぱち。妄想で幻想。これは事実。
それじゃあ、本当の現実が楽しいか? 辛いことばっかりだ。
それなら嘘でも夢でもいいじゃないか。
騙されていたとしても、真実なんか気づかないふりして
楽しく生きるほうがいいんじゃないの?
みんなそうやって生きてるでしょ?
……という、非常にねじくれた皮肉が込められています。

ディズニー・ランドというものが、ものすごくシンボリックなので
そこに囚われがちですが
この作品に含まれるのは、安易な商業主義批判などではなく
社会の同調圧力の中で生きていく個人というもの、
そして、その個人を苦しめる社会とは個人の集合体である
ことなど
非常に重層的な問題を
ディズニーに対するさまざまなオマージュを捧げながら表現した
秀逸な作品だと思います。

いやはや、さらっと観るつもりだったのに
たいへんな作品でしたー。





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