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ジャンゴ 繫がれざる者

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(原題:Django Unchained 2012年 165分)
監督・脚本/クエンティン・タランティーノ 撮影/ロバート・リチャードソン
出演/ジェイミー・フォックス、クリストフ・ヴァルツ、レオナルド・ディカプリオ、ケリー・ワシントン、サミュエル・L・ジャクソン

概要とあらすじ
クエンティン・タランティーノが監督・脚本を手がけるウェスタン。南北戦争直前の1858年、アメリカ南部。黒人奴隷として売りに出されたジャンゴは、元歯科医の賞金稼ぎでキング・シュルツと名乗るドイツ人に買われる。差別主義を嫌うシュルツはジャンゴに自由を与え、賞金稼ぎとしての生き方を教える。ジャンゴには生き別れになったブルームヒルダという妻がおり、2人は賞金を稼ぎながら彼女の行方を追うが、やがて残忍な領主として名高いカルビン・キャンディのもとにブルームヒルダがいるということがわかり……。タランティーノと初タッグとなるレオナルド・ディカプリオが、極悪人キャンディを演じる。主人公ジャンゴにジェイミー・フォックス、ジャンゴと行動をともにするシュルツは「イングロリアス・バスターズ」のクリストフ・ワルツ。第85回アカデミー賞で作品賞ほか5部門にノミネートされ、助演男優賞(クリストフ・ワルツ)と脚本賞を受賞した。(映画.comより)



Dは発音しない。

作品を観ながら、「イえぇ〜い!」
心の中で叫んでしまえるような映画はそう多くはありません。

人にはどんなものにも好き嫌いがあって
タランティーノの作品が世界中でいくら評価が高いからといって
自分はタランティーノが嫌いだという人がいても
致し方ないことだし、いっこうに構わないのだけれど
そんな人とは肉体関係以上のつながりを持つことは
できそうもない。ごめんよ、子猫ちゃん……
なんて、与太ってないで
ともあれ「僕はタランティーノが好きなんだ」
この際だからいってしまおう。イえぇ〜い。

前作『イングロリアス・バスターズ』
ナチスに対するユダヤ人の復讐を、史実は気にも留めず
スクリーンに叩きつけたタランティーノが作った
この『ジャンゴ 繫がれざる者』
奴隷時代の黒人が白人たちに復讐する物語です。
ご存じの通り、タランティーノは超映画オタクで
自信の監督作は過去の映画からの大量の引用、しかも
かなりマニアックな映画からの引用で埋め尽くされています。
『ジャンゴ 繫がれざる者』でもその引用は健在で
僕は事前に得た作品情報から数本の作品を予習として鑑賞し、
満を持して映画館へと向かったのです。

『ジャンゴ 繫がれざる者』は西部劇です。
とはいえ舞台となるのはアメリカ南部なのでほんとは南部劇です。
しかも本家アメリカ産の「ウエスタン」ではなく
「ウエスタン」を真似たイタリア産の
「マカロニ・ウエスタン」のスタイルで作られたアメリカ映画なので
その倒錯ぶりがすでに面白いのです。

時代は1858年。
奴隷制を否定する北部と奴隷制を肯定する南部が戦い、
戦争大好きなアメリカの戦役史上でも最悪の死者数である
両軍合わせて62万人もの死者を出す南北戦争の2年前であることは
この時代の緊張感を知るうえで重要な設定でしょう。

オープニングのタイトルクレジットからして
赤い文字にわずかに黒いシャドウがかかった書体は
『続・荒野の用心棒(原題:Django)』そのままです。
作品タイトルに加えて、テーマソングまで引用しているのですから
『続・荒野の用心棒』が最大の引用元と言えるでしょう。
『続・荒野の用心棒』はセルジオ・コルブッチ監督作ですが
『荒野の用心棒』などで知られるセルジオ・レオーネ監督
得意技(?)である高速ズームインも見られ、
真面目なのかふざけているのか、そのこだわりっぷりに
あきれながら笑ってしまうのです。

夜の森の中を鎖で繫がれて歩く奴隷たちの前に
飄々としたという表現がぴったりの賞金稼ぎ、
キング・シュルツ(クリストフ・ヴァルツ)が登場。
上品で礼儀正しい話し口に油断しているとズドン!
このタイミングが素晴らしいのです。
奴隷商人のスペック兄弟の兄は即死、
弟は脚が馬の下敷きになって動けないで喚いているなか、
シュルツは嫌みったらしく喋り続けます。
そう、タランティーノおなじみの「講釈」です。
このくどい「講釈」シーンが登場すると
この作品がまぎれもないタランティーノ作品なのだと
観客は再確認するのです。
全ての奴隷を解放してやったシュルツは
奴隷たちに向かって「天文学の知識があるなら」といい、
北極星を指さすのですが、これはすなわち
奴隷制のない北部を目指せと言っているのです。

シュルツは歯科医から賞金稼ぎに転身したドイツ人で
ここがアメリカだから奴隷制度を容認しているものの
黒人に対して差別意識がありません。
シュルツが乗る馬車の屋根には歯をかたどった看板がついていて
スプリングがついた歯の揺れ具合が完全に人を馬鹿にしています。
当時、このように馬車で巡回する歯医者というのは実在したようです。

シュルツがお尋ね者のブリトル三兄弟を捜すために
自分の相棒に選んだジャンゴ(ジェイミー・フォックス)
まともな人間扱いを受けたことがないジャンゴは
シュルツの振る舞いに戸惑いますが、
徐々に二人は打ち解けていきます。
当初、ジャンゴ役はウィル・スミスに打診したところ
スケジュールが合わず、ジェイミー・フォックスに
白羽の矢が立ったそうなのですが
映画が完成した今となっては、ジェイミー・フォックスで
本当によかったと思います。
あのちゃらいウィル・スミスじゃなくて本当によかった……
どうせ息子も一緒に出演させろとか言い出すんですよ……
あいつは、そういうやつです。

ジャンゴには、ドイツ語を話せる
ブルームヒルダ(ケリー・ワシントン)という名を持つ
妻がいることに驚くシュルツ。
ブルームヒルダという名はゲルマン神話に登場する姫で
ブルームヒルダと結婚の約束をしているのがジークフリート
この作品がブルームヒルダとジークフリート=ジャンゴの
ラブストーリーでもあるのです。
妻のフルネームはブルームヒルダ・フォン・シャフト
シャフトは『黒いジャガー(原題:Shaft)』の主人公です。
タランティーノの脳内相関図によると
ジャンゴとブルームヒルダの子孫が
『黒いジャガー』のシャフトになるんだそうです。
この人……馬鹿なのかい?(via TBSラジオ 火曜たまむすび)

ブリトル三兄弟を見つけたジャンゴは
一人目を銃殺した後、二人目にはすぐに銃を撃たず
何度も鞭で張り倒します。
ジャンゴの積年の恨みが爆発するシーンで
黒人の観客に向けて「どうだ!」と言わんばかりでした。
僕の記憶が正しければ
その後、手にした賞金の札束を
例の歯科医の看板のなかに隠すシュルツが
鼻歌で「ジャンゴ」のテーマソングを歌っていましたが
シュルツがその歌を知っているわけもなく、
ふざけきったシーンでした。

シュルツとジャンゴを始末しようと
ヴェルディの「Dies irae(怒りの日)」に乗って現れる
(ていうか、これもわざわざ深作欣二『バトルロワイヤル』の
 バージョンだそうで、ほんと、いいかげんにしてほしい……)
KKK的な集団(時代的にはまだKKKは存在しない)の
まぬけっぷりが甚だしく、
袋に開けた目の穴の位置がずれて見づらいだの、
うちのかみさんの悪口を言うなだの、
今日はずきんをかぶるのは辞めて、次からにしようだの
KKK白人たちが馬鹿まるだしで、さんざん無駄口を叩いたあとは
あっさりシュルツの返り討ちにあって皆殺しにされるのです。
最高なのです。

雪山でのシーンは『殺しが静かにやって来る』の引用ですね。
けっこうあっさり終わりましたが。
というか、ここまででもかなり濃厚な展開を見せているのですが
よく考えると、まだデカプーサミュエル
登場していないではないか……
最初の酒場のシーンでのビールのくだりも語ってないけど
いちいち拾っているときりがない……
あらすじを追うような文章は本意ではないのですが
「あのシーンがさ!」「あのシーンでね! ね!」と
ついつい言いたくなってしまうのです。
オレは一体、誰に謝っているのか……

シュルツとジャンゴのふたりは
ブルームヒルダが待つ危険な南部ミシシッピーへ。
カメラが真俯瞰から捕らえる奴隷たちの行列の上から
画面全体を覆うように右から流れてくる「MISSISSIPPI」の文字。
か、かっこいい〜!! と思っていたら
これも、かの名作『風と共に去りぬ』からの引用で
この作品と同時代のアメリカ南部を描きながら
黒人を虐待する白人を美化している同作を揶揄しているそうです。
『風と共に去りぬ』……そりゃむか〜し観たことはあると思うよ。
でも何ひとつ憶えていないよ。無理いうなよ。
ブルームヒルダの居場所を突き止めた二人が話し合う
そこそこ長いシーンのカフェの窓の外には
ずっと綿花の綿が舞うように飛び交っていました。

ついに、フランス風のクラブで
悪名高きカルビン・キャンディ(レオナルド・ディカプリオ)登場。
はじめて振り返って顔を見せたときのデカプーの表情は
考え得る限り最も下品な笑顔でした。
しかも奴隷同士を死ぬまで戦わせて楽しむ
「マンディンゴ・ファイト」の真っ最中。
このあたりから後半にかけては
『マンディンゴ』からの引用が多くなっていきます。
しかし、その「マンディンゴ・ファイト」の賭けの相手が
なんと、フランコ・ネロ!
『続・荒野の用心棒』でジャンゴを演じた本家本元です。
バー・カウンターで並ぶ新旧ジャンゴ。

ネロ「名前は?」
ジェイミー「ジャンゴ。D・J・A・N・G・O。Dは発音しない」
ネロ「知ってる」

そりゃ、知ってるよ! あんたは知ってるだろーよ!

ネロは帰り際にコートを受け取るためにメイドの名前を呼びます。
「メルセデス。」
これは『続・荒野の用心棒』の、ジャンゴの死んだ妻の名前で
最後の決闘シーンで、ジャンゴが楯にする墓標に
「MERCEDES ZARO」と書かれているのです。
予習しといてヨカッタ……たたのお遊びだけど。

奴隷が犬に食われたりしながら
キャンディの屋敷にたどり着いた一行を出迎えるのが
スティーブン(サミュエル・L・ジャクソン)です。
自らも白人に虐げられる黒人でありながら
それなら黒人の中ではトップを維持したいという
差別構造の中で生まれる最も醜い人間です。
キャンディが生まれたときから世話をしているスティーブンは
キャンディをも裏で操る実質的な権力者です。
ラストでスティーブンは常に携えていた杖を放り投げますが
彼の脚が不自由なのも見せかけだったわけで
彼が奴隷としてキャンディに仕えているのも見せかけなのです。

『マンディンゴ』でも登場した、ヨーロッパ風の
白亜の建物で暮らしているキャンディの姉は
いつでも笑っているしか脳のない馬鹿女ですが
あからさまにキャンディとの近親相姦を想起させます。

マンディンゴを高値で買い取ると見せかけて
ブルームヒルダも一緒に買って連れ出そうという
シュルツとジャンゴの計画は
スティーブンによって見破られ、大ピンチ。
頭蓋骨を持ち出して黒人の脳は従順にできている
「講釈」するキャンディ。デカプーの狂った演技です。
マンディンゴではなく、ブルームヒルダを高値で買い取ることで
一応の決着をみるわけですが
シュルツは、ハープで演奏される
ベートーベンの「エリーゼのために」にいらだち
これまでの冷静さを失って激高します。
このシーンは『時計仕掛けのオレンジ』へのオマージュかと
見る向きもあるようですが、
クリストフ・ヴァルツ本人は把握していないもよう。

まあ、いい。目的は果たした。
シュルツとジャンゴがブルームヒルダを連れて
引き揚げようとしたそのとき、
キャンディが握手を要求し、握手できないなら
この契約は成立しないと言い出すのです。
ここからのシュルツとキャンディの
ヒリヒリするようなやり取りは見物です。
金は渡せても、握手はできない……
人間の怒りとはそういうものです。

その後の激しい銃撃戦は映画を観て楽しんでいただくとして
またもや繫がれた者となったジャンゴが
ほかの奴隷たちと一緒に連れて行かれるシーンで
タランティーノが登場。
随分太ったせいで自慢のあごも丸くなりましたな。
一瞬だけど強烈な見せ場もありました。
首尾よく逃亡に成功したジャンゴは
白い馬に跨り、ブルームヒルデの元へと向かいます。
これが白い馬であることは偶然ではないでしょう。
姫を助けに向かう白馬に乗った王子様であると同時に
白人の上に跨る黒人という意味も
あると思うのは深読みでしょうか。
(ちなみに、ジャンゴが劇中で乗っている白くない馬は
 ジェイミー・フォックスの持ち馬だそうな。名前はチータ。)
白い狂犬に黒人調教師が立ち向かう
サミュエル・フラー監督『ホワイト・ドッグ』
思い起こしました。

そして、ラストシーンへ。
クライマックスで壮絶な銃撃戦!となりそうなところですが
(十分凄惨だけど)
最後はジャンゴが「講釈」をたれる番です。
上段から見おろしながら、いたぶるように
白人どもを粛清していくのです。
ジャンゴは黒人のメイドに向かって
「女主人に最後のあいさつをしろ」「あ、さ、さようなら」
ズドン!!
だからもう、こういうタイミングが最高なんだってば!
ジャンゴに撃たれたキャンディのお姉ちゃんが
あり得ない方向へ飛んでいったのを
不自然だなんて言うのは野暮というもの。
だって、そこがいいんじゃない!

スティーブンの最後のあがきがあった後、白亜の豪邸を爆破!
これをカタルシスと言わずしてなんと言おう!
大殺戮の後の大爆破にもかかわらず
外で待つブルームヒルデの笑顔と小さい拍手の仕方が
可愛らしいのです。

「マカロニ・ウエスタン」では、
ラストシーンで最後の決闘になるのが定番ですが
この作品ではそうはなっていません。
タランティーノはTOKYO MXテレビの
「ニッポン・ダンディ」のインタビューの中でそのことに触れ、
「それは模倣になるからやめた」と言っています。
これは興味深い発言です。
ヒップホップのアーティストのように、過去の作品を
サンプリングし、引用し、再構築するタランティーノが
引用と模倣を明確に区別しているのです。
あたりまえっちゃあたりまえなのですが
こういう話が一般的に通用しないのも事実です。
引用と模倣の区別を意識すらせずに
「リスペクト」という言い訳の元に
盗用をくり返している例は散見されるのです。
多種多様の引用によってできあがった作品が
タランティーノ作品としか言いようのないものであることが
彼の才能であり、オリジナリティだと思うのです。

アメリカの黒人たちは、この作品を観て
どのように感じたのでしょうか。
1967年生まれのジェイミー・フォックスでさえ、
子ども時代、黒人が白人の家に入るのはタブーだったと
語っています。
黒人であるスパイク・リー監督は、この作品に対して
「奴隷制度の問題をマカロニ・ウエスタンで茶化すな!」
ご立腹のようですが、
映画でほとんど描かれることのなかった奴隷制度を
正面から描いたうえで娯楽作品としても成立している
『ジャンゴ 繫がれざる者』に
黒人であるスパイク・リーが賛辞を送ることがあっても
文句を言う筋合いではないでしょう。
スパイク・リーは
今後もこの作品を観るつもりはないと公言しているのですから
作品を観もしないで文句をつけるのは
タランティーノに嫉妬していると言われても
仕方がないのではないでしょうか。
それが気に入らないのなら、自分が考える奴隷制度を
作品にすればいいのです。
スパイク・リーの作品の質は認めるに十分ですが
こんなこと言ってるから、たとえ主張が正しくても
彼の作品が説教臭く感じられるのですよ。

タランティーノと親交のある三池崇史監督の
『スキヤキ・ウエスタン・ジャンゴ』
いまいちだっただけに、三池監督がこれを観たら
なにを思うやら。

ところで、『キル・ビル』でユマ・サーマンのスタントを務め
『デス・プルーフ in グラインドハウス』に出演していた
ゾーイ・ベルが出演しているというのは耳にしていて
楽しみにしていたものの、発見できませんでした。
後日、ネットで調べてみると
ジャンゴを追い詰める一群の中の
赤いスカーフ(?)を顔に巻いた女性がゾーイらしいということ。
確かに、謎の女性に不自然にズームアップするショットが
2度ほどあったけどさ……そんなもんわかるか!!





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コメント

楽しい解説でした

お詳しいですね、最近「ジャンゴ」にハマっているので、解説を読んで一層内容が良くわかりました。
ところでゾーイ・ベルはヘイトフルエイトでも一瞬で退場してしまってもったいなかったですね。

2016/04/07 (木) 15:15:47 | URL | サイモン #- [ 編集 ]

Re: 楽しい解説でした

> サイモンさん
ありがとうございます! 「ヘイトフル8」のゾーイ・ベルはキャピキャピしてましたね。

2016/04/07 (木) 19:43:35 | URL | のほうず #- [ 編集 ]

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かたっぱしから忘れていくので
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