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鑑定士と顔のない依頼人

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(原題:La migliore offerta 2013年/イタリア 131分)
監督・脚本/ジュゼッペ・トルナトーレ 撮影/ファビオ・ザマリオン 美術/マウリツィオ・サバティーニ 衣装/マウリツィオ・ミレノッティ 編集/マッシモ・クアッリア 音楽/エンニオ・モリコーネ
出演/ジェフリー・ラッシュ、ジム・スタージェス、シルビア・ホークス、ドナルド・サザーランド、フィリップ・ジャクソン、ダーモット・クロウリー

概要とあらすじ
「ニュー・シネマ・パラダイス」「海の上のピアニスト」の名匠ジュゼッペ・トルナトーレ監督が、ジェフリー・ラッシュを主演に迎えて描くミステリー。天才的な審美眼を誇る鑑定士バージル・オドマンは、資産家の両親が残した絵画や家具を査定してほしいという依頼を受け、ある屋敷にやってくる。しかし、依頼人の女性クレアは屋敷内のどこかにある隠し部屋にこもったまま姿を現さない。その場所を突き止めたバージルは我慢できずに部屋をのぞき見し、クレアの美しさに心を奪われる。さらにバージルは、美術品の中に歴史的発見ともいえる美術品を見つけるが……。音楽はトルナトーレ作品常連のエンニオ・モリコーネ。イタリアのアカデミー賞と言われるダビッド・ディ・ドナテッロ賞で、作品賞、監督賞、音楽賞をはじめ6部門を受賞。(映画.comより



二次元萌えの童貞オタクと引きこもりアラサー

特別な興味があったわけじゃないけれど、
長い間、TSUTAYAの陳列棚の新作コーナーに鎮座していた
『鑑定士と顔のない依頼人』
ちょっくら観てみようと思ったのです。
監督がジュゼッペ・トルナトーレだというのが
人気の秘密なんでしょうか。

パッケージに書いてあった「ミステリー」ということ以外は
なにも知らずに観始めたのですが
数々の名画や歴史的な芸術作品がモチーフになっているので
なにやら高尚な映画のように思えますが
そんなことに惑わされずに簡単に言ってしまうと
二次元萌えの童貞オタクが
お気に入りのエロ画像を溜め込んでいたハードディスクを
ハッキングされた
、そういう話です。

名実ともに有能な美術鑑定士ヴァージル(ジェフリー・ラッシュ)
いつも手袋をはめているほど潔癖症で
冷徹な審美眼を持ち合わせているものの、
オークションでは
旧知の画家・ビリー(ドナルド・サザーランド)と組んで
自分が欲しい作品を手に入れ、
自宅の隠し部屋(=ハードディスク)に飾って悦に入っているという
裏の顔も持っています。
しかも彼が集める絵画はすべて女性の肖像画ばかり。
ヴァージルには妻はなく、
それどころか三次元の女性とはまともに接することも出来ない
童貞こじらせ老人なのです。

そんなヴァージルのもとに、
遺産で残された大量の美術品の鑑定をしてほしいという
依頼の電話がかかってきて
ヴァージルはしぶしぶ引き受けたはいいけれど、
その依頼人の女性は待ち合わせをすっぽかしたり、
一向に姿を見せません。
じつはその女性、クレア(シルビア・ホークス)は広場恐怖症で
15歳から27歳になる現在まで
自宅の隠し部屋に閉じこもったままなのでした。
部屋から出られないはずのクレアが
ヴァージルとの待ち合わせに来られなかった理由が
自動車事故に遭ったという時点ですでにボロが出ているのですが
とにかく、二次元萌えの童貞オタクと引きこもりアラサーの
恋の綱引きが始まる、というわけです。

ヴァージルが、本物か偽物かを見極める鑑定士であるように
白髪染めやパスポート、ワインのテイスティングなどなど、
真贋にまつわるさまざまなモチーフが登場して
物語を彩っているのですが
肝心の「ミステリー」という部分においては
あまりにもストレートな展開で、謎解きの高揚感はありません。
「仕掛け」に翻弄されているのはヴァージルだけ
観客が騙されたと感じるのは
せいぜいラストの種明かしくらいでしょう。
それとて、ヴァージルとクレアが同居を始めて
万事が幸せな方向に向かいそうな時点で
誰もがこれで終わるわけがないと思うはずだし、
鑑定士引退を決意したヴァージルが最後のオークションを終えて帰宅し、
見あたらないクレアを捜して隠し部屋に入ろうとした瞬間に
あ、大量の絵画はなくなってるな、とすぐに察しが付くので
ちっとも驚きをもたらしてはくれません。

結果的に、ヴァージルの周囲にいるほぼ全員がグルになって
ヴァージルを騙していたのですが
彼らが計画した詐欺はあまりにも回りくどく、都合が良すぎです。
彼らは意のままにヴァージルを振り回すのですが
ヴァージルがクレアの家を出て行くフリをして
クレアの姿をひと目見ようと陰に隠れたのは
いくらなんでも彼らにとって想定外だったはずで
ヴァージルが携帯を床に落として隠れていることがばれそうになったとき、
ひとりでくつろいでいたクレアが
「ん? ロバートなの?」などとは一言も言わずに
とっさの判断でパニクった引きこもりを演じ続けるのは
無理がありゃしませんか。

物語がクライマックスに近づくに従って
すべての「からくり」を象徴するオートマタ(機械人形)
完成に近づいていくというのは
演出としては魅力的ではありますが、
こと詐欺の手口としては必要だとは思えません。
ロバート(ジム・スタージェス)の痴話げんかなどなど、
物語を彩るために効果的なさまざまな仕掛けと
詐欺の手口としての非効率さのギャップが大きすぎて
いまひとつ説得力にかけるのです。

自分も悪さをしているヴァージルは
たとえ絵画を盗まれても警察に訴え出ることが出来ないのですから
絵画を奪うことが詐欺の目的であれば
雨の中で暴漢がヴァージルを襲ったように
さっさとヴァージルを脅して
隠し部屋のドアを開けさせればいいと思うのですが
主犯のビリーの怨みが強いせいか、
わざわざややこしいハニートラップを仕掛けるのをみれば
ヴァージルを精神的に追い詰め、辱めることが
目的だった
ように思います。

最終的に、騙されコケにされたヴァージルは
騙されコケにされたままで終わります。
非常に意地の悪い結末ではありますが、
ヴァージルが偏屈な変わり者で、
高圧的なところがあるのは確かだけれど
さほど憎むべき人間には思えなかったので
彼に反撃のチャンスが与えられなかったのはスッキリしません。
そもそも主犯のビリーは
ヴァージルに力量を認められなかったから
自分は画家になれなかったと積年の恨みを抱えていたわけですが
ヴァージルひとりの判断によって
画家になるためのライセンスが(そんなもんがあったとして)
発行されるわけでもなかろうに
ビリーの企ては逆恨みとしかいいようがなく、
財産を奪うだけではあきたらず、
性的な辱めまで加えて貶めるのには共感できません。

詐欺の手口の不可解さや
ミステリーとしての魅力に欠けることを度外視すれば、
騙し騙されを繰り返し、期待しては失望するという
童貞をこじらせた老人の悲恋の物語といったところでしょうか。

ヴァージルよ、あんた
『ニンフォマニアック』のセリグマンと気が合いそうだから
ふたりで飲みに行けばいいじゃん。





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コメント

解釈の訂正

ヴァージルは最終的に贋作(偽物)の恋であってもその美しさに満足したってゆうのがこの映画のオチだと思いますよ。
警察に届け出ようか迷い、思い止まるシーンがわざわざ描かれてますよね
騙されて全てが明らかになったあとの最後のシーンでお店に入り、ウェイトレスに「お一人ですか?」と聞かれ、彼は「連れを待っている」と告げます。あそこが分岐になってます。観ている人たちに答えを与えてくれていますよね。偽物だったと気づいた後に、美しい偽物だったと“認めた瞬間”が描かれてます。
老人ホームみたいのに入って落胆し、生きる気力を失っているように見える彼を描いているので失意ではあるようですが
僕はあれはフェイクだと思いますよ

2016/06/22 (水) 06:57:05 | URL | #- [ 編集 ]

Re: 解釈の訂正

↑何を言っているのかよくわかりません。
それにしても「解釈の訂正」て。

2016/06/22 (水) 18:55:12 | URL | のほうず #- [ 編集 ]

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