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薄氷の殺人

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(原題:白日烟火 Black Coal, Thin Ice 2014年/中国・香港合作 106分)
監督・脚本/ディアオ・イーナン 撮影/トン・ジンソン 音楽/ウェン・ジー
出演/リャオ・ファン、グイ・ルンメイ、ワン・シュエピン、ワン・ジンチュン

概要とあらすじ
2014年・第64回ベルリン国際映画祭で最高賞の金熊賞と男優賞をダブル受賞したクライムサスペンス。中国北部の地方都市を舞台に、元刑事の男が未解決の猟奇殺人事件の真相に迫っていく姿をスリリングかつリアルに描いた。「こころの湯」の脚本などでも知られ、これが長編監督3作目のディアオ・イーナンがメガホンをとった。1999年、中国の華北地方。ひとりの男の切断された死体が、6つの都市にまたがる15カ所の石炭工場で次々と発見されるという事件が発生。刑事のジャンが捜査を担当するが、容疑者の兄弟が逮捕時に抵抗して射殺されてしまい、真相は闇の中に葬られてしまう。それから5年、警察を辞め、しがない警備員として暮らしていたジャンは、警察が5年前と似た手口の事件を追っていると知り、独自に調査を開始。被害者はいずれも若く美しいウーという未亡人と親密な関係にあり、ジャンもまたウーにひかれていくが……。(映画.comより



香港ノアールを装った大人のラブストーリー

2014年第64回ベルリン国際映画祭で
最高賞の金熊賞と男優賞の銀熊賞の2冠に輝いた
『薄氷の殺人』
もともと賞レースにあまり興味がない僕が
この作品を観たいと思った動機は、
この栄えある受賞とは関係ないのですが
「グランド・ブダペスト・ホテル」
「6才のボクが、大人になるまで。」を押さえての受賞と聞けば
期待はさらに膨らむというもの。

黒バックにそっけない白い文字でクレジットが浮かぶ
無音のオープニングに焦らされている間、
お願いだから最初のカットで脅かさないでくれと
不安になりますが
石炭工場で切り取られた腕が発見される序盤
テンポよく状況を説明していきます。
その間、主人公ジャン刑事(リャオ・ファン)
女性とホテルでトランプに興じ、セックスするシーンが
カットバックします。
直後にその女性は離婚することになったジャンの元・妻であり、
あれは「お別れセックス」だったとわかるのですが
ジャンが元妻に見苦しくも未練タラタラなのが
後に彼がある女性に簡単に惹かれてしまう布石にもなっています。

ここまでの石炭工場のベルトコンベア
駅のホームでの痴話げんかシーンでの切り返しなどに始まり、
この作品では絵でいうところの1点透視図法的な構図が多いのが
目に付きました。
その後も、雪に覆われたトンネル
防災訓練で消防車がやって来る町並みなどなど
たびたび奥行きを強調した構図が登場します。

さて、バラバラ死体の遺留品から遺体の身元が判明し、
「ロン・ロン・クリーニング」に勤めている
その遺体リアン・ジージュン(ワン・シュエピン)の妻、
ウー(グイ・ルンメイ)に事情聴取することに。
このウーがこの作品のヒロインなのですが
ここでは夫の死を知り、手で顔を覆って泣くばかりで
一切顔を見せないのが面白い。

無骨な刑事たちが捜査を始め、
あたかも王道の香港ノアールのように進む展開に
2人の容疑者を美容室(?)で捕らえたシーン
新鮮な驚きが訪れます。
店内は少し引いてフィックスされた画面になり、
容疑者を取り押さえたあとの刑事たちが
宝くじは買ったか?などと無駄話をする弛緩したやりとりが
長回しで映され、
ひとりの刑事が容疑者の上着に手をかけると
観客には見えないなにやら黒いものが床に落ちたかと思うと
突然の銃撃戦!!
慌てて応戦するジャンが容疑者を仕留めたかと思いきや、
まだ息のあった容疑者の1人がジャンの背中に銃口を向けると
キャー!と女が叫ぶカット。
驚いて振り返るジャン!

……そして、次のシーンでは病院の白い建物が大写しされ、
傷が癒えて退院したジャンが登場するのです。
この一連の編集に、完全にやられました。
そのあとも、退院直後のジャンが乗った車が走っている流れのまま
雪に覆われたトンネルを抜け、
路肩にバイクを止めて倒れている男が現れたかと思うと
それは5年後のジャン
だという、
トリッキーでワクワクする編集がみられます。
後半、ジャンの同僚が殺害されるシーンでも長回しがありますが
この作品で登場する長回しには
独特の緊迫感があります。

スケート靴を履いたままの、新たなバラバラ死体が発見され、
5年越しに容疑者として浮上した
「ロン・ロン・クリーニング」のウーがついに顔をみせます。
木村多江を幼くした印象のグイ・ルンメイ
僕が絶賛見逃し中の『GF*BF』のヒロインで
タイトなセーターがなんともいえない色気を放っています。
案の定、ジャンはウーの魅力の虜になってしまいます。

夫のリアン・ジージュンが刑事によって射殺され、
ウーが事件の真相を供述するものの、
あまりにもあっさりと真相を語ってしまうので
さらに裏の真相があるのは察しが付きますが
あらためて明かされる裏の真相がもたらす驚きが
この作品の見どころではない
と思います。
その裏の真相でさえ、ウーの態度からさして
本当に本当の真相かどうかはわかりません。
この作品は事件の真相を探る謎解きが主眼ではなく、
人生にがんじがらめになった男女の
行き場のない恋愛と孤独
がテーマなのではないでしょうか。
野外のスケートリンクで滑るジャンとウーが
「美しき青きドナウ」が流れるなか、
リンクを外れてどこへともなく進んでいく長回しのシーン

スケート靴を履いて滑るウーの足元が映っていないので
まるで低空に浮かんで滑らかに移動しているようにもみえ、
それを追いかけるジャンの姿も含めて
幻想的な違和感をもたらすシーンでした。

寒々とした映像が続くなか、
中国らしい極彩色のネオンカラー
より一層現実離れした印象を与えていましたが
おそらく意図的に色彩を選んでいるのではないかと思われ、
観覧車の中でのジャンとウーのキスシーンでは
ウーの顔が照明に照らされて赤く変わったりする
のが
セリフとも併せてウーの揺れる心象を
表現しているように感じました。

事件の鍵を握るキャバレーの店名は
この作品の原題でもある「白日焰火」
「白日焰火」とは、「白昼の花火」という意味だそうですが
ついに逮捕されたウーが
かつて暮らしていた犯行現場のアパートの
現場検証に立ち会うシーンで
(現在その部屋に居住中の、どうやら新婚夫婦が
 唖然として笑いを誘うカットもあり)
ビルの屋上から大量の花火を打ち上げる「やつ」が登場します。
姿の見えない酔っぱらいの「やつ」は
おそらく、ジャンではないでしょうか。


あの花火は、このあと服役が待っているけれど
すべての過去を清算して新しい人生を歩み出すであろう
ウーに向けてのジャンのはなむけなのではないでしょうか。
直前のシーンで、ダンス教室に行ったジャンが
ひとりで狂ったように踊る長回しシーンがありましたが
あれは、ウーと心を通じ合うことができたジャンが
一時は離ればなれになることになったけれど
さらにその先の未来に感じる喜びを
表現しているのではないかと感じました。

空に打ち上がる「白昼の花火」をみて
うっすら微笑むウーでしたが、それで映画は終わらず、
酔っぱらいに花火をやめさせるために消防隊員たちが駆けつけ、
ビルの屋上に上がろうとするクレーン車のゴンドラから
カメラがビルの壁を映していたかと思うと
突然のジ・エンド!!

ビルの壁で終わりかよ!というすっとぼけたエンディングです。
こういうところが、
ディアオ・イーナン監督のただならぬユーモアだと思います。
単純なクライム・サスペンスでもなく、
わざと本題をはぐらかすようなシーンも多くあって
一筋縄ではいかない魅力を持っています。

こうやって感想を書くために
映画のシーンを思い起こしているうちに
新たな印象がどんどんにじみ出てくる、
スルメみたいな傑作です。





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