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自由が丘で

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(原題:Hill of Freedom 2014年/韓国 67分)
監督・脚本/ホン・サンス 撮影/パク・ホンニョル 編集/ハン・ソンウォン 音楽/チョン・ヨンジン
出演/加瀬亮、ムン・ソリ、ソ・ヨンファ、キム・ウィソン、チョン・ウンチェ、ユン・ヨジョン

概要とあらすじ
カンヌやベネチアといった国際映画祭に作品が出品され、ヨーロッパでも人気の高い韓国のホン・サンス監督が、加瀬亮を主演に迎え、片思いの女性を追いかけてソウルへとやってきた男の姿を描いた。思いを寄せる年上の韓国人女性を追いかけソウルにやってきたモリは、ソウルの街を往来しながら、彼女に宛てた日記のような手紙を書き始める。ある時、迷子の犬を見つけてあげたことをきっかけに、モリはカフェ「自由が丘」の女主人と急接近。2人はワインを酌み交わし、良いムードになるのだが……。カフェの女主人役に、ホン・サンス作品「ハハハ」「3人のアンヌ」にも出演したムン・ソリ。(映画.comより



音楽を聴くように映画を観る

加瀬亮ファンというのは、それなりの数がいるはずなので
必ずや毎回満員御礼で、混雑すると思っていた僕は
十分な余裕をもって『自由が丘で』を上映している
シネマート新宿へと向かったのですが
ホン・サンス監督の新作であるにもかかわらず
残念なことに客席はガラガラでした。

ネット予約ができないシネマート新宿は、
受付でチケットを買うときにパウチされた座席表を見て座席を選ぶのですが
周囲の座席の販売状況がわからないという難点があります。
たとえ、自分が望む絶好の位置が空席だったとしても
隣の席や目の前の列が予約済みだったりすれば
誰しもちょっとずらしたりするでしょう。
それがわからないので、席は空いているのに
少ない観客がへんにくっついて観ることになるのです。

この日、絶好の位置の座席に座ることが出来た僕は
悠然とした気分で開演を待っていたのですが
そのうち、僕の目の前の席に2人の女性が現れたのです。
己の頭部の巨大さを自覚していないやつが
モノリスのようにスクリーンを遮って
映画鑑賞を妨げたことをたびたび愚痴っていますが、
このときも、なんでわざわざこの場所に! と心の中で嘆きました。
ところが、その女性二人組は自分たちの席を確かめると
「あら、こんなに空いてるのにほかの人の前だなんて迷惑ね。
 映画が始まったら、どきましょうね」
と言ったのです。
もちろん、その彼女たちは巨大な頭部を持っているわけではなく、
そのままの席にいたとしても、僕の鑑賞の大きな妨げになるわけではありません。
その後、上映が始まるまで並んで会話していふたりでしたが、
本編が始まった途端、僕の真ん前に座っていた片方の女性が
すっと隣の席へと移動してくれたのです。

僕がその気遣いに感激しているうちに、映画は始まりました。

どうってことなさそうで、ややこしいのがホン・サンス作品。
ホン監督といえば、脚本を撮影当時の朝に書くことで有名ですが
そのような即興的な映画制作は行き当たりばったりで簡単などころか、
むしろハードルは高いと思われます。
主人公モリ(加瀬亮)がいつも持ち歩く吉田健一の「時間」は、
加瀬亮がたまたまロケに持参していた私物だそうですが
ハプニングを積極的に許容しつつ、ひとつの作品世界を構築するのは
並大抵のことではないと思うのです。
そもそも、この作品のロケの暇つぶしに加瀬亮が「時間」を選んだのは
同じ時間が繰り返され、偶然による事象のバリエーションをリピートする
これまでのホン・サンス作品が彼の頭にあったからかもしれません。

この作品の物語を本来の時間通りに理解しようとすれば、
モリ(加瀬亮)とクォン(ソ・ヨンファ)
ソウルにある語学学校の同僚で、かつ恋人同士で
モリはクォンにプロポーズするも、病気を理由に断られ、
やむなく日本に帰国していたもののクォンのことが忘れられず、
再びソウルに戻ってきて、
クォンが暮らすマンションのすぐ側にあるゲストハウスに宿泊しながら、
クォンを探しますが、チリに旅行中のクォンとは会うことが出来ません。
仕方がないので、文庫本片手に町をうろつく日々を送るうち、
一文無しの韓国人と意気投合したり、
逃げた犬を見つけたのをきっかけに、「自由が丘8丁目」という名前のカフェの
女性ヨンソン(ムン・ソリ)と親密な関係になったりします。
やがて日本に帰る日がやってきたモリは、
クォンに宛てた日記のような手紙をしたため、
かつて勤めていた語学学校に言付けます。
チリ旅行から帰ってきたクォンはその手紙を受け取り、
「自由が丘8丁目」で読み進めるうちにモリの思いを知るとゲストハウスへ。
モリが帰国する前日にやっとふたりは再会します。
次の日の早朝、ふたりは一緒に日本へと帰り、結婚。
子供も授かって、めでたしめでたし〜というお話。

こう書くと、とっても簡単ですが
モリがクォンに宛てた手紙の内容が物語になっているものの、
クォンが手紙を落としてしまい、ページの順番がバラバラになったので
シーンの時系列もバラバラなのです。

それがホン・サンス監督独特の、夢を見ているような倒錯をもたらします。
『3人のアンヌ』では、映画学校の学生がシナリオを書き直すことが
同じ時間が繰り返されるうちに
少しずつ変化していく口実になっていましたが
この作品では、そのかわりが手紙の順番になっているわけで
時間が繰り返したり、時系列をシャッフルしたりするのに
ちゃんと理由を設定している
のは
少しだけ分かりやすくするためのサービスなのかもしれません。
お得意の唐突なズームアップ
この作品ではいくらか説明的な印象でした。

ホン・サンス作品としてはめずらしく
映画関係者が登場しませんでしたが
男たち、とくにモリがてろてろのシャツを着ているのは
いつも通りでした。
役柄のイメージを伝えるためか、
プロモーションでいろんなメディアに登場している加瀬亮が
いつもモリのようなてろてろの服装を着せられているのは
ちょっとかわいそうにもなりました。
そして酒とタバコもあいかわらずです。

ホン・サンス作品について考えるときはいつもそうなのですが
あきらかに魅了されているのに
その魅力をうまく言葉にすることが出来ません。
僕の能力が足りないのは否定しませんが
ホン・サンス作品は解釈や意味づけを寄せ付けない
独特の佇まい
を持っています。
それは、音楽を楽しむのに似ていて
音楽を聴くときに、この音のあとにこの音がくるということは
何を意味しているのかなどとは考えませんが、
それでも興奮したり感動したりすることが出来るように
ホン・サンスが作る映画はひとつの曲のようだと感じます。

さて、本編が始まってしまったので
席を移動してくれた前列の彼女たちと言葉を交わすことは控えて
上映が終わったら、一言お礼を言おうと思っていたのですが
エンドロールが終わった瞬間に、
ふたりは急ぐ様子で席を後にしてしまい、
お礼を言うことができませんでした。
こればっかりは悔やまれてなりませんが
ちゃんとしたひとは、ちゃんといて、
世の中捨てたもんじゃないなということを実感できたし、
この作品の内容とともに、素晴らしい映画体験でした。

あのときのおふたり、どうもありがとう。





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