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世界にひとつのプレイブック

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(原題:Silver Linings Playbook 2012年/アメリカ 122分)
監督・脚本/デビッド・O・ラッセル 撮影/マサノブ・タカヤナギ
出演/ブラッドリー・クーパー、ジェニファー・ローレンス、ロバート・デ・ニーロ、クリス・タッカー、ジャッキー・ウィーバー

概要とあらすじ
それぞれに最愛の人を失い心に傷を負った男女が再生していく姿を、笑いや涙を交えて描いたヒューマンコメディ。監督は「ザ・ファイター」のデビッド・O・ラッセル。主演は「ハングオーバー!」のブラッドリー・クーパーと「ハンガー・ゲーム」のジェニファー・ローレンス。妻の浮気が原因で心のバランスを崩したパットは、仕事も家も失い、両親とともに実家暮らし。いつか妻とよりを戻そうと奮闘していたある日、事故で夫を亡くして心に傷を抱えた女性ティファニーに出会う。愛らしい容姿とは裏腹に、過激な発言と突飛な行動を繰り返すティファニーに振り回されるパットだったが……。パットの両親役でロバート・デ・ニーロ、ジャッキー・ウィーバーが共演。第85回アカデミー賞では作品、監督、脚色、主演・助演男女と主要部門すべてでノミネート。ローレンスが主演女優賞を受賞した。(映画.comより)



Excelsior!(もっと高く!)

『世界にひとつのプレイブック』は、事前情報で耳にしていた
キレる男とキレる女の物語という一部分だけを心に留め、
なぜか勝手にシリアスなドラマだと思い込んでいたのですが
よくよく見るとどの紹介記事にもコメディーと書いてあるではないか。
自分が馬鹿だということは自他共に認めるところだけれども
さすがにゾンビが出てくると思い込んでいたわけではないので
コメディーをシリアス・ドラマだと思い込んでいても
鑑賞の大きな妨げになるわけではないのですが
なんとなく身構えて、身を固くしていたのは確かで
もっとリラックスして映画に入ればよかったと
いささかの後悔と反省をしているのです。
まるで、殴られると思って歯を食いしばっていたら
頰にちゅっとキスをされたような……
一体何を言っておるのだ、オレは。

主人公のパット(ブラッドリー・クーパー)
妻が同僚の男と自宅で浮気しているのを目撃し、
浮気相手の男をボコボコにしたことから
精神病院送りとなったわけですが
留守中に人んちに上がり込んで、シャワーを浴びながら
自分のカミさんといちゃついている男に「出てけ」などと言われたら
殴りかかるのは当然。ボコボコ必然。

ヘミングウェイにいちゃもんつけたり、
因縁の曲であるスティーヴィー・ワンダーの
「マイ・シェリー・アムール」が聞こえただけで暴れまくり、
夜中に急に見たくなった結婚式のビデオが見つからないことに
腹を立ててブチギレるのは
やっぱり異常だというほかないのですが
アメフトの試合を観に行き、スタジアムに入る前に
からまれている自分の兄をかばって、
結果的に自分も殴り合いに巻き込まれてしまうパットは
浮気発見のときと同様に
不可抗力でそうなってしまったとしか言いようがなく
まったくもって他人ごととは思えない僕には
同情の気持ちを抑えることが出来ません。

ヘミングウェイや結婚式のビデオのくだりは
コメディとしてエキセントリックに描かれていますが
激情型だとかキレやすいとかで
片付けられてしまいがちなパットの憤りは、
捉えようによっては純粋かつ繊細
よくもまあこんな非道いことを見過ごして
平気な顔をしていられるもんだと
日常的にはらわたが煮えくり返っている僕に言わせれば
世の中を何事もなく泳ぎきるためには
あらゆることに「鈍感」でなければならないのです。

かたや、ティファニー(ジェニファー・ローレンス)
夫の死を契機に勤務先の男全員(+女も)とヤリまくり
そのおかげで会社もクビになるのですが
パットが別れた元妻を追い求めるのに対し、
ティファニーが心の隙を埋めるように
次々と男を乗り換えるあたりは
失恋後の男女の性差を表していて興味深いところです。

舞台となる2008年当時のフィラデルフィア
深刻な不況に陥っていて
パットもティファニーも無職、
そしてロバート・デ・ニーロが演じるパットの父親
無職で年金ももらっていない状況です。
そういった彼らを取りまく社会の状況も
過去と決別して新しい何かを始めなければならないという
この作品のテーマの一端を担っています。

このところ、やたらと小作品に出ずっぱりのデ・ニーロは
デ・ニーロ節ともいえる「こんなかんじでしょ?」的な
おざなりな演技が目についていましたが
この作品では、味わい深い存在感でした。
全財産をつぎこんだアメフトの試合の賭けに
息子たちを巻き込んで
「これは、ファミリービジネスなんだ!」というセリフは
『ゴッド・ファーザー』を思い起こさせました。
壁に掛けてある二人の息子の写真の扱いかたをみても
デ・ニーロのパットに対する態度はあきらかにぞんざいですが
自分の賭けのジンクスのためにはパットを必要とするなど
パットに負けず劣らず自己中心的な性格は
この親にしてこの子ありなのです。

全体の物語を見渡せば
挫折した主人公が復活を誓い、スポーツなどの何かに取り組み、
その決勝戦やお披露目のときに
すべての問題解決の道が収斂されて大団円なり!
という定型的なストーリーです。
この作品も、すべてがまるっと納まって
一切わだかまりを残さないハッピーエンドですが
それに苦言を呈するのは無粋というもの。
この作品はあくまでコメディーで
僕が勘違いしていたようなシリアスな社会ドラマにするなら
別の選択肢があったことでしょう。
映画には、観客に現実を突きつけて判断を迫るものもあれば
嫌なことは忘れてスカッとしようぜというものもあるのです。
現実では、理解されない人間たちなのだから
映画の中くらいハッピーになったっていいじゃないか!
こ、このやろう。

実際、この作品の中で
パットとティファニーの周囲の人たちはみんな優しく、
実は裏で二人をくっつけようと画策してくれたりしています。
現実では、こうはいきませんよ。
あいつはダメなやつだと切り捨てられておしまいです。

邪魔をしているのか助けに来るのか、ところどころで登場する
パットの精神病院友だちのダニー(クリス・タッカー)
まるで天使か妖精のような役回りで効果テキメンでした。
とくに、パットとティファニーが
ダンスの練習中に飛び込んでくるシーンでは
まったく脈絡なく、黒人だからダンスが上手いとでもいうように
二人にダンスを教えるのですが
コーチ役とまでは決して言えないその中途半端な関わり方
かえって面白いと感じました。
防音を施した部屋でダンスの練習をするシーンでは
ティファニーの、口が裂けてもスリムだとは言えない、
かといって決してデブというのでもない、
絶妙なムッチリ感をまとったエロい腰回りを見せつけられると
心の中で「ヒュ〜」などとつぶやいてみたりするのです。
よくぞ我慢したな、パットよ。えらいぞ。

カメでのろまな僕でも、途中からは
この作品が先述した定型フォーマットに則っていることに感づき、
ラストのダンス大会では
二人のダンスが見せ場になると予想していたのですが
意外にもカメラは二人にミドルショットで寄りっぱなしで、
一部を除いてダンスの全体像を映し出すことはなく、
監督にとってはダンスを見せ場にするつもりなどなかったのか
二人の腕前がどれほどのものなのかはよくわかりませんでした。
二人がかねてから練習していた「大技」
あえて言うなら「立ちクンニ」のような状態で
いざその「大技」が繰り出されたときには
成功したのかどうか判断がつきませんでした。
ま、「立ちクンニ」という言葉は聞いたことがないし、
「立ちクンニ」という言葉を
淀みなく発した自分に驚いている次第です。

デビッド・O・ラッセル監督の過去を調べれば
すぐにわかることですが、『ザ・ファイター』に続き、
この作品も自己を投影した趣が強く、
『ザ・ファイター』は陰性、
『世界にひとつのプレイブック』は陽性という捉え方か可能で
この2つの作品が対を成しているといえると思います。

どうでもいいようなそうでもないような話をすると
パットに扮するブラッドリー・クーパーの鼻梁にある傷
キレやすくて危ない感じをよく表していると思っていたのですが
改めてブラッドリー・クーパーの画像をググってみると
もともとある傷のようですね。
画像を見比べても、この作品での傷のほうが
赤く生々しく見えるのは僕の気のせいか、
はたまた確信犯的なメイクによって強調されたか……
どちらにせよ『ハングオーバー』などの
チャラい役が多いブラッドリー・クーパーは
短髪のほうが色っぽいよと言っておこう。

原題の「Silver Linings Playbook」
Silver Liningsが希望の兆しを意味し、
Playbookとはアメフトの作戦ノートのことだそうです。
この作品とは切っても切れないアメフトチームの
「イーグルス」は地元愛=家族愛の象徴のような存在で
その弱さがこの作品にもってこいなのでしょう。

もともと「鈍感」な人間ならそれでいいけれど
敏感な人間が努めて「鈍感」であろうとするのはなかなか難しいことで
本来「鈍感」ではないから「鈍感」を許せないわけで
結局「鈍感な世界」で生きていくのが困難になるのです。

こういうこというのは自己肯定的すぎる?
自分の不遇を世の中のせいにしてる?
そうかな?
パットが求めたのは、元妻とヨリを戻すことだけでした。
この作品の中で、パットは家族や友人たちにも恵まれたけれども
パットが最初に求めたものはそれだけでした。

自分の理解者は、一人いればいいんです。
たった一人でもいてくれれば、大丈夫なんだ。





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コメント

この映画がとっても好きで、繰り返し観ている者です。
この映画の感想をいろいろなサイトで見てきましたが、のほうずさんの感想が、1番しっくりきて、1番好きでした! 私が気づかなかったこともあり、なるほどなと考えさせられました。ありがとうございます。

2015/12/22 (火) 19:27:16 | URL | たけのこ #- [ 編集 ]

Re: タイトルなし

> たけのこさん
読んでいただき、ありがとうございます。共感していただき、心から嬉しいです。

2015/12/22 (火) 22:23:56 | URL | のほうず #- [ 編集 ]

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