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馬々と人間たち

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(原題:Hross í oss 2013年/アイスランド 81分)
監督/ベネディクト・エルリングソン 製作/フリドリック・トール・フリドリクソン 脚本/ベネディクト・エルリングソン 撮影/ベルグステイン・ビョルゴルフソン
出演/イングバール・E・シーグルズソン、シャーロッテ・ボービング、ステイン・アルマン・マグノソン、ヘルギ・ビョルンソン

概要とあらすじ
雄大な自然の広がる島国アイスランドを舞台に、馬と人間たちが織りなす生と死と欲望の物語を馬の視点からつづり、世界各国の映画祭で話題を集めた異色ドラマ。強い絆で結ばれた馬と人々が繰り広げる奇想天外なエピソードの数々を、悲劇も喜劇も馬も人間も同じ目線で捉えたユニークなスタイルで描く。独身男性コルベインは未亡人ソルベーイグとひかれあっていたが、互いの馬同士が先に結ばれてしまう。一方、ベルンハルズルは大好きなウォッカを手に入れるため、愛馬に乗って冷たい海に飛び込むが……。アイスランドの演劇界を代表する俳優・演出家のベネディクト・エルリングソンが長編初メガホンをとり、「コールド・フィーバー」の名匠フリドリック・トール・フリドリクソンが製作に参加。出演は「陽のあたる場所から」のイングバール・E・シーグルズソンほか。2013年・第26回東京国際映画祭コンペティション部門に出品され、最優秀監督賞を受賞。(映画.comより



とっても馬並、アイスランド

アイスランド映画といえば
『アウトロー(2012)』しか観たことがなくて
アイスランドにもこんなブラックな社会があるのかと
意外に思ったものですが
意外に思うくらいだから
アイスランドのことをなにか知っているのかといわれれば
なにも知りません。いいかげんなもんです。

『馬々と人間たち』の予告編を観たときには
壮大な自然と馬をめぐるオフビートなコメディかと
思っていたのですが
そんな生やさしい作品ではありませんでした。
なんとも不思議な感覚に陥るストーリー展開だけでなく、
アイスランドのことも馬のことも知らない僕には
そもそもなにをやっているのか、わからない!

一瞬の逡巡のあと、購入した700円のパンフレットを読むと
なるほどと膝を打つことばかり。
『馬々と人間たち』は、
まさにアイスランドならではというべき映画なのでした。
ということで、パンフレットの記事を参照しながら
書き連ねていく所存です。

白い牝馬の毛並みをなめるように接写するオープニング
馬に対する並々ならぬ愛情と畏敬の念に溢れ、
牝馬だからというわけじゃないだろうけど
馬のなだらかな筋肉の隆起はなまめかしく、
エロチックですらあります。

その牝馬に馬具を取り付け、ちょっとおめかしした様子の
コルベイン(イングバール・E・シーグルズソン)は
未亡人ソルヴェーイグ(シャーロッテ・ボービング)の家まで
お呼ばれに行こうとしています。
それを遠くから双眼鏡で見つめる人たち
一体なにをやってるのかと思ったら
このふたりの恋の行方を覗き見しているのでした。
なんせ広いから。のぞきをするには双眼鏡なのです。

牝馬に跨ったコルベインが
得意満面の表情でソルヴェーイグの家に向かうシーンは
背後に拡がる雄大な空と地平線ともあいまって
なんとも爽快な気分になりますが
速歩のようなスピードで走る牝馬の前脚の動きが独特
ちょっとコミカルに映り、なんだろなと思っておりました。
そもそもこの作品に登場する馬たちは
1100年以上も純血を保っているアイスランド馬と呼ばれる特別な馬で
あのコミカルな脚の動きは「トルト」と呼ばれ、
「グラスを持っていても中身がこぼれない」といわれるほど
安定した走り方だったのです。
しかも、アイスランド馬は調教しなくても
この走り方ができるんだそうな。
確かにそう言われてみれば、今まで見たことのある乗馬シーンと比べて
この作品での馬に乗っている人の上下動は
少なかったような気がします。
要するに、アイスランドの大自然をバックに
アイスランド馬がそれ特有の走り方を披露するこの冒頭のシーンは
この作品が紛う方なき「アイスランド映画」だと
宣言している
のです。

そして、メインビジュアルにもなっている衝撃的なシーン
ソルヴェーイグの家から帰宅するコルベインが跨った牝馬に
欲情した真っ黒い雄馬が走り寄り、交尾を始めるのです。
ワンチャンスに賭けた信じられないようなショット!
牝馬に跨ったまんまのコルベインのなんたる脱力感!

まるでコルベインがレイプされているかのようです。
僕は、牝馬を見てもよおした「肉食系」の雄馬が
(この「肉食系・草食系」という表現の馬鹿らしさを見よ!)
牝馬を「手込めにした」のかと思っていましたが、
じつはその前に、牝馬が尿を漏らすカットがあり、
尿が放つフェロモンによって、牝馬のほうが雄馬を誘惑していたのです。
主導権を握っているのは、やっぱりメスなのだ! やっぱり!
フェロモンで誘惑された雄馬は正気を失い、
牝馬に向かって馬突猛進するほかなくなるのです。
馬まっしぐらなのです。
牝馬は、自分から誘惑したとき以外は
雄馬が近づいてきても徹底的に追い払うんだとか。
(ほらみろ! やっぱり!)

そんな脱力感いっぱいのコミカルな展開が続くと思っていると
傷心のうちに帰宅したコルベインは、牝馬を射殺してしまいます。
コルベインにとって、アレはそれほど屈辱的だったのですが
このように、この作品では
オフビートな笑いをもたらして気を緩めたと思うと、
唐突にシリアスな展開が待ち受けています。


ズームアップした馬の瞳をアクセントにして、
周辺住民それぞれのエピソードがオムニバスのように語られますが、
一見無関係なようでいてどこか繫がっています。
海を進むロシアの船からウォッカを譲ってもうおうと
馬に乗って海に入っていく男
(この映像もすごい!)
所有者に無断で有刺鉄線の柵を切る男
それをトラクターで追いかける男
コミカルに始まるそのどれもに、唐突な死やケガが訪れます。
陽気な観光客らしき男のエピソードは
もっとも呑気でほほ笑ましいと思っていると
もっとも過酷な展開が待ち受けています。

唯一全体を穏やかに貫いているのは
コルベインとソルヴェーイグの恋の行方です。
どういうわけか未亡人にモテモテなコルベインを
我がものにしたいソルヴェーイグは積極的にアプローチし、
馬たちと双眼鏡に見つめられながら
ついにコルベインと「交尾」するのです。
いわずもがな、冒頭の馬の交尾シーンと繫がります。
アイスランドは平和度指数と男女平等度指数で世界1位だそうですが
とくに恋愛において女性は積極的かつ自由奔放で
妊娠中に恋愛相手の男性を変えたり、
出産後も結婚せず、子供の父親と同居しないこともあるのだとか。
原題の『Hross í oss』「私たちの中の馬」という意味だそうで
まさに冒頭の馬の交尾と人間の交尾が重なるのですが
そこにはアイスランドの性に対する考え方も
色濃く反映されているように思います。

ひとりで7頭の馬を操る女性が美しくも逞しく、圧巻でしたが
大量の馬を探して集めたりしているのは
なにをやっているんだろうと思っていたところ、
アイスランドの牧畜は夏に馬を放牧し、秋になると村中総出で
散らばった馬をかき集めるんだとか。
そして一か所に集めた馬を牧場ごとに仕分ける
「レッティル」と呼ばれる行事がラストシーンなのです。
馬と人間が一堂に会して大団円を成すようなラストシーンは
さまざまなアイスランドらしさを詰め込んだこの作品の
すべてを物語っているように思えます。

馬に乗ってみたくなりますよ。





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