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汚れなき祈り

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(原題: Dupa dealuri 2012年/ ルーマニア・フランス・ベルギー合作 150分)

監督・脚本/クリスティアン・ムンジウ 原案/タティアナ・ニクレスク・ブラン 撮影/オレグ・ムトゥ 美術/カリン・パプラ、ミハエラ・ポエナル
出演/コスミナ・ストラタン、クリスティナ・フルトゥル、バレリウ・アンドリウツァ、ダナ・タラパガ

概要とあらすじ
「4ヶ月、3週と2日」(2007)でルーマニア映画初のカンヌ国際映画祭パルムドールを受賞したクリスティアン・ムンジウ監督が、05年に同国で起こった事件を題材に、2人の女性が悪魔祓いの犠牲になる悲劇を描いたドラマ。ドイツに出稼ぎに行っていた身寄りのないアリーナは、同じ孤児院で育ったヴォイキツァに会うため故郷のルーマニアに戻ってくる。しかし、修道院で暮らし、信仰に目覚めたヴォイキツァとは、以前のように心が通わなくなり、アリーナは精神のバランスを崩していく。そしてそれが悪魔の仕業とみなされ、悪魔祓いの儀式が執り行われることになり……。12年・第65回カンヌ国際映画祭で女優賞と脚本賞を受賞。(映画.comより



それぞれの正義とそれぞれの欺瞞

2005年6月にルーマニアの修道院で起こった
「悪魔憑き事件」を題材にした『汚れなき祈り』
実際の事件の顛末はこの作品のストーリーとほぼ同じですが
単に悲惨な事件を再現し、
ルーマニア正教会の欺瞞を告発するに留まらない作品となっています。
停車した列車の間を人の流れに逆行しながら歩いていく
ヴォイキツァ(コスミナ・ストラタン)の後ろ姿を捉え、
待ち合わせていたアリーナ(クリスティナ・フルトゥル)
どうやら久しぶりらしい再会の抱擁をし、
ふたりでバスに乗り、ヴォイキツァがいる修道院へ向かうまでの
編集のテンポが小気味よい。
(小刻みという意味ではなく)

ヴォイキツァとアリーナはともに孤児院で育った幼なじみで
最初は、アリーナが修道女になるために
修道院を訪れたのかと思っていたらそうではなく、
ドイツに暮らすアリーナが
修道女となったヴォイキツァをドイツに連れ帰り、
一緒に暮らそうとしていたのでした。
ヴォイキツァとアリーナは、大の仲良しというだけでなく
明らかにレズビアンの関係
その愛情の熱量はアリーナのほうが圧倒的に多いのです。
かつてはヴォイキツァも
同様の熱量でアリーナを愛していたのかもしれませんが
修道女になった今では、ヴォイキツァの愛情は
神に向けられている
のです。

神父(バレリウ・アンドリウツァ)を中心とする修道院の考え方は
寛容とはほど遠く、
異教徒は立入禁止にするほど排他的で独善的
です。
30歳くらいというわりには老けてみえる神父が
修道女たちに囲まれて生活しているようすは
「イエスの方舟」のようでもあります。
……というと語弊があるかもしれませんが
前半は珍客アリーナの視線を通じて
修道院生活の奇怪さが描かれます。
修道女たちが破天荒なアリーナのことを
「カルト宗教の信者かも」と疑うセリフがありますが
いかなる宗教も部外者から見ればカルトなわけで
キリスト教とて同じです。
とはいえ、この修道院も
壁画がないという理由で正教会から正式に認められておらず、
偶像崇拝を嫌う神父は
彼なりにまやかしの信仰と戦っている
のです。

ところが、アリーナが発作的な癇癪を起こして暴れるようになる
少しようすが変わってきます。
密室的で閉鎖的な正教会の奇怪さを描いているかと思いきや
ヴォイキツァへの愛情を通り越して
もはやストーカーとも言うべきアリーナの偏執狂的振る舞いが
事態を複雑にさせます。
愛情に飢えているアリーナは
残された一縷の望みとしてヴォイキツァにすがろうとしているのですが
相手が自分の想いに応えてくれないと判ると
突然暴れ出すアリーナの反抗にはまったく正当性がありません。
修道院の考え方が異常なのかと思っていると
アリーナの言動も異常極まりないので
一体どちらが正気なのか判らなくなってくるのです。

アリーナに手を焼く修道院は
あきらかにやっかい払いをしたがっていますが
病院も里親もアリーナを受け入れてはくれず、
やがて「機密」と呼ばれる悪魔払い=エクソシストへ。

一時は、悪魔払いのおかげで
落ち着きを取り戻したかに見えたアリーナは心肺停止状態となり、
病院に搬送される救急車のなかでアドレナリンを5本注射され、
病院に着いたときにはすでに帰らぬ人となっていました。
アリーナの死因は、
手足を拘束したままで食事を与えなかった悪魔払いなのか
アドレナリンを注射した救急隊員の判断ミスなのか

はっきりとはわかりませんが
少なくともそれぞれがそれぞれの考えで
「よかれと思って」やった結果には違いありません。
だからといって、ひとりの人間を死に至らしめた判断が
許されるはずもなく、
なんとも複雑な心境をもたらします。

この作品は、
いずれかの価値観に優劣をつけるものではなく
それぞれが持つ正しさが万能ではないことを知らしめます。
また、正教会にみられる不寛容や
アリーナの自己中心的な振る舞いとは別に
アリーナの死に立ち会った女医や警官たちの無関心にも
空恐ろしさを感じます。
アリーナの死後、アリーナのセーターを着たヴォイキツァは
数ある価値観の狭間で揺れ動く心境を象徴しているかのようです。

150分と少し長めの上映時間ですが
ぐいぐい引き込まれていく作品です。





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