" />

もらとりあむタマ子

moratoriamtamako.jpg



(2013年/日本 78分)
監督/山下敦弘 脚本/向井康介 撮影/芦澤明子、池内義浩 美術/安宅紀史 編集/佐藤崇
出演/前田敦子、康すおん、伊東清矢、鈴木慶一、中村久美、富田靖子

概要とあらすじ
「苦役列車」でもタッグを組んだ前田敦子と山下敦弘監督が、実家で自堕落な日々を送る女性タマ子の姿を描くドラマ。東京の大学を出たものの、父親がひとりで暮らす甲府の実家に戻ってきて就職もせず、家業も手伝わず、ただひたすらに食っちゃ寝の毎日を送る23歳のタマ子が、やがてわずかな一歩を踏み出すまでの1年を追う。音楽チャンネル「MUSIC ON! TV(エムオン!)」の30秒のステーションIDとして、春夏秋冬を通して描かれてきたタマ子の日常を長編化した。主題歌を星野源、脚本を「リンダ リンダ リンダ」「マイ・バック・ページ」の向井康介が担当。(映画.comより



とにかく出て行け!

音楽チャンネル「MUSIC ON! TV(エムオン!)」
30秒のステーションIDとして企画され、
結果的に一本の映画として制作されたという
『もらとりあむタマ子』
そもそも15〜30秒という限られた時間の間に
公明正大なテーマを描ききるのは無理な話で
自ずからある設定のある断片を切り取ったものを見せて
その裏にある何かを観客(視聴者)の
共通する観念に委ねるという手法をとるのは
想像に難くないのですが
この作品においては、そのような企画の成り立ちが
作品の出来にポジティブな結果をもたらしているように思います。
また、その細切れだったであろうエピソードを
一連の物語として紡ぎ上げた脚本の妙も光ります。
なにかを訴えかけてやろうと意気込むのではなく、
タマ子(前田敦子)と彼女にまつわる人々という
あくまで個人にフォーカスを当てた結果、
自然とにじみ出てくる共感にまかせるという英断が
この作品の成功であるし、観客に対する信頼の証しでもあると思います。

なにからなにまでセリフで説明する「副音声映画」が多いなか、
この作品では、説明的なセリフが極めて少ないのも
好感が持てます。
また、一年間の物語である本作は
その設定通りに一年間かけて撮影されているのも
功を奏したのではないでしょうか。

理由はわからないけれど
とにかく実家に帰省(寄生)しているタマ子の
ぐうたらぶりがまずは描かれます。
タマ子がやることといえば、食べる・寝る・漫画を読む、という
生存活動+逃避行動に限られていて
自分が食べ終わった食器すら片付けません。
そのくせテレビのニュースを観ては
「だめだな日本は」と独りごちるのです。
いかにもニートにありそうなシーンで
自分が直面している問題に窮しているときに
より大きく、より漠然としたものに責任転嫁するのは
現実逃避の手段としてよく見受けられるものですが
この作品では、この一言でその全てを表現しています。
そうかと思えば、いざご飯を食べる段になると
テレビを消し、「いただきます」と手を合わせる律儀さ
おそらくこの家の教育によるものでしょう。
年越しそばを食べながら新年の挨拶メールを打つシーンはありましたが
そのすぐあと、タマ子の姉夫婦が訪れたとき
タマ子がちらっと携帯を確認するカットを入れるだけで
タマ子が送った新年の挨拶メールには返信がなく、
それはすなわちタマ子には親しい友達がいないことを
理解させる演出は見事だと思います。


また、この作品は料理映画の側面も持ち合わせています。
冒頭のシーンで、タマ子がいいかげんにラップを剥がしてほおばるのは
ロールキャベルというちょっと手のかかる料理だし、
その後のカレーゴーヤチャンプルーも食欲をそそります。
全ては父親(康すおん)の手料理ですが
年越しそばの出汁をとるときには、きちんと追いガツオだったり、
どれもこれも美味そうなうえに
一人暮らしが長い父親が
図らずも身につけてしまった料理の腕前
まで想像させるし、
パスタに刻んだパセリをのせるというエピソードでは
娘に気に入られたいという父親の心理も窺えます。

トップアイドルの前田敦子が演じるタマ子が
やっと重い腰を上げて面接を受けようとする先が
芸能事務所というのは洒落も入っているのでしょうが
作品中ではじめて台所に立つタマ子の後ろ姿が
それだけで彼女に自立の兆しが見え始めていることを悟らせる
し、
おそらくダイエットのために自分用の温野菜を作って食べるのに
父親「なんだ? お前ご飯食べないの?」
タマ子「あたし、ダイエット中だから」というような、
本来は親子で交わされていても不思議ではない会話であったとしても
セリフによる説明を一切差し込まないのが素晴らしいのです。
また、言葉にはしないけれど行動を見てなんとなく心中を察する
という省略による演出が、
そのまま娘に対する父親の接し方となっている
のも
見事としか言いようがありません。

父親の再婚相手になるかもしれない富田靖子に対して
タマ子がとる行動は
自分が実家から閉め出されてしまうかもしれないという不安と
嫉妬がない交ぜになったものでしょう。
タマ子は富田靖子に、父親の消極的な情報をもたらそうとするなかで
「わたしに出て行けっていえないところがダメなんですよ」
と、思わず本音を漏らしてしまいます。
それを受けてかどうか、ついに父親はタマ子に
「夏が終わったら、とにかく出て行け」というと
タマ子は「合格。」と返すのです。

実家での父親との暮らしは
タマ子にとってあまりにも快適であるがために
父親に依存しきった生活を続けていたわけですが
自立を決意したまではいいものの、
それを実行に移すのに父親の一言が必要なくらいには
まだまだ甘えている状態なのでしょう。
父親としても、タマ子がいつまでも自分に甘えた状態でいるのは
自分が甘えさせているからだと考えたのかもしれません。

タマ子の父親を演じた康すおんと
タマ子に顎で使われる中学生の仁を演じる伊東清矢
没個性ぶりが最高で、
とくに父親の康すおんが醸し出す娘との距離感は絶妙でした。
富田靖子は再婚相手に選ぶ女性として「ちょうどいい感じ」だったし、
この作品が前田敦子のアイドル映画ではなく、
彼女が作品の素材に徹しているように思えるのも
好印象でした。





にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ 
↑お気に召したらクリックしていただけますと、もんどりうって喜びます。
関連記事
スポンサーサイト

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

«  | ホーム |  »

プロフィール

のほうず
映画が好きで観るのはいいが、
かたっぱしから忘れていくので
オツムのリハビリ的ブログ。
******************
当ブログの文章・画像およびイラストの無断転載を禁じます。引用される場合は、出典の表記と当ブログへのリンクを設定してください。

FC2ブログランキング

FC2Blog Ranking

お気に召したら
クリックお願いします。
にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ

スポンサードリンク

↓過去の記事はこちらから!↓

検索フォーム

QRコード

QR

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

カウンタ