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エル・トポ

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(原題: El Topo 1970年/ アメリカ・メキシコ合作 123分)
監督・脚本・美術・音楽/アレハンドロ・ホドロフスキー 製作/アレン・クライン 撮影/ラファエル・コルキディ
出演/アレハンドロ・ホドロフスキー、ブロンティス・ホドロフスキー、デヴィッド・シルヴァ、ポーラ・ロモ、マーラ・ロレンツォ、ロバート・ジョン

概要とあらすじ
銃の名手エル・トポ=モグラは、最強のガンマンになるため、息子を置き去りにして砂漠へと旅立つ。エル・トポは、砂漠に暮らす4人の銃のマスターたちを卑劣な手で倒すが、最強であることの無意味さを思い知る。チリ出身のアレハンドロ・ホドロフスキー監督が1970年に発表し、カルト的人気を誇るメキシコ・ウェスタン。(映画.comより抜粋



奇形は遺伝子の想像力だ

生意気ざかりの子供の頃に繰り返し観て、
ただただイカれた映像に興奮し、それを観ている自分も
なんだかイケてるような気になっていたあの頃からずいぶん時が経って
人間的にはあまり成長していないけれど
それなりに感じ方に変化があるんじゃないか。
というわけで、『エル・トポ』

ダリの絵を思わせる砂漠を
馬に乗ってやってくる黒ずくめの男と全裸の少年。
空の青の軽薄さが異様に映ります。
この非現実的な砂漠も、男が傘を差しているのも
『続・夕陽のガンマン 地獄の決斗』へのオマージュ。
処女作『ファンド・アンド・リス』があまりにも不評だったため、
この作品を大衆受けする西部劇にしたそうですが、
(これでも少しは大衆に媚びているという驚き!)
『続・夕陽のガンマン 地獄の決斗』からは
相当なインスピレーションを得たのでしょう。

「モグラは穴を掘って太陽を探している
 ときに地へたどり着くが
 太陽を見た途端、眼は光を失う」


というタイトルバックのモノローグは
この作品の主張のすべてを言い表しています。
「エル・トポ」がモグラを意味するということは
今回調べてみて初めて知りました。

エル・トポを演じるのはホドロフスキー。
全裸の少年はホドロフスキーの実の息子です。
DVDではフルチンの少年の股間にボカシが入っていて
バカが考えることにはほとほと呆れますがそれはともかく、
通過儀礼として、7歳になった少年に
おもちゃ(ぬいぐるみ)と母親の写真を砂に埋めさせます。
その後、この少年は父親から捨てられることになるのですが
これはホドロフスキーの父親が家庭を顧みない人物だったからだそうで、
実の息子が演じる全裸の少年こそが
ホドロフスキー自身の姿でもあるのです。

ふたりがたどり着いた村落は死屍累々で
血の河が流れ、カーテンのように首吊り死体がぶら下がっています。
血の色は徹底的に赤いと思わされる衝撃的な映像です。
かろうじて息のある男が苦しみから殺してくれと頼むと
エル・トポは息子に銃を渡し、殺させます。

ヤギの群れに囲まれて3人の男を始末したエル・トポは
残りの一味の居場所を聞き出します。
この村落を襲ったと思われる残りの一味は
大量のハイヒールを並べて匂いを嗅いだり、
地面に女の絵を描いて犯したり
しています。
ひとりの男がサボテンの上に立てたバナナを刀で切って食べるのは
黒沢映画や座頭市など日本映画からの影響だとか。

正義感に駆られてか、
放蕩の限りを尽くしている一味を見つけたエル・トポは
親分の「大佐」のあそこを切り落とし、
虐げられていた村人たちの復讐を成し遂げます。
大佐の情婦から解放された美女マーラィ(マーラ・ロレンツォ)
迫られたエル・トポはマーラィを選び、
少年を捨ててしまいます。

果てしない砂漠の旅路で飢えと渇きに苦しんでいると
エル・トポが卵を掘り当て、銃で岩を撃つと水が噴き出し、
エル・トポは自らを「俺は神だ」というようになるのですが
やがてその力が発揮できなくなります。
行き詰まったからか、エル・トポが突如マーラィを犯すと
今度はマーラィが水と卵を出せるようになり、
ふたりの立場が逆転します。
マーラィに三行半を突きつけられたエル・トポは
欲望に負け、マーラィの尻に敷かれて、
4人の達人を倒すという試練を選択するのです。

この4人はそれぞれ、
インド人哲学者、グルジエフ(20世紀最大の神秘思想家)、
マヤ・アステカの神、道教の師
を表しているとか。
(別冊映画秘宝『ウェスタン映画入門』より)

一人目の達人は、盲目で身体の痛みを感じない男。
足のない男をおぶった手のない男という強烈なキャラクターの従者が
エル・トポを出迎えます。
達人に決闘を申し込んだエル・トポが
達人のあまりの凄さにおじけづくと
「ズルすればいいのよ!」とけしかけるマーラィ。
落とし穴というもっとも幼稚で卑怯な手段を使って
エル・トポは勝利を収めます。
ここで、まったく謎の女ガンマンが突然登場。
その後ずっとエル・トポに付いてきて
やがてマーラィとレズビアンの関係になるのですが
なんとも不思議な存在です。

二人目の達人は、手先が器用なマザコン。
マザコンなんていうのは簡単ですが
自分を創り出した存在としての母親を崇拝し、
完全な服従を誓っている男
です。
この男が言う、
「君は自己発見のために撃つ。俺は自己喪失のために撃つ」
「自己を失ってこそ完璧だ。そのためには愛せばいい」

という言葉が真に迫ります。
自己実現を思いあぐねているようでは、まだまだ未熟なのですよ。
エル・トポはそんな素晴らしい言葉を頂戴したにもかかわらず、
割れた鏡の破片をばらまいて、それを踏んだ母親を心配する達人を
後ろからバキューン。

三人目の達人は、大量のウサギに囲まれて楽器を奏でる男
エル・トポが近づくとウサギは次々と死んでしまうのですが
大量のウサギの死体は本物で、
多くはホドロフスキー自身の手で殺したんだとか。
ウサギの死体にたかるカラスを銃で撃つシーンも
どうみても本物のカラスを殺しているようにしか見えず、
こんなこと、ちょっと現在ではありえないでしょうな。
達人の正確無比な銃さばきの裏をかいて、
二人目の達人からくすねていた銅の皿を胸に仕込んで銃弾を防ぎ、
またもやエル・トポの勝利。とことんずるいエル・トポ。

最後の四人目は、
銃ではなく虫取り網を持っている老人
虫取り網自体で「蝶」を意味しているそうで
これをもって、道教の始祖とされる荘子の
「胡蝶の夢」を隠喩しているんだそうですが
隠喩や象徴が多すぎて疲れるわ……
決闘を申し込むエル・トポに対して
「命など何の価値もない。君の負けだ」という言葉を残して
自分に銃を撃ち込む達人。

これでエル・トポは、
欲望に任せてどれだけ自己実現の道を突き進もうとも
決して本当の勝者には慣れないことを悟って精神崩壊し、
そんなエル・トポを完全に見捨てたマーラィと女ガンマンに
吊り橋の上で撃たれるのです。
ここまでが、エル・トポの修業の日々。

死んだかに思われたエル・トポは
洞窟の中で暮らすフリークスたちに助けられ、
まるで神のように祀られていました。
まるっきり人が変わった金髪アフロのエル・トポ。
長年の近親相姦によって奇形になったフリークスたちを助けようと
洞窟から街へと繫がるトンネルを掘り、
その資金集めのために
小人の女性と一緒に街で大道芸を始めます。
映画を撮る前は、パントマイマーとして
世界中を回っていたというホドロフスキーの経験が
活かされているのでしょう。

しかし、その目指すべき街は
いたるところに三角形に眼のマーク「プロビデンスの目」
貼り紙が貼られた狂った街なのです。
「プロビデンスの目」といえば、フリーメーソンですが
プロビデンスはキリスト教の摂理という意味で、神の全能の目だそうで
フリーメーソンのオリジナルというわけではないようです。
その街で行なわれているのは
奴隷売買と有色人種に対する虐待が平然と繰り返される狂乱。
子供の時にはまったくわからなかったけれど
これは『マンディンゴ(1975)』で描かれる事実そのもの!
そこから『ジャンゴ 繫がれざる者』へと繫がっていくわけですが
『マンディンゴ』より5年も早いこの描写は
当時、さぞかしショッキングだったことでしょう。

カブトムシの体液を吸ったり、便所掃除させられたり、
聴衆の前で小人の女性とセックスさせられたり、

捨てた息子が成長して現れて怒られたりしながら
ついにトンネルが貫通。
嬉々として街へと駆け出すフリークスたちを待ち受けていたのは
銃を構える街の白人たち。
フリークスたちを皆殺しにします。
冒頭のナレーションそのままです。
怒りを抑えきれないエル・トポは街の白人たちを全滅させますが
結局、エル・トポは悟りの境地にたどり着くことができず、
まるでチベット僧のように焼身自殺するのです。
死んだエル・トポをミツバチの巣が覆い尽くしていましたが
ミツバチは自己犠牲と希望を象徴していると同時に
仏教における「蜂」は「無駄死に」の意味もあるそうです。

エル・トポの子供を身籠もった小人の女性を連れて
馬に跨って旅立っていくエル・トポの息子の姿は
また新しい命へとなにかが受け継がれていくようすを
表現しているように思います。

さまざまな映画からの引用や影響を感じさせながら
その精神的・宗教的一面を特化して引き出した表現は
まさにホドロフスキー印だし、
宗教的といっても
キリスト教、禅宗、道教、密教、コーランと
あらゆる宗教的思考がミックス
されて、
ホドロフスキー教を構築しているといった印象です。

ホドロフスキーは、DVDの特典インタビューで
「奇形は遺伝子の想像力だ」と言っていましたが
フリークスやマイノリティに対する愛情と畏敬の念が
強く感じられます。
ジョン・レノン関連とか、いろいろ話題はありますが
そんなことはどうでもよく、
映像を見れば、身体に電気が走るような衝撃が味わえます。
誰も真似することすらできない唯一無二の作品でしょう。





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コメント

チョッと覚悟が

おはようございます。

本作品、昨年か一昨年に地元のミニシアターで上映されていました。
イメージとして、シュール過ぎて、理解できないような気がしたので、鑑賞を見送りました。
それ以来、気になっていたのですが、
こちらの記事を読ませていただき、目から鱗です。予想外の内容です。それは、それで、鑑賞するには、ちょっと度胸が必要でしょうか?

2014/07/24 (木) 06:00:06 | URL | ぷっちん #Drcz0VvE [ 編集 ]

Re: チョッと覚悟が

>ぷっちんさん
いつもありがとうございます!
物語自体はわかりやすいですし、
過激なホラー映画のようなゴアシーンがあるわけでもありませんよ。
象徴的なイメージで溢れているので難解に感じるかもしれませんが
ぜひ、お試しあれ!(自己責任で!)

2014/07/24 (木) 08:49:08 | URL | のほうず #- [ 編集 ]

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