" />

それでも夜は明ける

soredemoakeru.jpg



(原題:12 Years a Slave 2013年/アメリカ・イギリス合作 134分)
監督/スティーブ・マックイーン 脚本/ジョン・リドリー 撮影/ショーン・ボビット 美術/アダム・ストックハウゼン 衣装/パトリシア・ノリス 編集/ジョー・ウォーカー 音楽/ハンス・ジマー
出演/キウェテル・イジョフォー、マイケル・ファスベンダー、ベネディクト・カンバーバッチ、ポール・ダノ、ギャレット・ディラハント、ポール・ジアマッティ、スクート・マクネイリー、ルピタ・ニョンゴ、アデペロ・オデュイエ、サラ・ポールソン、クワベンジャネ・ウォレス

概要とあらすじ
第86回アカデミー作品賞受賞作。南部の農園に売られた黒人ソロモン・ノーサップが12年間の壮絶な奴隷生活をつづった伝記を、「SHAME シェイム」で注目を集めたスティーブ・マックイーン監督が映画化した人間ドラマ。1841年、奴隷制度が廃止される前のニューヨーク州サラトガ。自由証明書で認められた自由黒人で、白人の友人も多くいた黒人バイオリニストのソロモンは、愛する家族とともに幸せな生活を送っていたが、ある白人の裏切りによって拉致され、奴隷としてニューオーリンズの地へ売られてしまう。狂信的な選民主義者のエップスら白人たちの容赦ない差別と暴力に苦しめられながらも、ソロモンは決して尊厳を失うことはなかった。やがて12年の歳月が流れたある日、ソロモンは奴隷制度撤廃を唱えるカナダ人労働者バスと出会う。アカデミー賞では作品、監督ほか計9部門にノミネート。作品賞、助演女優賞、脚色賞の3部門を受賞した。(映画.comより



リアル不条理、この上なし

『ジャンゴ 繫がれざる者』『42 ~世界を変えた男~』
『大統領の執事の涙』……『リンカーン』もかな?
すべてを映画館で観られたわけではないのですが
このところ黒人奴隷制度に関する作品が続いているような気がします。
なにかしら規制の緩和があったのか、
それともアメリカが自身の忌まわしい過去を振り返るべき時期にきているのか
僕には知る由もありませんが
それぞれの切り口で語られる人種差別の実態とその理不尽さは
どれだけ見せられても慣れるものではありません。
およそ200年間も続いたアメリカの黒人奴隷制度は
南北戦争を経て、法律上および倫理上はなくなったはずですが
いまもなお、アメリカ南部の白人の心の中には
黒人を蔑視する心理が根深く残っているというのですから
昔の話だねで終わっていいものではありません。

肌の色が黒いから、黒人を人間として認めないという
人種差別そのものがわけのわからないものなのですが
実在する手記を元にした『それでも夜は明ける』
なんの理由もなく立場が激変してしまう状況を描いている点で
その理不尽さが際だっています。
アフリカからの黒人の輸入(輸入って……拉致だけど)が禁止されていた当時、
黒人奴隷不足に陥っていた南部では奴隷が財産として売買され、
なんなら北部で拉致して連れてくるようになっていたそうですが
そのようにして拉致された主人公ソロモン(キウェテル・イジョフォー)
ある日目が覚めると突然奴隷になっていたわけで
まさにカフカ的な不条理の世界に突然投げ出された彼の驚きと苦悩は
もし自分だったらと想像すると、震え上がります。
この作品は事実でありながら、不条理サスペンスとして
どんな境遇の人にも訴えかけてくる
のが特筆すべきところです。

北部で、まだ自由黒人(この言い方も腹が立つけど)として暮らしていた
バイリニストのソロモンがバイオリンのチューニングをするときの
ギリギリという弦を巻く音が強調され、
あきらかに、その後の彼がロープで締め付けられる光景を
直接的にも比喩的にも予感させます。
北部から南部へ連れてこられたことで、
突然奴隷になったソロモンの困惑は痛いほど理解できるし、
同じアメリカ国内であるのにもかかわらず
北部と南部でこれほどまでに違うのかと驚くばかりですが
『ジャンゴ 繫がれざる者』で
奴隷を助けたシュルツ(クリストフ・ヴァルツ)
北極星を指さすことの意味がどれほど重要だったかがわかります。

ソロモンが奴隷となったばかりのころ、
同じ奴隷で、ほかの地主から売られてきた黒人女性が
「前の旦那様は優しかった。
 でも、私の娘を旦那様の娘がいじめるの。兄弟なのに」

と、さらっというセリフがありましたが
「兄弟なのに」ということは、
その旦那様は女性の奴隷をレイプして子供を産ませているわけで、
その言い方のさらっと具合が逆に恐ろしい。

奴隷制度の理不尽さを声高に訴えかけるようなシーンは
それほどありませんでしたが
黒人でありながら、召使いを従えてテラスでお茶を飲む女性
先述の旦那様の子供を産んだ女性の更に上をいく存在で
『ジャンゴ〜』でいうところの
スティーブン(サミュエル・L・ジャクソン)のような立場です。
彼女とて、最悪の状況を少しでもマシにするための選択でしょうから
強く責める気にはなれないのですが
奴隷の中にも優劣をつけるやり口が巧妙かつ悪質としか言いようがありません。

南部の白人の中にも少しは良心の呵責を感じる人間はいるようで
フォード(ベネディクト・カンバーバッチ)
奴隷に対して一定の理解があるように思えますが
お前はとても利口だけど、うちに置いておくわけにはいかないんだ、
という態度からすると
尊敬に値するペットを愛でているようにしか感じません。
もちろん、彼が周囲に反旗を翻すことの重大さは理解できるものの
根本的なところで人間としては扱っていないように感じます。

奴隷のパッツィー(ルピタ・ニョンゴ)に恋愛感情を持ちながら
やはり黒人奴隷を家畜としてしか考えていない
エップス(マイケル・ファスベンダー)の行動は
理解の範疇を軽く超えるものでしたが
奴隷制度の理不尽さを表現するためにこの作品がとった手法は
痛みを観客に思い知らせるということのように思います。
「タメ」という表現が適切かどうかわかりませんが
鞭打つシーンなどが執拗なほど長いのです。
それは絶妙な長さで、人を鞭打つなんて非道いですよねでは終わらず、
もし仮に自分が白人の仲間だったとして、
すぐそばでヘラヘラ笑いながら拷問をみていたとしても
い、いや、もういいんじゃない? と心が揺らぐような長さです。

その最たるものが、
ソロモンがつま先で立てるギリギリの高さで首を吊られたシーン。
肉体的、精神的両方での彼の苦しみが否応なしに伝わってきます。
そして、その後ろで何事もないように仕事をするほかの奴隷たちと
声を上げて遊ぶ子どもたち。
これほどまでに孤独な状況があるでしょうか。
小心者の僕なら、自分で膝を曲げて死を選んでいたかもしれません。

最後にブラピがすっげえいい人の役で登場しますが
この作品を製作したのはブラピの製作会社PLAN Bなので
ま、大目に見るとしましょうよ。
それよりも、帰って行くソロモンに追いすがって
「オレの奴隷だぞ!」と食い下がる白人の醜さと愚かさと弱さに
ため息が出ます。

つい最近、我が国日本でも
血の色をクラブ名に持つJリーグのサポーターによる蛮行が問題になったばかり。
「一部のサポーター」というトカゲのシッポより
差別に対するメディアを含めた意識の低さが浮き彫りになりました。
人間は、弱いものほど思考が短絡化し、攻撃的になるものです。
仮想敵をこしらえて、相対的に自分が上にたったような気になっても
結局は自分を貶めていることに気づくのはいつのことでしょうか。

『それでも夜は明ける』を観た後に『マンディンゴ』を観て
怒りを貯めるだけ貯めた後に
『ジャンゴ 繫がれざる者』を観れば
白亜の豪邸が爆破するシーンで拳を挙げること、請け合いです。







にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ 
↑お気に召したらクリックしていただけますと、もんどりうって喜びます。
関連記事
スポンサーサイト

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

«  | ホーム |  »

プロフィール

のほうず
映画が好きで観るのはいいが、
かたっぱしから忘れていくので
オツムのリハビリ的ブログ。
******************
当ブログの文章・画像およびイラストの無断転載を禁じます。引用される場合は、出典の表記と当ブログへのリンクを設定してください。

FC2ブログランキング

FC2Blog Ranking

お気に召したら
クリックお願いします。
にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ

スポンサードリンク

↓過去の記事はこちらから!↓

検索フォーム

QRコード

QR

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

カウンタ