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盲獣

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(原題:The Blind Beast 1969年/日本 84分)
監督/増村保造 脚色/白坂依志夫 原作/江戸川乱歩 撮影/小林節雄 美術/間野重雄 音楽/林光 編集/中静達治
出演/船越英二、緑魔子、千石規子

概要とあらすじ
江戸川乱歩の原作を「第50回全国高校野球選手権大会 青春」の白坂依志夫がシナリオ化し「濡れた二人」の増村保造が監督した。撮影はコンビの小林節雄が担当。ファッションモデルの島アキは、自分のヌード写真が展示してある写真個展会場で、奇妙な男を目撃した。彼は、アキをモデルにした石膏裸像を丹念に撫で廻していた。それから数日後、アキは、呼んだマッサージ師にクロロホルムを嗅され、誘拐された。連去った男、蘇父道夫は先天的な盲人だった……(映画.comより抜粋



とても痛いけど、たのしい!

増村保造と白坂依志夫のコンビによる
江戸川乱歩原作『盲獣』
物好きな映画ファンの間では有名な作品でしょう。
石井輝男監督『盲獣vs一寸法師(2004)』という
同じ原作でありながら、とんでもなく独創的な作品の
レビューを先に書いているもんだから
なんだかややこしいのですが
ヒロインの水木蘭子という役名や踊り子という設定などは
『盲獣vs一寸法師』のほうが、むしろ原作に忠実なようです。

この作品のヒロイン、島アキ(緑魔子)のモノローグにのせて
モードなスチール写真で始まるオープニングがスタイリッシュ。
原作と違い、有名写真家のモデルをやっているアキのヌード写真で
壁が埋め尽くされたギャラリーの洗練されたイメージとともに
目で見たものを撮影し、目で鑑賞するためにある写真というものが
ここから始まる「めくら」の物語と相反しています。


ギャラリーで、アキをモデルにした石膏像をなでまわす
あきらかにイカれた盲人の道夫(船越英二)がすぐに登場し、
次のシーンでは、アキが自宅によんだ按摩になりすましていた道夫が
アキを眠らせて誘拐するという、
無駄な説明描写を一切省いたテンポのいい展開が心地よい。
そして、道夫の母親・しの(千石規子)が誘拐を手伝っていることで
狂っているのが道夫ひとりではないことが知らされ
そのさらっとした登場の仕方に背筋がひんやりするのです。

ここからはすべて道夫と母親が暮らす倉庫内で物語が進みます。
自称彫刻家の道夫のアトリエになっている地下室の壁は
目、耳、唇、乳房と女性の身体のパーツをかたどったオブジェ
覆い尽くされているのですが
それぞれのパーツごとにまとまっていることが
道夫の異常な細部のディティールへのこだわりを感じさせるとともに
逆説的に、全体像をイメージする感覚の欠如も思わせます。
そして地下室の真ん中に横たわるのが巨大な女体像。
アキや道夫が女体像の上で寝そべったり、膝を登ったりするようすから
10m以上はあるのではないでしょうか、とにかく大きいのですが
表面は柔らかく、若干くぼむところから、
かなり精巧に作られていることがわかります。
サイケデリックな美術が時代を感じさせもしますが
このスケール感へのこだわりによって、安っぽさは微塵もありません。

原作の狂った盲人は、複数の女性を殺してしまうのですが
この作品では、犠牲になるのはアキだけで
猟奇殺人的な側面は割愛されているようです。
どうやらこのとき、増村監督は
『コレクター(1963)』をイメージしていたそうで
被害者となるのがアキひとりだけにすることで
道夫との関係が濃密になり、
あるキチガイの行動を描くに留まらず、
かなりねじれた形であれ、男女の愛憎という普遍的なものを
感じさせるまでに到っています。

さらに、千石規子が演じる母親の存在が複雑
めくらの道夫のためなら、なんでもしてやろうと誘拐まで手伝い、
道夫がアキに夢中になり始めると、過剰な母性愛が嫉妬へ変わり、
今度はアキを追い出そうとするも、道夫に反抗され突き飛ばされて
頭を打って死んでしまう……という母親の振る舞いのすべてに
母親の息子に対する一筋縄ではいかない愛情が凝縮されていて
なんともやるせない、暗澹たる気分になります。

冒頭で登場した、目で見る芸術に対抗するかのような
道夫が主張する「触覚の芸術」の意図するところは
今風に言えばインタラクティブな表現といえるかもしれないし、
作品を鑑賞するという行為に必然的に含まれる
作品と鑑賞者との距離をなくしてしまう表現が実現されるのであれば
革新的とさえいえるのではないかと思うのですが
道夫の指先の触感によって作られた作品を鑑賞するのが
やはり「目」であるならば、
「触覚の芸術」は道夫が作品を制作する過程にしか存在せず

作品として成立させることの必要性自体に疑問が湧いてきます。
そもそも触覚を味わうのが目的であれば
女性が女性の形をしている必要すらないのではないか、と。

いろいろと策を凝らしては逃げようとしていたアキでしたが
母親が死んでしまって道夫とふたりきりになってからは
毎日道夫に抱かれるたびに徐々に道夫を愛するようになり、
やがてアキまで目が見えなくなってしまって物語は急展開、
どんどんとんでもない方向へ進んでいきます。

視覚のない原始生物のように、触れ合うことで生の喜びを実感し、
触れ合うことから、やがて傷つけあって痛みを実感することへ。
痛みによって愛を確かめ合うふたりはエスカレートし、
衰弱しきって死を覚悟した挙げ句に
アキは自身の両手両足を切断して欲しいと願い、
道夫もそれに応えて、自決する
のです。
「とても痛いけど、たのしい!」というアキが
痛みによって生を実感するという結末はなんともむなしい。
あれほどアキの身体の美しさに心酔していた道夫が
最終的にはアキをバラバラにしてしまうのですから
彼の「触覚の芸術」は失敗に終わったといわざるを得ません。

アキに扮する緑魔子のモノローグが
ところどころで挿入されるのですが
最終的にアキはバラバラになって死んでしまったのだから
回想ではなく、いったいどういう立場での独白なのか
わからないっちゃ、わからないのですが
ま、気にしないことにしましょう。

緑魔子の魅力、サイケでアングラな美術、
ハードかつミニマルなストーリー。
見どころ満載ですから、ぜひ。





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コメント

江戸川乱歩特集の映画会でずいぶん昔に観ました。

最期はせつないなあと思った憶えがあります。
緑魔子さん綺麗でしたよね。

2015/05/16 (土) 13:09:01 | URL | あお #- [ 編集 ]

Re: タイトルなし

> あおさん
コメントありがとうございます!

2015/05/16 (土) 19:49:20 | URL | のほうず #- [ 編集 ]

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