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エレニの帰郷

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(原題:Trilogia II: I skoni tou hronou(The Dust of Time) 2008年/ギリシャ・ドイツ・カナダ・ロシア合作 127分)
監督/テオ・アンゲロプロス 脚本/テオ・アンゲロプロス、トニーノ・グエッラ、ペトロス・マルカリス 撮影/アンドレアス・シナノス 美術/アンドレア・クリザンティ 音楽/エレニ・カラインドルー
出演/ウィレム・デフォー、ブルーノ・ガンツ、ミシェル・ピッコリ、イレーヌ・ジャコブ、クリスティアーネ・パウル

概要とあらすじ
カンヌ映画祭パルムドール受賞作の「永遠と一日」(1998)をはじめ、「旅芸人の記憶」(75)、「アレクサンダー大王」(80)、「シテール島への船出」(83)、「ユリシーズの瞳」(95)など数々の名作を残したギリシャの巨匠テオ・アンゲロプロスの遺作。「エレニの旅」(2004)から始まった20世紀を題材とした3部作の第2部で、男女3人の半世紀にわたる愛の叙事詩。93年、ギリシャにルーツを持つアメリカの映画監督が、母エレニと彼女を思い続けた男ヤコブ、そしてエレニが愛したスピロスの男女3人の映画を制作していた。53年、トシケントで再会したエレニとスピロスはソ連当局に捕らえられ、再び離れ離れになってしまうが、その時エレニはスピロスとの子どもを宿していた。エレニはシベリアの牢獄に抑留されるが、そこへ彼女に思いを寄せるヤコブも送られてくる。監督のアンゲロプロスは3部作の3作目を撮影中の12年に事故で他界。3部作は未完となっている。(映画.comより



人はあっさり死ぬ、それでも時代は続く

20世紀を主題とした三部作「トリロジア(=20世紀三部作)」
第3部『THE OTHER SEA (もう一つの海)』撮影中の2012年1月24日、
オートバイ事故によって
テオ・アンゲロプロス監督は帰らぬ人となってしまいました。
図らずも遺作となってしまった『エレニの帰郷』
三部作の第2部にあたる作品です。
これを機に予習復習として
2005年に日本公開された第1部にあたる
『エレニの旅』を見直そうと思ったところ、
DVDは発売されているものの、なぜかレンタルがない……
ま、買えばいいんすけどね。けどね。

そんなわけで、『エレニの旅』とのつながりを考えるうえで
若干の不安があったのですが
登場人物の役名が踏襲されているものの、
まったく独立した物語で一安心。

いきなりチネチッタ・スタジオの入口が現れ、
そこに登場する映画監督“A”(ウィレム・デフォー)
『ユリシーズの瞳(1995)』ハーヴェイ・カイテルが演じた
アメリカの映画監督も“A”でした。
「A」は任意の人物を表すと同時に、
当然アンゲロプロスのイニシャルでもあるでしょう。

おそらく著名な映画監督である“A”がいる現在の時間は1990年代後半。
“A”がスタジオ内で行動するのと交互して
1953年に、さまざまな検問をくぐり抜けながら
離ればなれになったエレニ(イレーヌ・ジャコブ)に会うために列車で向かう
スピロス(ミシェル・ピッコリ)のシーンが挟み込まれます。

正直に告白すると、
僕は映画を観ているときにはまったく気がつかなかったのですが
“A”が作ろうとしているのは
20世紀の歴史的な事件と、
自分の母・エレニと二人の男にまつわる個人的な物語を
融合させた映画
だということ。
それはもう、この『エレニの帰郷』そのもので
観客が観ているのは、“A”とエレニにまつわる真実の物語なのか
“A”が作り上げた映画なのか、それともその両方か、
判別がつかないような不思議な構造になっているようです。
ちなみに、たびたびセリフに出てくる「第三の翼」
この作品のタイトルになる予定だった言葉。

社会活動家だったエレニは秘密警察に逮捕されるも、脱走。
イスラエル難民のヤコブ(ブルーノ・ガンツ)と親しくなり、
行動を共にしていましたが
そこへ冒頭のシーンから繫がるスピロスが現れます。
やっと再会したエレニとスピロスの二人はソ連から脱出しようと
路面電車に乗って駅に向かっていると、
スターリンの死去によって街が混乱に陥ります。
黒いコートを着た群衆がぞろぞろとスターリン像の前に集まり、
カメラがゆっくりと引いて全体をとらえると
ひとかたまりになっていた群衆が三々五々帰っていくシーンは
まさにアンゲロプロス印し。
この作品ではアンゲロプロスならではの、
ぞっとするほど美しく統制されたシーンは多くありませんでしたが
その後のシベリアで階段をジグザグに上っていく群衆
ああ、いまアンゲロプロスの映画を観てると思えるシーンでした。

それはさておき、
スターリン像の前で止まった路面電車の中にいたエレニとスピロスは
すっかり日が落ちて、列車の出発ギリギリまで
愛を確かめ合っていたところを再度逮捕され、
別々にシベリア送りになり、またしても離ればなれになってしまいます。
正直、あと少しで脱出できたのになにやってんだよ!と思いましたが
ま、そのおかげでエレニは“A”を身籠もるのです。

常に時間軸を行ったり来たりしながら物語が進んでいきますが
そのときの年代をモノローグで語ってくれることもあり、
アンゲロプロス作品にしてはわかりやすかったのではないでしょうか。
(比較的カット割りも多いし)
アンゲロプロス監督は、ワンカット・ワンシーンのなかで
カメラをパンさせるだけで
時間軸を変化させたりする
のが特徴のひとつですが
この作品のなかでは、
ベルリンで再会した、年老いたエレニとスピロス、ヤコブの3人が
バーに行き、ヤコブが注文をしていると
(電話に出た店員の会話でここはベルリンだと念を押したあと)
スピロスがひとり離れ、バーの奥へと歩き始めた時点で
かつてエレニが働いていたトロントのバーへと
時間と場所が移り変わっています。

トロントのバーで、エレニとスピロスが本当の再会を果たすまで
スピロスはほとんど後ろ姿でしか登場しませんでした。
スピロスがはっきりと顔を見せるまでは
エレニを軸とした物語だといっていいでしょう。

“A”の娘エレニ(リトル・エレニ。すなわちエレニの孫)
問題を抱えているようですが
彼女の鬱屈は21世紀を迎える直前の不安や混沌を
表しているようにも思えます。
リトル・エレニのベッドのまわりの壁には
ジム・モリソン、ゲバラ、ボブ・マーリーから
ストーンズの「スティッキー・フィンガーズ」のジャケット、
『羊たちの沈黙』のポスターなどなど大量の切り抜きが貼られています。
(ドア近くには『イレイザー・ヘッド』もあったような)
1990年代の10歳くらいの少女にしてはかなり変わった趣味ですが
そこには反抗心や独立心、そして死のイメージを感じました。

スターリンの死に始まって、ウォーターゲート事件、
ベトナム戦争やベルリンの壁の崩壊と、
20世紀後半の世界的な事件を背景にしながら描かれるのは
エレニたちのように時代に翻弄される個人の物語です。

エレニは20世紀そのもの。
21世紀を迎えようとするときに息を引き取ってしまいます。
そして、永遠に報われない愛情をエレニに注ぎ続けたヤコブも
川に身を投げて自殺してしまうのです。
僕にはヤコブの心の内を思うといたたまれず、
この作品はヤコブが真の主人公なんじゃないかと
思いたくなるのですが、どうでしょうか。

雪が舞うラストシーンで、孫のエレニの手を取って走るスピロス。
撮影中だったという第3部『THE OTHER SEA (もう一つの海)』が
どんな映画になったのかわかりませんが
孫のエレニが生きる現代の物語になったであろうことは
間違いないでしょう。

21世紀になって、はや十数年。
20世紀の経験を経ても、
人間はちっとも成長しているようには思えませんから
まだまだ何がどうなるか、わかんないやね。

アンゲロプロス監督『エレニの旅』来日記者会見





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