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刑事マルティン・ベック

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(原題:Mannen pa taket 1976年/スウェーデン 110分)
監督・脚本/ボー・ウィデルベルイ 原作/ペール・バールー、マイ・シューバル 撮影/オッド・イエル・サルテル 音楽/ビョルン・J・リンド
出演/トーマス・ヘルベイ、ビルギッタ・バルベルイ、カルル・グスタフ・リンドステット、スベン・ボルテル、ホーカン・セルネル

概要とあらすじ
スウェーデンの人気小説「マルティン・ベック」シリーズの第7作「唾棄すべき男」を「みじかくも美しく燃え」等の作品で知られるボー・ウィデルベルイ監督が映像化。ストックホルムの病院で、入院中のニーマン警部が殺害された。捜査に乗り出したマルティン・ベック刑事らは、ニーマンが悪名高い人物だったことを知る。やがて捜査線上に、愛する妻をニーマンに見殺しにされた過去を持つ元警察官エリクソンの姿が浮かび上がる……。(映画.comより)



偶然の出会いに幸あれ!

ある日、TwitterのTLに
「『刑事マルティン・ベック』は生涯ベストテンに入る傑作!」
という、某映画評論家のツイートが流れてきて
何も知らない僕は、へえそんなに評価が高い作品なら
観てみよう、そうだそうしようとなったのでした。
こんなふうに自分が知らなかった作品と
ひょっこり出会うのが好きなのです。わりと。

ミステリー小説や犯罪小説をまったく読まない僕でも
「マルティン・ベック」シリーズの『笑い警官』くらいは
耳にしたことがありましたが、もちろん読んでおりません!
この作品の原作となったのは、同シリーズの第7作『唾棄すべき男』ですが
これも当然読んでおりません! わっはっは!

オープニングの、暗い部屋の中でデスクに向かい
なにやらごそごそとやっているシルエットの男が
この作品の最重要人物だということは
2回目の鑑賞で気づきました。
1回目はまだ導入部だと思って、ぼんやり観ていたわけですが
このような何気ないカットや俳優たちの表情に
セリフでは語られない様々な意味が込められているので
なかなかに気の置けない作品です。

病室のベッドに横たわる男のシーンへと移り変わり、
肌寒くなっているのに窓を開け、なぜか脂汗をかいている男が
窓のカーテンの先に気配を感じて近寄ると
そこには光る眼が。
突然の凶行で病室は血の海になります。
1976年当時、このスプラッター表現は
かなりショッキングだったのではないでしょうか。
今観ても、ちょっと過剰な血の量です。
しかも、この血は屠殺場から譲り受けた本物の豚の血液だそうで
色や粘度や固まり具合などがまさにリアルなのです。

豚の血のエピソードをはじめとして
DVDには、当時のスタッフたちの証言による
ドキュメンタリーが含まれていて興味深いのですが
ボー・ウィデルベルイ監督
かなりエキセントリックな人物だったらしく、
とにかくリアリティーにこだわって妥協しない姿勢が
周りのスタッフたちをずいぶん困らせたようですな。
ロケに使われた警察署も本物ですが
留置所に入れられていた昔のロッド・スチュワートみたいな髪型のヤク中も
本物のヤク中だそうです。

病室で猟奇的に殺されたのは
スティーグ・ニーマンという刑事。
その捜査にかり出されたのが、
主人公・マルティン・ベック刑事(カルル・グスタフ・リンドステット)
ものすご〜く冴えないおっさんですが
演じるカルル・グスタフ・リンドステットはコメディアンだそうで
笑いと暴力は紙一重とは、世界共通なんでしょうか。

ベックの相棒、ルン(ホーカン・セルネル)が素晴らしい。
役者をやっているときの藤田敏八みたいで
疲れていて眠そうで、いまいちやる気がなさそうだけど
さらっと核心を突くようなナイス・キャラなのです。
ルンが寝ずに疲れ果てて資料を当たっている間に
ベックがサウナに行き、プールで泳ぎ、
さらにはマッサージを受けて帰ってくると
「マッサージか……。マッサージ……」というセリフが切なくも可笑しい。

被害者のニーマンが
「サッフル(=ニーマンの出身地)の残酷男」と呼ばれるほど
容疑者に対して冷酷で暴力的な悪徳警官だったことから
ニーマンに怨みを持つものが犯人だと目星をつけて
捜査するベックとルンですが
この読みがどんでん返しによってくつがえることはなく
犯人捜しにあっと驚くような展開があるわけではありません。
むしろ、犯人を確定するまでの捜査の成り行きが
淡々としているというか、呑気なようでもあり
ベックが脱いでいた靴にズームアップしたり、
おもらししてウンコまみれの子供のおしりを映してみたり、
犯人捜しを物語の中心に据えているとしたら
無駄と思えるようなカットが多いのが不思議な感覚になります。

作品全体を覆う空気感が
ハリウッド製の刑事アクションものと明らかに違うのは
同じくスウェーデン映画『ぼくのエリ 200歳の少女』
ハリウッドリメイク版『モールス』との違いだと言えば
わかってもらえるかも知れません。
もしかしたら『裏切りのサーカス』
(『ぼくのエリ』と同じくトーマス・アルフレッドソン監督)とも
通底するものがあるかも。

若いコルベリ刑事(スヴェン・ヴォルテル)
ラーソン刑事はどうやら犬猿の仲のようですが
互いに車を降りようとしてドアをぶつけてしまうシーンなど
全くセリフがなく、人間関係を説明する気もないように感じられます。

後半、市街地での銃撃戦へと物語は突然急展開。
前半のじわじわ、というか、まったりとしたような進行とうって変わって
大量のエキストラを動員したパニックになります。
ついに、ヘリコプターを使って突入しようとするものの
ヘリコプターからつるされた特殊部隊(?)は
ヘルメットを脱いだ一瞬の隙を突かれ、犯人に敢えなく射殺されます。
死体(スタント)がヘリに吊されたまま飛んでいくシーンの長いこと!

そして、野次馬の群衆に向かってヘリが墜落するシーン
もちろんCGではなく、危険極まりない。
墜落するヘリを真下から撮影するのをスタッフが嫌がったため
監督自らカメラを担いでいたとか。

もうオレが突撃するしかないということで、
ベックが立ち上がるのですが
はしごを使って屋根に上りかけたところであっさり被弾。
『刑事マルティン・ベック』という
邦題がつけられているにもかかわらず
ちっともヒーローではないのです。

死んだのか息があるのかはっきりしないベックを
コルベリ刑事が助け出したあと、
かくなるうえはとばかりに
ラーソン刑事率いる3人が突撃するのですが
そのうちひとりは警察ではなく、ふらっと登場した一般人。
そして、その一般人が犯人エリクソンを仕留めるのです。
このへんの演出に警察のだらしなさを告発する意図が垣間見えます。

ここまで一切顔を見せなかった犯人・エリクソンが
撃たれたあとに大写しになったと思ったら
突然のエンディング!
余韻もへったくれもありません。

「生涯ベストテンに入る傑作!」とまでは
僕には思えませんでしたが
一回目、二回目と観るたびに新たに気づくことが多く
受け取り方が変化していくだけの奥行きはあると
感じられる作品でした。





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