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凶悪

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(2013年/日本 128分)
監督/白石和彌 脚本/高橋泉、白石和彌 撮影/今井孝博 照明/水野研一 美術/今村力 編集/加藤ひとみ 音楽/安川午朗
出演/山田孝之、ピエール瀧、リリー・フランキー、池脇千鶴、白川和子、吉村実子、斉藤悠、米村亮太朗、松岡依都美、ジジ・ぶぅ、村岡希美

概要とあらすじ
死刑囚の告発をもとに、雑誌ジャーナリストが未解決の殺人事件を暴いていく過程をつづったベストセラーノンフィクション「凶悪 ある死刑囚の告発」(新潮45編集部編)を映画化。取材のため東京拘置所でヤクザの死刑囚・須藤と面会した雑誌ジャーナリストの藤井は、須藤が死刑判決を受けた事件のほかに、3つの殺人に関与しており、そのすべてに「先生」と呼ばれる首謀者がいるという告白を受ける。須藤は「先生」がのうのうと生きていることが許せず、藤井に「先生」の存在を記事にして世に暴くよう依頼。藤井が調査を進めると、やがて恐るべき凶悪事件の真相が明らかになっていく。ジャーナリストとしての使命感と狂気の間で揺れ動く藤井役を山田孝之、死刑囚・須藤をピエール瀧が演じ、「先生」役でリリー・フランキーが初の悪役に挑む。故・若松孝二監督に師事した白石和彌がメガホンをとった。(映画.comより)



ぶっこんじゃうぞ!

「新潮45」という雑誌で連載されていたノンフィクション
『凶悪 —ある死刑囚の告発—』というベストセラー本の映画化です。
めずらしく、原作を読んでいた僕は
この作品の映画化の知らせに胸躍らせました。
じわじわと真相に近づけば近づくほど、予想を超える展開が待ち受け、
事実が複雑に絡み合って、惹きつけて放さないこの本に
魅了されていたからです。
綿密な取材を重ね、薄皮をはがすように明らかになっていく戦慄の事実に
じっとりと脂汗をかくような緊張感があったのです。

ただ、キャストが発表されたときには、一抹の不安を感じました。
なぜなら、『凶悪 —ある死刑囚の告発—』は
単行本が発売された時点では裁判が進行中であったのに対し、
文庫本では、その後明らかになった事実や裁判の様子が加筆され、
告発した死刑囚と「先生」と呼ばれる主犯の男の
顔写真が掲載されていた
からです。
告発した死刑囚・後藤はピラニア軍団の志賀勝みたいな顔の
どっからどうみてもヤクザとしか見えない風貌。
かたや「先生」は背広以外はゴルフウェアしか持っていないような
どこにでもいそうな冴えないおっさんなのです。
ふたりの上下関係と見た目とのギャップが
さらに気味の悪さを増幅させていたので
実在の人物の顔写真を見てしまった以上、
これをピエール瀧リリー・フランキーという
俳優が本業ではないふたりが演じると知ったときには
果たしてどうなるものかと訝ったのです。

結果的には、俳優が本業ではないふたりの演技が
『冷たい熱帯魚』のでんでんと同様の効果をもたらし、
とくにリリー・フランキーは、そもそも彼自身が何者かよくわからない
(マルチな才能の持ち主とも言い難い)人物であることが
「先生」の不気味さを表現するのに功を奏していたように思います。
また、ピエール瀧とリリー・フランキーが
プライベートでも仲がいいというのも幸いしたのかも。

さて。
東京拘置所で服役中の死刑囚・須藤順次(ピエール瀧)から
(実際は記者と過去に面識のあった別の死刑囚の仲介を経て)
余罪と真犯人を告発する手紙を受け取った記者・藤井(山田孝之)
須藤の言葉に半信半疑でありながら取材を積み重ねます。
須藤は「先生」への復讐心から、メディアの力を頼って
雑誌記者である藤井の力を借りようとしているのですが
いかんせん具体的なことを覚えていない。
その須藤の記憶の隙間を埋めないことには事実の確証が得られないので
藤井は取材に奔走しますが
まずは、藤井が須藤の告発を信用に足ると判断するまでのやりとりが
いまひとつ再現できているとは思えませんでした。
もし、須藤の言うことが本当なら大スクープ。大事件。
しかし、取材を始めて真相を解明する以前に
すでに2人を殺害して死刑宣告を受けている須藤のような人間の言うことを
信用していいものかという猜疑心が
徐々に確信へと変わる過程は、結構重要だと思うのですが。

実際の犯行シーンはかなり原作に書かれている事実に即しています。
とくに、家族ぐるみで父親の殺害を計画し、
酒の飲み過ぎで殺そうとする狂気に満ちたシーン
は忠実に描かれていて
あのような「狂った宴」が半月にもわたって行なわれていたのです。
殺される70歳の父親に扮するジジ・ぶぅという芸人は
実年齢は50代前半というから驚きです。
(公園の白鳥を喰ったりしてるって!)
スタンガンを当てていたぶり、98度のウォッカを口に突っ込んで飲ませ、
途中で家族に「先生」が電話をかけて同意の言質を取るのも事実。
死体を氷入りのバスタブに入れて冷やすのは
死亡推定時刻をごまかすためです。
その横で須藤が平気な顔でシャワーを浴びたのも事実。
映画で描かれていないのは、覚醒剤を飲ませたのを隠すために
死体の胃を洗浄したことくらい……

このシーンで、じいさんがついに死んでしまった直後に
それまで騒いでいた4人が
突然静まりかえってソファに腰を沈めるカットのことを
リリー・フランキーが「映画秘宝」のインタビューで
「オナニーのあとの賢者タイム」と語っていたのは納得です。
ていうか、この表現は男子にしか理解できないと思うけど。

真相に近づけば近づくほど、ロクなことは待ち受けていないと感じ、
とはいえ二度と後戻りできないと感じさせる原作本は、
迷い、疑い、逡巡しながら取材を続ける記者の日常を
読者が追体験するような構成に魅力があると思うのですが
そのようなミステリーの要素はこの映画には引き継がれていません。
そのかわり、雑誌記者・藤井(山田孝之)の
家庭事情や内面の変化
がフィクションとして大胆に挿入されています。

白石和彌監督自身がインタビューで
「記者の藤井は一流企業で高給をもらう人物ですが、
 そんな彼を木村や須藤と同じ場所に落としたかった。」
と語っているとおり
白石監督がこの作品で描きたかったのは
須藤や「先生」は特殊な悪人ではなく
ひとつ踏み外せば、誰しもこういう凶行に及ぶような狂気を
はらんでいるんということでしょう。

白石監督は、亡くなった若松孝二監督の弟子にあたる人で
しかもこの映画のクランクイン直前に
若松孝二監督の訃報が飛び込んできたということですから
師の遺志を継ぐためにも
なおさら、社会的な事件に普遍的なメッセージを盛り込んだ作品を
作りたかったのかもしれませんが
いかんせん、雑誌記者・藤井の背景を膨らませすぎた感は否めません。

藤井は多忙を言い訳にして
アルツハイマーの症状がある自分の母親の面倒を
妻の洋子(池脇千鶴)にまかせっきりで
むしろ自分が直面している家庭問題から逃避するために
仕事に没頭しているのですが
精神的に追い詰められている妻・洋子の口から
愚痴として語られる藤井の心理状態があまりにも説明的。
「私、お母さんのことを殴っているの」
洋子から打ち明けられるシーンは重い意味を持つものの
離婚を突きつけられ、結局母親を施設に入れることになる過程で
藤井にあった心理的な変化や葛藤が
十分に描かれていたとは思えません。

11段階の演技プランを立てて、藤井役に望んだという山田孝之は
始めて須藤に会ったときから、「先生」の裁判に至るまでの
藤井の変化を、髪の毛や目の下にクマを作るメイク、
細かな姿勢やヒゲの有無などで
(「先生」の裁判ではヒゲを剃ってさっぱりしている)
徐々に、藤井が正義感にかられた狂気を携えていく様子を表現しようと
さまざまなことを試みているようですが
残念ながら、観客に藤井の変化を感じ取らせるまでには
至っていないように感じました。
むしろ、そのような山田孝之の演技でしか
藤井の変化を伝えることができていないように感じ
家にも帰らず取材に走り回ってます、と言われても
そうなんですか……という以外の感想をもてないのです。

藤井が抱える問題に時間を割きすぎたせいなのか
後半の裁判が始まってからのシーンになると
登場人物のセリフがことごとく説明的になっていきます。
一応、裁判長が制止するカットはあるものの
証人である須藤と被告人である「先生」は
裁判中に好き放題に言葉を交わし、藤井は激高して叫びまくります。
服役中の「先生」に面会した藤井が、「先生」から
「俺を本当に殺したいのは君だ」と言われるシーンも
あまりにもあからさまに
白石監督がこの作品で語りたいテーマを語らせていて
げんなりします。
実際の「先生」は、逮捕されたあと
(映画では描かれていませんが、事実は
 牛丼屋の店員に土下座を強要したことによる別件逮捕)
知らぬ存ぜぬを突き通し、のらりくらりと尋問をかわすような人間なので
相手の本質を突くようなことを言い放って
少しでも自分の損になるようなことは言わないはずです。

もちろん、
事実と違うとか、原作と違うとかということを
問題にしたいわけではありません。
白石監督がこの事件をモチーフにして、
自身の考えを表現したことに異論はありませんが
実際の事件が持つ「凶悪さ」と「気味の悪さ」が強烈で
そこにはすでに普遍的な人間の本質が含まれていると感じていたので
取材する側の人間性をクローズアップすることが
かえって説明臭く、説教臭いものになっていると思うのです。

「死の錬金術師」といわれた「先生」が関わったとされる事件は
死刑囚によって告発されたもので7件、
未遂に終わったものも含めれば10数件に上ります。
人を見れば金にしか見えない「先生」のような人間が
とがめられることなく普通に生活していることの恐ろしさを
もっと描いてほしかったと思うのです。





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