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地獄でなぜ悪い

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(2013年/日本 129分)
監督・脚本/園子温 撮影/山本英夫 照明/小野晃 録音/小宮元 美術/稲垣尚夫 編集/伊藤潤一
出演/國村隼、堤真一、二階堂ふみ、友近、長谷川博己、星野源、坂口拓、石丸謙二郎、諏訪太郎、神楽坂恵、板尾創路、渡辺哲、でんでん、成海璃子

概要とあらすじ
「愛のむきだし」「ヒミズ」の鬼才・園子温監督が、自身初の娯楽作と銘打つアクション活劇。ヤクザの組長・武藤は、獄中の妻しずえの夢でもある、娘ミツコを主演にした映画の製作を決意。「映画の神様」を信じるうだつのあがらない映画青年と、通りすがりのごく普通の青年を監督に迎え、手下のヤクザたちをキャストに映画作りを始める。しかし、対立する池上組の組長でミツコに恋心を抱く池上も巻き込み、事態は思いもよらない方向へと進んでいく。園組へ初参加となる國村隼が武藤役で主演。ミツコ役の二階堂ふみ、池上役の堤真一ほか、長谷川博己、星野源、友近ら個性的かつ実力派の俳優たちが集う。(映画.comより)



全力歯ギシリ Let's GO!

1961年生まれの園子温監督は今年(2013年)で52歳。
今となっては最も新作が期待される映画監督は
一部の目利きに鮮烈な印象を与えながらも
40歳の時に撮った『自殺サークル』で一般的な評価を得るまでは
いまひとつパッとしなかったのですから
世間的には遅咲きといえるのかもしれませんが
咲遅れるあいだに溜まりに溜まった情念と信じがたいような経験の数々が
今の園子温を支えているのですから
いやはや、なにが効をもたらすかわからないものです。
もちろん、実現させるだけの情熱と力量があってのことですが。

17年前に脚本が書かれていたという『地獄でなぜ悪い』
園子温監督の表現したいことが
ずっと変わっていないことの証しでもありますが
名実ともに日本を代表する映画監督になり、
それなりに豊富な予算と豪華なキャストで製作できる今でこそ
コメディとしての説得力が強固になっているのではないでしょうか。

それにしても、この馬鹿馬鹿しくも最高な『地獄でなぜ悪い』の
エピソードの多くが園子温監督の実体験に基づいているというから
驚きです。
冴えない映画狂の監督志望・平田(長谷川博己)
園監督自身を投影していることは言わずもがなですが
その自主制作映画グループ「ファック・ボンバーズ」も実在。
(園監督によれば「セックス・ピストルズ」のさらに上をいこうと
 「セックス→ファック」「ピストルズ(拳銃)→ボンバーズ(大砲)」と
 もじって命名したのだとか)
公園の砂場でブルース・リーのまねをしていて
子どもにバカにされたのも実話。
(映画では3〜4人ですが実際には10数名の子どもに罵声を浴びせられたとか)
そして園監督が自身を投影するもうひとりが公次(星野源)ですが
ヤクザの娘だと知らずに女性とつきあったのち、
その女性からレイプされたといいがかりとつけられ
ヤクザの事務所に連れて行かれたという園監督の体験がベースになっているそうで
『紀子の食卓』の疑似家族も実体験に基づいて着想されているのですから
一体、どんだけ凄い経験してんだよ!
つーか、よくぞ今までご無事で! ご無事でなにより!

「全力歯ギシリ Let's GO! ギリギリ歯ギシリ Let's FLY!〜」
というトホホな歯磨き粉のCMでいきなり始まりますが
この物語のすべてがこのCMに端を発しているのです。
CMで歌を歌う10歳のミツコ(原菜乃華)が家に帰ると部屋は血の海。
勢い余って、血の中をスライディングするミツコ。
カックイイ〜!
部屋の壁にジャクソン・ポロックの絵があったのは
『自転車吐息』でも出てきた園監督の好みでしょうね。

かたや、自主制作グループ「ファック・ボンバーズ」は
生卵をぶつけ合うカップルという馬鹿馬鹿しいシーンを撮っていると
高校生の不良たちによるケンカに遭遇。
こっちのほうが面白いからと、ケンカを撮影し始めます。
これは10年後にヤクザ同士の殺し合いを撮影することになる物語の
伏線というか、巡り合わせとなっていますよね。

タイトルの出し方にこだわりがあると思われる園監督ですが
『仁義なき戦い』のテーマにのって出てくるタイトルが最高です。
多用されるストップモーションや
もろに「深作警察署」と名づけられた警察など
深作欣二監督に対するオマージュが散見されます。
また、よろよろになりながら塀伝いに歩く池上(堤真一)
若き「ファック・ボンバーズ」が遭遇した道が
「マキノ通り」という名前にされているのは
マキノ雅弘監督に捧げているそうです。
その後、池上(堤真一)が和服に目覚めるのも
マキノ雅弘作品へのオマージュと
最後の大乱闘で敵味方を区別するための方便にもなっています。

ストーリーはまったくダレることなく進んでいきますが
見所はやっぱり終盤の大乱闘シーン
僕が観に行った劇場では、それまで随所で笑いが起こっていて
みんなとてもリラックスして作品を楽しんでいる様子でしたが
抗争する二組のヤクザを丸め込んだ平田(長谷川博己)が
「よーい!」と言ってから「スタート!」で
撮影を開始するまでの異常に長い沈黙では、
観客も息をのんで次の一声を待っていることが伝わってきました。
完全に、観客が作品の虜になっていた瞬間です。

通常、映画を観ているときは
それがコメディならなおさら、最後はもろもろ丸く収まって終わるんだろうと
なんとなく想像しながら観ているものですが
唐突に武藤(國村隼)の首が飛んでからは
(『キル・ビル』に続いてまたしても!)
若干劇場の空気が変わったように感じました。
こういう映画ならこの人は生き残るだろうという登場人物が
つぎつぎと死んでいきます。
カメラマンのデブカップルが
いつのまにか持っていた自動小銃を撃ちまくるシーンは壮絶で、
自動小銃の「 ダダダダダダダダ!」という音の長さが
今まで笑って見ていたものとは違う何かに気づかされます。

木村刑事(渡辺哲)率いる警官隊が乱入し、
一斉射撃でだれかれ構わず殺しまくるシーンは権力の理不尽さを匂わせ、
追い詰められたトラック・スーツの佐々木(坂口拓)
『怒りの鉄拳』のラストシーンよろしく
警官隊に向かって飛びかかるのです。

大方の人間が死んでしまったあと、残された35mmフィルムをかき集め
雄叫びを上げながら走り去る平田に対して、
突如「カット!」という園監督の声がかかり、
スタッフまで写り込むラストシーンは
おそらく賛否が分かれることでしょう。
それまで血みどろファンタジーのおはなしの世界を楽しんでいた観客は
「映画を撮影している映画を撮影している現実」に引きもどされます。
死んだはずの登場人物達が勢揃いして
完成した映画を観るシーンなど、ちょっとまどろっこしく感じたので
おはなしの世界のまま、スカッと終わってほしかったという
意見があったとしても、その気持ちは十分理解できるのですが
『俺は園子温だ!』と言い続けている園監督が
観客サービスだけで満足するはずがないのも肯けます。
現実の人生そのものが虚構(=映画)であり、
虚構(=映画)こそが人生だといっているようにも思えますが
「ポップコーンを食べながら楽しんでください」と
園監督自身が言っているのですから、余計な深読みはやめましょう。

ただ豪華というだけではないキャスティングは見事で
武藤(國村隼)と池上(堤真一)のふたりが魅せる
作品の背骨を支えるような安定感とノリノリな演技が素晴らしい。
一部では『キル・ビル』が引き合いに出されていますが
この二人の殺陣の美しさにはユマ・サーマンでも敵いません。
廊下を歩きながら銃に弾を装填する國村隼のかっこよさ、
悪のり堤真一の顔芸
などなど
俳優達が楽しんでいることが伝わってきます。
池上(堤真一)が組員達に和服を着ることを強要するシーンの
「サングラス替えろ」「指輪はずせ」「全部剃っちゃえ」などのセリフは
監督がいつまでもカットをかけないから
堤真一がアドリブでつないでいたんだとか!

武藤(國村隼)の妻・しずえに扮する友近
予告編を観たときから、血だらけの割烹着姿で
包丁を持って走るときの憂いを帯びた表情がシビレましたが
案の定、『極道の妻』=「ひとり五社英雄」でした。
出所10日前に面会に来た武藤の前で見せる
「かわいがられたがっている女」の芝居も見事でしたが
コントを演じているときの姿が記憶にあるので
真剣なのか、ふざけているのか判然としない友近の演技は
この作品にはもってこいでした。

映画監督・平田に扮する長谷川博己は
「通常の2倍のスピードでしゃべってくれ」という監督の要望通り
超ポジティブ&超ハイテンションでしたが
もともとのさわやかイケメンな風貌が
平田に打算がないことを示し、陽性の狂気を存分に表現していました。
映画の神様に願をかけるメモに携帯電話の番号を書くほどバカなのです。
ま、そのバカのおかげで念願の映画を撮ることになるのですが。
「俺は金のために映画なんて作る気はない。
 そんなことをするのは、日本映画を悪くするバカどもだ!」
には
園監督自身の怨念がこもっていて痛快です。

公次に扮する星野源の白目も馬鹿馬鹿しくて狂っててナイス。
(Twitterでは、映画は観ないけどパンフだけ買ったという
 星野源ファンのツイートがちょこちょこあったけど、それってどうなの?)

そして、なんといっても
武藤(國村隼)の娘・ミツコに扮する二階堂ふみが素晴らしく、
この作品のエロ要素を一人で背負って立つ大活躍でした。

小さな役どころの俳優達もそれぞれに素晴らしく、
35mmフィルムへのオマージュを象徴する映写技師のミッキー・カーチス
映画館のモギリの江波杏子
佐々木のバイト先の店主・でんでんのインチキ中国人ぶりなどなど。
平田が口説くヨシコに扮する成海璃子
普段の明るいイメージとうって変わって謎めいた美女でした。
ほかにも園子温なじみの面々が続々登場。
もう、いっそのこと、ビール瓶の破片を口に突っ込まれるミツコの元彼が
染谷将太でもよかったのに!

(『ヒミズ』の住田と茶沢の行く末!)

とにかく、大量の首や手足が血しぶきを吹き出しながら飛び回るのをみて
大笑いして楽しみましょう。
なにしろPG12というユルいレイティングの娯楽作品として
映倫がお墨付きを与えたんですから。映倫、グッジョブ。





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