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風立ちぬ

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(2013年/日本 126分)
監督・脚本・原作/宮崎駿 作画監督/高坂希太郎 美術監督/武重洋二 色彩設計/保田道世 撮影監督/奥井敦 音楽/久石譲 主題歌/荒井由実
声の出演/庵野秀明、瀧本美織、西島秀俊、西村雅彦、スティーブン・アルパート、風間杜夫、竹下景子、志田未来、國村隼、大竹しのぶ、野村萬斎

概要とあらすじ
宮崎駿監督が「崖の上のポニョ」(2008)以来5年ぶりに手がけた長編作。ゼロ戦設計者として知られる堀越二郎と、同時代に生きた文学者・堀辰雄の人生をモデルに生み出された主人公の青年技師・二郎が、関東大震災や経済不況に見舞われ、やがて戦争へと突入していく1920年代という時代にいかに生きたか、その半生を描く。幼い頃から空にあこがれを抱いて育った学生・堀越二郎は、震災の混乱の中で、少女・菜穂子と運命な出会いを果たす。やがて飛行機設計技師として就職し、その才能を買われた二郎は、同期の本庄らとともに技術視察でドイツや西洋諸国をまわり、見聞を広めていく。そしてある夏、二郎は避暑休暇で訪れた山のホテルで菜穂子と再会。やがて2人は結婚する。菜穂子は病弱で療養所暮らしも長引くが、二郎は愛する人の存在に支えられ、新たな飛行機作りに没頭していく。宮崎監督が模型雑誌「月刊モデルグラフィックス」で連載していた漫画が原作。「新世紀エヴァンゲリオン」の監督として知られる庵野秀明が主人公・二郎の声優を務めた。松任谷由美が「魔女の宅急便」以来24年ぶりにジブリ作品に主題歌を提供。(映画.comより)



風立ちぬ、いざ生きめやも

宮崎駿監督の5年ぶりの新作というのはもちろんのこと、
テレビ特番などの大プッシュもあって
公開前から話題沸騰の『風立ちぬ』
当然ながら公開初日から満員御礼の大盛況。
世の中のあまりのはしゃぎっぷりに乗ってなるものかと
知らん顔して『飛びだす 悪魔のいけにえ レザーフェイス一家の逆襲』
観に行ったりして、自分じらしをしていたのです。
そうです、例の「飲み会にわざと遅れていって注目を浴びる」作戦を
目論んだのですが、この作戦の最大の欠点は
僕が『風立ちぬ』をいつ観に行こうとも
誰も注目していないことだったのだ!!
 しまった! 間違えた!
……ということで、観て参りました。

実在の人物をモデルにした初めての宮崎アニメということで
たしかに零戦の設計者・堀越二郎
主人公の名前も設定もそのものズバリだし、
二郎の恋人・菜穂子の名前は堀辰雄の同名小説からとられ
結核という病気にまつわるエピソードは堀辰雄のもの。
とはいえ、ド近眼でヘビースモーカー、
信念を持って仕事に明け暮れる主人公・二郎の姿は
宮崎駿そのものでしょう。
つまり、自身が敬愛するふたりの男をミックスしたうえで
自らの分身とした二郎には
気恥ずかしいほど宮崎駿自身が投影されているので
実在の人物をモデルにしたといっても
堀越二郎や堀辰雄の功績を讃えたいというような類の作品ではなく
宮崎駿が自己を投影するために
ふたりの姿を借りた
といったほうが近いように思います。

蚊帳の中で眠る少年が突然瓦屋根によじ登り、
乗り込んだ飛行機が真上に飛び上がったので、ん?となっていると
少年が操縦する飛行機は田畑や町並みの上空を華麗に飛び回り、
やがて空中分解。
宙に投げ出された少年が墜ちていくなか、少年が布団で眼を覚まし、
それが夢だったとわかるのですが
眼を覚ました少年が「あ、夢か」などとくだらないセリフを吐かずに
無言で起き上がるのが、もう素晴らしい。
オープニングにおっといわせるカットを持ってきてカマすことは
宮崎アニメによくあるのですが
この作品のカマしかたは、今までとちょっと違うと感じて
身構えてしまいました。

『風立ちぬ』はこれまでの宮崎作品以上に
徹頭徹尾、アニメーションを観る喜びに溢れ、
その技巧や演出に圧倒されます。
関東大震災が発生し、瓦屋根の家々がうねりながら崩れていくカット
身震いするほど美しくて恐ろしい。
さらに僕がこの作品で惹きつけられたのは
主人公以外の群衆や通りすがりの役名もセリフもないような人々の描写です。
そのような脇役の人々の動作が
それぞれに個性を持って緻密に描かれているのは
アニメーターはさぞかし大変だろうね、
なんていう馬鹿げた心配などどうでもよく
脇役といわれるような市井の人々にもそれぞれの人生があることを
表現しようとしていると感じました。
作画の労力よりも、この作品に込められた想いの熱量に打ちのめされます。

主要な登場人物たちの動きや細かな仕草も
ロトスコープかと見紛うほど自然に描写されているのですが
実写映像をトレースするロトスコープの動きが
なめらかではあるものの、面白味に欠けると感じていた僕は
「本物」よりも「本物らしさ」のほうが
本物だと感じられる
のだと改めて思いました。
歩き方や帽子のかぶり方などのひとつひとつに
登場人物の人格とそのときの心理を反映させ、
そこに実写にはないアニメ特有のデフォルメを施しているからこそ
宮崎アニメが他のアニメと一線を画すのではないでしょうか。

宮崎駿の飛行機好きはよく知られたことですが
飛行機が飛ぶのは当たり前として、
帽子やパラソル、タバコの煙にいたるまで
いつにもましてこの作品は浮遊感に満ちています。
飛ぶ、もしくは浮かぶ(場合によっては水の中で)ということが
宮崎駿にとってもっとも自由を感じる状態なのでしょう。

その自由とは裏腹に、生きることの矛盾
本作のテーマのひとつではないでしょうか。
二郎の同僚・本庄のセリフで明確に語られますが
美しい飛行機を作りたいという想いと才能が戦争に利用され、
心を通わせたばかりの美しい恋人は余命幾ばくもないなど
自分ではどうすることもできない理不尽な矛盾に人生は溢れています。
それでも生きていくしか仕方がない、という想いが
「生きねば」というコピーに込められているのではないでしょうか。

この作品が「戦争を肯定している」というような意見もあるようで
どこをどう観たら、そう思えるのかわかりませんが
関東大震災と戦争という大きな惨事が背景にありながら
震災の悲惨さや戦争に対する怒りを表現しようとはしていません。
ことこの『風立ちぬ』に関しては、そのような出来事は
人生につきまとう矛盾のひとつとして描かれているように思われます。

また、この作品はこれまでの宮崎アニメと比べて
「ファンタジー色が少ない」という声も聞こえてきますが
僕にはむしろファンタジー色が強いと感じられました。
たしかに登場人物たちや時代設定は実際のもので
空想によって作られたものではありませんが
二郎をはじめとする登場人物たちは
現実と空想の世界を自由に行き来し、頭で思い描いた空想が映像化して
夢の中を飛び回るような演出はこれまでにないものであり、
想像力というものがいかに自由であるか
知らされたように思います。

二郎と菜穂子のラブストーリー
これまた臆面もなくセンチメンタルで
気恥ずかしさを感じながらもふたりの関係がうらやましく思えてきて、
なんだよ、いちゃいちゃしやがってと妬みながら
何度も泣きそうになるのをすんでのところで堪えました。
押井守氏がこの作品を評して
「少年でも豚でもなく、青年を描くのはむずかしい」と語っていますが
青年を描くということは
キャラクターの仮面で自分の本性を隠せないということで
このふたりのラブストーリーは、宮崎駿が恥部をさらけ出したと思えるほど
宮崎駿の恋愛観が反映されているはずです。

しかも、キスシーンの多いこと!(僕の記憶では3回?)
しかも、「ちゅっ」て音まで入れて! このエロジジイ!
花嫁衣装(?)に着替えた菜穂子を見た二郎が
「わぁ、かわえぇ〜」という表情をしますが
僕も心の中で「わぁ、かわえぇ〜」と言ってしまいました。ははは。
他のシーンと同じように描かれているはずなのに
このシーンの菜穂子は、明らかに
「わぁ、かわえぇ〜」としかいいようがないほど
特別に見えてしまうのは、見事ですよねぇ。

さて、賛否両論というより否のほうが圧倒的に多そうな
声優・庵野秀明問題。
第一声は二郎の外見と違って「声、低っ」と思いましたが
物語が進むに従って、徐々に慣れてきました。
慣れって恐ろしいですね。
そもそも声優としての力量を見込まれての
キャスティングではないでしょうし、
演技力の低さによるリスクは承知の上でしょうから
庵野秀明を主人公に起用するという話題性に加えて
宮崎駿が庵野秀明を後継者として見込んでいることの
意思表明のようにも思えます。
(個人的には「エヴァ」とか観る気も起きないけど)

エンディングで流れる荒井由美(=松任谷由実)の
「ひこうき雲」

「空に憧れて 空にかけていく あの子の命はひこうき雲」
という歌詞が、この作品のために作られたとしか思えないほど
ピッタリでグッときます。

余談ですが、この作品のSE(効果音)は
すべて人の声で表現されている
そうで、面白いですね。
ほとんどの場合、それが人の声だと気づかないのですが
関東大震災の余震の時に聞こえる地鳴りは、明らかに人の声だとわかり
それがかえって、地震の恐ろしさを増幅させていました。

とにかく、絵的にも物語的にも情報量が多く
消化するのに苦労する作品でした。
今後、見直すたびに新しい発見があるかもしれません。
アニメーションを観る喜びに溢れながらも
途中から、これがアニメーションだろうが実写だろうがどうでもよくなり
単に映画なのだと思いながら観ていました。
起承転結や序破急(!)のような
わかりやすい物語の起伏はないのですが
人生とはこのように淡々と続いていくのだと
言われているようでもあります。

これを「宮崎駿の遺作」とする声もありますが
こんなにすごい作品を最後にするとしたら
随分と嫌味な年寄りだと思いますよ。





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