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鍵泥棒のメソッド

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(2012年/日本 128分)
監督・脚本:内田けんじ 撮影:佐光朗 編集/普嶋信一 美術/金勝浩一
出演/堺雅人、香川照之、広末涼子、荒川良々、森口瑤子

概要とあらすじ
「運命じゃない人」「アフタースクール」の内田けんじ監督が、人生が入れ替わってしまった売れない役者と凄腕の殺し屋が巻き込まれる騒動を、堺雅人主演で描く喜劇。35歳でオンボロアパート暮らしの売れない役者・桜井は、銭湯で出会った羽振りのよい男・コンドウが転倒して記憶を失ってしまったことから、出来心で自分とコンドウの荷物をすり替え、そのままコンドウになりすます。しかし、コンドウの正体は伝説の殺し屋で、桜井は恐ろしい殺しの依頼を引き受けなくてはならなくなる。一方、自分が売れない貧乏役者だと思い込んでいるコンドウは、役者として成功するため真面目に働き始め、徐々に事態は好転していくが……。共演に香川照之、広末涼子。第36回日本アカデミー賞で最優秀脚本賞を受賞した。(映画.comより)



胸キュン、か…。思い出せないや…

いまや、映画にドラマにひっぱりだこの堺雅人
若干、竹中直人化しつつある香川照之が主演を勤める
2012年の話題作でございます。
このような事前情報だけ見れば、作品の出来に不安がよぎるものの
この作品が内田けんじ監督作品だということには、
それなりの期待をしてしまうだけの説得力があるのです。

雑誌の編集長を務める水嶋香苗(広末涼子)
計画通りに事を進める几帳面な性格とそれゆえに浮世離れした感じを
香苗の手帳の書き込みや小型掃除機を使う細かな仕草で伝え、
どうやら殺し屋らしいコンドウ/山崎(香川照之)
車の中でお気に入りの「ベートーベン弦楽四重奏」を聞きながら
着々と殺人の準備を始めるシーンで、
コンドウ/山崎もまた、用意周到なプロフェッショナルであることを
観客が自然と納得(誤解)できるように演出されています。

桜井武史(堺雅人)が登場すると、
一気にコメディー色が強くなりますが、
一度はぽいっと投げ捨てた区民税の督促状
アパートの周囲を掃除するおじさんの目を気にして、再び拾ったことが
桜井の気の弱さを表現すると同時に
結果的に桜井の身元を示す証拠にもなって、
物語の中心となる倒錯を支える重要なアイテムになっているのは
見事というほかありません。
これほど重要なアイテムであるにも拘わらず
区民税の督促状にこれみよがしのズームアップもせずに
知らん顔して伏線を敷くあたり……憎いね!
桜井が銭湯に行く前に、テーブルにあったカップ麺と同じ銘柄のものが
後日、桜井がコンドウ/山崎の部屋で過ごしているときにも
テーブルに置かれていることで桜井の食の好みを示すなど、
このような細やかな演出は随所に見られます。

決して破綻を来すことがないように織り込まれたシナリオにおいて
監督がもっとも苦慮したのではなかろうかと、勝手に思ってみるのは
桜井とコンドウ/山崎が入れ替わるきっかけになる「石けん」です。
いくら銭湯といえども、今時、あんな固形せっけんを使うものか。
今ならボディ・ソープのほうが一般的ではないか。
いや、そんなことはない、と言われるかもしれませんが
このシーンばかりは都合のいいものに
ならざるを得なかったのではないかと思ってみるのです。
だからこそ、あからさまなコメディー・タッチで
演出されているのではないかと考えたくなるのです。

コンドウ/山崎と入れ替わった桜井は
借金をしていた知り合いのもとを回って、金を返していくのですが
元同棲相手の彼女のもとを訪れて、
まさに結婚のために引越の準備を進める最中の彼女から
昔の写真を手渡され(ゴミ袋の中から!)
楽しい思い出が蘇った桜井は号泣するのですが
この時点では、桜井のダメ男ぶりを示すコミカルな演出にしか見えないものの
桜井の自殺の動機が生活苦だと思わされていた観客にとって
実はこの彼女との別れが動機だったということも
終盤近くになって、ようやくわかるようになっています。

このように、随所に散りばめられた伏線が
ひとつひとつ律儀に回収されていくのですが、
ちょっと嫌味を感じるほど、唐突な違和感を持って用意された伏線が
初めて桜井(=香川)の部屋にきた香苗が
部屋に入るなり、いきなり塩を手にとってなめるシーンです。
桜井(=香川)の背後で行なわれる非常にさりげないシーンですが
一般的な人間のとる行動として明らかに不自然な行動に
DVDを見ていた僕は、つい巻き戻して見てしまいました。
結構長い時間ほったらかしにされていたその伏線は
香苗が担当する雑誌で特集する「塩」の取材で身についた癖だった
とわかるのですが、ほかの伏線と比べ、
わかりやすくセリフで説明され、そもそもストーリーとは直接関係もなく
脚本の巧さが逆に嫌味に感じられました。
いっそのこと、香苗がなんで塩をなめたのか
ほったらかしにしてほしかったくらいです。

自分の置かれた状況にとまどっていた桜井(=香川)の服装が
徐々にこなれてくるのも見どころですが
「ベートーベン弦楽四重奏」をきっかけに
自分の正体を思い出したコンドウ/山崎(=香川)と桜井(=堺)が
追い詰めるヤクザの工藤(荒川良々)を騙すために
演技の練習をする演劇的(コント的?)シーンは
おそらくこの作品の最も重要なテーマを具体的に表しています。

桜井のセリフにもある「メソッド・アクティング」という演技法は
演じる役柄について徹底的にリサーチを行ない、
その役柄が置かれた状況、またはそれに近い状況に自分を置き、
疑似体験することによって自然な演技を追求するものだそうで
役者の桜井よりも、さまざまな人格に変装して仕事をする
「便利屋」のコンドウ/山崎のほうが
もともと「メソッド・アクティング」を実践していた
と言えます。

内田けんじ監督はこの作品のタイトルについて
「文学的じゃないタイトルがよかった」とあっさりした返答をしていますが
タイトルの「メソッド」が「メソッド・アクティング」から
とられていることは明らかでしょう。

ラストに結びつく「胸キュン」と車のアラーム音のリンクも
「胸がキュンとなるとしか言いようがない恋の感覚」という
香苗の姉のセリフで、これまたご丁寧に伏線を張られていましたが
そこに到るまでの、他人格になりきる演技と現実が交錯して
予想を裏切り続ける展開は本当に見事です。
ただ、エンドロールが始まってしばらくしてから挿入される
桜井と隣に住む猫を飼っている女性とのシーンは
蛇足じゃないですかねぇ。

内田けんじ監督の脚本の手腕は、ブラボー!としか言いようがないほど
素晴らしいと思うのですが
あえて、無い物ねだりをしてみれば
「欠点のないところが欠点」と言えるのではないでしょうか。
結末から遡って、回収されるためにばらまかれたような伏線の数々に
うなってしまうのはもちろんですが、
作品世界があまりにそつなく管理されているために
観客も登場人物たちも、監督の操り人形のように感じてしまうのです。

まさに、香苗が参加した婚活コンパでの会話にあったように
高学歴の高収入、男前なうえに家事までこなす内田けんじ監督作品は
結婚相手の条件的には文句のつけようがないけれど、
「恋」はできないな、と感じるのは僕だけでしょうか。
もう少しだけ、観客を信用してもらって
観客のほうから作品に入っていけるような隙があれば
……アタシ、恋しちゃうかも!






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